《テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記》931 気合とと慣れ

ボクことリュカリュカがMP枯渇でけなくなってしまったことで、戦いはエッ君とスラットさんの一騎打ちの形となる。そのレベル差は歴然で、びいきの加點をプラスしてさえまともにぶつかってはエッ君に勝ち目はないと思えるくらいだ。

先ほどの話の続きではないけれど、ゲーム開始初日にブラックドラゴンと対面した時のことを思い起させる景だわ……。

あの時は上手く騙(だま)して……、もとい、こちらのペースに巻き込むことで勝ちをもぎ取ることができた。が、今回の場合は既に戦闘が始まってしまっているため同じ手は使えない。そもそもスラットさんがあんな稚拙で単純な導に引っかかってくれるとも思えないしね。

だからある意味では正攻法ということになるのだろう。

「君たちには彼我(ひが)の力量差を測る目が備わっていると思っていたのだがね」

どこか落膽したような、それでいて呆れたようなスラットさんの聲が聞こえてくる。どうやら無謀な作戦だと思われたらしい。実際その通りな訳だから仕方がないのだけれど、勝ったつもりになるのはちょっとばかり気が早いのではないかしらん?

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「エッ君、今!」

もうすぐぶつかり合うというところで指示を出す。きっと自分の判斷で使ってくれただろうけれど、まあ、ついんでしまったということで。

「今さら何をしようと無駄ッ!?」

彼の言葉が途中で切れてしまった理由、それは闘技発で強化されていたはずのボクの攻撃を軽々とけ止めていたその拳が弾かれてしまっていたためだ。

〔瞬間超強化〕。文字通り瞬間的にその能力を強化させるもので、エッ君が初期から持っていた技能その二だ。MPの消費が必須のため使いどころが難しく、クエスト中などでは使用機會がない不遇な技能だったりする。ただ、訓練中やボク抜きで魔討伐をしていた際にはそれなりに使用されていて、練度の方は結構上がっていたりするのよね。

ちなみにエッ君は〔瞬間超強化〕を使用したうえで指示通り【三連撃】の闘技を発しており、現在二発目となる尾ビンタがスラットさんに迫りつつある狀況だ。

以上、時間をスローにしてリュカリュカちゃんが解説をお伝えしました。

「くうっ!」

最初の接で片手を弾かれた態勢のまま、殘る片手で迎え撃とうとしている。さすがの狀況判斷の早さだけれど、こちらにはまだバフが掛ったままなのだ。

「ぐあっ!?」

案の定一発目に続きこちらも弾かれることになり、無防備な狀態を曬すことになっていた。

これはもしかすると鍛錬の時間は飽きるほどあった反面、実戦の経験はそれほどないのかもしれないぞ。あの隔離された空間にり込んでこられるものがたくさんいたとは思えないし、王弟だった生前は言わずもがなだ。

対してエッ君はボクと一緒に様々な敵と戦ってきた経験がある。いや、先にも言ったようにボク抜きで々と戦っていたこともある――ポートル學園の時とか、『ファーム』の中でとか――から、ボク以上に戦闘慣れしているかもしれない。

その経験値の差がここにきて現れたのかもしれないね。

とにかく、ボクたちにとって追い風になっていることに間違いはない。それを証明するかのように、エッ君の最後の蹴りががら空きのに命中していた。うめき聲を発しながら、くの字になってズザザザザーッ!と靴裏を削りつつ後退する様子にその威力のほどを知ることができるというものだ。

今こそが絶好の追撃時、なのだけれどエッ君はかない。

正確には「けない」だった。勘のいい人はもう気が付いたよね。そう、ボクと同じくMPの枯渇です。強力なのに〔瞬間超強化〕を多用できなかった原因がこれだ。

ガッツリとMPを消費してしまうため、探索などで戦いが続くといつの間にか必要MPを下回ってしまうという事態になってしまうのですよ。そうでなくても大きくMPが減ればその分だけ選択できる幅は減ってしまう。遊撃がメインのエッ君には臨機応変さが求められるため、どうしても使用控えが起きてしまっていたのだった。

と、説明している間にもスラットさんは衝撃から立ち直りつつある。その首筋には龍爪剣斧の斧刃が添えられていた。

「チェックメイト」

「……MP枯渇のふりをしていたのか。まんまと騙されてしまったな」

「まさかまさか。しっかりと狀態異常は続いておりますよ。〔鑑定〕させてあげてもいいくらいだね」

視界の下方にある簡易ステータスにもしっかりと記載されているし、倦怠(けんたいかん)などの諸癥狀も続いている。

「なぜける?」

「気合と、後は慣れかな。……あ、別に誤魔化してるんじゃなくて、そうとしか言えないだけだからね」

酷い風邪をひいた時のように視界は悪いし筋がなくなったのかと思えるほどにが重たくじられるけれど、逆に言えば繋がりが切れてまったくかせなくなった訳ではないのだ。

過剰積み込み(オーバーロード)の訓練では、込めるMPの量を間違えては枯渇狀態になってぶっ倒れるなんて失敗を何度もやらかしていたからね。訓練場のど真ん中で倒れていては迷になるから、そのたびにヒイヒイ言いながら壁際まで這って行ったものだよ。

いやはや、世の中何が役に立つのか分からないものだよねえ。

「厳しい訓練に明け暮れていた兵たちですら音を上げて、すぐにアイテムに手をばしていた記憶があるのだが?それすらままならずにうめき聲を上げるだけのとなっていた者たちも大勢いたのだけれど?」

「いやあ、慣れってすごいよね」

アハハと笑うボクを信じられないという目で見てくるスラットさん。多分、正気の沙汰じゃないとか狂人の類だと思われているのだろう。

ちなみに、ゲームを始めて間もない頃だったため、MP回復薬が高価過ぎて買えなかったというのが真相です。

「で、ボクたちの勝ちでいいよね」

「ノーと言ったら?」

「とっても困るね」

殘り時間がピンチという意味でもだけれど、満創痍の度合いではボクたちの方がはるかに上だ。エッ君の渾の【三連撃】をけても、スラットさんのHPゲージは半分を下回ってはいない。

……ごめんなさい、サバ読みました。何とか四分の一を超えた程度なので、七割を切ってはいないと思う。

対するこちらは二人ともMP枯渇できが制限されているときている。戦闘が続けば間違いなく負けるのはボクたちの方だった。

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