《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫324.闘士殺し

柱の間を満たしていたがようやく弱まってきた。源気(グラムグラカ)の粒子はまだ濃に辺りを漂っていたが、貝竜ミラドンキスの姿はない。広い聖堂には、結界を支える柱が聳えている。

守護聖霊を倒した実がようやくこみ上げてきて、クラークたちが勝利の雄びを上げる。

「よっしゃああああ!!」

「うぉおおおおお!!!」

「俺たちが倒したぞ!」

から解放され、藍(ラン)の目にはしずくが浮かんでいた。

「私たち、聖霊に勝った……。メリルさん、夢ではないですよね……?」

「うん、コールちゃん、夢じゃないヨン」

お化け退治の経験があるのぞみにとっても、辛勝の一戦だった。ホッとしたように、そっと息をつく。

だが、まだ油斷はできない。

もう一度、深く息を吸いながら、のぞみは思考する。

(そういえば、ウェスリーさんの姿がまだ見えない……)

激戦続きだったため、ケビンのことを考える余裕がなかった。ミュラは、きっと最適なタイミングで來ると言ったが、そのタイミングはまだ來ていないということか。未來から來た『尖兵(スカウト)』たちはまだ一人も姿を現していない。

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ティム、真人(さなと)、ラーマ、楓も、聖霊との戦を終えても気を緩めることはなかった。姿や気配を消している者がいる。その人への警戒を保つ必要があった。

前方で戦っていたヌティオスたちは、兇暴な聖霊を倒した喜びと高揚に浸っている。その時だった。彼らの立つ床に、いくつもの『章紋(ルーンクレスタ)』がった。

一瞬の間に床は沼に変わった。反応が遅れたヌティオス、デュク、藍、悠之助の足が取られ、沼に沈んでいく。

「ぎゃあ!何ですかこれ!?」

「くそ、出れねぇ!」

「油斷したッス」

他の心苗(コディセミット)たちは、一刻の違いで跳び離れることができていた。

「泥沼の章紋ですか……」

安全な場所に著地したラーマが、冷靜に狀況を読み取る。

「んだな。やっぱり、聖霊との戦闘は、私らを消耗させるための手口だったんだべ」

クラークが刀を構える。

使いはどこだ?」

周辺に、怪しい人の姿はない。

ルルは焦りが生じたのか、相を変えている。

「私たち以外、誰もいないよね……」

トラップが発生し、のぞみたち一同はすっかり気をしていた。そんななか、前方の攻撃擔當の心苗たちと、後方の補給陣地との間に線が引かれていく。直徑10ミルの章紋で描かれた円形の紋様の一つ一つから、天上に向かって鉄柱が突き出す。鉄柱は妙なを纏い、檻のように集団を真っ二つに分斷した。

修二とラーマは鉄柱を思い切り、斬り払った。だが、鉄柱は黃金のに強化され、傷一つ付けることができない。

「斬れない……!?」

これはただの防ではないと、ラーマは気付いた。

「普通の攻撃は無効化されるみたいですね」

ルルがただちに『牙吼拳(がほうけん)』を撃ちだしたが、効かないどころか鏡のように攻撃が跳ね返る。ルルは自分の技をけ止め、発が起きる。技のブーメランを浴びて退かれたルルは、それに耐えながらも悔しげな顔を見せた。

「……くっ!弾系の技も跳ね返されるなんて」

「ドイルさんの技も効かない!?」

ティムは、自分の技も無効化されるだろうと踏み、無駄な力の消耗を防ぐために攻撃を諦めた。今は冷靜さを保つことが求められるという判斷でもあった。

「これは闘士(ウォーリア)を抑えるためのですね……」

「補給させねぇってことか!」

「私たちを逃がさないって意味もあるわよ」

クラークと蛍(ほたる)が言い合っていると、ティフニーが檻越しに、ティムたちのそばまでやってきた。

「皆さん、これは『セントカヴェル』というです」

一同は、ティフニーの聲に耳を傾ける。

「武を使った攻撃技は無効化し、弾や衝撃波の攻撃は跳ね返されてしまいます」

「この章紋はどうすれば解けるんだ?」

を壊せる法、または解除のが必要です。もしくは、使いを気絶させるか……」

修二が短気を起こしたように言った。

「ああもう、面倒くさいこと言うなよ。ハヴィーには壊せないのか?」

「私は解除のを知識として知っているだけで、実際には學んでいません。……そうですね、もう一つだけが解ける方法が。このの効果は五分を過ぎると自然に消失します」

「んだば、時間切れまでなんとか保てればいいんだべな」

「敵は五分で俺様たちを倒せると思ってるのか?舐めるにもほどがあるぜ」

「見ろ、次のが綴られている!」

真人の呼びかけの直後、宙に別の章紋が現れた。その場にいる心苗と同じ數の円形紋様が浮かび、その外環がくるくると回る。

すべての円から鎖が打ち出された。瞬時に反応した蛍とエクティットは、加速の技で鎖の追撃から逃げおおせる。ティム、修二、ラーマ、真人も、鎖の攻撃を打ち消した。だが、京彌(きょうや)は上手く逃げ切れず、鎖に捕らえられる。

「くっそ!取れねぇ!!」

メリルは跳び離れたが、鎖の先端はメリルを追うように急激に方向転換した。

「追ってくるヨン?!」

やがてメリルは鎖に追いつかれた。強制的に跪かせられ、手足の自由を奪われ、くことができなくなった。

鎖には呪文の紋様がっている。メリルも京彌も鎖を破ろうとしたが、力をれればれるほど、鎖はより強固に縛り上げる。

他の心苗たちも、鎖に捕らえられないようにするだけで一杯で、仲間同士助け合う余裕もなく、仮にそうしようとしても、鎖に邪魔をされる。

のぞみは追ってくる鎖を刀で斬り払った。そして、攻撃を止めると踏みとどまり、すでに捕らえられた仲間を振り返る。

「皆さん!?」

のぞみが立ち止まった瞬間を狙ったように、章紋がった。だが、仲間のことに気を取られていたのぞみは、その一瞬を見逃してしまった。

そばにいて気付いたラトゥーニが、反的にく。

「ノゾミ!!」

のぞみはラトゥーニに突き飛ばされた。

タックルされ、痛みの末にのぞみが目を開けると、ラトゥーニが鎖に捕まっていた。

(私のせいで……!)と、のぞみは目を見開いた。

「ラトゥーニさん!?すぐに助けます!」

同じ紋様の章紋が現れた。それが明らかにのぞみを狙っていると分かり、ラトゥーニはこうとする。しかし、力士のような怪力に恵まれたラトゥーニでさえ、鎖を破ることはできず、かえって自分を縛る力が強くなる。ラトゥーニはんだ。

「ノゾミ!來ないで!」

悲痛なびだった。

「敵のターゲットはノゾミだから!ノゾミが殺されたら、ぼくたち全員の作戦は失敗なんだよ!」

仲間たちが次々に捕らえられていく。のぞみと蛍を含め、五人が死ぬ。その予言が実を伴って迫ってくるのをじると、のぞみは自分に対して強い怒りをじ、真顔で首を橫に振った。

「嫌です!私は逃げません、どこにも逃げません!そして、誰も死なせません!」

のぞみがんでいるうちにも、章紋は新たに生まれ、鎖が飛び出す。牽制されながらも、ティムたちは斬撃で生じる剣気を使って鎖を打ち払った。

「『雙暈六連(ふたかさろくれん)』!」

金と銀、二本の刀を同じ方向に向け、を六回転させる。のぞみを襲う鎖は斬り弾かれた。だが、のぞみがステップを止め、また踏み出す頃には、もう新しい鎖が放たれる。

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