《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二百四十話 人質換①
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第二百四十話
ヒルド砦に用意された館の中で、ゼファーは鏡の前に立ち自分の姿を確かめた。
著込んでいる服は、ハメイル王國軍の正裝だった。いつもの軍服に金のボタンに肩飾りがつけられ、腰にも右肩から左腰にかけて飾り帯が回されている。
ゼファーは念に服裝にれがないことを確かめ、そして赤い裏地の黒の外套を羽織った。そして白い手袋をはめ、最後に剣を腰に裝著して全ての準備が完了する。
ハメイル王國軍の最上位儀禮服裝。國王陛下の前に出ても恥ずかしくない姿と言えた。
「ゼファー様。そろそろお時間です」
部屋の外から聲が掛けられる。父ゼブル將軍の部下であったライセルのものだ。
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ゼファーが返事をして部屋から出ると、隻眼の騎士ライセルが待っていた。ライセルと共に館を出ると、外では槍を持つ二人の兵士が立っている。兵士の一人は手綱を握り一頭の馬連れていた。
「よし、行こう」
顎を引いたゼファーはライセルと二人の兵士、そして馬を伴いヒルド砦の西門を目指した。
西門の前までやってくると、開け放たれた門が見えた。ヒルド砦の門は、連合軍の手により一度全て破壊された。だが魔王軍から返還されてすでに三日が経過しており、門は修復されている。そして開け放たれた西門の先には、連合軍の旗を掲げる軍勢の姿があった。
連合軍の兵士達はそれぞれの旗を掲げ、四角い陣形をいくつも作って整然と並んでいた。ゼファーがさらに西に目を向けると、荒野を挾んだ先には同じく四角い陣形を組んだ軍勢の姿が見える。ただしこちらは黒い鎧を著込み、竜の旗を掲げている。魔王軍の軍勢だった。
連合軍と魔王軍が睨み合う形となっているが、互いの軍勢は靜まり返っていた。
戦爭の前ともなれば、兵士達は戦意を高めるために聲を張り上げぶものだ。しかし両軍は沈黙し、戦いの気配は見えなかった。
ゼファーの背後から、唾を呑む音が聞こえた。首を返すと付き従う二人の兵士は汗を流していた。ライセルも隻眼を細め、険しい表を浮かべている。
背後の三人が張するのも無理はなかった。今から連合軍と魔王軍が、互いが裏切らない補償として人質を換しあうのだ。
正裝にを包んだゼファーは人質として、魔王軍に行くことが決定している。二人の兵士はゼファーの護衛であり、これから共に魔王軍の陣営に向かう。
「ゼファー様、大丈夫でしょうか?」
「安心しろ。話は通っているから大丈夫だ」
聲を震わせる兵士に、ゼファーは軽く顎を引いた。
気楽なゼファーの聲に兵士達は安堵の息をらし、い表をわずかに緩ませる。だがゼファーの言葉は噓だった。この渉がうまく行くかはゼファーにも分からない。なにせ魔族との渉。しかも人質換など歴史上初めてのことだ。
この渉が功するかどうかは誰にも読めない。ゼファー達が魔王軍の元に行った瞬間に、首を切られることもあり得るのだ。しかし事実を言っても兵士達を怖がらせるだけだった。
ゼファーは兵士達から視線を外し、門の周囲を見る。ヒルド砦の門の周りには、ゼファー達以外に人影はない。
「ホヴォス連邦のレーリア様はまだの様ですね」
ゼファーの心を代弁するように、ライセルがつぶやいた。
レーリアの名前を聞くと、ゼファーはの高鳴りをじた。いつのころからか、ゼファーはレーリアのことを憎からず思うようになっていた。初めて會った時は好みのではないと思っていたのに、今では彼のことを考えない日はない。
「ああ、ゼファー様。レーリア様たちが來られましたよ」
考え込むゼファーの背中に兵士が聲をかける。ゼファーが慌てて振り返ると、四人のがやって來るのが見えた。
馬を引く戦士のマイスを先頭に、二人の侍が歩いている。そして最後尾に一人のがいた。ホヴォス連邦スコル公爵家が令嬢レーリアだ、
靜かに歩むレーリアを見て、ゼファーは目を奪われた。
波打つ金髪はのに輝き、に纏う赤いドレスは簡素な意匠ながらも彼の魅力を引き立てていた。
レーリアの姿にゼファーのは高鳴り、思考は一瞬忘我となる。だがすぐに気を引き締めた。
今から自分達が向かうのは敵の巣窟。浮かれていい場所ではない。場合によっては捕らえられ殺される可能すらあるのだ。自分がしっかりしなければ、レーリアを危険にさらしてしまうかもしれなかった。
レーリアを守れるのは自分だけ。たとえ何があろうとも、レーリアだけは助けて見せるとゼファーは心に誓った。
「どうかしたの? ゼファー」
決意を改めるゼファーに、レーリアが首を傾げる。
「いえ、なんでもありません。それよりも行きましょう」
ゼファーが促すとレーリアも頷き、マイスが引いている馬に乗ろうとあぶみに足をかける。だが乗ろうとした瞬間、足をらせ倒れそうになった。ゼファーは慌てて手をばし、レーリアの左手を摑む。そして倒れない様にに引き寄せた。
ゼファーのにレーリアの小さなが飛び込んでくる。髪から甘い香りが漂い、腕のうちにあるは、あまりにも華奢だった。
「あっ、ありがとう……」
ゼファーのの中で、レーリアが恥に頬を染めながら見上げる。その顔があまりにもらしかったので、ゼファーのは石の様に固まりきひとつ出來なくなった。
ゼファーとレーリアが見つめ合う時間を破ったのは、わざとらしい咳払いだった。ゼファーが弾かれる様に目を向けると、マイスが白い目を向けていた。その視線はレーリアの肩を抱く、ゼファーの右手に注がれている。ゼファーは慌てて手をどけた。
「す、すみません」
「いえ、こちらこそ」
ゼファーとレーリアは、互いに顔を紅させてを引く。
「ほら、早く行きますよ! 姫様!」
マイスが目の端を吊り上げながら促す。レーリアはあぶみに足をかけると、ドレスの裾を翻して、今度はうまく馬に乗り、橫座りとなる。
ゼファーもライセルが連れていた馬にる。そしてゼファーは兵士に、レーリアはマイスに馬を引いてもらい、兵士や侍と共に進む。
ゼファー達が進む先には連合軍に參加する六つの國の旗が翻り、七人の男が集まっていた。
本日ロメリア戦記外伝の発売となります
こちら電子書籍のみとなっております
容は三十八話と三十九話の間となっており、なろう未発表です
今書いているディナビア半島編が終われば、こちらを掲載することになると思います
よろしくお願いします
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