《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十二話

「……ん? あれは?」

よく見ると、アンとフォレのし奧側。丁度二人の真ん中辺りの位置に、見覚えのある顔がある事に気が付いた。

俺の見間違いじゃなかったら、アレは多分。

「アルク、だよな?」

そう、アルクだ。

アルクには子供達を助け出す時に世話になったし、王都に來る時も護衛対象としてよく見た顔だ。見間違える筈がない。

「ああ、アルクだな」

「アルクさんですね」

二人に対して問いかけた訳じゃなかったが、二人が俺の呟きに反応を示した。

やっぱり見間違える訳ないよな。試合前だというのに、すっかり向こうに気を取られてしまった。

って、そうだ。試合だ。

「すみません、お騒がせしました」

「いえいえ、可らしい聲援じゃないですか」

意図した事じゃないとはいえ、試合開始のタイミングを邪魔してしまったのは事実なので、一応審判に一言謝罪の言葉を告げると、特に気にした様子もなく、朗らかに返してくれた。

「おおーい、俺には何も無しかよ。つれないなぁ」

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……そして、相変わらず馴れ馴れしい態度で接してくる拓斗。

ここまで馴れ馴れしいと、逆に俺の方がおかしいのかと考えてしまうが、すぐにその考えを頭の中から追い出す。

何を考えてるんだ俺は。どう考えても拓斗がおかしいだろ。こんな面識も無ければ、名が知れてる訳でもない一介の冒険者である俺に、わざわざ好意的に接する理由なんて無いんだから。

あるとすれば、俺に好意的に接する事で油斷をうぐらいしかない。果たして拓斗にそれが必要なのかどうかは置いておくとして。

「まあ何にせよ、油斷はだな」

そう考え、俺はストレージの中から魔鉄バットをゆっくりと取り出し、それを両手で握って正面に構える。

魔鉄バットを取り出す瞬間、會場が軽くざわついたが、そのぐらいは想定だ。

なんせこの世界の常識だと、アイテムボックス持ちは自分では戦わないのが主流みたいだし、むしろこういう反応こそが本來の反応なんだろう。

そういえば何でアイテムボックス持ちは自分で戦闘しないんだろう?

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や防の持ち運びも楽だし、絶対戦闘に向いてると思うんだけど。

「両チームとも、準備はいいですか?」

「はい」

「……ああ、さっさと始めろ」

審判の言葉に一言短く返事を返すフーリと、つまらなそうに返す拓斗。

何で拓斗が俺以外にあんな反応になるのかは分からないが、とりあえず俺達の意志を確認出來た審判は一度短く息を吐いて、改めてマイクを持ち直し。

「それではこれより、勇者杯準決勝を始めたいと思います!」

観客席を見回し、聲を大にしてそう宣言した。

その宣言に會場の空気も沸き、ざわざわと騒がしさが増していく。

「皆さん、準備はよろしいですか? それでは、準決勝――はじめ!」

いよいよ始まる。

謎のスキルを使いこなす、夜刀神拓斗との試合が。

「死ねやコラァ!」

先手必勝! 見敵必殺! サーチアンドデストロイ!

俺は試合開始の宣言と同時に魔鉄バットを振りかぶると、拓斗との距離を一息に詰め、その脳天目掛けて思いっきり振り下ろした。

「うおぁっ!? あっぶなっ!?」

チィッ、躱されたか!

「躱すんじゃねえ!」

「無茶言うんじゃねえよ! こんなん喰らったら普通に死ぬわ!」

「死なない可能もあるだろ!」

「可能の話をしてるんじゃねぇ!」

開口一番に失禮な事をのたまう拓斗。

そもそもこれは勇者杯の準決勝。開幕から全力で相手を叩こうとして何が悪い?

先手必勝の神で戦いを挑むのは何も間違っていない。その結果、ちょっと危険な攻撃をしたからといって、何か問題があるとでも?

「お前「何か問題でも?」みたいな顔してんじゃねえ! 問題しかないだろうが! ……え、俺が間違ってるのか?」

勢いのままに怒鳴り散らす拓斗だったが、最後の方は何だか自信無さげになっていた。

當たり前か。どう考えてもおかしい事を言ってるのは……。

「やるなカイト君。なかなか見事な不意打ちだったぞ」

「え、不意打ち?」

「流石ですカイトさん! 開幕早々あんなに堂々と奇襲を仕掛けるなんて、なかなか出來る事じゃありませんよ!」

「……奇襲?」

え、二人共何を言ってるんだ? 俺は別に不意打ちも奇襲も仕掛けたつもりはなかったんだけど?

「……ど、どうだ拓斗! 俺の不意打ち戦法は!」

「「「……」」」

その瞬間、拓斗だけでなくフーリやマリーまでジト目で俺の事を見てくる。

「「「「「……」」」」」

心なしか會場の空気もひんやりとしてきた気がするな。

何でこんな空気になってんだ? 俺はただ普通に戦いを仕掛けただけなのに。

「あ、あの~、試合の方を再開して貰ってもよろしいですか?」

「あ、はい、すみません」

気まずい空気の中、最初にこの空気を破ったのは例によって審判だった。

彼はこの空気の中、おずおずとはいえ試合の再會を進言してきたのだ。流石は勇者杯の審判を務めるだけはある、って事か。

「よし拓斗、気を取り直して試合再開といこうじゃないか!」

々変な空気になりはしたが関係ない。

何故なら俺達と拓斗の戦いは、まだ始まったばかりなのだから。

「いやお前が……まあいいか。よし! とことんやろうじゃねえか!」

何かを言いかけた拓斗だったが、心境の変化でもあったのか、途中からやる気に満ちた返事を返してきた。

「ま、計畫には特に支障は無いしな」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何でもない。こっちの話だ」

拓斗が小聲で何か呟いた気がしたのだが、確認すると「何でもない」と、話を流されてしまった。

やたらと馴れ馴れしく接してくるくせに、今の瞬間だけは拓斗の対応に若干の違和じた。

何を呟いたのか気になりはするが、何でもないと言われた以上、話す気はないという意思の表れだろう。

これ以上は聞いても無駄だな。

「……」

ふとマリーの方に視線を向けると、そこには険しい表で拓斗を睨むマリーの姿があった。

そうか、きっとマリーも拓斗の事を警戒してるんだな。

それも仕方がない。

何故なら拓斗は、まだ噂の「謎のスキル」を発させていないのだから。

もし仮に発させていたら、最初の攻撃をあんなに大袈裟に避ける必要はなかっただろうし。

ただこれで「使用者の意志とは関係なく」勝手に攻撃を無効化したり攻撃を加える、という頭のおかしいスキルの可能は無くなった訳だ。

それが分かっただけでも、最初の攻撃は意味があったというもの。

ついでにそのまま拓斗を倒せれば言う事無しだったんだけど、それは高みという奴だな。

「さて、今度はこっちから行かせて……うおっ!」

俺は改めて試合を再開しようとする、ある意味最も油斷しているであろうタイミングの拓斗に向かって、無言で串マシンガンを喰らわせたのだが、ギリギリの所で躱されてしまった。

ちっ、勘のいい奴め。

「てめぇ、今度は何し――てぇっ!?」

だが、一発目を躱されても、二発目を當てればいい。二発目がダメなら三発目。それもダメなら次々と放てばいい。

「てめっ! 何か! 反応! しやがれ!」

躱すたびに何か言おうとする拓斗を無視し、俺は拓斗を取り囲む様にストレージを多重展開して、連続で串マシンガンを浴びせかけていた。

息もつかせぬ連続攻撃。

最初は何か言おうとしていた拓斗だったが、次第に言葉數が減っていき、今では串を避けるのに意識を集中している様だった。

「フーリ、マリー、今のに攻撃を仕掛けるぞ」

「ああ、今ならタクトを叩けそうだ」

「……そうですね。仮に何か企んでいたとしても、倒してしまえば関係ありません」

マリーが何か気になる事を言った気がするが、今はそれよりも、目の前の拓斗だ。

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