《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》142話 沼に、落ちた
「……!! ヤマナカ湖臨時観測所より急電!! フジ山が消失しました! ……一年前と同じです! "逆さ富士"が発しています!」
今、この場所はカオスの極みだった。
「アメリカ大使館から何度も説明を求める連絡が! アサマ討伐の為に、イワクニに待機させてある指定探索者の出準備を始めたと!」
イズ王國への斬首戦、決死隊の投を決めた瞬間に事態が大きくいた。
彼らの常識では考えられない"神種"との戦闘を行う存在の出現。
盤外からのイレギュラーの確認。
そして。
「貴崎凜はどこにいった!? クソ! なんなんだ、急に!?」
「端末反応を確認しました! え……ま、まずい、あの人、エアバイク起してます!」
「音聲を繋げ!! な、なんなんだよ、急に」
サキモリ達の混した聲、真っ白な會議場にして指揮所であるそこに響き渡る。
サキモリ最強の指定探索者、貴崎凜の暴走。
會場では、彼を止めようとしたアリーシャが大の字で仰向けに。
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「油斷した……流石はニホンのソードマスター。剣鬼、リン・キサキか……まさか、力づくで押し通られるとは」
「ははは、すまないね、アリーシャ君、怪我はないかい?」
混の中、いつも通り飄々としたまま、多賀総理がアリーシャに手をばす。
今から5分前の話だ。
あのドローンの映像が出た瞬間。
この世のものとは思えないバカが映った瞬間に貴崎凜は行を開始した。
「音聲、繋がります! 貴崎さん、聞こえますか!? こちらはサキモリ本部です! 応答を!」
『聞こえてます、ごめんなさい、みなさん、全てが終わった後に罪は償います』
ーーイズ王國に行く。今すぐに
ぼそりと呟いた彼はそのまま部屋を出ようとする。
サキモリの數人がそれを止めたのだ。
ーーあの映像、意味がわからなすぎて危険だ。ここは様子を見るべきだ、と。
貴崎凜はその指示を聞かなかった。
自らを力づくで止めようとした同格のサキモリ達を一瞬で鎮圧。
暴風の如く、會場を出て、そのまま外へ。
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モニターには発著場の映像が。
今まさに飛び立とうとしている個人飛行用のエアバイクに貴崎がっている。
「貴崎、聞こえるか、俺だ、神坂だ。冷靜なお前らしくない、戻れ、俺の命令だ」
金髪の神司服のイケメンがモニターのマイクに向けて話す。
貴崎と同じ古い名家の出にして、同じくニホン指定探索者の男。
何度もver2.0の世界で貴崎と共闘してきた男だ。
「今戻れば先の我々への敵対行は不問にする。俺の権限で、だ」
この男はかに貴崎に惹かれていた。
そのしさ、強さ、何よりも凜とした姿に。
名家である己に相応しい極上の。
いつか、この世界を平定した暁には貴崎凜を娶ろうとしていた。
「貴崎らしくない、どうしたんだ、お前、いつもならもっとーー」
『神坂さん、貴方が思うほど私はそんなにいい子じゃありませんよ』
「え?」
『ごめんね、……知人(・・)に會ってきます。ふ、ふふふふ、生きてた、やっぱり生きてた……そうだよ、死ぬわけないもん、あの人が。やった、やったあ』
のラインが分かる黒いライダースーツに、真っ黒のヘルメットを被りつつ、貴崎が笑う。
すぐにヘルメットに隠れるその顔。
今まで彼がサキモリの誰にも見せたことのない顔で。
『生きてて良かったぁ』
ごおう。
大きな音がして、貴崎のバイクが空へ飛び立つ。
あっという間にカメラの映像から消えていく。
「……エアバイク起、もう通信範囲外です」
「……自衛軍の各方面軍に伝えろ! エアバイクに停止信號を送れ!」
「し、しかし、飛行中にそんな事したら……」
「いいから! やれ! 嫌な予がする……! 貴崎を、行かしたら……駄目だ!」
神坂と言う男。
貴崎凜とこの數年間行を共にしていた男はこれまでじたことの無い嫌な予を覚えていた。
サキモリの立場すら一瞬忘れ、ぶ。
「……自衛軍より返信がありました、サキモリからの本要請には応じられない。エアバイクの遠隔急停止は危険であり、貴崎凜の安全を確保できない、と」
「くそ!! 自衛軍は貴崎に借りがありすぎるか! なら、いっそ……ーーうっ」
オペレーターからの返事。
神坂が懐から取り出したお札のようなものを握りしめる。
それと同時に、彼の首元には鋭い矛先が向けられていた。
「はーい、そこまでね、カミサカくん。りんりんが魅力的なのは分かるけど、あんまり他人の路を邪魔するもんじゃないよ」
名瀬瀬奈。
サキモリの1人で、貴崎とも仲の良い彼。
どこからともなく取り出した歪な刃の矛を神坂に向けて。
「名瀬……なんのつもりだ」
「なんのつもり? なんのつもりときたか〜何、可い後輩ちゃんの応援ってじ? カミサカくん、殘念だけど、りんりんはやめときな、あの子は君が思ってるような綺麗で可くて聞き分けの良い子とかじゃないから」
「お前に貴崎の何が分かる! 俺はずっとあいつと一緒にニホンを守って闘って」
「りんりん、好きな人に會いにいったんだよ」
「え?」
名瀬の言葉に神坂のきが止まる。
「あちゃ〜その辺マジでわかってないじだね。いや、わかってるけどわかってないフリしてるだけかな? あんなりんりんの顔、今まで見たことなかったでしょ?」
「あ……で、でも……貴崎は……真面目で、おとなしくて、男とかに、興味ないって、人とかもいないって」
神坂の顔が一気に悪くなっていく。
名瀬が、目を何度かぱちくりと瞬きして。
「あ〜その、まあ、ほら、うん。どんまい」
「がっ……」
小さなき聲と共に神坂が崩れ落ちる。
いや、神坂だけではない。
かに貴崎に憧れていた男連中が皆、暗い顔をしていた。
「……あんな、貴崎、今まで見たことなかった……あんな、あんな……」
貴崎ファンクラブの奴らも本當はわかっていたのだ。
あの映像を見てからの貴崎凜は、本當に生き生きしてて。
今まで自分達が接していた、自分達に向けられていたあの笑顔は全部、作りもので。
「ありゃりゃ、カミサカくん、君、割とりんりんに対してガチだったのね。うーん、まあ、ポニテ丁寧語清楚系大人しめ人なんて貞を殺す為の存在だけど……まあ、うん、ほんとにドンマイ」
ぺしぺしと項垂れる男達を順番に名瀬が勵ましていく。
そして、ふと彼はモニターを見つめる。
「でも、羨ましいな、りんりん」
貴崎の消えた夜の空だけを映す映像。
貴崎凜は見つけたのだ。自分がしてやまないものを。
無くしてしまったものを彼は見つけた。
「君は、會えたんだね。……ほんと、羨ましいよ」
名瀬の呟きは彼にしか聞こえない小さなものだった。
「あ、あああ……噓だ、なんだ、これ、そんなバカな……」
「報告を」
オペレーターの1人が機械が吐き出していくデータを見つめて慄き始める。
「おかしい、あり得ない……イズ王國に"神種"の反応が……」
「アサマのものだろう。権能が発した今、逆さ富士による國土の破壊はもう免れない。……総理殿、いかが致しますか?」
オペレーターの報告に、アリーシャが多賀の方へ視線を投げて。
「……アリーシャ君、まだオペレーターの彼は言いたいことがあるようだよ」
「あの、その、申し上げます、新たな"神種"の発生を確認しました。……イズ王國に、2目の強大な神種が発生しています」
「なに……?」
アリーシャが目を開く。
もう彼ですら、事態が追えなくなってーー。
「ドローンの映像の復舊、終わります、3.2.1、映像、出ます」
「「「「あ……」」」
映像。
それはこの世のものとは思えない景が。
強い白いが、夜空に輝く。
の巨人、2対4本の大翼、神聖なナニカが、逆さ富士を押し返そうとしていた。
「……天使?」
誰かの呟き、そして。
『ああああああああああああああああああああ、ひ、人の子よ、これはさすがに最強で究極の熾天使でも、長くは……あの、やっぱ今からでも別の願いにしませんか? 世界を支配するとか、もっと、こう』
『ギャァーハハハハハ! セラァフ! 気合れろ! 命令だ! そのまま逆さ富士を止めろ! 誰も死なせるな! 熊野ミサキ、ここから上昇! セラフが逆さ富士を止めてる間に、あのクソを仕留める!』
『は、はははは、もうめちゃくちゃやで! でも、ええ! 連れてったる! 気張り! ヤタガラス! ここが命の使い時やで!』
映像が途切れる。
ありえないものを見た全員がまた絶句する。
沈黙。
それを破ったのは。
「くくく、ははは、はははははは!!」
多賀の、どこか弾むような笑い聲。
「君には借りばかり出來ていくものだ、さてどうしたものか」
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