《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》322.ミラドンキスの果て
果敢に戦うアタッカーたちの攻撃により、ミラドンキスはダメージをけていた。ティムたちの攻撃によって玉に傷が付いている。臓は痛みを覚えてかんでおり、殻を支えているらかな柱も揺れている。
「こいつ!殻を閉じるつもりだぜ!」
クラークの警告を聞き、ティムが直ちに言う。
「一旦、出しましょう」
「でも」
もっとミラドンキスとの戦いに貢獻したいと思っていたのぞみは、ティムの退避指示に揺し、殘念な気持ちでつい聲を上げた。それに対し、ラーマが応える。
「次のチャンスがあるはずです。殻の中に閉じ込められれば、どうなるか分かりませんから」
「了解だぜ」
修二はを引く前に、素早く大技を繰り出し、玉を鋭く斬りつけた。
痛みに耐えられなくなったか、それともこれ以上のダメージを防ぐためか、殻は天井が崩れ落ちるように急激に落下して閉じる。
アタッカーの心苗(コディセミット)たちは、殻が閉じ切るよりも前に、全員がそこを跳び離れた。
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一度目と比べれば、源気(グラムグラカ)の吸収時間は格段に短くなった。吸収されてしまうと、もう一度全に源気を纏うには気を燃やす必要があり、それを何度も繰り返せば神的なダメージにもなる。最悪の場合は自我が崩壊し、神疲労によって死亡するリスクすらあった。
今回、源気の消耗なく戦闘を続けられるのは、のぞみたちにとって大きな好機となる。
殻を閉じると、ミラドンキスはまた、新たな首を作りだした。37の首は蠢き、これまでよりも鋭く高い聲を響かせる。泣きぶような聲だった。
そしてまた、首の群れが一斉に攻めてきた。
のぞみたちが玉を攻めに行くと、ティフニーも衝撃波の相殺に使って欠けた『ルビススフェーアゾーン』に源気を補充し、さらに膨張させる。強力なバリアが、首の群れをまとめて食い止めた。
その時、楓が飛び出した。炎を纏う金屬竹刀を大きく振り払うと、一本の首が後ろの壁に激突する。楓はさらに突撃し、首を貫いた。
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「お待たせ!今度は休ませてもらった私たちが參戦するべ!」
気合い十分なのは藍も一緒だ。
「皆さん、首の細かいきは私が封じます!」
「Ms.ランの技か?」と、藍の前に立っていたジェニファーは、技の邪魔にならないよう、サッと飛び退いた。
「やっちまえー!」と、クラークも期待を込めてエールを送る。
藍は源気をたっぷりとスイたんに注ぐ。七星翠羽の刃は、藍の想いに応えるように眩しいを放った。藍が片手でスイたんを掲げると、柱の間に地震が起きる。
「大地は我の剣になり、火は我の剣に燃え付き、目の前のモノを突き討て!『易経山火剣(えききょうさんかけん)』!!」
柱の間の大理石の床は、古い舗裝がされていた。しかし、下から突き上げられるような圧力に耐えきれず、大きな地割れができる。裂け目が大きくなると、そこから真っ赤に燃える巖が次々と出現した。それらの巖は、大地の巨剣が陣を組むように展開し、紅蓮の炎を走らせている。首の群れは焼け焦げ、細かなきすらも完全に封じられた。
「うおお!これは凄い!!」
「ハハ、これなら吊るし斬りも同然だな!」
そう言って、修二がを乗り出した。
「今のうちに攻めてください!」
藍(ラン)の技により、のぞみたちは散開して、各々の技を容易く繰り出すことができた。くことすらままならない首を的に、心苗たちはまるで披大會のように技を重ねる。
37本の首は、二度目の戦闘よりもさらに短い時間で討伐された。
三度目の殻が開き、ティフニーが衝撃波を中和する。
藍がスイたんを振り、舞うようにその剣先をミラドンキスに刺した。
「宙天は我の矢倉になり、水は我の矢になり、敵を討て!『易経天水剣(えききょうてんすいけん)』!!
藍の周囲に水滴が集まるように現れ、宙に浮かんだ。しずくは熱を吸い取られ、空に浮かぶ氷柱(つらら)に変わる。藍がスイたんを旗のように振る。氷柱はその指揮に従うように一斉に飛び出した。手も臓も関係なく、氷柱がダメージを加えていく。
「オレたちも応援するぞ!デュ、デュク、タイミングを合わせろ!」
「おぅ!俺も良い技を思い出したぜ!」
ヌティオスは、自分を臺風の目のようにして気配を引き寄せる。藍が出現させた巖は冷卻され、ヌティオスはそこに飛び乗ると、ミラドンキスを見據え、巖の柱に気配を打ち込む。砕された巖はショットガンのように出された。
デュクもトラックの車のように大きな石を持ち上げる、真上に放り投げる。
「『ジャベリンボンバーアタック』!!」
バレーボールのサーブのように、拳で打ち込まれた巖は、砲弾のように炸裂した。ミラドンキスは衝撃によるダメージをけ続ける。
藍、ヌティオス、デュクによる実弾の広域攻撃は、三度目の攻撃開始を知らせる角笛のように響いた。
その時、違和に気付いたメリルが玉に跳び寄った。
「二回目の戦いでできたはずの傷が淺く見えるヨン!」
「たしかに、でもどうして?」
のぞみが落膽の滲む聲で言うと、ラーマが冷靜に分析した。
「殻を閉じている間にこっそり回復しているんでしょうね」
修二は面白そうに歯を見せて笑った。
「それなら俺様たちがもっと暴れてやろうぜ」
真人(さなと)たち四人は手の除去、修二たちは必殺技の連攜攻撃を、首尾良く繰り出していく。
ミラドンキスのダメージは甚大なものになってきていた。玉には割れ目ができ、蓋となる貝を支える貝柱も揺れている。
「こいつ、また閉じるつもりよ!」
「を退く時ですね?」
「もうちょっとなんスけどね……。また一時退避ッスか?」
「勝機を摑んでいるのは私たちです。この戦を繰り返し行えば、ミラドンキスを倒すのは時間の問題です」
たしかに、こうして何度もダメージを積み重ねれば、理論上は倒せるだろう。だが、藍たちブースター系の心苗は、大技を連続で繰り出すことはできない。戦いを引きばすことは、戦況を曖昧なままにし、危機の種を殘す可能があると考えたのぞみは、ここで引き下がることはできなかった。
「おい!カンザキさん、何やってんだ!?」
早めに退いていたクラークが慌てて聲をかける。
「ここで閉じさせたら、また首を修復されてしまいます!ここで一気に倒さないと!」
「ノゾミちゃん、危ないヨン!」
「やります!」
覚悟を決めたのぞみは、全に咲きれる椿のような源気を纏った。防を捨て、金と銀の二刀で攻撃を加えることを重視する構えに変え、そのまま高速で飛び進む。
「祓い斬れ!日月明神剣(ひつきみょうじんけん)『真伝・日空陣(ひくうじん)・日月萬暈(ひつきばんがさ)』」
刺し、斬り、斬り、刺し、と集中的に玉に攻撃を加えていく。幹を回し、再び斬る。剣筋一本一本を速やかに。その様子は、祓いの舞踴を超高速で行っているように見えた。戦いを続けると、玉の割れ目はさらに酷くなっていく。
のぞみの護衛を任されている二人も引かず、続いて攻める。
「カンザキさん、手助けするぜ!」
「ここで叩き潰しちゃおう!」
修二は片手剣で鋭く斬り払い、ラトゥーニは両手のメイスを大きく振って、叩き潰す。
三人から寸斷なく連攜攻撃をけ、ミラドンキスは弱點であるその大きな玉を砕させた。砕した玉の中に押し殺されていたがぶちまけられたように、辺りは眩く輝いている。そして、ミラドンキスの巨とその影が消えていき、源気のの束が空を照らした。膨大な源気のは、しずつ散って、やがて消えた。
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