《モフモフの魔導師》477 今が旬

本格的に那季節に移行しようかという、暖かい日のこと。

「準備できたよ」

「待ってました!みんな、行こう!」

「「「おぉ~!」」」

今日は、四姉妹と釣りに行く約束をしていた。どうやら貴重な休みを合わせてくれたらしい。

事前に「お弁當を食べたい!」と頼まれていたので、張り切って作ってからいざ出発。

釣った魚で網焼きもいいな、と思ったりもしたけど、釣れなかったら悲しくなるので作ることにした。

特に…ボクだけ釣れないとか有り得るからな…。

釣り場は、ファルコさんもたまに來る場にしようと思ったけれど、四姉妹から「誰にも會わない釣り場がいい!」との要が。

…というわけで、ボクが知る中でも、過去に誰にも會ったことがない、アマン川中流の場を目指すことにした。

は徒歩で、のんびり釣り場を目指す。皆の足なら、住み家から一時間かからないくらい。

「今日は、またウォルトに勝っちゃおうかな!」

「今日は負けたくない」

サマラには、何をやっても連戦連敗。そろそろ勝っておきたいところ。

「私は、釣りは初めてなので楽しみです」

ウイカは嬉しそうに微笑んでいる。

「そうなの?」

「魔力酔いで遠出できなかったんです。クローセは川まで遠くて、何かあったら危ないので」

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「それはそうだね」

「だから、今日は楽しみですし、釣果でウォルトさんに勝ちます!」

「ボクも負けないよ」

ウイカには、初めての魚との攻防を存分に楽しんでもらいたい。

「私も釣りは久しぶりです!そして、結構苦手です!」

「へぇ~。何でアニカは苦手なの?」

「待ってるのがに合わないから、すぐに竿を上げちゃって、結果釣れません!でも、今日はウォルトさんより釣るように頑張ります!」

「やる気だね」

アニカはいつも活発だから、待つのが苦手なのは理解できる。でも、何故か釣りそうな気がする不思議…。

「私の目標は…兄ちゃんに勝つよ」

「わかりやすいね」

さすがチャチャ。

負けず嫌いを、一言で表現してくれる。

単なる予想だけど、狩りと同じく釣りも得意そうな気が…。

皆の意思表示は終わった。どんな結果になっても、楽しむことが大切。その上で、沢山釣れたら最高だよね。

釣り場に到著して、とりあえず餌を探す。

「うぇぇ~!気持ち悪ぅ~!」

「嫌なら見なきゃいいのに」

膝まで川にって、淺瀬の石をひっくり返しながら水棲ミミズを捕まえていると、ヘビ嫌いのサマラは尾のが逆立ってる。

「私やアニカは、冒険中に食べてますよ」

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「カリカリに焼いたら、結構香ばしくて味しいです!ウォルトさんに教わりました!」

「マジで!?こわっ!」

「私も、ミミズはちょっと食べるの抵抗あります…」

冒険者とそうでない者の違いかな。大型の水棲ミミズは、ジューシーで食べ甲斐もある。

「栄養も富だし、味しいけど今日は魚の餌として使う。サマラとチャチャには、今度住み家で食べてもらおうかな」

「ウォルトの料理でも、さすがにお斷り!!」

「私も遠慮する!」

味しいのになぁ」

サマラは「りたくない!」と言うので、餌は川貝(カワニナ)にする。

全員に餌を渡して、早速竿を出すことに。

「さぁ、釣るぞ~!…と、その前に…ウォルト」

「負けたら言うことをきけって?」

いつものことだからわかる。

「その通り!話が早いね!今日は…一番釣れなかった人が、勝った人の言うことを一つずつきく、でどう?」

さては、ボクが負けると思ってるな…。

そうは問屋が卸さないぞ。

「いいよ」

「じゃあ、二時間勝負ね♪釣り上げた數で勝負でどう?」

「もちろんいいよ」

「私達もそれでいいです!」

條件はなんであれ、今日は…皆に勝つ!

…………はっ!

ウイカ、アニカ、チャチャの三人がニタリ…と笑ってる…。

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まさか……ボクに何かやらせるために、四人で徒黨を組んでとか…。……考えすぎか。

とにかく、最善を盡くそう。

釣り始めて、一時間が経過した。

「また釣れた!おっきい!」

「やるね、お姉ちゃん!……私もきたぁっ!!」

「並ばれました。二人ともやりますね。…負けられないです!」

現在、トップはアニカ、チャチャ、そしてウイカの三人。仲良く四匹を釣り上げている。

そして、ボクが二匹。

「くっそぉ~!!なんでぇ~?!」

意外なことに、サマラが一匹も釣ってない。現在、ダントツの最下位。

「くっ…!このままじゃ……まずい…」

場所を変えたりして釣っているものの、どうにも釣れないみたいだ。

理由はわかっている。

本人も気付いてると思うけど、一人だけ川貝を餌にしているから。

水棲ミミズのほうが、釣れる可能が高い。水棲ミミズのは、魚が好む匂いを発して呼び寄せると云われている。最高の釣り餌。

的だけど、ボクが釣果を上げているのが何よりの証拠。今回は、サマラに勝てるかもしれない。

「ぐぅぅぅ~~!!………よしっ!」

決意の表を浮かべたサマラは、ボクの元に歩み寄る。

「ウォルト…。ミミズ……分けてもらっていい…?」

「いいよ。はい」

「うわぁぁぁぁ~~!!」

水棲ミミズを生かしている容を差し出すと、大きくのけ反る。

「嫌なら、無理しない方がいいと思うよ」

「……いやっ!負けたくないのっ!!」

「そっか」

を逆立てながら、數匹をつまんで自分の餌箱に移す。

「うぇっ…。うえぇぇぇっ…。ぐすっ…!うっ…ぅぅぅ~~っ!!」

サマラは、顔をしかめて涙を流しながら針にミミズをかけている…。

勝負だから、人に頼むのは嫌なんだろうけど、負けず嫌いもここまでくると本だ。

「負けたくない…。負けたくないんだ……。絶対に負けられない……。………おらぁぁ!!」

ブツブツ呟くほどの想いが通じたのか、早速一匹釣り上げている。

サマラを気にしてる場合じゃないな。自分の釣りに集中しよう。

更に時は過ぎて、いよいよ釣り対決終了五分前。

「すごく楽しかったぁ~!」

「釣れたね~!初めてで、八匹も釣ったら釣だよ!」

「とりあえず、私達が同率一位ですね」

「チャチャはなんでも用すぎ!」

ウイカ、アニカ、チャチャの三人は一足先に釣るのをやめ、後片付けを始めてる。勝者の余裕。

最下位爭いは、共に四匹で並んでいるボクとサマラに絞られた。

「ウォルト!負けないからねっ!」

「ボクもだ…」

ここまできたら…負けられない!…というか、負けたくない!

「……かかった!!」

「危なかったぁ~!!」

終了寸前に、勝敗を決める魚を釣り上げたのは、サマラだった…。

勝利への執念を見た気がする。

今回は勝てると思ったけれど、壁は思ったより高い…。

「ふぃぃ~!いい勝負だったね!」

「そうだね。かなり悔しい」

四人がボクに何を要求するのか気になるけど…。

「とりあえず、晝ご飯にしよう。釣った魚も調理するよ」

「待ってました!」

茣蓙の上に作ってきた弁當を並べて、先に食べてもらいながら釣った魚の鱗を剝ぎ、臓を出して串に刺して焼く。

味付けは、シンプルに塩だけ。それに、特製の香辛料をかけるだけで味しく仕上がる。新鮮な魚に凝った調理は必要ない…というのが持論。

「あんまり魚好きじゃないけど、めっちゃ味しい!」

「楽しかったし、凄く味しいです」

「釣った甲斐があります!」

「たまには魚もいい」

「それは良かった」

勝負には負けてしまったけど、釣りは楽しかったなぁ。

弁當を食べ終えて、お茶を飲みながらまったり休憩していると、アニカが立ち上がった。

「お腹も落ち著いてきました!やりますか!」

「そうだね。もう大丈夫かも」

「そろそろ頃合いですね」

「なにをするの?」

ボクの問いには誰も答えてくれない。

「ウォルト!今から、一人ずつやってほしいことを言うね!」

「うん」

「じゃあ、私からね!ハグしてしいの!」

「ハグは言われなくてもするよ」

「ほんとに?全員だよ?」

「もちろん。だから他ので構わない」

四姉妹は、ニヤリ…と笑った。

なんだ…?別に、おかしなことは言ってないはず…。

「じゃあ、他のにする!今から住み家に帰るまで、『頑固』は止ね!これが私のお願い!」

「『頑固』を…?よくわからないけど、いいよ」

使う予定はない。そんなことでいいのか?

「次は私ですね。目をつむったり、私達から意図的に逸らすのも止です」

「いいよ」

ウイカもピンとこないことを言う。そんな要、意味あるかな?

「今から、私達は『ある遊び』をするので、ウォルトさんも付き合ってください♪楽しいので!」

「もちろんいいよ」

アニカの言う『遊び』って何だろう?こんなところでできる遊びなんかあるかな…?

「兄ちゃん。ここからは、逆ギレしちゃだめだよ」

「そんなことしないよ」

意味がわからない。なんでボクが逆ギレするんだ?

「よぉし!じゃあ……遊びますか!」

「うん…?…………なぁっ?!?」

四人は、いそいそと服をぎだす。

「ちょっと待った!!何してるんだ!?」

思わず顔を逸らして聲を上げた。

「何って…今からみんなで泳ぐんだよ」

「……泳ぐ?」

「今日は暑いじゃん!せっかく川に來たんだから、泳がなくちゃ損する!水著を著てるから大丈夫だよ。ほら、見て」

チラっと皆の方を見ると、全員が水著に著替えていた。それぞれ特徴があって、とても似合ってる。サマラが見立てたのかな。

でも……ほぼ下著じゃないか。

上下とも大事なところが布一枚で隠されているだけで、出が多すぎる。

目のやり場に困って、ふいっと顔を橫に向けた。

「ウォルトさん。約束を破ってますよ。目を逸らしちゃだめです」

「うっ…」

そうだった…。

言われた通り視線を戻すも、これは刺激が強すぎる。

こうなったら…。

「まさか『頑固』を使う気じゃないよね♪」

「うぐっ…!」

「もし使ったら、更に罰を與えるからね♪」

こういうことだったのか…。完璧に行を読んでるな…。

ただ、約束した以上、守らなくちゃならない。負け貓だから。

「みんなで川にりましょう!ウォルトさんも一緒に!」

「えぇっ!?ボクも?!」

「はい!遊ぶって言いましたよね♪」

「言ったね…って、アニカ!近い!ちょっと離れて!ボクはいいから、みんなで泳げばいいよ!」

「えぇ~。なんでですか?」

「なんででもっ!!」

大きながっ!目の前に迫ってる!

「兄ちゃん…。まさか、逆ギレしてるの?」

「くぅぅぅ…!!」

ダメだ…。全ては、四姉妹の掌の上…。

「冷たくて気持ちいいね!」

「ちょうどいいです」

「えいっ!ほっ!」

「ちょっとアニカさん!冷たいですって!」

楽しそうに水遊びをしてる皆を橫目に、膝を抱えて川岸にちょこんと座る。

ウイカとの約束通り、目は逸らさないけど、開いてるか開いてないかくらいギリギリの薄目で楽しそうな様子を眺めている。

なんで恥ずかしくないんだ?

四姉妹だけで泳ぐのならわかる。ボクのことは、ちゃ~んと男と認識してるはずなのに、そんなにを曬け出すなんて、いやらしい目で見て下さいと言わんばかりだ。

実際そうなってるし、この心中も四人にはバレてるはず。

寛大と言えば寛大。

「ウォルト!早く來なよ!」

「気持ちいいですよ!一緒に遊びましょう!」

む~ん…。どうするか。

皆と遊ぶのは構わない。でも、川にりたくない。

何故なら、寒いから。

ボクは那季節でも、ちょうどいいくらいにしか暑さをじない。この時期の川にったら、心臓麻痺で死ぬかもしれない。

「ぶわっ!!ゲホッ!?」

悩んでいると、いきなり顔に水をかけられた。ローブも濡れてしまう。

「冷たくないでしょ?流れが緩いところは、水も溫かいから大丈夫だよ!」

「無理に冷たいところに來なくていいです」

「寒いのが苦手なのは、知ってますから!」

「楽しい思い出を作ろうよ」

優しさが染みる。

そこまで言われて、らないワケにはいかない。

「…って、ボクは水著がなかった」

「兄ちゃんは、直ぐに魔法で乾かせるでしょ。川の水は綺麗だし、ローブとシャツだけげば?」

「そうだね」

久しぶりに外でになると、やっぱりまだ寒い。

「……ん?」

皆の視線が…何か下の方に…?

気のせいかな?

「どうかした?ズボンに何か付いてる?」

「い、いや!なんでもないよ!ねっ、みんな!」

サマラの言葉に頷く一同。

「じゃあ、ボクもってみようかな…って」

「「「「えいっ!」」」」

「うわぁぁぁ!!」

四人に腕を引っ張られて、川に引きずり込まれる。

「……ぶはっ!!」

「あははははっ!驚いた?」

「どうですか?」

「冷たくないですか?!」

「このくらいならどう?」

「なんとか大丈夫だよ。驚いたけどね」

みんな悪戯好きだなぁ。でも、気持ちいいかもしれない。ひんやり程度で、思ったほど冷たくなかった。

「昔は水に浸かれなかったけど、泳げるの?」

「多分、大丈夫」

すい~と泳いでみせる。かし方は、習わなくてもわかる。

「上手いね。それなら大丈夫だ!よし!遊ぼう!」

泳ぐ速さで勝負したり、潛水で勝負することに。アマン川の深い場所は、ボクの長の三倍は深さがある。

鍛錬にいいかもしれない。駆けるのとは違う全の疲労も熱くなって丁度いい。

「サマラさんは凄すぎです」

「何をやっても勝てないです!チャチャも凄いけど」

「いえ。能力では敵わないです」

「むふふ~!私の唯一の取り柄だからね!みんなには負けられないよ!」

確かに、単純にを使うことでサマラに勝てる者はそういないと思う。それほど、能力に優れてる。

「わぁっ!」

急に立ち泳ぎをしていたウイカの姿が水中に消えた。

急いで潛ると、ウイカの足に平口の巨大魚が吸い付くようにガッチリ食らいついている。

コイツは『大口鯰(シルーロ)』。魚ではなく、魚型の魔

「ん~っ!ん~~!!」

川底に引きずり込もうとしているけど、そうはさせない。

水中で詠唱する。

『風牙』

切り裂く風を十字に発生させ、シルーロに向けて放つと、ウイカの足を咥えたまま俊敏に躱す。水中でさすがの機力。

けれど、予想の範疇。

「グオオ!!」

魔力を作して方向を変えるのは容易い。尾びれを元から切斷したと同時に、痛みからか暴れてウイカを離した。

素早く抱きとめて、一気に水面を目指す。

「ぶはぁっ!」

「ウイカ!大丈夫!?」

「はぁ…はぁ…。大丈夫です!」

「それは良かった。足は?」

「痛くないです。ヌルヌルしますけど」

「シルーロの歯は、口の奧に生えてる。深く咬まれなくて運が良かった」

「はい…」

ウイカはギュッと抱きついてくる。

「無事で良かったよ」

いきなり水中に引き込まれたら、誰だって恐怖をじる。優しく頭をでると、また強く抱きついた。

「ウォルト!ウイカは大丈夫なの?!」

「大丈夫だよ」

水面を覗き込むと、シルーロはまだ川底を彷徨いている。

どうやら、諦めてないみたいだ。

「ウイカ。淺瀬に向かうよ。まだシルーロが狙ってる」

こくりと頷いたウイカを抱いて、三人の元に送り屆けて告げる。

「四人とも、陸に上がって待っててくれないか。退治してくる」

大きく息を吸い込み、一気に川底近くまで潛水すると、遠目から大きな口を開けて突進してくる。尾びれを切斷しているのに、それでも速い。

ボクは、バクン!と頭から食われた。足だけ口からはみ出てる。

「グフォッ!」

を『化』しているから、噛まれても痛くない。むしろ、魔の方が痛いはず。

今のボクは、ここまで魔法をれるようになった。

何年か前に、淺瀬で水浴びしてるときにシロールに飲み込まれかけたのを思い出す。

あのときは、足を噛まれてかなり痛かった。水に引きずり込まれる前に、痺れさせて退治したけど。

大きな口で、のんびり詠唱する。

『氷結』

から凍らせて口から出し、凍った巨を摑んだまま水面に向かう。水中なら軽い。

無呼吸で駆けたりしてるからか、息は全然余裕がある。これも、日頃の鍛錬の果。怠らないようにしなきゃ。

「ぷはっ…」

「ぎゃああぁぁぁ!!気持ち悪っ!」

「ぬ、ぬるぬるだぁ~!」

水面から持ち上げるなり悲鳴。サマラだけじゃなくて、チャチャも苦手なのか。

「仕留めたよ。素材も獲れるけど、どうする?」

冒険者として、アニカやウイカの知識にもなるから、一応訊いておこうと思った。

あと、シルーロのは脂がのってて最高に味しい。夕飯のおかずにしたい。

「剝ぎます」

「私もやります!」

「手伝うよ」

持參していたナイフで素材を剝ぎ取りながら、妙に姉妹の距離が近くてドキドキした。

「あっ!ごめんなさい!」

「よろけちゃって♪」

「気にしなくて大丈夫だよ」

ボクのにちょいちょい當たってる。何がとは言わないけど、らかすぎる…。

水著はダメだ!

サマラとチャチャは、何故か悔しがりながらも、魔を気持ち悪がって近づかなかったのに、解が終わるとハグを要求してくる。

「ハグ~!」

「兄ちゃん!私も!」

「服を著よう」と言っても、「ダメ!」と全員に斷られた。互いに素で抱き合うと、溫が凄く溫かくじて…困ってしまう。

「平常心じゃいられないよ。いやらしくてごめんね」

ハグしながら一人一人に謝ると、全員笑って許してくれた。

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