《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百三十四話 ヘイレントの聖

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第三百三十四話

ヘレンは天幕の裏手に逃げるように駆け込んだ。裏手には椅子が置かれており、水がった桶もあった。

ヘレンはハンカチを水で濡らし、顔のを拭う。そして椅子に座り一息をついた。

「お疲れですねヘレン王

不意に聲がかけられ、ヘレンは聲の元に首を返した。視線を向けた先には黒髪の男が立っていた。ヘレンの兄妹であり、お付きの護衛であるベインズだった。

「いえ、聖様とお呼びした方がよかったですか?」

笑みを浮かべるベインズに対し、ヘレンは思わず顔を顰めた。

「見ていたのなら助けてください」

「邪魔をしてはいけないと思いまして。それに、本當に聖のようでしたよ」

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口を尖らせるヘレンに、ベインズが笑って答える。

「やはり聖と呼ばれるのは抵抗がありますか?」

ベインズに指摘されると、ヘレンは視線を外して遠くを見た。

正直、聖と呼ばれるなど恥ずかしくて仕方がない。だが今のヘレンには、ある考えが浮かんでいた。

「実はそのことなのですが、聖の名を利用すべきかと考えています」

「利用……ですか?」

ヘレンに対し、ベインズがわずかに目を細める。その聲はく、非難のが混じっていた。

ベインズが嗜めようとするのも當然だ。神聖な聖の名を利用するなど、不敬千萬と言える。だがやらなければいけないことだった。

「ベインズ。私はこの戦爭に參加するまで、何も知らない子供でした」

ヘレンは自分の無知を曝け出した。

「王族として王宮で育った私は、敵である魔族も戦場も悲慘さも、兵士達の苦しみも、何も知らなかった」

ヘレンの告白に、ベインズが目を伏せる。

「私は今回の戦爭で、さねばならぬ二つのことがあると気づきました」

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ヘレンはベインズをまっすぐに見た。

「一つ目はライオネル王國で行われた癒し手の制度改革を、我がヘイレント王國でも導することです」

話しながら、ヘレンは故郷の狀況を思い返した。

ライオネル王國で行われている制度改革は、間違いなく効果があった。しかしヘイレント王國の癒し手達は、ライオネル王國の改革に懐疑的であった。改革を習うどころか、人の解剖は忌であると非難していた。

「なんとしてでもヘイレント王國の制度を改革し、腕のいい癒し手を生み出さなければいけません」

ヘレンが思いを告げると、ベインズは目を見開いた。こんなことを考えていると、思っていなかったのだろう。

「では二つ目は?」

「戦後の醫療保障です。負傷した兵士を治療しなければいけません」

「しかし、すでに治療はしているではありませんか?」

ヘレンの言葉にベインズは首を傾げた。

戦場を知るベインズでも、このような認識だから仕方がない。だがヘレンの目から見れば、現在の戦場の醫療は問題があった。

「先程の兵士の一件もそうですが、不十分な治療が問題で、倒れる兵士が多すぎます」

ヘレンは首を橫に振った。

ベインズ達からしてみれば、癒し手を戦場に連れ出して治療しているだけ、手厚い治療をおこなっているつもりなのだろう。戦っている兵士達も、それだけで十分ありがたいと謝しているぐらいだ。しかしそれは悲慘な戦場に慣れすぎているだけだ。

「癒し手の數と質が揃えば、被害はもっと減らせるはずです」

戦場の経験がないヘレンだが、これだけははっきりと言えた。今の戦場は無駄に被害を出している。

「しかしヘレン。癒し手の育には時間と資金がかかりますよ」

「分かっています。ですがこれは何も人道的な理由だけでいっているのではありません。兵士の命が助かれば、それだけ戦力を維持できて戦えます。それに兵士が死ななければ、兵士を一から訓練しなくて済む。訓練にかける費用や時間を節約できる」

ヘレンは右手の人差し指を立てて説いた。

「また負傷して手足を失った兵士は、故郷に戻っても満足に働けません。そうなれば生産力が落ち、最終的には國力が低下します。癒し手の育にお金がかかることはわかりますが、長い目で見れば得になるはずです」

ヘレンの説明を聞き、ベインズは驚きに目を見開きながらも頷いた。

ベインズの反応を見て、ヘレンは心で微笑んだ。

怪我人が可哀想と言う理由では、男の人はいてくれない。一方でお金や経済、戦力といった話をすれば、途端に食いついてくる。

戦爭は、どこまでも男の人の砂場だ。彼らの好むやり方をしてあげないといけない

「驚きました。あなたがそこまで考えているとは」

「我が國がこの遠征に參加した理由は、言って仕舞えばお金がないからですからね。考えもします。あとはロメリア様の真似ですよ」

ヘレンは自分の思考の源泉を明かした。

読しているロメリアをモチーフにした小説では、主人公は経済改革や商売を行い、資金を調達している。

読者としてはこの手の話はつまらないので割し、配下の騎士達との模様を読みたいところだ。しかしこれらの描寫は作家の創作ではない。実際のロメリアも同様に経済活を行って資金を集めている。

颯爽としているロメリアも、男の人のやり方に合わせているのだ。

「ベインズ。私は故郷のヘイレント王國に戻り次第。この二つの問題に取り組むつもりです。しかし私には、なんの力も権限もありません」

ヘレンはベインズの目をまっすぐに見た。

「ですが、聖として名聲を得ている今ならば、ついてきてくれる人もいるかもしれません」

「だから、聖の名を利用すると?」

ベインズの問いにヘレンは顎を引いた。

目的のためならば、利用で出來るのは何でも利用する。不敬であっても、そうしなければ何も出來ない。

「分かりました、ヘレン」

ベインズはその場で片膝をついた。

「あなたがそこまで考えているのでしたら、私も最後までお供します」

に手を當て、ベインズは忠誠の姿勢を示す。

「ありがとう、ベインズ」

ヘレンは微笑みを返した。

最初の賛同者を得たことに、ヘレンは心でで下ろした。だがまだ一人、もっと賛同者を増やしていかなければいけない。

「さて、休憩終わり。そろそろ働きましょうか」

ヘレンは椅子から腰を上げた。

「もうですか? 先程大きな治療を終えたばかりですよ? それに行を起こすのなら、本國に帰ってからのほうがいいのでは?」

ベインズが気遣いの視線を見せる。だが休んではいられないのだ。

「そうは行きません。この狀況でもやれることが三つはあります」

「三つ? どのような?」

「一つ目は癒し手の皆さんと、仲良くなることです」

ヘレンは笑いながら一本の指を掲げた。

癒し手の制度を改革するのだから、當事者である癒し手の支持を取り付けなければ話にならない。

「仲良くなるためには、一緒に仕事をするのが一番でしょ?」

「では二つ目はなんです?」

「兵士の方達と仲良くなること」

ヘレンはベインズに二本目の指を掲げた。

「私は聖などと呼ばれていますが、正式な聖になったわけではありません」

「そうですね。聖となるには、教會から認定をける必要があります」

ベインズが聖となるために、必要な條件を話す。

「制度改革を推し進めるのならば、本の聖となることが一番の近道でしょう。聖の認定にはさまざまな條件があると聞きますが、まず必要なのは多くの人々の賛同です」

ヘレンが説明すると、ベインズも頷く。

多くの人がヘレンを聖と呼べば、教會も無視できなくなる。

「ここにはたくさんの兵士がいます。彼らの心を摑めば聖への道も開けるでしょう」

「それはそうですね。では、三つ目は」

「もちろん、癒し手としての腕を磨くことですよ」

ヘレンは三本目の指を掲げた。

ライオネル王國からもたらされた新しいやり方のおかげで、ヘレンの癒し手としての腕はかなり上昇している。しかしヘレンはこれまでれて癒し手としての勉強をしてこなかった。

本気で癒し手になるつもりはなかったし、ましてや聖になるなんて考えもしなかった。あくまで趣味の延長。本職の癒し手からみれば遊びのようなものでしかなかった。

「実力がない者は、誰からも認められませんからね。まずは腕を磨かないと」

ヘレンは話ながらグッとびをした。疲労はあるが、まだ癒しの力は殘っている。癒しの力は何度も限界まで使用することで、しずつだが増加していくと言われている。技的な面も大事だが、まずは基礎的な力が必要だ。

「それにこの三つですが、怪我をした兵士を治療すれば、三つを同時に出來るんですよ?」

「ああ、なるほど。確かに」

ベインズは大きく頷いた。

癒し手に混じって患者を治療すれば、必然的に癒し手達と仲良くなれる。怪我をした兵士もヘレンに好意を持ち、聖として支持してくれる。そして治療の実踐は、腕を磨く最高の場所だ。

「さらにこの方法のいいところは、私が頑張れば頑張るほど、怪我をした人が治療されることです」

ヘレンは笑って答えた。

全員にとって都合がいい、素晴らしい方法だ。

「さて、行きますよ。あなたも手伝ってください」

ヘレンが急かすと、ベインズは苦笑いを浮かべながらも頷いた。だがき出そうとしたその時、一人の兵士がヘレンの元に駆け寄ってきた。

「ヘレン王。ここでしたか。ガンブ將軍がお呼びです。ロメリア様が戻られ、軍議が開かれるので出席してほしいとのことです」

兵士が背筋をばして報告する。

ロメリアは確か魔族と戦時條約を結ぶため、會談に臨んでいたはずだ。おそらく何かしらきがあったのだろう。

「分かりました、すぐに向かいます」

ヘレンは顎を引いて頷いた。

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