《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二百三十九話 ギャミの憂鬱②
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第二百三十九話
補給部隊の到著の知らせを聞いたギャミは立ち上がった。
「私は引き継ぎがありますので、補給部隊を見に行きます。イザーク様はどうされます?」
ギャミはゴツゴツした鱗を持つ魔族を見上げた。
到著した補給部隊の馬車には、食料や醫薬品が満載されている。そしてその中には、人間達と渉を行う文がいるはずだ。ギャミは途中まで進めた仕事を、彼らに引き継がなければいけない。
「ご一緒します。サーゴ、ゴノー。お前達も來い。父上もおられるだろうから紹介しておく」
イザークの言葉に、サーゴとゴノーも頷く。そして四で天幕を出た。
杖を突く小さなギャミを先頭に、ずんぐりした軀のイザークとのっぽのサーゴ、そして太っちょのゴノーと、なんとも奇妙な取り合わせであった。
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まとまりに欠ける一団を率いてギャミが西に向かった。ローバーンへと続く西の森からは、馬車が吐き出されるように現れていた。
「おう、ギャミ。ここにいたか」
ドスドスと大きな足音が聞こえ、ギャミが振り向くとそこには山のような巨軀の魔族がいた。大きな手を気さくに掲げるのは、魔王の実弟ガリオスである。
「ちょうど呼びに行こうとしていたんだ。手間が省けた」
「閣下、私に何か用でしたか?」
「いや、何。ちょっとな。まぁ、すぐにわかるよ」
含み笑いを見せるガリオスに、ギャミは首を傾げた。
首を傾げるギャミをよそに、ガリオスが視線を補給部隊に向ける。到著した馬車には食料や醫薬品が詰められており、兵士達が到著する端から荷を下ろしていく。
ギャミが荷下ろしの様子を眺めていると、また新たな馬車が到著した。しかし幌がついた馬車からは荷が下ろされることはなかった。代わりに魔族が降りてくる。彼らは鎧ではなく文のをに纏っていた。人間達と渉の行う僚達だ。
ようやく來たかと、彼らを出迎えるためにギャミが一歩を踏み出そうとしたその時だった。見知った姿の魔族が馬車から姿を表した。
その魔族は黒い皮の長外套をに纏い、頭からフードをかぶっていた。顔には花の模様があしらわれた、銀の仮面を裝著している。仮面に隠れ顔は見えなかったが、長外套の下からはかなの膨らみや引き締まった腰が見てとれた。
魔族はブーツに包まれた長い足を地面に下ろすと、キョロキョロと周囲を見回す。そしてガリオス達と共にいるギャミを見つけると駆け寄って來た。
「ギャミ様、ご無事でしたか! ああ、お會いできてよかった……」
息せき切ってやってきたはに右手を當て、仮面の奧にある瞳を涙で滲ませる。
「あっ、アザレア様?」
ギャミは目を丸く見開き、目の前にいるアザレアを見た。
やって來たのは、アザレア・アシュタロト男爵に間違いなかった。アザレアの背後にはアシュタロト家に仕える魔族、ユカリとミモザの二も居た。
紫の鱗に長い背丈のユカリと、黃い鱗に子供のような軀のミモザは、再會を喜ぶアザレアを見て嬉しそうに頷いている。
「どうしてここに?」
「ギャミ様が質として連合軍に赴かれると聞き、の回りのお世話をしようとやって來ました。その……お邪魔でしたか?」
一転して憂いを帯びるアザレアの視線をけ、ギャミは口を歪めて何も言えなくなってしまった。
傲岸不遜を旨とし、この世に恐れる者なしと自負しているギャミであったが、このアザレアだけは苦手としていた。
ギャミは敵どころか味方にまで憎まれ、怒りや嫉妬、嫌悪のを向けられることも幾度とあった。しかしこと好意だけは向けられたことがない。
真っ直ぐな好意をぶつけてくるアザレアは、ギャミにとってなんとも居心地の悪い相手であったからだ。
ギャミは口を開けたり閉じたりしていると、不意に背後に視線をじた。首だけを返してみると、ガリオスが大きな顔に笑みを浮かべている。
謀られた!
ギャミは今の狀況が、仕組まれた罠であることに気づいた。今自分は死地のただなかにいる。
まずい、今すぐこの場から逃げねば!
速やかにこの場から離すべく、ギャミは出方法の検討にる。
瞬きを數度する間に、ギャミは百を超える出方法を考えだした。その結果……。
だめだ、逃げられぬ!
ギャミは自の置かれている狀況に、活路がないことに気が付いた。
アザレアに対し、助力は不要だから帰れと言うことは出來た。しかしそうすれば、ガリオスが黙っていないだろう。
ギャミは背後で笑うガリオスを、肩越しに見て目を細めた。
武骨でに興味のないガリオスではあるが、には甘い所がある。それにこの狀況は恐らくガリオスが仕組んだことだろう。力押しで突破しようとすればガリオスもギャミに命令し、アザレアと共に行けと言うだろう。
殘る手段は、アザレアと共には行けない理由を考えつくことだが……。
ギャミは憂い顔を見せるアザレアに目を向けた。
アザレアは寶石の如き翡翠の瞳に憂いを浮かべ、ただただギャミに視線を送っている。
熱いアザレアの視線をけて、ギャミは歯噛みした。
アザレアの何が苦手かといえば、この視線が嫌だった。真っ直ぐで思いが込められた瞳を前にすると、姑息な策略が使えなくなってしまう。普段はよく回る舌も粘つき、得意の弁舌を振るうことも出來ない。
進退極まったギャミには、もはや取るべき手段は一つしか殘されていなかった。
「よろ、しく……お願い、します。アザレア様」
ギャミは白旗がわりに頭を垂れ、アザレアの申し出をけれた。
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