《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二百三十八話 ギャミの憂鬱①

ロメリア戦記コミックス第三巻発売記念更新

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第二百三十八話

円形丘陵が広がる荒野の西には、黒地に竜の意匠が施された魔王軍の旗が翻っていた。旗の周囲にはいくつもの天幕が並び、柵が設けられて魔王軍の陣地が構されている。

魔王軍特務參謀のギャミは機に向かっていた。機には新たに作ったばかりの杖がかけられ、さらに大量の書類が積み上げられていた。

ギャミは一心不に書類を読み、指示を記していく。

參謀といえば軍記などでは華麗な策を用いて敵を罠にはめ、味方を勝利に導く姿として描かれている。しかし本來の參謀の仕事とは、軍隊の維持と管理を行う部署だ。

現在の兵士の數を正確に調べて必要となる武や食料を計算し、期日までに軍隊を戦場に移させることが仕事だ。

策を用いて敵を倒すことは、參謀本來の仕事ではない。ただし參謀の仕事には敵の數を調べて進路を予想し、目的を探ることも含まれている。

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ギャミは一流の參謀として、敵の行を予想して戦闘を有利に進める智謀があった。しかしそれも戦闘中のこと。停戦中の現在は食料の補給や醫薬品の手配などが主な仕事だった。

數萬にも及ぶ軍勢の維持管理は大変な仕事だが、參謀として長い経験のあるギャミにはいつもの仕事であった。問題は普段とは違う仕事が舞い込んでくることだった。

「ギャミ様。こちらはローバーンからの書狀です。ジュネーバの魔族をれる日はいつになるかと問うております」

「ギャミ様。ジュネーバの商業組合より、出の際に家財道を持ち出したいので馬車を手配してくれとの要が」

「ギャミ様。ディナビア半島のジュネーバ移民局より、移住者の名簿が屆いております」

「ギャミ様。ジュネーバの行政庁より、出稼ぎとして滯在していた魔族の名簿が屆きました」

「ギャミ様」「ギャミ様」「ギャミ様」

ギャミの元にはれ替わり立ち替わり伝令や文が現れ、書類や要書を積み上げていく。

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全ては北に位置するディナビア半島ジュネーバから、生き殘った魔族を出させる代わりに、人間の奴隷を解放するという渉が原因であった。

魔族と人類が行う大掛かりな渉。初めてのことでもあり、関係各所の全てが混して足並みがまるで揃わない。それを無理矢理合わせているのがギャミであった。

「ええい! 商業組合には馬車は送れぬと伝えろ! 出の際には手荷以外の持ち出しは止だと通達したはずだ! ロ-バーンにはまだ分からんと伝えろ! そもそも出の日取りがまだ決まっていない! 移住者の名簿と出稼ぎ労働者の名簿はそこに置いておけ! と言うか、まとめて寄越すようにジュネーバには言っておいただろうが!」

ギャミは伝令や文達に、矢継ぎ早に指示を出していく。しかし書類や問題を処理していく端から、新たな書類と問題が積み上げられていく。

もはやギャミも限界寸前であった。だがあとし耐えればいいだけだと自分に言い聞かせた。

今日の晝には西にあるローバーンから、補給資が馬車で屆く。その馬車の一臺には、渉と事務作業に通した文達が詰め込まれているはずだった。

彼らが到著すれば、ギャミはお役免だ。あとは代わり、人間風に言えば人質として連合軍の陣地に赴き、ゆるりと敵陣を視察すれば良い。目下の問題は囚われている間、の回りに置く者の選ばなければならない。

「さて、こちらはどうしたものか……」

ギャミは呟きながら、つるつるとした頭をでた。

敵陣に赴く際は護衛の他に、の回りの世話をする者を數名伴ってもいいことになっている。

護衛はイザークが名乗り出てくれていた。イザークの素質は、父であるガリオスに匹敵するものがある。だがまだまだ経験不足。一人前の將軍となるには、様々な経験を積まねばならない。

とにかく今は経験を積ませる時期である。敵陣を見る機會はそうそうないので、護衛として連れて行けば今後の糧となるだろう。

他の護衛に関しては、イザークが知り合いをうと言っていた。こちらも任せてしまってもいいだろう。問題はギャミの世話する世話係だった。

「世話係……よい候補が居らんな」

息を吐きながらギャミは唸った。

別に贅沢を言っているわけではない。というか、そもそもギャミは世話係を必要としていなかった。

ギャミは子供の頃に、容姿の醜さから親に捨てられた過去がある。それからというもの、ギャミは自分の面倒を自分で見てきた。

食べは毒でなければなんでも食べるし、著のみ著のままでも一向に気にならない。寢床などぼろ布一枚あればそれで十分であった。

世話係など必要なかったが、ギャミは最低でも三は連れていくことを決めていた。何故なら世話係は食事の用意や洗濯、水汲みなども行うためギャミよりも自由にける。當然監視の目も緩い。世話係は人間達の行をつぶさに観察できるのだ。

ギャミが人質換で連合軍に赴くのは、報収集が目的である。世話係はギャミの目となり耳となり、人間達の様子をつぶさに観察出來る者が好ましかった。

偵の心得があり、時に大膽に行して報を収集出來る者。そして偵が持ち帰った報を、多角的な視點で分析することが出來る者。何よりギャミの意向を十分に理解し、手足となっていてくれる者でなければいけない。

「う〜む。居らんなぁ」

ギャミは腕を組んで再度唸った。

高度な訓練と知識が必要となる偵は、貴重な存在と言えた。報分析を行うには、ただ賢いだけでは出來ない。そして何より、ギャミの意向を理解して従う者となるともはや皆無に近かった。

ギャミは魔王軍において、嫌われ者で通っている。イザークのように自分を慕ってくれる者の方が稀なのだ。劣勢の時や窮地であれば、自分を頼る者も出てくる。だが平時となればお払い箱となるのが常であった。

「まぁ、こればかりは仕方がないか……」

ギャミは自分が嫌われ者であることを理解し、仕事に戻ろうとした。すると天幕の外から聲が響いた。

「ギャミ様! イザークです。ってもよろしいでしょうか?」

室を許可すると、ずんぐりした軀のイザークが天幕にってくる。その背後には二の魔族が付いてくる。一はヒョロリと背が高く、緑の鱗をしていた。そしてもう一は赤い鱗にでっぷりとしたの魔族だった。

「私の友のサーゴとゴノーです。ギャミ様の護衛に連れて行こうと考えております」

イザークが二の魔族を紹介すると、サーゴがを屈め、ゴノーも大きなお腹を凹ませながら頭を下げる。

サーゴとゴノーを見て、ギャミは二がかなり若いことに気付いた。魔王軍は兵士の數が足りず、通常であれば徴兵しない若者も員しているのだ。

若いことが々気になったが、それゆえに癖がないとも言える。なくともギャミを見る目に嫌悪がない。

「分かった、よろしく頼む。世話係はまだ決めておらん。決定次第、顔合わせをさせよう。それまでは休んでいてくれ」

ギャミが頷き答えると、サーゴとゴノーも首肯する。その時、外から大きな聲が聞こえてきた。

「補給がきたぞ!」

響き渡る聲に視線を上げたギャミは、目線を元に戻し息を吐いた。

「やれやれ、ようやく到著ですか。ようやくこの仕事から解放される」

ギャミは椅子から飛び降り、機にかけた新しい杖を手に取った。

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