《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第218話「魔王ルキエ、視察に出かける(2)」

──數日後──

「ここが『ノーザの町』じゃな!!」

町の門を潛(くぐ)ったルキエは、目を輝かせた。

ここは『ノーザの町』のり口だ。

數日前、ルキエは『人間の世界を験してみたい』と言った。

その願いを葉えるために、俺とアグニス、宰相(さいしょう)ケルヴさんとライゼンガ將軍が計畫を立てて、準備をした。

その結果、ルキエは今、『ノーザの町』にいる。

もちろん、ちゃんと人間に化けてる。魔族の証である角は、俺が作った『ヘアーピース』に隠れている。だからルキエの髪型は、いつもより大きなツインテール。それが彼の角を隠して、人間に擬態(ぎたい)させてる。

「おおっ。人がたくさんじゃ! あっちもこっちも、人しかおらぬ!」

「ルキエさま」

「あの施設はなんじゃ? 酒場か!? おぉっ!? 路上で大の男たちがケンカをしておる! 興味深いのじゃ。トール、見に行くぞ!」

「ルキエさまってば!」

「────はっ!」

ルキエはびっくりしたような顔で、俺を見た。

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「す、すまぬ。つい興してしもうた」

「気持ちはわかります。人間の町に來るのははじめてですからね」

「う、うむ。じゃが、落ち著くべきじゃった。みなに迷をかけるわけにはいかぬからな」

そう言って、ルキエは深呼吸(しんこきゅう)。

「今回の視察は、あくまでも仕事の一環じゃ。余(よ)が人間の世界を、もっとよく知るためにな。トールやアグニス、ライゼンガやケルヴが準備してくれたというのに、遊び気分では申し訳が立たぬ」

「ご立派です。ルキエさま」

「ここに連れてきたことに、改めて禮を言うぞ。トールよ」

ルキエは俺に向かって、うなずいた。

それから彼は後ろの方を見て、

「アグニスもライゼンガも、ケルヴも、手間をかけて済まぬが、護衛(ごえい)を頼む」

「承知しましたので!」

「うぉぉぉ──ん!」「……わん」

変裝したアグニスとライゼンガ將軍、宰相ケルヴさんが答える。

アグニスは大きな帽子を被ってる。髪がいつもと違うのは、『ヘアーピース』の効果だ。彼は何度も『ノーザの町』に來てるからね。姿かたちを変えて、正を隠す必要があるんだ。

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アグニスにはもうひとつお役目がある。

それが、いざというときに正をばらして、皆の注目を集めること。

そうすることでルキエから、皆の注意を逸らすという目的がある。アグニスに來てもらったのは、そういう意味もあるんだ。

アグニスの隣には、猟犬(りょうけん)に化けたライゼンガ將軍と、宰相のケルヴさんがいる。

ライゼンガ將軍は赤いの大型犬、ケルヴさんは灰の中型犬だ。

『なりきりパジャマ』を使ってるから、どこから見ても犬にしか見えない。

2頭の犬のまわりには、貓とフクロウが集まってる。

ソレーユやルネを含めた羽妖(ピクシー)たちだ。

たちとライゼンガ將軍、宰相ケルヴさん、それにアグニスが、ルキエの護衛を擔當することになる。

「……ケルヴどの」

「……なんでしょうか、將軍」

「人前でこの格好は、やはり落ち著かぬな」

「私も……部下やエルテには、見せられない姿で──」

「そんなことないです。お父さまも宰相閣下も。かっこいいですので!」

「うむ。実は我(われ)も、そうではないかと思っておった!」

「……はぁ」

「ため息をつくでない、ケルヴどの。王を守るという重大な任務だ。気合いをれよねばらぬぞ!」

「………………わおーん」

うん。アグニスもライゼンガ將軍も、宰相ケルヴさんも、やる気十分だ。

3人なら、ルキエを完璧に護衛してくれるだろう。

「それじゃ、町を見て回りましょう。ルキエさま」

「うむ!」

「それと……はぐれるといけませんから、移中は手を握ることにしたいんですが」

「か、構わぬが!?」

「は、はい」

「ひ、必要なことなのじゃからな。はぐれたら大変なことになるのじゃから。トールには余を、しっかりエスコートしてもらわねばならぬ。ゆえに、我らは手を繋がねばならぬのじゃな!」

「そういうことです」

「そうなのじゃな!」

そう言ってルキエは手を差し出した。

小さなその手に、俺は自分の手を重ねる。

指の間に、ルキエの指がってくる。握り返したいけど、力加減が難しい。

ルキエは小柄だから、手も小さい。指も細い。

うっかり傷つけてしまわないように、俺は慎重に手を握っていく。すると、ルキエは俺が握りやすいように指をかしてくれる。それに合わせて俺は指の位置を変える。するとルキエは──

──なかなか、指の位置が決まらないんだけど。

「……はい」

「……うむ」

握った手の溫度が、急上昇していく。

まだ視察は始まってないんだけど。

どうして俺たちは、もう、張しているんだろう。

そんなことを考えながら、俺たちは『ノーザの町』を歩き始めたのだった。

まずは市場を回ることにした。

ちょうど國境地帯に易所を作ったばかりだからね。

人間だけの市場を見るのも、ルキエにとっては參考になるかと──

「さあ見てらっしゃい! ここで商っているのは他にはないアイテム。見なきゃ一生の損(そん)ですよ!!」

「アイテム!?」

「食いつきが良すぎるのじゃ!」

「で、でも、他にはないアイテムらしいですよ。見てみたいじゃないですか」

「いや、別に」

「興味ないんですか?」

「余はいつもお主のアイテムを見ておるからな。人間の世界に、それ以上のものがあるとは思えぬ」

「でも、新たなアイテム作りの參考になるかもしれませんよ」

「そうかもしれぬが……」

「見てみてもいいですか?」

「まぁ、トールが言うなら、よかろう」

俺とルキエは店に向かって歩き出す。

まわりには、人がたくさん集まってる。

その隙間を(ぬ)って、俺とルキエが前に出ると──

「さぁさぁお立ち會い! ここにあるのは、魔王領の(・・・・)方から來た(・・・・・)、あの技者が作り上げた、この世にふたつとないアイテムです!!」

「「「おおおおおおおっ!!」」」

まわりの人たちが歓聲を上げる。

「──魔王領の、というと」

「──まさか、ソフィア殿下の友でいらっしゃる、あの!?」

「──伝説の錬金師のアイテムだって!?」

そんな中、俺とルキエは聲をひそめて、

「……お主、『ノーザの町』にマジックアイテムを卸(おろ)しておったのか?」

「……まったく記憶にありません」

「……ではなぜこの商人は『魔王領の錬金師のアイテム』と言っておるのじゃ?」

「……よく聞いてくださいルキエさま。商人は『魔王領の方から來た(・・・・・)技者(・・・)と言っています。魔王領の錬金師とは、一言も言ってません』

「……巧妙(こうみょう)じゃ!!」

「……こういうやり方を思いつく人もいるんですね」

「……心しておる場合か」

「……もうしばらく様子を見ましょう」

俺たちが見ている間にも、商人の説明は続いている。

──ここにある商人は、魔王領の方から來た技者が作ったもの。

──伝説の『錬金製法(れんきんせいほう)』で仕上げられている。

──ごらんください。このナイフに刻(きざ)まれた、その技者の名前を!!

そう言って、商人がナイフを取り出すと。

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

客の興が最高(さいこうちょう)になった。

聲を聞いて、人がどんどん集まってくる。

人ごみの中では、アグニスが怒りに眉(まゆ)をつり上げてる。俺の偽が出たと思ったんだろう。今にも飛び出そうとしているのを、2頭の犬たちが必死に押さえている狀態だ。

「『錬金製法(れんきんせいほう)』じゃと!?」

「なるほど。『錬金』とは言ってないわけですね」

「これは放置できぬ! あの商人は、お主の名前を騙(かた)っておるぞ!!」

「いえ、騙(かた)ってません」

「よく見よ。あのナイフに刻まれている銘(めい)を! 『トール・カナン』とあるぞ。お主の名前ではないか!!」

「いいえ、違います」

「なんと!?」

「よく見てください。微妙(びみょう)に違ってるんです」

俺とルキエは、商人が手にしたナイフの刀(とうしん)を見つめる。

そこに刻まれていた名前は──

『トーレ・カナソ』

「『トーレ・カナソ』じゃと!!」

「文字を崩(くず)して、小さな子音(しいん)をれることで別の名前にしてるんですね」

「いや、あれでは『トール・カナン』と區別がつかぬぞ!?」

「本當に手が込んでますね……」

「まったくじゃ。どうする。トールよ」

「そろそろ止めましょう」

軽い打ち合わせをしてから、俺とルキエはき出す。

その間にも商人の宣伝は続いている。

──果を超スピードで切りにしたり (よく見ると最初から切ってある)。

──鉄の盾を貫通したり (盾に、ナイフが通る隙間が作られている)。

──ハンマーで叩いてもゆがまないところを見せたり (ハンマーがやわらか素材でできている)。

見世としては面白い。

でも、そろそろ止めよう。

商人はあのナイフを、普通のナイフの數百倍の値段で売ろうとしてるし、お客もこぞって、あのナイフを買おうとしてる。

みんな『トール・カナン』の名前を口にしてるのに、商人は聞こえないふりだ。みんなの勘違いを利用して、『トーレ・カナソ』印のナイフを売ろうとしてる。止めないとまずい。

『トーレ・カナソ』印のナイフがヒット商品になったら大変だ。

俺が作ったものだと勘違いした人が、魔王領にクレームをれにくるかもしれない。

まわりの人に、あれが偽だってわかるようにした方がいいな。

「でも、ルキエさまが目立つわけにはいきませんからね。ここはアグニスにお願いしましょう」

「そうじゃな。あやつも怒りを抑えるのが限界そうじゃ」

「『健康増進ペンダント』が、むちゃくちゃ輝いてますからね」

「ライゼンガとケルヴが吹き飛ばされる前に、対処するべきじゃろう」

俺とルキエは、アグニスの元に移した。

そうして3人と2頭で相談した結果──

「びっくりなので! アグニ……いえ、私が持っているのと同じナイフが、他にもあったなんて!」

人混みの中で、アグニスが聲をあげた。

商人と観客の注目が、彼たちに集まる。

それを確認して、アグニスは俺が渡しておいたナイフを、高々と掲(かが)げた。

そのナイフには──

『トーレ・カナソ』

俺が『創造錬金』スキルで、手早く刻んだ名前があった。

あのナイフは俺が作った特注品だ。

『超小型簡易倉庫』にれておいたのを取り出して、アグニスに渡したんだ。

役に立ってよかった。

「商人さんも、あの伝説の技者に會ったことがあるので!?」

「え? え? え?」

商人は目を丸くしてる。

なるほど。偽を売るのは、今回が初めてなのか。

何度もやってるなら、『トーレ・カナソ』のナイフが他にもあってもおかしくないもんな。

「あの技者は言ってたので。『同じナイフを見つけたら、刃をれさせてください。それで本かどうかわかります』って。『偽ならまっぷたつになるはず』って。だから、ぜひ、試させてしいので!」

「あ、あの。あのその」

揺(どうよう)する商人。

でも、ここで退いたら偽だってばれると思ったのか、を張って、

「い、いいでしょう! ただし、刃をれさせるだけですよ」

謝いたしますので」

アグニスはナイフを掲げたまま、前に出る。

商人は覚悟を決めたのか、ナイフを差し出す。

そうして、二人が刃をれさせると──

シュッ

商人が持っていたナイフが、まっぷたつになった。

アグニスは、ただ刃をれさせただけ。

その刃は商人のナイフに食い込み、あっさりと両斷したのだった。

「は、はああああっ!? な、なんで……一瞬で!?」

「さすがは魔王領(まおうりょう)の錬金師(れんきんじゅつし)さまの業(わざもの)なので!」

そう宣言して、アグニスはナイフを掲げた。

その刀に刻まれている文字は──

『トール・カナン』

──だった。

さっきまで『トーレ・カナソ』だった文字が、変化していた。

俺が、一定時間で『トール・カナン』に変形するようにしておいたからだ。

いきなり『トール・カナン』印のナイフを見せたら、商人が問答無用で逃げ出すかもしれないからね。

まずは商人ナイフが偽だって、お客の前で示す必要があったんだ。

ちなみに、アグニスに渡したのは『超高振ブレード』の試作品だ。

目に止まらないほどの高振で、鉄をも切り裂くことができる。

ただ、魔石の消費が激(はげ)しいから、十數秒しか使えないんだけど。

「ト、トール・カナンだと!? ほ、本の作品が、どうしてここに……!?」

ナイフの文字を見た商人の顔が、真っ青になる。

その商人をぎろりとにらんで、アグニスは、

「おかしいの。あの方がお作りになったナイフが、こんなにもろいわけがないの」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

「ぜひ、お話を聞かせてしいので。魔王領の方(・)から來た(・・・・)技者、トーレ(・・・)・カナソ(・・・)について」

アグニスは、はっきりと『とーれ・かなそ』と発音する。

それを聞いた客たちがざわめきはじめる。

「──『とーれ・かなそ』って誰!?」

「──ソフィア殿下のご友人は、トールというお名前だと聞いているけれど」

「──高名な方の名を騙(かた)ったのか!?」

「も、申し訳ありません。誤解があったようですので、ここでおいとまを……」

商人があわてて荷を片付けようとしたとき──

「「「オマワリサ────ン!!」」」

「『……オマワリサーン』」

──市場に、人々が『オマワリサン部隊』を呼ぶ聲と、『防犯ブザー』の聲が、鳴り響いたのだった。

「興味深いものを見てしまったのじゃ」

商人が『オマワリサン部隊』に連行されたあと、ルキエは言った。

「世の中には、々な人間がおるのじゃなぁ」

「真面目な人も多いですけどね」

「わかっておる。町の者たちは悪を捕らえるための『オマワリサン部隊』を呼んでおったからな。しかし人間とは、奇妙な知恵を絞るものじゃな。ふむ『トーレ・カナソ』か」

ルキエは、くくく、と笑ってる。

ツボにってしまったらしい。

「なかなか面白い発想じゃな!」

「はい。二級品のアイテムを売るときの偽名(ぎめい)にいいですね」

「なんじゃと?」

「いえ、たまに効果が小さなアイテムや、どうでもいいようなアイテムを作りたくなることがあるんです。そんなとき、作ったものの処分に困っていたんですけど……『トーレ・カナソ』の偽名で売り出すのは面白いかなって」

「いや、待て、トールよ」

「そういうのが『超小型簡易倉庫』の中にあるんですよ。処分に困っていたんですけど、偽名なら──」

「馬鹿なことを考えるでない!」

ルキエは、ぱん、と、俺の背中を叩いた。

「お主の作ったアイテムは、余が見てやる。処分をする必要なんかないのじゃ!」

「そうですか?」

「そうじゃ。あとで見せてみるがよい」

「わかりました。ルキエさま」

あれは……本當にただの失敗作だったんだけど。

まぁ、ルキエが見たいというならいいかな。

「それでは、視察を続けるのじゃ。次は──」

「服屋なんかどうですか? ルキエさまに似合いそうなものがあるかもしれません」

「うむ。行ってみてもよいな」

「それと……味しそうな飲食店もありますよ。あ、あっちでは劇(げき)の舞臺(ぶたい)が……」

「全部じゃ」

ルキエは俺の手を握ったまま、不敵な笑みを浮かべてみせた。

「人間の世界を知るのは大切なことじゃからな。それに……トールの反応を見ることで、より深く人間を知ることになろう。だから、徹底的(てっていてき)に付き合ってもらうのじゃ!」

「は、はい。ルキエさま」

そんなじで俺とルキエは、『ノーザの町』の視察を続けることにしたのだった。

姫乃タカ先生のコミック版「創造錬金師は自由を謳歌する」3巻は昨日、6月9日に発売になりました!

最新型の遠距離支援アイテムと、帝國との関わりが描かれます。

よろしくお願いします!

コミック版は「ヤングエースアップ」で連載中です。

ぜひ、アクセスしてみてください。

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