《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第二百四十一話 人質換②
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第二百四十一話
人質として魔王軍へと赴くゼファーとレーリアは、隻眼の騎士ライセルと戦士マイス。そして二人の兵士に二人の侍を供として進んだ。
行く手には連合軍の旗が立ち並び、各國の主要人が待っていた。
赤い天鵞絨の外套を肩にかけ、王冠を戴くのはヒューリオン王國の國王となったヒュースだ。ヒュースからし離れたところには、月の様な銀髪を持つフルグスク帝國の皇グーデリアが一人立っている。
ゼファーが目を転じると、ヘイレント王國のガンブ將軍が白い髭をでていた。その隣には大きな瞳がらしいヘレン王が、黒髪の騎士ベインズと共にゼファー達が來るのを待っている。またホヴォス連邦のディモス將軍は、鋭い眼をレーリアに向けていた。
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そして白いを著たライオネル王國の聖ロメリアは、じっと魔王軍を見據えている。視線の先をゼファーも追うと、數萬にも及ぶ大軍が整然と並んでいた。その先頭には、巨を誇る一の魔族がいた。
魔王の実弟ガリオスである。
その巨は數萬の軍勢を背にしても埋もれることはなく、堂々たる存在を放っていた。並んでいるのはガリオスだけではない。右隣には大きな顎を持つ暴君竜が犬の様に伏せている。さらに剣竜にるガストンに怪腕竜の背に乗るガオン。三の寶玉が取り付けられた杖を肩に擔ぐガダルダは、三本角竜に騎乗している。
魔王軍も主だった者が揃い踏みし、人質を換する時を待っていた。
ゼファーはヒュース達の元に到著すると馬を降りる。
「準備はできているか、ゼファー」
ヒュースの言葉に、ゼファーは顎を引く。
「ゼファー様。レーリア様をよろしくお願いします」
ディモス將軍が頭を下げる。
ゼファーの知る限り、ディモス將軍はレーリアを二度見捨てていた。しかし頭を下げる姿には、真摯さがあった。
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見捨てられてもなお國のために人質となるレーリアに、ディモス將軍も思うところがあるのだろう。
「お任せください。この命に代えましてもレーリア様をお守りします」
ゼファーはに手を當てて誓う。
振り返り、ゼファーはレーリアに目を向けた。同じく馬を降りたレーリアは、ヘレンと別れの挨拶をしていた。
ヘレンは別れを惜しみ、涙を流してレーリアに抱きつく。レーリアは苦笑いを浮かべながらも、ヘレンの背に手を回し抱擁を返す。そこにグーデリアやロメリアも歩み寄り、レーリアに言葉をかける。
陣が別れを惜しんでいると、魔王軍にもきがあった。整列する魔王軍の後方から、數の魔族が歩いて出てくる。
先頭を歩くのは杖を突く魔族だった。子供の様に小柄な背丈から、魔王軍特務參謀のギャミであろう。そのギャミの傍には、ずんぐりとした軀の魔族がいる。ガリオスが七男イザークだ。彼はガリオスの息子という分でありながら、護衛としてやって來るという。
イザークは右手に手綱を握っていた。綱は平べったい竜の口元へと繋がっている。拳骨の様な瘤のついた尾を振り回すのは、瞼にも鱗を持つ裝甲竜だ。
イザークの背後には、二頭の馬を引き連れた二の魔族もいた。背の高い緑の鱗を持つ魔族と、赤い鱗に太っちょの魔族だ。
「柄を換するギャミと、そしてイザークと護衛が二。事前に通達された通りですね」
「うん。あとの回りの世話をする魔族が三いるはずだ」
ゼファーの言葉に、傍のヒュースが頷く。視線を向けると馬を引く二の魔族の背後から、さらに三の魔族が出てくる。
黒い皮の長外套をにつけた魔族に、紫の鱗に黒の服をにつけた魔族。そして黃い鱗に派手な服を著た魔族だった。
ゼファーはこれまで、の魔族を見たことがなかった。しかし新たに現れた三の魔族は、肩幅がやや小さくの形狀も丸みを帯びており、どことなくだがを思わせる雰囲気があった。
ゼファーは空を仰ぎ見た。太が頂點に達し強く輝いている。柄換は今日の正午と定められていた。
「レーリア様。時間です。行きましょう」
「ええ、分かったわ」
ゼファーが促すとレーリアは頷き、別れを惜しむヘレンに笑顔を向けた。そして馬に乗り準備を整える。
ゼファーも馬に乗りヒュースに合図を送ると、ヒュースが右手を掲げた。するとヒューリオン王國の兵士が、三度太鼓を打ち鳴らす。
太鼓の音が荒野に響き渡ると、魔王軍からも太鼓の音が三度返された。両軍の準備が整ったという合図だ。
「では行ってきます」
ヒュースに対して馬上で一禮した後、ゼファーは前を見た。荒野の先ではギャミと赤い鱗の魔族が馬に乗り、イザークも裝甲竜にっている。
ゼファーの馬の手綱を握る兵士が、ゆっくりと前に進む。歩調を合わせてレーリアが乗る馬の手綱を握るマイスが進み、兵士と侍もついてくる。一方、魔王軍側でも兵士に手綱を引かせ、ギャミ達が進む。
それぞれの一団は一定の速度で進み、戦場の中央ですれ違う。
馬を引く兵士が息を呑む。魔王軍から申し出てきた人質換だが、彼らが裏切るという可能もあった。
「歩みをすなよ」
ゼファーは馬を引く兵士に注意する。
すれ違う魔王軍の兵士達にも、張のが見えた。おそらく魔王軍でも、ゼファー達が裏切ることを警戒しているのだ。
歩調のれ一つで、裏切りと取られるかもしれない。
ゼファー達は張を押し殺してまっすぐに進む。そしてギャミ達とすれ違い、互いに距離が離れる。襲いかかることが出來ないほど離れると、兵士達が大きく息をらした。
「まだ終わっていないぞ。気を緩めるな」
兵士達を叱咤したが、ゼファーも心では安堵していた。一つの山場を越えることは出來た。しかしこの後にはさらに大きな山場が控えている。
ゼファーが前を見據えると、行く手には竜の旗を掲げる數萬の魔王軍が並んでいた。そしてその先頭に立つのは、山の如き巨大なガリオスだ。
ゼファーは息を呑んで馬を進める。そしてついにガリオスの前に辿り著いた。ゼファーとレーリアは、馬から降りてガリオスと対面する。
初めて間近でガリオスと対峙し、ゼファーはそのあまりの強大さに戦慄した。
大きな顎には短剣の様な牙が並び、五指に備わる爪は巖をも穿つほど太く尖っている。を覆う鱗はり輝き、頭の先から爪先まで力でみなぎっていた。
もはや生としての格が違う。自分など鼻息一つで吹き飛ばされると、ゼファーの心膽は凍えた。
ゼファーは護衛の兵士達を見ると、兵士達もガリオスを前に凍りついている。マイスはどうかと、目だけをかす。マイスは魔王軍が誇る大將軍と一騎討ちを演じ、片腕を切り落としたほどの傑だ。しかし彼もまた、ガリオスを前に顔をなくしていた。
誰もが強大なガリオスを前に恐怖している。しかしけない姿を見せれば、連合軍の沽券に関わる。何より……。
ゼファーはマイスの隣にいるレーリアにも目を向けた。レーリアの瞳孔は収し、顔は白く息をしていなかった。
強大なガリオスを前にして、彼もまた魂魄が消し飛ばされたかのようになっていた。もしここでガリオスが一喝すれば、本當に死んでしまうかもしれない。
彼を守れるのは自分だけだと、ゼファーは自らを克己し拳を固く握りしめた。そしてを張り一歩前に出る。
「私はハメイル王國、ゼブル將軍の息子ゼファー。こちらにあらせられるのは、ホヴォス連邦スコル公爵家が令嬢レーリア様である。魔王ゼルギスの弟、ガリオス殿とお見けする」
ゼファーは腹に力をれて聲を絞り出した。対するガリオスが大きな口を開く。
「いかにも、俺がガリオスだ」
ガリオスが発した聲は、その顔に似合わぬ穏やかなものであった。
「よくきてくれた。連合軍が裏切らない限り、お前達のの安全はこの俺が保障する。天幕を用意してある。案させよう。今日は休め」
鷹揚に応えるガリオスの言葉に、ゼファーは心安堵の息をらした。
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