《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二百三十七話 レーリアの妄想

いつも想やブックマーク、評価や誤字字の指摘などありがとうございます。

小學館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

來る七月十日、ブレイドコミックス様よりロメリア戦記のコミックス第三巻が発売されます

そして同月十九日には、電子書籍限定でロメリア戦記外伝が発売となります

第二百三十七話

魔王軍と人質の換をする。ロメリアの言葉に、軍議に參加する一堂が押し黙った。

あの蠻族の如き魔王軍に人質として赴く。下手をすれば生きては帰れぬかもしれなかった。誰もが手を上げたくはないだろう。だが分や位が低すぎる者では、魔王軍も信用しない。人質として出すからにはそれなりの人。この軍議に參加しているほどの者でなければいけなかった。

レーリアは軍議に出席する面々の顔を見た。誰もが眉間に皺を寄せて目を伏せている。

誰も言葉を発せぬほど悩んでいた。しかしレーリアからしてみれば、誰が行くかなど初めから決まっているような者だった。

Advertisement

消去法で考えれば、ヒュースはあり得ない。ヒューリオン王國は先王が崩したばかりであり、政権は不安定だ。それにヒューリオン王國はこの連合の盟主でもある。ヒュースがこの場にいなければ、連合軍はまとまれない。

次にフルグスク帝國の皇、グーデリアもあり得ない。大國の皇であること以上に、彼は強力な魔法の使い手だ。グーデリアが月騎士団と共にガンガルガ要塞の守りにつけば、その守りは鉄壁となる。防衛の要であるグーデリアもかせない。

當然だがライオネル王國のロメリアもあり得ない。彼はこの戦爭における勝利の立役者、魔王軍にとっては最優先で殺したい相手だ。それにロメリアは魔王ゼルギスを討った英雄の一人でもある。

魔王軍を渉相手として信じるとしても、末端の兵士が暴走して仇討ちに走る可能はある。

あとはガンブ將軍やディモス將軍だが、両將軍がいなければ両國の兵士達をかせないため、これも人質としては送れない。こうなると、人質として送れる人間は限られてくる。

レーリアはハメイル王國のゼファーを見た。

軍議に參列しているゼファーは、顔を歪めて苦悩の表を見せていた。彼は亡き父ゼブル將軍に代わり、ハメイル王國の代表となっている。

將軍の跡を継いだばかりのゼファーも、人質としてこの場を離れるわけにはいかない。となると……。

レーリアはガンブ將軍の隣に座る、ヘイレント王國の王ヘレンに目を向けた。

ヘレンのらしい顔は、張に引き締まり、大きな瞳は伏せられている。しかし彼は迷っているのではない。今まさに覚悟を決めようとしているのだ。

あどけなさが殘る小さなが、キュッと固く結ばれたかと思うとヘレンは目を見開いた。

「私――」

「私が行きます」

ヘレンの聲に被せる形で、レーリアは発言した。

「レーリア様。貴方が?」

「はい。ヒュース様。立派に人質の役目を果たしてみせます」

目を見開くヒュースに対し、レーリアはゆっくりと顎を引いた。

「ちょ、ちょっと待ってレーリア。人質なら私が行きます」

ヘレンが席を立ちながら、右手を自分のに當てる。やはりヘレンは、自分が行く決意を固めていたのだ。しかしそうはいかない。

「貴方が行ったら、殘された怪我人はどうなるの?」

レーリアが指摘すると、ヘレンはわずかにを引いて口を閉ざした。

自ら人質となるヘレンは気高いが、彼には彼の役割がある。ヘレンが殘れば助かる命もあるのだ。人質になっている場合ではない。

レーリアが思うに、人質なんてものは分だけは高く、しかし何の取り柄もない人間がいくべきなのだ。つまり、自分のような人間だ。

「人質として、私以上の適任はいないでしょう」

「しかし、レーリア様」

レーリアが名乗りを上げると、ロメリアが苦しげな眼差しを向ける。人質の役目を押し付けることに、罪悪があるのだろう。

「やらせてください、ロメリア様。我がホヴォス連邦は失點があります。しでも汚名を返上したい」

レーリアは笑って答えた。

ホヴォス連邦にはスート大橋を破し、連合軍を危険に曬した汚點がある。連合軍に貢獻しなければ立場がない。

「しかしレーリア様。危険であるぞ」

「覚悟の上です。グーデリア様」

グーデリアの質の聲に対して、レーリアは決意を込めて頷いた。グーデリアはレーリアの目を覗き込むように見た後、視線をヒュースに向けて頷く。

異議がないのであればとヒュースが頷きかけたその時、これまで聲を発さなかったゼファーが口を開いた。

「お待ちください。私は反対です」

「ちょ、何を言い出すのよ! ゼファー!」

思わぬところからの反対に、レーリアは目を剝いた。しかしゼファーはまるで怯まず、聲を上げる。

「人質として一人を差し出すなど、連合軍の名折れです」

ゼファーの言葉に、レーリアは二の句を告げなかった。軍議に列席する男陣もこれに唸る。

この後に及んで何をと、レーリアは目を逆立てた。しかし仕方がないことだと怒りを呑み込んだ。

戦爭は男達の舞臺だ。レーリアから見れば実にくだらないが、面や意地が時には生死や効率よりも優先される。それに魔王軍に連合軍が弱いと侮られれば、かえって敵を調子付かせるかもしれない。

「じゃぁ、どうするっていうのよ!」

レーリアは柳眉を逆立ててゼファーを睨んだ。

「私も一緒に行きます」

「え?」

「私もレーリア様と共に、人質となりましょう」

ゼファーの思わぬ答えに、その場にいた全員が目を丸くする。

「私だけでは人質としての格が足りぬでしょう。ですが二人いれば魔王軍も納得するはず」

「それは……確かにそうかもな」

ヒュースが顎を引く。一方レーリアは、一緒に行くと言うゼファーの言葉で思考の全てが埋まり、まともに考えることが出來なくなった。だがすぐに邪念を振り払いゼファーを見る。

「待って。貴方が人質になったら、誰がハメイル王國を率いるのよ!」

「それはご安心を。軍の指揮は、ここにいるライセルがいれば十分です」

ゼファーは背後に控える、隻眼の騎士に目を向ける。確かにゼブル將軍の懐刀として仕えていたライセルがいれば、ハメイル王國の統率が取れるかもしれない。

レーリアは、ゼファーの案を否定する材料を探した。しかしどれだけ考えても、何も思いつかなかった。他の出席者も誰も反対しない。このままだと二人で人質になってしまう。

そこまで考えた時、レーリアは二人で人質となった時のことを想像した。

人質となるのだから、使用人や護衛はごく數に限られる。敵地にいるのだから仕事はなく、気ままに出歩くことも出來ない。必然、ゼファーと一緒にいる時間が長くなる。つまり……。

レーリアの思考は、人質となって過ごす妄想に囚われた。

「では、人質はレーリア様とゼファー様が二人でいくと言うことでよろしいですかな?」

ヒュースの言葉に、グーデリアやディモス將軍にガンブ將軍、ロメリアも頷く。レーリアが妄想から卻して正気を取り戻した頃には、全てが決定されていた。

    人が読んでいる<ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください