《【書籍化】「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法でした【コミカライズ】》第53話 耳寄りな

発売まで後三日 (カウントダウン)

「くそぉ、最後のカードチェンジで手がっていれば大金を手にれていたのに!」

酒場にて、俺は冒険者の同僚であるスクイズと一緒に酒を呑んでいた。

「いや、そもそもそれまでに負けてるんだからどうしようもなかっただろ?」

ここは、お酒と共にちょっとした娯楽を提供してくれる、ちょいとばかり治安が悪い酒場だ。

客同士、金貨を持ち寄っては酒やツマミを食べながらサイコロやカードなどのギャンブルに興じる。

スクイズはそのギャンブルで有り金を全部奪われてしまったのだ。

「ガリオン、金貸してくれ! 次は勝つから」

「もう止めとけって」

「いいや、俺は気付いたんだ、あの野郎イカサマをしていたに違いねえ」

スクイズの言葉に俺は黙りこむ。

実は確かに勝負の相手はイカサマをしていた。

カードに魔力でマーキングをし、種類を判別させるという。

剣士の裝いをしてはいたが、おそらく相手は魔法使いなのだろう。

元々魔力が薄く大した魔法は使えないようだが、そのことを逆に利用してギャンブルで稼いでいるらしい。

こんなのは、場末の酒場では引っかけることもできるが、ちゃんとしたカジノなどではカードに対策をしているので使えない。

イカサマをしていることを見破ったのは中々だが、何か対策があるのだろうか?

「それで、どうやって勝つつもりなんだ?」

俺はスクイズに聞いてみる。

「そりゃあ、相手の指をじっと見てイカサマした瞬間に手を抑えればいいんじゃないか?」

「せいぜいぐるみはがされないように気を付けろよ……」

ギャンブルに染まった人間の思考などこのようなもの。俺は席を立ち、スクイズを置いて酒場を出ようとしていると……。

「本當に見つかったのか?」

「ああ、どうやらマジものらしいな」

冒険者の男二人が何やら話をしている。こちらに気付いた様子もなく、酒の席の與太話でもしているのだろう。

俺が通り過ぎようとしていると、

「まだ、一般開放はされていないらしいが、書によるとあるらしいんだよ――」

「――あの伝説の霊薬が」

「テレサはいるか?」

宿に戻るなり、俺は相棒の魔法の姿を探した。

「どうしたんですか、ガリオンさん。もう夜も遅いんですけど?」

食堂にはミリィちゃんが一人座っており、驚いた様子で俺を見ていた。

「ああ、夜遅くにごめん」

既に廚房の明かりも落ちていて、ミリィちゃんもパジャマに著替えている。

フリルがついた淡いベージュのパジャマで、年相応というじで可く映った。

髪が濡れており、普段の癖がストレートになっているので、しだけ大人びたように見える。

「んー、その様子だと勝っても負けてもいないじです?」

ミリィちゃんには特に賭場に行くような話をしていないのだが、勘が鋭いのか俺がどこに行っていたのか気付いている様子。

「テレサさんなら、三十分程前に部屋に戻りましたので、もうそろそろ寢ちゃうんじゃないですかね?」

「わかった、ちょっと行ってくるよ」

俺はミリィちゃんとの會話を切ると、宿のテレサが滯在している部屋を訪ねた。

「テレサ、起きてるか?」

深夜ということもあり、控えめにドアをノックする。テレサはいつも割と遅くまで起きていることが多いので、この時間ならば話ができる。

そう考えて待っていると……。

――ガチャ――

ドアが開き、テレサが顔を見せた。

『何ですか、こんな夜遅くに?』

は魔法で文字を書くと上目遣いに俺を見てくる。

無地の淡い桃のパジャマで、元が苦しいのか上から二つほどボタンを外した狀態だ。

「実は今日酒場でさ、興味深い報を得たから早急に話して置きたくて」

『そんなことで夜中にの部屋に? 相変わらずデリカシーというものが欠けていますね』

確かにその通りなのだが、ことは急を要すると言っても過言ではない。冒険者の心得として「報の伝達はできる時に素早くせよ」というものがあるのだ。

『まあ、立ち話もなんなので食堂にでも――』

「ミリィちゃんはそろそろ引き上げると言っていたぞ」

俺はテレサの提案に先手を打つとそう告げる。

食堂のドアも、ミリィちゃんが寢る時には施錠されることになっている。

例え宿泊客とはいえ営業時間外に使うのは良くないので、他の場所で話すしかない。

『仕方ないですね、では、私の部屋で話をしましょう』

數秒、逡巡したテレサはそう言うと俺を部屋へと迎えれた。

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