統括者への登録が終わり現実に帰還したボクが最初に行ったのは、

「攻撃の指示を全部キャンセルして！」

だった。このためにわざわざ戻ってきたのだから當たり前ではある。

ちなみに、全部と言ったのは他にも攻撃命令が仕込まれている可能があったためだ。驚くほど簡単に統括者になれてしまったからね.対立する立場の人たちにその地位を奪われることも展開の一つとして想定されていたのではないかしら。

そうなると格がひん曲がった連中が多かった當時のことだ。攻撃キャンセルの命令(コマンド)をトリガーにして攻撃が行われるように設定していたかもしれない。

深読みのし過ぎ？それならそれで何も問題が起こらないなら問題なしですよ。

『現統括者からの命令を諾。主砲及び副砲による攻撃をキャンセルします』

主砲はともかく副砲まで在ったの！？まあ、一発撃つだけでエネルギーが足りなくなる見せかけだけの代だったようだし、都市防衛のためには在っても不思議ではないか。某天空のお城も過剰と思えるほどの戦力を有していたものねえ。

「とりあえずはこれで目的達というところかな」

一切邪魔がらなかったことが気がかりだけれど。普通こういう制限時間がある流れの場合、生き殘りやら何やらに遭遇したりシステムの妨害にあったりして、到著や解除がギリギリになってしまうもののはず。

もしかすると間に合わないかもしれない、という不安と表裏一のドキドキハラハラこそが見所というか真骨頂だと思うのだ。

「それがなかったということは、まだまだイベントは続行中だと考えるべきかしらね」

『攻撃キャンセルにより余った魔力を都市形維持へと流用します。維持限界まで殘り千七百六十六秒』

「あ、やっぱり……」

ここはしでも逃げるためのタイムリミットが延長されたことを喜んでおきましょうか。ところで今回は細かい數字が出たけれど、前回との違いは何だったのだろう？

それはそれとして、実は統括者になったことで新しい問題がでてきていた。

「まさか『天空都市』が崩壊しても『空の玉座』は殘り続けるなんて……」

これに関してはボクたちの想定が甘かったと言わざるを得ないのだけれど。元々『空の玉座』は単で存在していた訳で、『天空都市』となっている今も核として組み込まれてはいるけれど完全に一化している狀態ではなかったのだ。

例えるなら複數合して巨大化するメインパーツのロボようなもので、手や足に該當する部分がなくなっても単獨では戦い続けることができるということだね。

え？余計に分かり辛い？……あれ？

「しかも修復機能が搭載されているから、自然にぶっ壊れることも期待できないとか……」

どうやらこちらの方が本家本元だったらしく、クンビーラ近郊の地下跡にあった転移裝置――數代前のクンビーラ領主が壊してから百年以上経っても完全には修復できていなかった――とは異なり仮に破壊しようとしてもあっという間に直ってしまうらしい。

なお、結合させることでその範囲を広げていたようで、『天空都市』の方に修復機能はない。また、死霊化のが使われて以降は魔力が足りず、特に外縁部の方は壊れても修復されないまま放置されていたのだった。

「基盤部分はブラックボックス化されていて統括者でも手出しができないようになってるし、どうしたものか……」

現狀その統括者はボクだからすぐにどうこうなる危険はない。が、再び大陸を統一しようという野心家はいくらでもいる。中にはどんな被害が発生しようとも『空の玉座』を手にれようとするやつだっているに違いない。

誰にも手出しができない場所に封印する必要がある。

「ネックになるのが『空の玉座』のハイスペックさだね。むしろ『天空都市』とくっ付けたままにしておく方が足枷(あしかせ)に使えちゃう？」

ただ、今のままだと大き過ぎて枷の方が自滅してしまう。どうせ住んでいる人はいないのだし修復範囲を必要最低限にまで落とせば、魔力を確保できないだろうか。

「……という設定で現在の大きさを維持できないかシミュレートしてみて」

『要を諾。シミュレートを開始します』

計算させた結果、魔力の消費は許容範囲どころか余りが出そうだと判明した。

「その過剰分の魔力で隠ぺいするとか封印すれば……、ってダメだ。何かの拍子に解除されちゃうかもしれない」

魔力が余らないようにずっとプレッシャーをかけ続けるような方法がないものか。

……うん？圧(プレッシャー)？

「これはアリかもしれないよ！」

場所としてもだれにも手が出せないだろうし、圧を跳ね返したり破損個所を修復させることで魔力の消費を促すこともできる！

「高度を低下。海面に著水後はそのまま沈下させて！」

『警告します。海水の流により生存には著しく不適応な環境となります』

「そうならないように、余った魔力で維持しなさい」

本音を言えばそうなってくれて構わないのだけれど、統括者に不適格だと斷じられて人と説かれてしまっても困るからね。

降下が始まったのか、軽い振が続く。

「著水までの時間を教えて」

『約六百秒です』

「意外とかかる？というかなぜまたファジー機能が……」

『都市形維持を最小限に留めたため、崩壊を起こさないよう緩やかなきになります。また、風など外部の影響により時間のズレが生じる可能が高くなっているためです』

「あ、はい」

そういうことらしいです。後、音聲が微妙に苛立っているように聞こえたのは気のせいだったのかしら？

それではボクたちもこの辺りで撤収するとしましょうか。

「エッ君、ボクたちも逃げよう――」

「その王冠は置いていってもらおうか」

居るはずのない他人の聲に慌てて振り返ってみれば、これまた予想外の人がそこに立っていた。

「ああ、そういえば最後の生き殘りになるのかあ。……今さら何の用ですかスラットさん？はちゃんと停止させたしご要には応えられたと思っているのだけど？」

それは地上で、『神々の塔』の前で別れたはずのスラットさんだった。

「謝するよ。おかげで忌々しいから解き放たれた」

「それは良かった。で、もう一つの質問には答えてくれないの？」

「なに、簡単な話さ。しがらみもなくなったから、あとは好きに生きてみようかと思ってね」

「それはそれは前向きになれて結構なことだね。スラットさんの実力ならきっとどんな職業でも引く手あまただと思うよ。……まあ、大陸の支配者は除くけれど」