《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》59 二人の氷解
城塞都市キルケットの南部地區。
その外門にほど近い場所の人気のない裏通りにて、シュメリアは一人で詩を唄っていた。
付近には、地をかけて遊びまわるこの地域の子供の他、誰もいないようだった。
耳を傾ける者がいない中に、シュメリアの唄う聲がどこか寂しげに響いていた。
演目は『斷崖の姫君』
この街で最後に唄う詩として、シュメリアが選ぶ詩はこれ以外には考えられなかった。
その話の主人公は、エルフ族の姫でありながら人間の騎士と結ばれたククリ姫だ。
しかし、そのことが発端となって人間とエルフ族の戦爭が激化。
そして最後には、ククリ姫がその命と引き換えにした大魔の力で大地を引き裂き、人間の騎士(夫)とエルフの王(父)の戦爭を止めるというお話だ。
その詩の最後は、ククリ姫の死をもってすべてが終結する。
そんな……シュメリアの得意とする悲劇的な演目であった。
そしてそれは、ミトラが最も好きな詩だった。
それは、幾度も幾度も、シュメリアがミトラのためだけに唄った詩だった。
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シュメリアによって語られる悲劇は、悲劇でありながらもどこか異なる余韻を殘す。
好いた男と生涯を添い遂げることはなく。
ククリ姫は、ほんのわずかばかりの幸せな時を過ごした後、凄慘な爭いの中で命を落とすことになる。
そんなククリ姫の悲劇の詩もまた、シュメリアによって語られる時にはどこか違った余韻を殘すのだった。
ククリ姫は、人とエルフとの爭いを止めることを願っていた。
そしてその願いは、ククリ姫の力で大きく引き裂かれた大地により、葉えられたのだ。
だからこそ、ククリ姫はみ通りの結末に満足して逝った。
シュメリアによって語られる時。
その詩は……
そんな、これまでとは全く違う解釈の不思議な余韻を殘すのだった。
→→→→→
路地裏で詩を唄うシュメリアの周りには、いつの間にか人だかりができていた。
その人だかりは表の通りまであふれ、気付けば大勢の街人達がその歌聲に耳を傾けていた。
そんな狀況に戸いながらも……
シュメリアは歌い手として、一度唄い始めた詩を途中でやめることができずにその詩を唄い続けていた。
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「エルフの姫君は唄います。その呼ぶ聲に、大地の霊達が応え、やがてそれは大きなうねりとなりました。そしてうねりは地響きとなり、ついにはビリオラの大地を真っ二つに引き裂いたのです」
言葉を発する者はいない。
俯き加減のまま唄うシュメリア。
その脳裏に浮かぶのは、懐かしいお屋敷での日々だった。
たったの一年足らずだったけれど……
その幸せな思い出があれば、この先どこへでも行ける気がしていた。
今、その人達との間にはビリオラの大斷崖のようなどうにもならない程に大きな大きな亀裂がり、たぶん、もう二度とわることはないのだろうけれど……
「引き裂かれた大地の両側で、人間とエルフは戦いをやめました。そして、人間の騎士とエルフの王は亀裂に向かって走ります。互いにしい、同じ(ひと)の名をびながら……」
この辺のラストの締め方は、歌い手の詩に対する解釈やその技がモロに現れる部分だ。
聴衆に、何を伝えたいのか?
聴衆に、この詩の登場人達をどう思ってしいのか?
どんなふうにじ、どんなふうに心にこの詩を刻んでしいのか……
それは、シュメリア(歌い手)自の願いとも言える。
「そんな二人の呼ぶ聲を聞きながら、全ての力を使い果たしたエルフの姫君は、引き裂かれた大地の中へと真っ逆さまに落ちていきました。深い深い斷崖の底へ落ちていくククリ姫。でもその顔は、どこか満足げであったといいます」
そう言って、シュメリアが一禮して詩を結んだ。
ただ、今日はそれだけでは終わらない。
そのままでは、終われなかった。
「これは200年前に実際に起こった出來事でございます。その時の亀裂こそが、現在もこの大陸に殘るビリオラ大斷崖であり……引き裂かれた大地の向こう側には、今もエルフたちの故郷があるのです」
やはり、言葉を発するものはいなかった。
しんと靜まり返っている聴衆に向け、シュメリアは自分の思いを吐するようにしてその話を続けた。
「エルフでありながら、人間の騎士とのを誓い合ったククリ姫。そんなククリ姫は、人とエルフの和平を願っておりました。種族の垣を超えて、誰もがしい人と一緒にいられる世界を願い……二つの種族が互いにそれを許す時間を作るため。姫君は、大地を二つに分けたのです」
そこで、シュメリアは一呼吸を置いた。
「そして、それから200年の時が流れた今、この街では、エルフ達が商売をしています。それは……、もしかしたらそれこそが、ククリ姫の願った世界なのかもれませんね。なくとも、私はそう思っています」
そう言って、シュメリアは再び一禮した。
しばらくは、言葉を発するものはいなかった。
→→→→→
「シュメリア!」
ハッとして顔をあげたシュメリアの前に、一人のが立っていた。
髪を隠し、耳を隠し、白いローブから翡翠の瞳だけを覗かせたそのが、人垣をかき分けてシュメリアの方へと向かってきていた。
「噓……」
シュメリアは、反的に彼から逃げ出そうとした。
だが、その足はかなかった。
弱い自分。
あの時、自分の可さに踏み出すべき一歩を踏み出せなかったせいで、する人たちを危険な目に合わせてしまった。
そんな最低な自分が嫌だったから、もう自分はそこにはいられないのだと思った。
また、ここで一歩を踏み出さなくては……同じことを繰り返す。
弱い自分のままでは、また同じようなことになってしまう。
「行かないで! シュメリア!」
「ミトラ様……、私は……、私のせいでミトラ様を危険な目に……」
「そんなことはもうどうでもいいんです。それに、あの時……シュメリアが私を庇ってくれたのでしょう?」
「どうでもよくないんです! 私が……私のせいで、ミトラ様が傷ついてしまったら……、私はもう……」
「私が、シュメリアにそばにいてしいから……そうお願いしているんです!」
「……」
シュメリアの足は、かなかった。
けけと命じながらも、鉛のように重たい腳はどこへもかない。
「私がそう決めたんです。シュメリア……あなたはどうしたいんですか!?」
「うっ……うぅ……」
「私の子供を、抱き上げてくれるんでしょう?」
「ううっ……」
「目を覚ましたらまた、私とたくさんおしゃべりしてくれるって約束してくれたでしょう?」
「っ!」
シュメリアの足がいた。
駆け出して、一気に加速していった。
……ミトラの方へと。
それが、シュメリアの選択だった。
「ごめんなさい。ごめんなさいミトラ様! 私も本當は、ミトラ様と離れるのは嫌です。ずっと一緒にいたいです……。でも……、でも私は……」
「大丈夫。私達が大丈夫だと思えれば……、きっともうずっと大丈夫ですから」
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁん」
ミトラにすがり、大勢の聴衆の目の前で、シュメリアはいつまでも泣き続けていた。
→→→→→
その日の夜。
俺は間借りしている宿の大広間にいた。
目の前には、クラリス、ロロイ、バージェス。
アマランシア達に、ミストリア劇場の遊詩人達。
そして……
ミトラと、シュメリアがいた。
「今日皆に集まってもらったのはほかでもない。ミトラとシュメリアについてだ」
「もう周知のことと存じますが……私(わたくし)はハーフエルフです」
いつもは分厚い眼帯が覆い隠しているその瞳を、ミトラは今、皆の前にさらけ出していた。
「私は……半魚人(ハーフマーマン)です」
袖をまくり上げ、シュメリアが二の腕の鱗を皆に見せた。
「今まで黙っていて悪かった。だがまぁ……知っての通り俺はそういうことはあまり気にしない方針だ。異議のあるものは、去ってもらっても構わない」
とは言ったものの、ここで去るような者がいないことは始めからわかっていた。
「俺は今後、俺の商売をさらに拡大しながら、本格的に『奴隷止法』の立を目指すつもりだ。この場に殘ってくれた皆。引き続き、よろしく頼む」
大仰な理想論なんかはない。
俺はただ、俺の周りの人々を幸せにしたいだけだ。
そのが種族の垣を越えることだって、そりゃあもちろんあるだろう。
それは、結局は俺の私利私の追求に違いないわけなのだが……
俺の前にいる皆の顔を見る限り、俺は、俺の道を間違えてるつもりはなかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
第9章『エルフ族と魚人族編』メインどころのストーリーはここまでとなります。
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
9章は後一話だけ、いつもの余談に代わり敵陣営視點の話をれて終了となります。
さて今回の章タイトルにした『エルフ族と魚人族』とは、それぞれの種族全のことを指しつつ、実はある二人の人を指しておりました。
いや……、ここ最近のアニメとかで、そういうの流行っているようだったのでちょっと取りれてみました。
嫌いじゃないので!
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頑張って続きの10章を書いていきます。
でも、1年以上同じ話ばかりを書いてるから、そろそろ全然違う設定の短編とかも書いてみたいかも……
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★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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