ばーちゃんがデザインしたＢＬイラストのせいで、辺りにちょっとしたギャラリーが出來てしまった。

俺を見ているわけではない。

あくまでも、俺の背中。

著の中でイカされた漢に、注目が集まっている。

その人だかりを見て、アンナも驚いていた。

「え？　なにこれ……みんながこっちを見てる」

「すまん。どうやら、俺の著が気になるようだ。ほら、背中にばーちゃんが、イラストを刺しゅうしたからさ……」

彼に背中を見せてやると、「あぁ～」と納得していた。

「タッくんのおばあちゃんって用だもんねぇ。すごいよ～　マネできな～い☆」

あなたは真似しなくていいです。絶対に。

最初の頃は、ノンケじゃなかった……一般の人々。

耐のない人たちが、それを見て言葉を失ったり。吐き気を催すこともあった。

しかし、噂を聞きつけた一部の陣が、スマホを持って撮影會を始めやがる。

「すごい！　神絵師！」

「これ……どこかで見たことなかったけ？」

「Oh my God!！　Isn't that a phoenix？」

（なんてことだ！　あれはフェニックスじゃないのか？）

ん？　最後の人って、外國人か？

あ、そうか。きっと遠い國から、日本へ旅行に來たというのに……。

お正月から汚いものを見せられて、ショックをけたんだろう。

悪いことをしたなと、振り返ってみると……。

背の高い白人男がこちらを指差して、口を大きく開いていた。

かなり驚いている様子で、隣りにいたパートナーのの肩を激しく揺さぶる。

何が起きた分からない金髪のが、男の指さす方向に視線を合わせると。

「It's God……」

（神だ……）

二人して、手で口を塞ぎ。お互いの顔を確かめている。

一、何が起きたんだ……と思っていたら。

白人の男が、こちらに近づいてくる。

「あの……チョット。良いデスか？」

カタコトだが、日本語を話せるようだ。

「はい？　なんでしょう？」

「そ、その……著デスが。どこで買ったのデスか？」

「へ？」

「ワタシたちは、アメリカから旅行に來ました。クリスマスをコミケで祝おうとしたからデス」

「はぁ……」

なんだよ。アメリカからやって來たオタクくんじゃん。

ったく、ビビらせんなよ……。

「あなたの著。フェニックスのデスよね？」

「え、フェニックス……？」

それを聞いて、すぐに察した。

ばーちゃんの和服って、海外のお客さんにも売っているんだった！

店の名前も『腐死鳥フェニックス』だし……。

※

白人男の彼から、ばーちゃんのブランドが、母國で大人気だと教えてもらった。

粋な著に卑猥なイラストが、プリントされているのが斬新で。バカ売れしているらしい。

それで、彼の隣りに立っているは、アメリカの腐子らしく。

コミケのあと、初詣に筥崎宮へ來たら、俺の著に目がいったそうだ。

やっぱアメリカにもいるのか……腐子って。

「それで、どこに行けば。買えますデスか？」

彼氏の方は日本語を話せるようだが、彼さんは無理みたいだ。

ニコニコと笑ってはいるが、俺の答えを黙って待っている。

「あ、えっとですね……」

俺が孫だということは伏せて、説明を始める。

中洲なかす川端かわばたの商店街に行けば、ど真ん中にあるし。

看板も派手に『腐死鳥』と書いてあるから、間違えることはない。と伝えた。

それを教えると、彼氏さんは大喜び。

「ありがと、ございます！　あなたはホントーに優しいデスね！　わたしたち、ついてます！　ＢＬ界のシテンノウがひとり。”キクのモンドコロ”に會えるのデスから！」

それを聞いた俺は、頭が真っ白になる。

「え……あの、今ＢＬ界の四天王って言いました？」

「ハイ！　アメリカでも有名なインフルエンサーなのデェス！　ＢＬグッズを作らせたら、世界一の人デス！」

「……」

ＢＬ界の四天王。

もう一人は、うちのばーちゃんだった……。

聞いてもいないのに、彼氏さんはスマホを取り出し、自のフォローしているインスタを見せてくれた。

確かに『腐死鳥　phoenix』という名前で活している。

しかしだ……四天王の名前だよ。

娘がケツ　裂子。

母親が、の紋所って酷すぎだろ。

ただの下ネタじゃねーか！

ツボッターで検索したら、すぐにヒットした。

フォロワーも５００萬人を超える、世界的な有名人。

我が家から、どんだけの恥部を曬す気なんだ……。

これ以上、デジタルタトゥーばかり、生み出すのは止めてしい。

「はぁ……」

うなだれる俺とは対照的に、アンナは嬉しそうだ。

「タッくんのおばあちゃん。有名人なんだね☆　なんだか自分のように嬉しいな☆」

「ははは……そ、そうだね……」

アンナの前では、気丈に振舞っていたが。

どうしても、気持ちの整理がつかず。

彼に一言。「トイレに行きたい」と伝えて、その場を離れる。

トイレの個室に駆け込むと、ひとりで壁を毆りながら、泣きぶ。

「クソがぁっ！　なんで、俺ばかりこんな目にっ！」

このあと、落ち著くために、３０分を要した。