《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百四十三話 人質換④

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第三百四十三話

人質として魔王軍に赴いたゼファーのもとに、客の來訪が告げられた。だが魔王軍の陣中で訪ねてくる相手など、當然だが魔族しかいない。しかし今日は魔族の訪問の予定はないはずだった。

「お通ししてもよろしいでしょうか?」

兵士の聲に、ゼファーはレーリアを見た。顔し戻ったレーリアは、小さな顎を頷かせる。

ゼファーはレーリアの左橫に控え、居住まいを正す。護衛の兵士とマイスは右側に控え、二人の侍は天幕の端に移した。

出迎える格好がつくと、ゼファーは室を許可した。するとり口の布を超えて、一の魔族がって來る。

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やってきた魔族は大きく、り口をくぐった頭は天幕に著きそうなほどだった。分厚い板は鎧に包まれ、背中には雙剣を背負い腰にも剣を帯びている。

ゼファーに魔族の知り合いはいない。しかしゼファーは訪問した魔族を知っていた。

「貴方は……ガリオス殿のご子息、ガオン殿ですね」

ゼファーはやってきた魔族の名を言い當てた。

怪腕竜にり雙剣を振るう姿を戦場で目撃していたからだ。

「いかにも、俺はガオンだ」

「して、どのようなご用件でしょうか」

ゼファーはレーリアを見た。ゼファーの視線をけて、レーリアも頷く。

この中で最も格が高いのは、公爵家の令嬢であるレーリアだ。ゼファーはハメイル王國の王族に連なるが、家柄は傍流で格は低い。魔王軍との會談となれば、最も家柄の高いレーリアを介して行われなければいけない。だがやってきたガオンはレーリアではなくゼファーを見た。

「あー、ハメイル王國のゼブル將軍の息子がいると聞いたが、本當か?」

「いかにも、私がゼブル將軍の息子のゼファーです」

ゼファーが頷くと、ガオンがじっとゼファーの顔を見た。そして徐に腰に佩いた剣に手をかける。

れたガオンを見て、ゼファーが構えマイスも背中の斧に手をやる。だがガオンは剣にはれたものの刃を抜くことはなく、鞘ごと剣を腰から外した。

「これをお前に返そう」

ガオンはゼファーに向けて、外した剣を差し出した。

ゼファーは最初、ガオンの言っている意味が分からなかった。しかし差し出された剣を見てはたと気づいた。

「これは、父上の剣!」

ゼファーは目を見張った。剣の型はハメイル王國の伝統の作りで、柄の拵えや鞘の裝飾は間違いなく父であるゼブル將軍が使っていたものだった。だが父の剣は戦いで失われていた。は見つかったが、首はなかった。

「どうして貴方がこれを?」

「ゼブル將軍を討ったのはこの俺だ」

ゼファーの問いに、ガオンは堂々と答えた。

「戦場で合間見え、敵としてこれを討った。これも戦の習いである。許されよ」

ガオン悪びれることなく語った。

「ここには持參しなかったが、取った首もお返ししよう」

続くガオンの言葉に、ゼファーは返す言葉がなかった。

倒した敵の首を取るなど、蠻族の所業である。それに父の仇を前に、恨むなというのは無理があった。しかしここでガオンに対し、恨み言を吐くわけにはいかなかった。

ガオンが言っているのは、戦士の心得であり戦場の作法であった。

互いに武裝して、敵を殺すために戦場に來ているのである。敵と合間見えた以上、どちらかが死ぬ以外に決著はない。ならば殺した殺されたことを恨むのは筋違いである。

これらは戦場の作法として、戦士であれば全員が心得ているべき事柄であった。

ハメイル王國を建國すべく戦ったゼファーの父祖達は、この戦場の作法を當然のように心得ていた。しかしこれらの作法は、今や廃れた価値観であった。

國家間の対立は長く続き、戦場の作法は忘れ去られた。戦士は兵士となり、恨みやつらみで戦場に立つようになった。だが魔族の間では未だ戦場の作法が息づき、古の戦士が自らの名譽をかけて戦っているのだ。

「お心遣い謝します」

ゼファーは怒りの呑み込み、差し出された剣をけ取った。

ガオンが堂々と名乗り、戦場の作法を持ち出したのだ。ここで恨み言を口にすれば、死んだゼブル將軍の名を貶めることになる。

「ゼブル將軍の首をとった時、俺はこの戦爭に勝ったと思った。だがそれはだった。死んでも勝つ。俺もかくありたいものよ」

ガオンはそれだけ言うと、一禮して去っていった。

「ねぇ、大丈夫?」

レーリアが立ち上がり、ゼファーに歩み寄って見上げる。

「え、ええ。大丈夫です」

ゼファーはゼブル將軍の剣を握りしめながら、ガオンが出ていった方向に目を向けた。

魔族は敵であり、父を殺した仇だった。しかし憎むべきではないのかもしれない。

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