《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》×2-7

の決斷で、シギュンとともに暮らすことを決めたエインズ。

と呼ばれるシギュンとともに生活し始めて早二年が経過していた。

「どうかな、シギュン婆さん?」

長がび、わずかに窮屈そうに車いすに座るエインズの姿が二人の暮らす平屋からし離れた開けた空間にあった。

式を詠唱しながら魔法を左手で放つエインズと、それを株の上に座り眺めるシギュンの姿。

「エイちゃんは覚えが早いねえ。やっぱり目がいいんだね」

「シギュン婆さんの教え方がうまいからだよ」

もともと魔法への興味関心が高かったエインズは、シギュンと暮らし始めてから自求を解消するように暇さえあれば教えを乞うていた。

シギュンはそんなエインズを孫のように接しながらも、時には魔法を扱う魔法士として、そして時には一人の魔師としてエインズの師となり自が持てる知識を與えていった。

シルベ村にいた時はほとんど魔法に関する知識がなかったエインズはそれらを渇いたスポンジのように吸収していき易々と初級魔法をマスターした。

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中級魔法をはじめ、より攻撃的な魔法の取得段階に至ると、シルベ村を襲ったイオネルによる心の傷を心配したシギュンだったが、エインズの魔法に対する好奇心はその出來事よりも勝っていた。

加えて、長に合わせてエインズの右目の魔についてもその扱い方を教えていった。

であればある意味扱うのは容易である。なにせその特とその魔通するだけで良いのだから。

しかしシギュンの魔もそうだが、エインズの右目による「見る」ことに特化した魔は容易ではない。総じて鋼の神力が必要とされる。

神が未なエインズでは、シギュンを見た際にその負荷に耐えきれず嘔吐してしまったほど。

シギュンほどの深淵を持つ者などほぼいないだろうが、だが、この魔と向き合うのならば自神力を高める必要がある。

(……加えて魔だけじゃない、魔師の魂の質にも影響してくる。大するかどうかは魔の素質だけじゃないのが厄介なところだよ)

シギュンはエインズに目をやりながらイオネルを思い浮かべた。

「……あいつのい頃に似ているっていうのは皮なのかねえ」

今はもう魔師ではなくなったイオネルのそのい頃、いつもシギュンの背中を小さな手足を必死にかして追っていた姿が昨日のように思い起こされる。

イオネルもまたエインズのように魔法に魅せられた一人だ。

「……シギュン婆さん! ……シギュン婆さんってば! 大丈夫? 生きてる?」

エインズはずっとシギュンに呼びかけていたようで、一切返事を返さないシギュンに「まさか婆さん、死んだ!?」と慌てた様子で車いすを彼のもとまで走らせた。

「失禮だね、エイちゃん」

「でもシギュン婆さんも、もうかなりの歳でしょ? そりゃ、靜かだと変な心配もしてしまうよ」

二年も経てば大分とエインズも明るくなった。

今ではこうして冗談まで言うほど。そんな瞳の輝きにシギュンは喜びと憐憫がり混じる複雑なを抱く。

「馬鹿だねまったく。あたいが死ぬのはもうし後だよ」

エインズの冗談を笑い飛ばしたシギュンは「だけどそろそろ頃合いには違いないね」と呟いて、腰を下ろしていた株から立ち上がる。

「エイちゃん、家にもどろうか。大事な話をしなくちゃね」

「話って? 魔法のこと? それとも魔のことかな?」

「一応、魔に関することだけどもさ、しはそれ以外のことが考えられないのかねエイちゃんは……」

そりゃ右目の魔に目覚めるわけだ、とそんなエインズの様子にシギュンは呆れる。

エインズが座る車いすを押しながらシギュンは家へと戻った。

戻るとすぐに夕食の準備に取り掛かりながらイオネルに魔法で連絡を取った。

『婆さんからの呼び出しなんて奇妙だねぇ。もしかしてくたばる前に言でも殘しておこうって腹つもりかい?』

などとイオネルもイオネルで、毆り飛ばしたくなるような冗談を返しながらシギュンの呼び出しに承諾した。

「ほらエイちゃん、ごはんだよ。イオネルが來る前に食べてしまおうね」

「えっ!? イオネルも來るの? 今日は何を教えてもらおうかなー」

「今日はそんな時間ないんだよ。……ほら、またこぼしてしまっているじゃないかエイちゃん」

シギュンはエインズがこぼしたスープを布巾で拭いながら改めて部屋の中を眺めた。

隨分とましな部屋になったものだ。

以前までは足の踏み場もないほどに散としていたが、車いすを使うエインズが生活しやすいようにとシギュンは整頓するようになった。

いまだテーブルの上などに書が重なってはいるが、床の上には落ちていない。

エインズは家に戻れば食事以外の時間はシギュンが持っている本をが開くほど読んでいた。それもあって、エインズが読み終えた本は本棚へと戻され整理されていった。整っている本棚のものは全てエインズが読破したものだ。

二人がちょうど食べ終わったころ。

「婆さん、來たよぉ。なんだい、わざわざ呼び出して」

相も変わらず奇妙な仮面をつけて現れるイオネル。

古くからの付き合いであるシギュンはそんなイオネルの姿にいまだに慣れていない。

イオネルが「やあ」とエインズに軽い挨拶をしながら腰を下ろしたのを確認してシギュンは息を一つ吐いて神妙な面持ちで口を開いた。

「イオネル、エイちゃんにあたいの魔をかけようと思う」

仮面によってイオネルの表ははっきりと分からないシギュンだが、おそらくその仮面の下で目を見開かせていることだろうと想像できた。

「それは……。不完全解除、ではないということだねぇ? なぜ、今なんだい婆さん」

「このごろし騒がしくなってきてね。きっと坊ちゃんがき出したね」

「なるほどねぇ。いつ起きてもおかしくないってことかい。エインズくんはサンティア王國の年だったしねぇ、……ジデンくんあたりかな?」

「坊ちゃんと言えども皇帝さね、詰められたらしょうがないだろうさ。帝國魔法士の一員ならとくに」

肩をすくめたシギュンは続ける。

「あたいの魔による干渉、『箱庭』を作るにはどこがいいかねえ?」

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