《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》144話 逆さ富士攻略戦 その2

夜風の中、耳男と指定探索者が八咫烏を駆る。

「すげえ! さすがは號級!!」

「アンタ、なんでウチがを使えるようになったってわかったん!?」

「あー? ヒントが聞こえんだよ! 俺にはよお!」

「何寢ぼけたこと言ってんねん! ……まあ、ええわ! 知らんけども!」

登る、昇る。

夜空を摑み、空へと。

の背に乗って、味山と熊野が空を昇る。

TIPS€ 警告 "逆さ富士"発開始、噴火まで殘り8秒

「ッ!! デカ天使!! そろそろ仕事の時間だ! 気合いれろ!」

《あの! そういえば的には止めろって何すれば!》

一緒に空を飛ぶ白いの塊が聲を上げる。

「多分あれ! 今から噴火するから、下の連中が死なねえように頼む!」

《ああ! そういうのは得意です。聖なるかな、聖なるかな、神へので燃え盛る我が、いかなる火も炎も我が前にへりくだり》

意外にもノリノリの熾天使。

これならいける、そう思った瞬間だった。

《おや〜厄介なものを引き連れてきましたね〜味山さ〜ん》

「!? おい、今の聲!」

「聞こえたよ! ウチにも! 富士山から!?」

間延びした聲。

それは富士山から山鳴りのように。

《異國の神話ですか〜それも神話系の頂點クラス……ほんと〜にめんどくさいですね〜。どこから連れてきたんです〜? しかも炎に対する概念防まで……》

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《極東の島國の神が私を評価しますか? 熾天使、しカチンと來ました。あなたには序列というものをーー》

微妙にの小さい発言の熾天使が、白く燃え上がる翼を広げて。

《なので〜作戦変更で〜す、ーー押し潰せ、アサマ》

《え?》

「お、おい、マジか?」

「噓やろ……?」

落ちていく。

墮ちていく。

空に浮いた逆さ富士、それ自が墮ちていく。

《逆さ富士は本來なら、國土に向けて直下噴火を直撃させる権能でしたが〜、これもアリですよね〜》

「バカか!!?? アイツ!! やりやがった!」

「最悪や……! でも、味山! あのアホ、見えたで!!」

墮ちていく逆さ富士を錐みしながら躱して昇る。

いた。

だらりと四肢を投げて空に浮くアサマと、そのの上に胡座をかいて座っている作業著の男。

「このクソボケ!! ここであったが、100年目や! 覚悟し!」

《おや〜熊野さ〜ん。アサマの洗脳が薄くなってますね〜、今後の良いデータになりそうです〜》

TIPS€ 逆さ富士を止めろ。アサマと者を滅ぼせ

者……? またわけわかんねえ概念を……! まあ、でもアイツだろ!」

《いや〜殘念ながら間に合いませんよ〜、逆さ富士はすでに國土に》

「あ、ああ……ああああ!」

熊野が悲鳴、びを上げる。

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《あなた達だけ良いですね〜お空に逃げて〜下の國民達は見殺しですか〜》

その男の言葉は毒。

真面目な人間ほどそれに絡め取られて。

「デカ天使! 出來るよな!!」

《セラフ、そう呼びなさい、恐ろしき強き人の子よ》

《おや?》

標高3376メートル。

質量1兆トン超え。

ニホンの歴史と共にあった大いなる山。

TIPS€ 逆さ富士の落下、セラフによる対抗開始

その落下が止まった。

《お〜……マジです、かあ……》

《くっ、ふふ、フフフ。きょく、とうの、神……この、程度ですか……? この儚くもしい最強かつ清廉で無敵の聖なるモノであるこの私に、これが、出來ない、とで、も……おっ、も……いや、しく輝く私からしたら余裕、なんですが……っ、うわ、重……》

け止めている。

その山の落下を、一つの存在が。

白く燃え上がる翼が、夜を照らす。

神に最も近いとされる使いが、味山只人の言葉通りに。

「ナイスだ!! デカ天使、いや、熾天使(セラフ)!!」

本來ならあり得ない景。

セラフにとって、この土地も國も人も己が守るべき存在ではない。

だが、約定がある。

己を打倒し、人の可能を証明した只の人の願い。

《ふっ……敗北を、知りたいです……あ、やば、無理かも……いや、出來る、私ならば、出來る、聖なるかな、聖なるかな、父よ……貴方の最も高能な使いである私に最高の能を……》

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イズ半島は、まだ滅びていない。

白き輝き、燃え上がる翼が、富士山をけ止めていた。

《噓、でしょ〜? なんなんですか、あ、それ》

者。

班長、その男が呆気に取られる。

それを見逃す探索者は、この場にはいない。

「っ!! 今や! 八咫烏! 気張り! 最高速度や!!」

『ピョオオオオオオオオオオ!!』

昇る。

夜の闇を。

異國の使いが、山をけ止め、この國の使いが全ての元兇の元へ。

《ちっ、これは、しまず〜い》

ぱん。

班長が手を鳴らす。

虛空から現れるのはーー。

《土や、崩れ土や。イズの島より湧き出でよ、我が行いに平伏せしよ》

土塊の塊。

班長の意に従うように空に浮かぶのは巖とみまごう土塊の大群。

TIPS€ ! 神話攻略ヒント収集"イズ島・崩れ土・我が行い

TIPS€ 上だ、來るぞ

「ヒント……? なんのだ……? いや、それより、熊野!! 攻撃が來るぞ!」

「わかった! よく捕まっとき!! 真上に飛ぶで!!」

「うおお!?」

ぎゅん!!

急上昇。

八咫烏がさらに上へ。

頭上にいる班長を目指して。

ぼしゅ。ぼしゅ。

降り降りる土塊を、八咫烏が複雑な軌道を描きわし続ける。

《ちっ、ちょこまかと〜めんどいですね〜あはは、それにしても熊野さ〜ん、今更ですか〜今更なんですか〜、熊野さ〜ん、今更どのツラ下げて〜戦ってるんですか〜》

「う、ウチは!! むぎゅ」

「あー待て待て待て待て! 熊野、お前、レスバ弱いから無視しとけ、無視! 八咫烏の飛行に集中してくれ!」

班長の言葉に言い返そうとした熊野のスベスベほっぺを味山が摑んで言葉を止める。

「むご! むごごご!」

「大丈夫! わかってる、分かってるから! でもお前レスバクソ雑魚じゃん、メンタルされるんだから無視しとけ! 代わりに俺がやってやるから」

「むご、か、代わりに?」

「ああ、見とけ、レスバの本質を」

土塊を用に躱しながら、八咫烏は更に上昇。

空に浮く班長を狙う。

《熊野さ〜ん、聞こえてますよね〜、あはは〜イズ高校オカルト部の皆さんの最期の瞬間を思い出してくださいよ〜あの時役立たずだった貴がどうしてそんな、今更、どのツラ下げて〜》

熊野を煽るような言葉。

空に響くその言葉を、け止めるように、味山がよろめきながら八咫烏の背に立って。

「お前さあ! どーでもいいけど、何を怖がってんだぁ?」

《……はぁ?》

その反応に、味山はニヤリと笑う。

適當に選んだいくつかの煽り。初手で班長の気を引けた。

「さっきからベラベラうるっせえんだよ、熊野熊野と連呼しやがって、このロリコンがよ〜!」

《ろ、ロリコン……?》

食い付いた。

それどころか、明らかにこちらに向かってる土塊の度も落ちている。

「図星かあ!? てか、おめー、ずっとなんか黒幕ムーブしてるけどよお! センスねえし、小半端ねえぞ!! 何がやりてえか鮮明じゃねえんだよ! なんていうかなぁ、魅力がないよ、魅力が!」

味山の勢いがどんどん上がっていく。

レスバの本質はシンプルだ。

相手の話を全く聞かず、こっちの言いたいことだけ言っていればいい。

もちろんやりすぎると普通に周りから嫌われる。

《な、何を言って》

「格が低いんだよなぁ〜おや? 決め手の逆さ富士とやらも、はい、どうぞ、セラフさん、どうですかァ!?」

《おも……いや、余裕っ、ですねえ!!》

ずん、ずん。

しづつ、押し込まれていく逆さ富士。

必死に翼をはためかせて、それを押し返していく熾天使。

「ですって! あれ〜お前がやろうとしてることこそ、何一つ上手く言ってませんけども! これならマジでアサマのホラーターンの方が格上だったぜえ!」

地味に今までレスバにおいて無敵の凡人が、イズ王國の闇を煽りまくる。

その、結果。

《……殺す》

TIPS€ 挑発功、奴はお前を狙い始めているぞ

「ギャハハハハハハハハハハハハ!! それが本ですかァ!? 安っぽくて淺いくせに、ブッてんじゃねえぞ! 三下がァ!! しっかりプライドあるじゃねえか!!」

土塊、土塊、土塊。

先程までは理的に、八咫烏の翼を狙っていたものが今やほとんど味山に向けて。

「っ! 行ける、これなら! 八咫烏!」

『ピョオオオオ』

狙いが甘くなった瞬間、八咫烏がさらに加速。加速、加速。

イズの夜空。

下においては。

『ああああああああああああああああああああ、ひ、人の子よ、これはさすがに最強で究極の熾天使でも、長くは……あの、やっぱ今からでも別の願いにしませんか? 世界を支配するとか、もっと、こう』

ひとり。

イズを終焉に導く逆さ富士をけ止めつづけ。

イズの夜空。

上の方。

「ギャァーハハハハハ! セラァフ! 気合れろ! 命令だ! そのまま逆さ富士を止めろ! 誰も死なせるな! 熊野ミサキ、ここから上昇! セラフが逆さ富士を止めてる間に、あのクソを仕留める!」

「は、はははは、もうめちゃくちゃやで! でも、ええ! 連れてったる! 気張り! ヤタガラス! ここが命の使い時やで!」

八咫烏と指定探索者と、バカ。

イズの夜に浮く逆さ富士を飛び昇り。

《な、なんで、なんで、當たらない! 熊野、熊野オ!! あの年達の最期を、の最期を思い出せ、思い出せええええ! なぜ、なぜ、急に、こんなに、強く……?》

「おいおいおいおい! どしたァ!? 思い通りに行かないからって焦り出してからによお! 格下が! けねえなぁ!」

《ぐぎぎぎ、あ、ダメかも……いや、まだ行ける……行ける? ちょ、人の子、そろそろ、あれかも……いや、余裕なんですけど、し、こう、ね》

ぐ、ぐぐぐ。

逆さ富士が、しづつ、しづつ地表へ。

「おっと、やべえ。時間がないな、こりゃ」

《來るな、來るな……》

どろり。

班長が腰掛けている言わぬアサマのの一部が溶けて、千切れる。

ーー。

それは形を変えていく。人の形。

黒い眼窩、裂けそうな口、制服……?

「あっ……」

「あ?」

TIPS€ 熊野ミサキのトラウマだ。イズ高校オカルト部の魂を"◆◆◆"が加工した

『あ、ああ、どうして』

『なんで、裏切った』

『痛かったよ』

『苦しかった、怖かった、お前のせいで』

『…………』

5つの人影。

見る影はなくとも、わずかに殘る面影は、紛れもなくソレが彼らを元にしたものであると伝える。

「あ、ああ……ごめん……」

ぴしっ。

熊野の顔が引き攣る。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

5つの影に謝るように、熊野が視線を下に落とした。

やはり人間。

脆くて愚かで弱い。

班長が、予想通りの熊野の反応にほくそ笑む。

《保険が効きましたねえ、貴をイズ高校に向かわせて本當に良かった》

イズ王國を滅ぼせる存在、それがあの學生達だった。

故に、楔を打った。

己を狙う指定探索者、己に対抗でき得るオカルト部。

その2つを破滅させるために彼らを引き合わせた。

った》

、八咫烏のきが鈍る。

怨霊と化した彼らが、熊野ミサキの心に染みつく。

《脆くて助かりますよ、人間》

満面の笑みで、班長が土塊の大群を八咫烏に向けて。

TIPS€ それはイズ王國に立ち向かい、敗れた者の魂だ

「きっついなァ……」

ずばん。

耳の面をつけた男が腕を振るう。

火が、骨が、八咫烏にまとわりつく怨霊もどきを焼き切る。

『『『『『あ』』』』』

なんのも躊躇いもなく男が怨念を切り捨てる。

「あ……」

「熊野」

何かを言おうとした熊野に、味山が言葉を被せて。

「これで、共犯な」

「アンタ……」

その言葉が、熊野ミサキの折れた心をどれだけ救ったか。味山にその辺の機微がわかるはずもない。

耳男に、黒いモヤがまとわりつく。

恨めしそうに、まどいながら、何故、と呼びかけながら。

TIPS€ イズ高校オカルト部の魂だ。彼らはイズを守ろうとして敗死した。お前はその勇敢で哀れな存在をーー

「目標。イズ高校オカルト部、駆除」

パチン。

下手くそな指鳴らし。

ぼおう。

火が、彼らの殘滓を赤く焼き盡くす。

味山は知っていて、なお、彼らを焼き盡くすことを決めた。

『あ、いや、燃える……焼ける、終わる……?』

もしも。

彼らが生きている間に、味山只人がイズ王國にやって來ていたのなら。

もしも、彼らがあと數日を生き延びていたのなら。

「悪いな。助けれなくて。でも、代わりに約束するぜ」

だが、この世にもしもなんてあり得ない。

あるのは、目の前の事実だけ。

味山が消えゆく彼らの魂の殘滓を見つめる。

『なんで、なんで、俺たちが』

『もっと、もっと生きたかった』

『みんなと一緒に、もっと』

『負けた、いやだ、負けたまま、終わるのは』

『……』

TIPS€ 彼らはイズ王國に立ち向かい、敗れた。彼らは負けて、死んだ

目の前。

制服姿のの怨が、悶えながら味山に押し寄せてーー。

「ーーテメェらがやろうとした事は俺が引き継ぐ。俺がお前らを勝たせてやるよ」

ピタリ。

火に悶えていた人影のきが止まる。

その言葉を聞いた瞬間、全ての憑きが落ちたように鎮まった。

「すげーよ、お前達は。やるべきことを行なった。立ち向かう敵を見誤らず、立ち向かう事を辭めなかった」

味山に他人のは分からない。

けれど、味山は知っている。

積み重ねることの難しさを。辿り著けないことの悔しさを。

「見事だ、イズ高校オカルト部。お前達の神話への叛逆は、アレフチームの味山只人が引き継ぐ」

それを為したものへの敬意を、味山は決して忘れない。

ーーふと、あの黒い人影。もう會うことはない奴らの事を思い出して。

「お前達は負けて死んだ訳じゃない。戦って死んだ、勝って死んだ、そうだろ?」

『……ありがとう』

送り火が、彼らを空のもっと、もっと高い所へ。

もう2度と苦しまぬように、もう2度と生まれてこないように。

1人、また1人、火をれて。

『……………あとを頼みます、探索者』

最後に殘った燃え滓が言い殘した小さな言葉。

火が、黒いモヤを溶かしていく。

最期に殘った白い髪の儚い雰囲気のが、味山を、そして、熊野を見つめて。

『約束、守ってくれてありがとう』

送り火が、最期に殘った彼を送った。

「あ……あああ……」

熊野は理解した。

今、終わったのだ。

あの場所で過ごした自分と、彼らの語は。

「ーー熊野ミサキ!! 前見ろ!! 腹くくったんだろうが! やるぞ!! なんかしんみりしたと思いきや、よく考えればアイツが全て悪いじゃねえか!」

「ーーははは、はは! 確かに、確かにそれは、そうやなァ!!」

小さな水滴が、夜空に散らばり置いていかれる。

味山も、熊野も、それを振り返ることはしない。

ぎゅん。

昇っていく、飛んでいく、飛んでいけ。

夜の空を八咫烏と指定探索者と耳男が駆けていく。

そしてついに。

奴と同じ標高、逆さ富士の標高へ。

《な、なんなんです? なんなんですかァ〜!? お前はあああああ》

「どうもお、こんにちはァ、味山只人でえす!!」

「っ観念せえや! このクソド外道!! いてこましたるわ、ボケぇ!!」

『ピョオオオオオオオオオオ!!!』

上空、5000メートル地點。

目標、直上、否、正面ーー。

TIPS€ 神話攻略最終局面、敵神判明 "零落習合神・アサマ"及びーー

《ふ、ふふふ〜やれるもんなら、やってみて下さいよお〜人間風が》

「ギャハハハハハハハハ!! 余裕がなくなっちゃってんぞ!! アレフチームはいねえけどよお! 神様殺しだァ!! アサマァ、起きろよ! てめえもまとめてぶっ殺してらるからよォ!!」

神殺し、神殺し、神殺し。

読んで頂きありがとうございます。

カクヨムの配信版も是非。

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