マリアによる記憶の改ざん。

それは俺が験した過去を、自らの手で変える。

いや、消してしまいたい……という彼の願だ。

しかし俺という人間は、起きた出來事を、忘れることが出來ない。

衝撃が強ければ、強いほど永遠に記憶から消すことは、不可能。

昨年、このラブホテルでアンナと楽しんだコスプレパーティー。

最高だった……。

今でも、あの時に撮影した寫真や畫は、パソコンで楽しんでいる。

あれを越える映像は、なかなかお目にかかることはない……。

『だって、どうせそのメイドさんもかなりのミニだからパンツ見えちゃいそうだし……水著なら見えても平気だから……』

ベッドに腰を下ろし、膝を組むマリア。

片手には、ついこの前発売した俺の作品。“気にヤン”の２巻を持ち。

當時のセリフを音読し、再現しようとしている。

『ならば、依頼しよう。俺は見たい』

『じゃ、じゃあちょっと待ってて……』

俺とアンナの會話を読み上げたところで、マリアの整った顔がグシャっと歪む。

「バッカじゃない！　これ、行為をしていないだけで、ほぼ大人の関係よ！　あなたたち、付き合ってもないのに……こんな卑猥な行為をしてたいの！？」

怒りの矛先は、俺に向けられてしまう。

「ま、まあ……この時はその。あれだ。初めての験で、どうにかしていた……というか」

「じゃあ、なんで。タクトはのりのりでコスプレを撮影しまくったのよ！？　事実なんでしょ？」

「うん……」

確かに、彼の言う通りだ。

起きた出來事を、ほぼ忠実に小説として発表しているから、噓偽りはない。

「じゃあ、私もアンナみたいなコスプレをしたら、タクトはドキドキして……。興するってわけね！？」

「え？」

「ブリブリに興できたのだから、婚約者の私がメイドさんになれば、タクトは興のあまり、襲い掛かるわ！」

「はぁ……」

俺ってそんなイメージを持たれているの？

マリアも何気に酷いな。

※

怒りのあまり、我を忘れるマリア。

しかし、ここは彼の言う通りにしないと、満足してくれないだろう。

とりあえず、以前に利用したコスプレを、フロントに電話して、部屋に持ってくるように頼んだ。

だが、アンナという存在は、レベルが違う。

あくまでも、架空の人であり、俺が理想とする子……。

それをミハイルが、完璧に演じている。

普段から、恥ずかしがる彼が、裝することで。

積極的な格になり、俺のむまま、カノジョとして振る舞う。

だからこそ、過激なコスプレも著られたのだと思う。

俺はそれを知っているから、不安にじ。

マリアに「無理はしないでくれ」と伝えたが、興している彼には、火に油を注ぐようなものだ。

「大丈夫よ！　モデルをやっている私が、著られない服なんてないわ！」

～１０分後～

チャイムが鳴り、ドアを開けると、ハンガーを２つ持った気なおばさんが立っていた。

「どうぞ……」

ボソッと呟くと、足早に去っていく。

ハンガーをけ取った俺は、部屋に戻り、マリアに手渡す。

「これが、アンナが著たコスプレだ」

ハンガーは２つとも、薄い布で覆われていた。中を確認できない。

しかし、俺は昨年見ているから、中を知っている。

「ふ～ん。これがね、ちょっと中を見て良いかしら？」

「ああ……」

マリアは、ハンガーをベッドの上に２つ並べてみる。

しかし、布を取った瞬間。顔のが真っ青になってしまう。

「な、なによ。これ……」

「メイドさんと、スクール水著の９０年度版だ」

と俺が説明してみる。

それを聞いたマリアの肩は、小刻みに震えていた。

「これをアンナが著たの……？」

「ああ。間違いない」

「クッソ、ビッチじゃない！」

「……」

だってそういうホテルだもの。

大人の関係になるところだから、興を高めるグッズだし。

プライドの高いマリアだ。

確かに彼の言いたいことも分かる。

メイド服はサテン製で、ピンクのフリフリ。

かなりのミニ丈だから……履いたら、パンツが見えてしまうだろう。

それもあって、アンナはスクール水著を、中に著ていたのだ。

「こ、こんな……ミニだと。外を歩けないじゃない！？」

「いや、室で著るものだから」

俺の的確なツッコミに怯むマリア。

「じゃあ、どうしたらいいのよ？　結婚前なのに、タクトへ全てを捧げたらいいの？」

誰もそんなことは、言ってないのだがな……。

マリアも、想像力がかだ。

咳払いをした後、アンナがやったことを説明する。

「あくまでも経験談だが……中にスクール水著を著れば、見えても安心。らしいぞ」

「そ、それをあのブリブリが言ったのね……いいわ！　上等よ！　私だって著こなしてみせるわ！」

そう言うと、マリアは２つのハンガーを持って、奧の更室へ向かった。

マジであれを再現するのか……。

～２０分後～

「ま、待たせて……ごめんなさい」

更室の扉が、スッと開く。

そこには、昨年出會った可らしいメイドさんが立っていた。

アンナと瓜二つ。

頭には、プリム。

元がザックリと開いたミニ丈メイド服。

太ももを覆うオーバーニーソックス。

完璧な再現。

唯一、違うところは瞳の。

エメラルドグリーンではなく、ブルーサファイア。

「ど、ど、どう……？」

「ああ。似合っているよ」

顔を真っ赤にさせて、俯いている。

視線をこちらに合わせることが、できないようだ。

よっぽど、恥ずかしいのだろう。

「そ、それで……このあと、どうするの？」

「えっと、俺がスマホで撮影するから、ポーズをとってほしい」

「どういうポーズ？」

俺が振り手振りで、アンナがやったポーズを説明する。

お辭儀をして。

『おかえりなさいませ、旦那様』

ネコのポーズをして。

『にゃ～ん☆』

「ま、こんなじだな」

「……」

俯いたまま、小さな肩を小刻みに震わせるマリア。

「じゃあ、撮影するか。とりあえず、メイドさんから……」

と言いかけたところで、マリアが頭につけていたプリムを、床に叩きつける。

「バッカじゃないの！　こんなアホ丸出しのを、私がやれるわけないでしょ！　極めて不愉快よ！」

「……」

じゃあ、昨年の俺たちは、アホだったんでしょうか？