《【書籍化】「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法でした【コミカライズ】》第52話 怒られてみた

無沙汰しております。

まるせいです。

2023年8月2日

いよいよこの作品『「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法でした』の小説1巻が発売となります。

出版社レーベルは『一迅社ノベルス』

イラストレーターは『福きつね』先生

同時に、コミカライズも進んでおり早ければ秋口には紙雑誌で連載開始予定になっています。

書籍の売り上げは初が大事なので、もしよろしければ紙の本を予約して購してもらえると嬉しいです。

以上、宜しくお願い致します。

先程から微妙な雰囲気が漂っている。

エミリーは申し訳なさそうな表を浮かべ、テレサは頬を膨らませると一切俺と視線を合わせようとしない。

現在、俺たちはユリコーン捕獲に失敗して街の酒場にって食事をしているところだ。

時刻は夕方を回っているので、仕事終わりの冒険者や街の労働者が次々と訪れ、酒や料理を注文していく。

俺たちのテーブルの前にもそれぞれ酒がったコップと料理が並んでいるのだが、肝心の二人がこの様子なので乾杯をすることもできないでいた。

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「なあ、いい加減機嫌直せよ」

俺は溜息を吐くとテレサに話し掛けた。

テレサは俺を見て批難の視線を向けるのだが視線をそらさない。

そろそろ、付き合いもそれなりに長いので、彼が言いたいことは目を見れば大わかる。

確かに、ユリコーンを捕獲すると決めたのは俺だし、作戦通りに行しなかったのも俺。取り逃がしてしまったことにも責任がある。

わざわざ丸二日かけて果を得られなかったことに、テレサは落膽しているに違いない。

「ううう、私がどんくさいばかりに申し訳ないです」

そんな空気を察してか、エミリーが目に涙を浮かべ落ち込んだ様子を見せる。

こちらはこちらでケアしなければならないので大変だ。

「いや、あそこでビッグボアが現れるなんて読めなかったんだから仕方ないって」

あの瞬間、ビッグボアの突進をエミリーが避けていれば、俺が姿を現さずに済んだのでユリコーンを捕獲するチャンスは消えていなかった。

「それに、エミリーがいたからユリコーンが生息していることもわかったわけだし」

が森の奧で「ユニコーンを見たんです。噓じゃないです!」と主張したことが今回の発端だ。そうでなければ俺たちも森にろうと考えなかった。

「ガリオンさん」

エミリーは顔を上げると瞳を潤ませしたような顔をしている。あまり優しくするのもまずいとは思いつつ、それでも突き放すのは罪悪が湧いてくる。

この空気をどうにかしたいとテレサに視線で助けを求めると……。

『ガリオンのバカ』

空中に文字が描かれた。まだ怒っているようだ。

俺が何かしてテレサが怒るのはいつものことなのだが、今回はししつこい気がする。

確かに、ユリコーンさえ捕獲していれば彼の念願を果たせた可能があるのでそうなっても仕方ないのだが、本來のテレサは駄目なら次を考える悪く言えば冷めている、良く言えば効率的に事を考える人間のはず。

まるで私怨が混じったような目で俺を非難することに違和があった。

『結局、ガリオンは男でもでも誰でも良いんですよね』

「おい、その誤解はなんだ?」

テレサの唐突な発言に俺は眉を歪めた。

以前、深海祭でテレサに絡んでいた酔っ払いを追い払うために演技をしたことはあったが、あれだって別に男が好きというわけではない。

やつらは一応客なのでぶん毆るわけにもいかず、ことを穏便に収めるためにやったことだ。

相棒にそのことを理解してもらっていなかったことに一抹の寂しさを覚えた。

「えっ!? ガリオンさんって……そっちの……だから、私のことも……?」

エミリーが食いつき、頬を染めチラチラとこちらの様子を窺がい始める。百合が綺麗な男がいないように、にはそういう嗜好が備わっているのかもしれない。

「いや、ないから!」

が余計なことを言う前に否定しておく。

だが、エミリーの言葉を遮ったことでテレサは『何か隠してますね?』と眉をピクリとかした。

「はぁ、取り敢えず森での活で疲れてるんだ。とっとと一杯飲ませてくれ」

これ以上は付き合い切れない。テレサは酒に強くない。飲ませてしまえば酔っ払うだろうし、朝になれば忘れているだろう。

そんなことを考え、乾杯をして食事を始める。

有耶無耶にしたせいか、誰一人話すことなく食事が進む。

エミリーはテレサの様子を窺がっているし、テレサは俺とエミリーに警戒心を出している。

「そう言えば、ガリオンさんは錬金士にも知り合いがいるんですか?」

ふと、エミリーが質問をしてきた。

「いや、いないけど。なんで?」

俺が冒険者になってからまだ一年経っていない。それなりに友は広がってきたが、戦士職の者がほとんどだ。

なぜ唐突にそのようなことを聞いてきたのか、エミリーに視線を送ると。

「だって、ユニコーンやユリコーンのツノって萬病に効く薬になる素材じゃないですか。それをそのまま手にれて、私には現金で報酬を払うと言っていたので、そういう伝手があるのかなと思ったんです」

「あー、そういうことか」

確かに、俺はツノを得た場合の報酬を現金で支払うと言っていた。それというのも、ツノはテレサの聲が出ない呪いを打ち消すために使おうと考えていたからだ。

「いや、まあ。こっちで使い道があったから……な?」

の呪いについては俺から言葉にするわけにはいかない。

俺は當然わかっているであろうテレサに視線を向けるのだが、

「テレサ?」

はポカンと口を開け呆けた様子を見せていた。

『……いえ、何でもないです。ガリオンがツノを求めたのは……そうだったのですね』

そうだったも何も、まさか今頃気付いたのだろうか?

先程までの怒りとは別に、妙にもじもじとした態度をとると、テレサは両手で頬を挾み緩みそうになる表をどうにか取り繕うとする。

やはり酒を呑んだことで機嫌が直ったのだろう。

『まあ、取り逃がしてしまったものは仕方ありません。他の人間に討伐されなければその機會もあるでしょうし、前向きに考えましょう』

テレサは論理的思考を導き出すと今後について話し始めた。

「ですよね、私も次はお役に立てるように頑張ります」

テレサからの圧力が消えたからか、エミリーも楽しそうにお酒を呑み始めた。

酔っ払いたちの喧騒が聞こえる中、俺たちはちびちびと酒を呑み料理をつまみ、この場を楽しむ。

ふと俺は、一つの疑問が浮かんだ。

「なあ、テレサ。ちょっといいか?」

『何ですか、ガリオン?』

妙に上機嫌になって料理を食べているテレサに俺は聞いてみた。

「不機嫌の理由がユリコーンのツノを取り損ねたことじゃないとしたら、お前はさんは何に対して怒っていたんだ?」

俺の目的を察していなかった時點でユリコーンが怒りの原因ではなかった。

だとすると、俺は一何をやらかして彼を怒らせたのか?

テレサは「うっ」とを噤み、澄んだ白銀の瞳を泳がせエミリーをチラリと見る。そして顔を赤くすると、

『な、緒……です』

結局、怒った理由に関しては教えてくれないのだった。

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