《骸骨魔師のプレイ日記》深淵大決戦 その五
「お、落ちるかと思った!いや、それよりも…!」
カルにしがみついてどうにか落ちずにすんだ私だったが、急いで被害狀況を確認して奧歯をギリッと噛みしめることになる。言うまでもなく被害は甚大の一言に盡きたからだ。
深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)の口から放たれた漆黒のビーム威力は尋常ではなかった。薙ぎ払われたビームに直撃した者は防が間に合った盾隊の者達を除き、全員が一撃で消滅してしまったのである。
遊撃隊と機隊に大きな被害が出ており、およそ三分の一ほどが消滅してしまった。流石は防力に優れる盾隊というべきか、彼らの中で死に戻りした者達は數だ。しかしその代わりに瀕死の者達だらけとなっていた。
そして部隊として最大の被害をけたのは戦車隊である。回避という概念がない彼らがビームを回避することなど出來るはずもない。そして『マキシマ重工』が作った戦車は頑丈なのは確かだが、防系の武技も使わずに裝甲だけでけ止められるなら盾隊に被害など出ていないだろう。
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結果、戦車隊は壊滅狀態になっていた。大半の戦車は半分以上を消滅させられており、乗員も消し飛ばされたのは明白だ。原形を保っていた戦車も砲弾が炸裂したのか側から発している。ごく一部の運の良い者達だけが出に功しており、彼らを急いで妖人(フィーンド)達が回収していた。
「不幸中の幸いは、城壁の被害が抑えられたことか」
深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)のビームは城壁にも深い傷を付けている。城壁は頑丈に作っていたので、貫通こそ許さなかったがかなり深く抉っていた。
それでも運が悪ければ城壁には橫一文字の傷がっていたことだろう。傷の合によっては城壁が崩れていた可能もある。それを防いだのは皮にも標的であるエリステルであった。
薙ぎ払われたビームはエリステルの巨にも直撃したのだが、同格の化けのを貫くことは出來なかったらしい。だが、エリステルといえども無傷ではいられなかった。ビームによってユラユラちゃんの腕を固定されていた一枚を含めた三枚の翼が焼き切られ、背部にも橫一文字の深い傷跡が刻まれたからである。
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「こちらの被害も甚大だが、エリステルの力も一気に半分を切った。これなら…?」
「ギイイィィ…ィィ…おや?」
深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)という部外者によって手痛いダメージをけたが、エリステルを討つという目的には一足飛びに近付いた。そう思った矢先にエリステルに明らかな変化が起きる。これまでは奇聲と共に暴れていたエリステルのきがピタリと止まったのである。
それだけならばチャンスだと思ったかもしれない。だが、誰一人としてくことは出來なかった。何故なら、エリステルが持っている羽の剣を素振りしたのだが、そのきがこれまでとは比べにならないほど洗練されていたからだ。
「狀況が飲み込めないが…誰にやられたのかは明白か」
エリステルは焼き切られた翼をかしながら獨白すると、持っていた剣を背後に投擲する。弾丸のような速度で飛んでいった剣は真っ直ぐに深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)目指して飛んでいく。
それを見逃すほど間抜けではない深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)だったが、橫跳びに回避したのに剣はそれを追尾するように軌道を変える。追尾するとは思っていなかったのか、剣は深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)に直撃していた。
この衝撃で吹き飛ばされた深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)だったが、その先で待ち構えていたのはユラユラちゃんの腕である。ユラユラちゃんはここぞとばかりに十本以上の腕を海中から出すと、全方位から深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)に叩き付けた。
袋叩きにされているようにも見えるが、エリステルの剣が直撃したのに切っ先が貫通どころか刺さってすらいなかったのを私は俯瞰視點からバッチリ目撃している。きっとユラユラちゃんの腕も狀態異常以外は大したダメージにはならないだろう。見た目からは想像もつかないほどの防力である。
それと同時に私は三大領主は本當に互角なのだと嫌でも実させられた。あの戦場を一変させたビームを放った深淵(アビス)兇狼(イルウルフ)覇王(オーバーロード)であっても、ユラユラちゃんとエリステルの二人掛かりであれば一方的にボコボコにされるのだから。
「これでしは駄犬が靜かになるだろう。おぞましき者の手を借りるようで癪だが、利用したと思っておくか。さて…」
それまで我々を放置していたエリステルだったが、その意識がようやくこちらに向けられる。奴は新たに羽の剣を作り出しながら、最後の翼をゆっくりと開いていった。
軽が滴っている翼だが、これまでとは異なって翼は三枚あった。そのの二枚は軽が染み込んで滴っている鳥類のような翼だ。これだけでも異様ではあるのだが、問題は三枚目の翼であった。
その翼は他の六枚の倍ほど大きく、それでいて分厚い。形狀は他と同じく鳥類の翼に似ているのだが、その構造は大きく異なっている。他の六枚は言うなれば手羽先の部分から羽が生えているのだが、これは翼の形をした灰のの塊だったのだ。
蝙蝠の翼に近いようにも思えるのに、どうしての塊と表現したのか。それは翼が本來は曲がらないはずの方向に捻じれながらグニャグニャといているからだった。
しかもこの翼には無數の眼球がついている。まばたきを繰り返しながら、それらが統一のないきでギョロギョロと蠢いている様子は醜悪としか形容出來ない。眼球の大きさが一定でないことも不気味さに拍車をかけていた。
「グルルルル…」
「クルルゥゥ…」
ただ、この翼よりも異形なのはようやく顕になったエリステルの頭部とであろう。エリステルの頭部、その鼻から上の部分は人類の中でも形の姿と言える。冷酷そうな、しかし理知的な瞳にかで艶のある、軽くウェーブのかかった純白の髪。この部分だけならば絶世のと言えただろう。
頭の上には天使のが浮かんでいる。しかし、それは軽のような質で出來ているのか、グニャグニャと形狀が安定せずに変形し続けていた。
だが、そうならばカルとリンが怯えることもなかった。問題は鼻から下との部分である。まず口のあるはずの部分には何もなく、のっぺりとした皮が張り付いているだけだった。代わりとばかりにには元からヘソの辺りにまで縦に裂ける口があったのだ。
エリステルの異形はそれだけではない。巨大な口の周辺には幾つもの顔があったのである。顔のパーツの大きさはチグハグだが、二つの目と鼻と口、このワンセットが所狹しと張り付いているのだ。
あまりにも悍ましい姿だが、今はそれらの顔は全て目を閉じている。口もいていないので、どうやら眠っているようだった。
「狀況は飲み込めぬが…魔は滅ぼさねばならん。死ね、世界のゴミ共」
「そっちが吹っ飛びやがれぇ!」
エリステルが再びやる気になったと同時に、基地の中から轟音が響き渡った。どうやら戦車隊の生き殘りが臼砲を作していたらしい。制作者たる彼らはリャナルメ達よりも臼砲の作に詳しく、いつでも仕返しをするべく準備していたようだ。
高く打ち上げられた砲弾はエリステルに直撃するコースで落ちていく。狂していたエリステルならば、まず間違いなく直撃していたことだろう。
「ふん、児戯だな」
だが、エリステルは狂していた時とは別人レベルであった。奴は軽が滴る翼を摑むと、自ら引き千切ってしまう。一瞬で新たな翼が生え変わったのと同時に、千切られた翼は大剣に変わってしまっていた。
二本の真っ黒な大剣を雑に振るうと、軽が飛ぶ斬撃のようになって飛んでいく。そして臼砲から放った砲弾と激突し、砲弾は空中で炸裂してしまった。
「きが別人レベルだ。だが…」
これまでのエリステルは狂していたせいで優れた能力(スキル)を十全に使いこなせていなかった。化けじみたステータスの暴力によって戦っていたのだ。
だが、今の一撃でエリステルが能力(スキル)を使いこなせるということを嫌でも理解させられた。ここからが本當の戦いであり、被害は一気に大きくなることが想定される。絶的な狀況…のように見えるだろう。
しかし、あることに気付いているのは私達だけではないだろう。それは理を取り戻したエリステルの力が目に見える速度で減していることだ。狂していた時にはこんなことはなかったはず。ひょっとして…
「正気に戻ると力が減するのか?深淵の影響で狂している狀態が普通になっていて、正気を保つだけでも難しい…とかか?」
「ほう、察しが良いではないか。穢らわしい魔、その中でも最も忌むべき不死(アンデッド)の王よ」
私は小聲で呟いただけだったのだが、エリステルにはバッチリ聞こえていたらしい。しかも私の種族(レイス)を一発で見抜いている。どうしてわかったのだろうか?
「目障りだ。消えろ」
「がっ!?」
「グオッ!?」
エリステルは無造作に大剣の切っ先を私に向けると、そこから聖(ホーリーレイ)のような線が放たれる。【屬魔】など使えないと思っていた私は回避すら許されず、を貫かれてしまうのだった。
次回は8月10日に投稿予定です。
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