《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》315.『章紋』の主
イールトノンの中央報中樞センターにも、キノコ雲の映像は屆いた。リアルタイムで監視を続けていたイーブイタは一瞬、息を呑み、それから慌てて報告の聲を上げた。
「サイバスチャン・ロヴァートが自した模様!現場のヘーラチームが巻き込まれた可能が高いです!!」
「何だと!?」
映像を瞬時に確認しながら、ハークストは冷靜に思考を続ける。
「なるほど……黒幕がいるようですね」
サイバスチャンは、取り調べされると不都合な者だったのだろう。実際、こうなってしまっては事件解決の大きな手がかりは失われる。同様の事案では捜査が難航し、暗礁に乗り上げることもこれまでに多々あった。
蘇(ソ)の心は大波のように荒れていた。だが、一分の冷靜さだけを見つめるように心がける。
「卑劣なやり口だな。まるで機関を弄んでいるようだ。舐められている……」
これまで事件を追跡してきたメンバーの命が使い捨ての駒のように散り、グラーズンは首謀者の強大な悪意をじた。怒りに手を震わせながら、イーブイタに指示を出す。
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「現場の四人の狀況、そして近辺の被害狀況を調べてくれ」
サイバスチャン・ロヴァートの確保に失敗した。だが、それよりも重大なメッセージがあったことに、グラーズンは気付いていた。
ハークストが顎にれながら、考えを巡らせる。
「まず一つ、分かったことがあります。彼の自死は、他の追跡班メンバーに共犯者がいる可能を下げました」
「何故分かる?」と蘇が訊ねる。
「相手は目的を達したのでしょう。ロヴァートが始末されたのは、証拠を末梢するため。もしまだ目的を達していないのであれば、他の追跡班からられる者が出るはずです。ですが、彼らは大人しく機関の指示に従っているでしょう?」
グラーズンはハークストの意見を聞くと、サーイトに確認した。
「サーイト、昨晩のロヴァートの足取りはもう出たか?」
「はい。彼は未來から來た刺客の追跡中、班から離れてフミンモントルのキャンパスにりました。その後、八分間ほどは後を追えましたが、ジャミングされ、レーダーから消えました。最後に彼の源(グラム)反応があったのは、ムードプッフーカレッジです」
「ムードプッフーカレッジか……」
昨晩、未來から來た刺客のうち、一人が捕縛された。アーリムは仲間を引き出すのに使うと言って、イールトノンではなく彼の研究室に刺客を連れて行き、取り調べをけさせたという。そして、やってきた刺客に虛を突かれ、二人とも逃亡したと聞いている。その全ての出來事が、やはりムードプッフーカレッジで起こった。
グラーズンは思い出したくないと思いながらも、義毅(よしき)の進言を頭の引き出しから取り出す。ムードプッフーカレッジ、という言葉がそこに加わり、グラーズンは胃がきりきりと痛む思いだった。
最初は『尖兵』による謀反の可能も否定せず、待機命令を出したが、他の『尖兵』の中で、怪しい人と接した者はいない。共犯の可能は低いと、グラーズンも考えた。
「一誰がロヴァートをったんだ?」と蘇が呟いた。
ハークストはグラーズンに、推論を聞かせる。
「部長、確かに刺客のうち一名は魔導士(マギア)、他二名は士(ルーラー)と聞いていますが……。もしA級の心苗ならば、これまでの事件全てを起こし、ロヴァートに自の暗示をかけることは可能でしょう」
蘇はイーブイタの報を思い起こしながら、『章紋(ルーンクレスタ)』のことを考えていた。
「柱の間のり口、大橋において、『章紋』の反応があった。それを仕掛けたのも刺客の魔導士か……?」
「いえ、それは違いますわ」
淑やかなの聲に、三人が振り返る。ステージに立つメッキーを見て、グラーズンが聲をかけた。
「タラース副部長、戻ってきていたのか」
「中間テストの審査員が終わりました。例の『章紋』ですが、源紋パターンを見ればリディ・バレーヌでないことは明らかですわ。例え三年の間に著しく長していても、源紋(グラムクレスト)パターンが大きく変わることはありません。『章紋』を使ったのは、ソ君、あなたの學院の教え子ではありませんか?」
蘇は慌ててデータを再確認すると、し顔を赤らめて、面目なさそうに笑った。
「申し訳ない、先観で判斷していた」
「『章紋』を使える闘士(ウォーリア)はないですが、特別な子たちだからこそ、覚えておかないと」
「仰るとおりだ……。ところで、この子は……ミーラティス人のハーフ……?」
知り顔のメッキーに、ハークストは興味深げな笑みで訊ねる。
「Ms.タラース。あなた、何かご存じですね?」
「ええ。その子は、カンザキノゾミの味方ですわ」
「ほう。知らないうちに手を打ったということか」
「ソ君。実は、あなたの學院のティフニー・リーレイズ・ハヴィテュティーが、私のところへ相談に來たんです。彼はテスト中に、五人の心苗(コディセミット)が死ぬという予言について話していきました。私はハイニオスの五人の心苗に『章紋』を教えました。彼たちは今、私の教えた、気配と姿を消すを使っています」
「そんな大事なことを……何故黙っていたんです?」
「ソ君にバレたらマズいと思って。私の獨斷でやったことです」
グラーズンは、その點については咎めず、メッキーの話を詳しく聞きたいと思った。
「タラース副部長、君は彼たちの策を知っているのかね?」
「いえ。おそらく全像は、彼たちにしか分からないでしょう」
「そうか……。ミーラティス人であれば、畫策から実行まで、全ての作戦を通念のみで伝え合えるからな……」
「ハヴィテュティーが來たのはいつのことだ?」
「三日前ですわ。でも、その時はまだ、事件について全く把握できていませんでした」
その後、メッキーは義毅とグラーズンとの談により、ようやく事件について理解した。
「だが、人間の問題にあまり手を出さないはずのミーラティス人たちがこぞって介するとは。興味深いですね」
「きっとカンザキさんたちを救うことは、種族を超えて利があることなんでしょうね」
「なるほど……。カンザキノゾミの命が、この世の未來に関わるからこそ、守る者も、奪う者もいるということか……」
報ボードには、柱の間で戦うのぞみたちの報が隨時更新されている。
最悪の事態に陥った今、どうするべきか、蘇は額に張の汗を滲ませた。
「……だが、彼たち二年生が守護聖霊相手に勝てるとは思えない。それでも信じろと言うのか?」
「俺なら、信じるぜ」
明るい聲が響いた。
真っ赤な坊主頭の男が、中央センターのり口に立っている。男は真ん中の通路をまっすぐに歩いて、ステージに立った。
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