《骸骨魔師のプレイ日記》偵察
しいたけ達が切り株を上手に使っていることを確認したので私が上に戻ると、そこには來るまで待とうと思っていた者達の姿があった。
「おー、ボス。下はどうやった?」
待ち人の一人目は七甲である。どうして彼を待っていたのか。それは彼が得意とする【召喚魔】にある。【召喚魔】は私も使えるし、時々壁にしたり自させたりと使うことはそれなりにあった。
格下しかいない安全なフィールドなら適當に暴れさせている間に採取することだってある。ボス戦や危険なフィールドでは使っても秒殺されて魔力の無駄使いになるので流石に使わないが。
しかし、七甲は違う。【召喚魔】を使うのに特化している彼は、これを戦闘の主軸に據えることが可能だ。さらに自分に近い鳥類の魔の召喚にプラスの補正がかかる能力(スキル)を持っており、最近では鳥の魔だけで様々なことが行えるのである。
「研究所並みに設備が整っていたぞ。こっちにもガッツリ居座りそうだ。新しい玩に夢中だな」
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「半永久的に魔力を供給してくれるって、生産に魔力が必要なアイテムを魔力の回復を待たずに使えるってことだもんね。そりゃあ夢中になるよ」
しいたけ達が夢中になっていることに理解を示したのは、もう一人の待ち人であったルビーだ。我らがクランでは唯一にして魔王國全でも有數の隠形の使い手。本気で隠れたら魔王國の者が総出で探さなければ見つけ出せないかもしれない。
この二人を呼んで何をしてもらうのか。それは三大領主の中で我々が狙っているエリステルの偵察だ。結晶窟の攻略が終わったばかりだというのに、間髪れずにより強大な敵に挑もうとするのは節がないと思われそうではある。自分でもしまったりする時間がしいと思ってはいた。
だが、そうもいかない事態が発生した。結晶窟のボス、王(クイーン)塩獣(ソルティア)との戦いに參加出來なかった者達から不満が出たのである。自分達も強敵と戦いたかった、と。
私達が戦うことになったのは本當に事故だとわかっていても、除け者にされたようにじる者が出てくるのは仕方がない。それ故に次の強敵との戦いのための準備を急がざるを得ないのだ。
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「それにしても、ワイらがノゾキをさせられるとは思わんかったで」
「人聞きの悪いことを言うな。偵察と言え、偵察と」
七甲とルビーにさせようと企んだのは、二人の魔や能力(スキル)を使って安全に偵察するためである。この作戦のキモは三大領主というあのユラユラちゃんと同等の存在を相手に安全に報を集められるということだった。
粘(スライム)であるルビーは自分のの一部を分離することが可能である。ただし、分離を行うと元々の積に対する分離した部分の積によって力の最大値が減するというデメリットがあった。
ルビーはただでさえ小さく、力も多いとは言えない。手數が増えるのは戦闘においては有用なのだろうが、そもそも彼は正面から戦うタイプではない。分離は彼にとって決して有益な能力(スキル)とは言えなかった。
そんな狀態ということもあり、分離する姿を見たことすらもあまりない。この能力(スキル)を使うことは滅多にないからだ。だが、そんな中で私が注目したのが【覚同期】という能力(スキル)だった。
これは分離した部分と自分の五を繋げるという効果の能力(スキル)である。それを聞いて思ったのだ。この分離した一部を持って遠くへ運べば、空撮ドローンのようになるのではないか、と。
「実際、やってみると意外と上手くいったのよね。分離するだけで自分からかないから力も気にならないし、魔力の消費量もそんなに多くないから長時間使えるし」
「最初は距離が離れるとすぐに同期が切れとったけど、今なら結構離れられるようになったもんなぁ」
二人にはこの組み合わせが可能かどうか、実際に試してもらっていた。何度か練習した後、二人は偵察のために使えると確信する。それから試行錯誤を繰り返して、二人は偵察の方法を確立したのである。
その手段は七甲が隠形に特化した鳥を召喚し、この鳥にルビーの分離した一部を運搬させるのだ。覚が共有されているルビーが進行方向などを七甲に指示し、それに従って七甲は召喚獣をかす。言うなれば空撮ドローンが映し出す映像を見ている者と縦士が分かれているという狀態なのだ。
ちなみにアイリスやマキシマに確認したところ、これまで集めた古代文明のジャンク品を組み合わせれば空撮ドローンを作ることは可能らしい。アイテムこそ必要になるが、可能ならばそれで良くないかと思うかもしれない。
だが、このドローンは隠が低すぎるという最大の欠點があった。とにかく音が大きく、自分の存在をこれでもかとアピールしてしまうのだ。しかも魔力によっていているので、魔力探知(マジックソナー)などで容易く見付かるのも良くない點と言えよう。
これを解決するべく各種探知をすり抜ける機能を追加しようとすれば重量が嵩み、より高出力な力が必要になって探知に引っ掛かり易くなり…という流れで一つの問題を片付けても別の問題が起こってしまう。何らかの技革新が起こらない限りはこちらで索敵することはないだろう。
「ほな、やろか」
「はーい」
軽い調子で七甲が言うと、ルビーも準備に取り掛かる。準備と言っても七甲は魔を使うだけだし、ルビーもの一部を分離するだけだった。
七甲が召喚したのは真っ黒な小さいカラスだった。基本的に遭遇したことのある魔とその強化個しか召喚出來ない私とは異なり、【召喚魔】に特化した七甲は自分で様々な特を付與した召喚獣を作り出せる。
そこで彼が作り出したのが、隠形だけに…本當に隠形と飛行しか出來ないように調整されたカラスだ。普通、隠形とは奇襲や逃走のための手段に過ぎない。奇襲するには攻撃するための何かが必要だし、逃げるにも敏捷が高くなければ逃げ切れないだろう。
だが、このカラスのステータスはアバター製作當初の七甲ほどしかない。つまりほぼただのカラスでしかないのだ。それこそ私が素手で叩いただけで消滅しそうなほど貧弱極まる存在だった。
その代わりに隠形だけならばオーバースペックと言っても過言ではない。発見されないという一點に限ればルビーをも超えているのだから。
「ほんじゃ、指示は任せるで」
「はいはいっと」
そんな隠形一點特化のカラスは、飴玉ほどしかない分離したルビーの一部を足で摑むと飛び立った。ここからは七甲とルビー任せだ。私はルビーが何かを発見するまで待つことになる。気長に待つとするか。
調べるべき範囲はある程度絞り込めているとは言え、待つだけの時間は暇である。暇潰しのために、私は例のイベントの推移について調べてみることにした。
「あのお嬢さんの順位は…ふむ、九位か。ひょっとして想定以上に健闘しているのではないか?」
コンラートからの要請で私達が投票している発明家貴族令嬢という獨特な個を持つザビーネ嬢。彼はまさかのトップ10りと思っていた以上の健闘を見せている。どうやら私達のようにコンラート繋がりの組織票だけでなく、そこそこの人數のファンがいるようなのだ。
この順位を見た母親は大喜びかもしれないが、きっと本人は絶対にんでいないことだろう。私達としてはコンラートの言うがままに投票しているだけなので「へぇ、やるな」くらいにしか思わない。得られたアイテムが味しかったな、と思うだけである。
他に見ておきたいのはママが推すと言っていた令嬢だ。ええと…二十三位か。立候補者の人數からすると上位に位置するがザビーネ嬢のように最上位クラスではないと言ったところであろう。
「それよりも…五位がプレイヤーだと?信じられんな」
しかし私が最も驚愕したのは五位にプレイヤーがっていることだった。それにしても見覚えがあるような…そうだ!リンに乗ってアマハと競い合った『競龍』で上位に賞していたプレイヤーじゃないか!
いわゆる姫プレイをされていたはず。きっと目立つのが好きなのだろう。あまり関わり合いになりたくないタイプの人な気がする。そんなことを考えていると関わることになりそうなので、頭の中から消しておこう。
「見付けた!七甲、高度を維持したままゆっくり旋回して!」
「あいよっ!」
私が現在の投票數を眺めていると、ルビーがエリステルを発見したらしい。私はイベントの畫面を消すとルビーの一挙手一投足に注目する。彼は張からかプルプルと震えながら何かに集中しているようだった。
それからルビーが七甲に何か指示することはない。ゆっくりと旋回させながらエリステルを観察しているのだろう。きっとスクリーンショットなどでエリステルの容姿などを撮影しているはず。それを全で共有し、そこからエリステルのことを分析するのだ。
「ひゅっ!?」
「どうした!?大丈夫か!?」
しばらくの間黙っていたルビーだったが、彼は急に怯えるかのように短い悲鳴を上げる。何事かと思って私が駆け寄ったが、彼はすぐに大丈夫だと言って平靜さを取り戻していた。
「大丈夫だよ。ビックリしただけ」
「ビックリ?まさか…」
「そのまさかやで。ワイの召喚獣が消えよった。分ごとヤられたんやろ」
あれだけ徹底的に隠形していたというのに、エリステルは察知してみせたらしい。信じられないと思うのと同時に、あのユラユラちゃんと同格の三大領主ならばやりかねないと納得している自分もいた。
どちらにせよ、察知能力も超一級の力を持つらしい。恐ろしいと思う反面、相手にとって不足はない。ルビーは映像を殘しているようだし、徹底的に分析して討ち取って見せよう!
次回は7月1日に投稿予定です。
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