《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》稼ぎ時
僕らがやって來た時には、既に狀況はかなり切迫していた。
けれどギリギリ、間に合った。
もしアイビーが急かしてくれていなかったら、取り返しがつかないことになっていたかもしれない。
一彼にはどこまで見えているんだろうと思ってしまうほど。
流石のアイビーと言えど、未來のことまで全部お見通しってわけじゃないとわかってはいるんだけどさ。
「アイビー」
「みいっ!」
ちゅどーんっ!!
僕を乗せられるくらいのサイズになったアイビーと一緒に、ライトアローを放つ。
こちらに向かってこようとする魔達は、一撃で葬られていく。
先ほどアイビーの本気を見せたおかげで、魔達は完全に勢いを失っていた。
數は以前の昏き森よりも多そうだけど、この調子なら問題なく討伐することができそうだ。
「みいみいっ!」
「ふむふむ、そうなの?」
「みいっ!」
アイビーは、ここは他の人達に任せて、僕達は別の場所に救援に向かった方がいいと伝えてくる。
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でもたしかにさっき僕が頑張って演説をぶったおかげで(正直、結構恥ずかしかった)、勢いはあるし、形勢もこちらに傾いてくれていると思う。
逃げた魔達も多いので、現在こっちに向かってきている魔達の數はかなり散発的でもある。
だけど流石に僕らがいなくなったらマズいんじゃ……。
「みぃみぃっ!」
けれどアイビーが主張していることももっともだと思う。
もし仮にここの魔の襲撃を完全に抑え込むことができたとして、他の四つのどこかが抜かれてしまっては意味がない。
アイビーもかなり魔力を節約して戦っている。
今は本気の時の戦闘フォームを使った時間もかなり短かったし。
転移を使ってただでさえかなり魔力を使っている狀態だし、ここから更に連戦になる可能も高い。
何かあった時のために備えているんだと思う。
「殘りの四つの港がどんな風になっているかを、確認できればいいんだけどね……」
「……? ――みいっ!」
僕がぽつりと呟くと、アイビーがしだけ首を傾げてから、元気に鳴いた。
……え?
確認できるの?
「みいっ!」
自信ありげに頷くアイビー。
ふぉんと聞いたことがない音が鳴ったかと思うと、僕らの頭上に見たことのない映像が現れる。
その映像は、合わせて四つ。
一何だろうとし不思議だったけど、見ているうちになんなのかはすぐにわかった。
これ――多分他の港町の映像だ!
「みいっ!」
どうやらそういうことらしい。
食いるように見てみると、そこでは人間と魔の戦いが繰り広げられていた。
冒険者らしき人が魔と戦っているところもあれば、騎士団らしき全甲冑の人達が魔と戦っているところもある。
映像の視點はパッパッと細かく切り替わるので戦況は摑みにくいが、どこも魔を殲滅することはできていないようだ。
けれど戦局はかなり厳しそうなところから、拮抗しているところまである。
どこも、明らかに人間側の勢力が劣勢に見える。
マズそうなのは、見ている限りでは二つ。
特に最北の街が、圧倒的に劣勢な狀態だ。
騎士団の備えがあったこちらよりもまずい狀況かもしれない。
もし行くとするのなら、最北の街――アオギリに急ぐべきだと思う。
でも僕らがここを離れるわけには……。
あちらを立てればこちらが立たぬ、なんてことになっちゃう可能もあるし。
一時の勢いを失ったとはいえ、マーマン達の數はまだまだ多い。
やっぱり僕達はここに殘って……。
「あ、それなら私が殘るよ」
そう言って手を上げたのは、シャノンさんだ。
……そうか。
以前魔を撃退した時みたいに、全部を僕らだけでやらなくちゃいけない理由はないんだ。
今の僕らには、頼りになる仲間がいる。
それならここは――任せることにしよう。
「それじゃあ――頼みますッ!」
「――お姉さんに、任せなさいっ!」
僕らはシャノンさんに頭を下げて、次の地へと向かおう。
だから……任せました、シャノンさん。
「ふぅ、行ったみたいだね……」
ブルーノ一行が別の街へ向かうのを見送ってから、シャノンはくるりと向き直る。
目の前には數こそ減ったものの、未だこちらへ向かってきているアマーマン達の大群がある。
ぺろりと舌なめずりをしながら、シャノンの口角が上がる。
心の底から湧き出してきたは――歓喜だった。
「ここ最近は、退屈だったからね……」
ブルーノ達がやってきてからというもの、自分が命を張って戦う機會はほとんどなくなっていた。
アイビーとの手合わせで強くなったというのもあるし、カーチャの護衛をしたことをきっかけに、婦子の貴族の護衛依頼をける機會が増えていたからだ。
だからこそ、シャノンは求めていた。
今の自分の力の全てを発揮できる戦場を。
一等級になれる冒険者というのは、多かれなかれ頭のネジが吹き飛んでいる。
安定より危険を、安全地帯より死地を。
シャノンの心は、どこまでも闘爭を求めていたのだ。
後ろには、冒険者達の姿がある。
彼らは今や、迷える子羊のようだった。
アイビーがいなくなり安堵している者。自分達だけでマーマン達を倒せるのかを不安がっている者。シャノンの実力を疑問視している者。
早急に、羊を狼に戻さなければいけない。
いくらシャノンが一等級冒険者とはいえ、大群を相手に単で戦い続けることなど不可能に近いからだ。
今必要なのは、圧倒的な勝利。
いや、もっと言えば、圧倒的なまでの純粋な力だ。
これは勝ち馬だ、乗らなければ損だ。
冒険者達にそう信じ込ませ、彼らを戦場に駆り立てなくてはならない。
自分を信じ先へ進んでくれた、ブルーノ達のためにも。
シャノンはグッと、奧歯を噛む。
ガチリと音が鳴り、彼の全に魔力が高速で循環し始める。
「グラアアアアッッ!!」
殘黨の中に紛れていたマーマンキングの爪撃が、シャノン目掛けて放たれる。
けれど彼は見ることすらせず、気配だけでその攻撃を躱してみせる。
「加速裝置、三式」
そして目にも止まらぬ速さで抜刀すると、一瞬のうちにマーマンキングの背後に移していた。
ずるりと音を立てて、マーマンキングの首が落ちる。
地を噴き出しながら地面に倒れた魚人の王の死骸を蹴りつけ、シャノンはんだ。
「あんた達、冒険者の意地を見せろ! ここから先が――うちらの稼ぎ時だぞ!!」
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