《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》325.5分間の地獄 ①
修二が飛び寄り、上空から鎖を一刀両斷する。鎖は頭を落とされた蛇のように、力を失い床に落ちた。
修二は続けて斬撃を放つ。鎖の追撃を剣気波で食い止めると、挑発的にんだ。
「卑怯な使いめ!堂々と姿を見せろよ!」
「不破(ふは)さん」
「相手は殺し屋だもの。そう簡単には姿を現さないはずだべ」
ラーマも手詰まりがあるようだ。
「しかし……このままでは防戦一方です。敵の居場所さえ分かれば良いのですが……」
「それなら私に任せてください!『易経(えききょう)剣法』に、良い使い方があります」
「マジッスか?」
下半を沼に沈めたまま、藍(ラン)は目を閉じた。
両手で握ったスイたんを、の前に構える。
(スイたん、みんなを助けてください!!)
「風は我の耳目になれ、天の刃よ、姿を無にさせる敵の居場所を導け、『易経風天陣(えききょうふうてんじん)』」
藍の想いに応えるように、七星翠羽(しちせいすいは)がった。柱の間の気流を集め、一方向へ回らせると、藍を中心に強い風が吹き起こる。心苗たちの耳に、布のはためく音が聞こえ始めた。それは、強風により揺れたマントの裾から聞こえる音だった。
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「二箇所です!貫け、『天風剣(てんぷうけん)』!」
藍は音のした二方向へと剣先を向ける。それぞれの剣に風を集めると、目には見えない空気の刃が飛び出した。だが、敵に衝突する前に、急展開された防章紋がる。攻撃は食い止められたが、式と衝突した際に巻き起こった気流が、マントを著た人を一瞬だけ暴いた。
もう一方では、攻撃が命中したらしく、マントに當たった音が響いた。どうやら急所は躱されたようだ。
「皆さん、今のうちに!」
藍が敵の居場所を突き止めると、鎖の攻撃を払ったティムたちが反撃に転じた。
最初に飛び出したのは真人(さなと)だ。使いの回避行を見切ると、首を狙って鋭く太刀筋を加える。
「君が使いか」
真人はそう言って、中空を斬った。何もないように見えたその場所から、何者かが急退避する。だが、フードが切り取られ、裂けた布の下から、無表のリディが現れた。
真人は追加の斬撃を繰り出す。
リディは目を合わせることもなく、その場に立っている。その時、事前に仕掛けられていた『章紋(ルーンクレスタ)』が作し、真人の技と打ち合った。真人は垂直に浮かぶトランポリンにでも當たったように、章紋に押し飛ばされる。
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真人は刀を床に刺し、足を踏ん張って反を食い止めると、すぐさま勢を立て直す。
「妙な式だな……」
真人とほぼ同時にもう一人の人影に向かったのは楓だ。金屬竹刀を振り払うと、衝撃波が影を追う。だが、影の主に當たるよりも前に、狂った面相の男が立ちはだかり、衝撃を生でけ止めた。
人影は自らフードを外す。
現れたのはカロラと、彼の作りだしたハワードだった。
その姿を見て、のぞみが目を丸くする。
(あの二人、夢で見た。臣先生と話していた『尖兵(スカウト)』……。ということは、『章紋』を使っている方が、バレーヌさん……?
クラークがハワードを指差し、ぶ。
「おい!あの男、授業でカンザキさんを襲ったやつじゃねぇか?」
京彌もそれを思い出す。
「ってことは、あの三人が神崎を狙う殺し屋か?」
ティムは源気(グラムグラカ)を読み取り、京彌に応える。
「いえ、あの男は後ろのと同じ気配がします。おそらくあのが作った使役でしょうね」
「お噂に聞いている逃亡中の刺客二名は、士(ルーラー)と魔導士(マギア)ということですが……。ダンジョンで待ち伏せしていたということでしょうか……」
ラーマがそう言うと、修二だけは「フン」と鼻で笑った。
「良いじゃん!前はやられっぱなしだったんだからさ、今ここでリベンジしようぜ!」
前回は結界に邪魔をされ、修二はのぞみを守れなかった。その屈辱をここで晴らせると思うと、修二にはもはや恐怖心はなく、全のが沸騰し、多幸すらじる。
真人は何も言わないまま、両手の刀を差させ、再度、攻撃のために飛び出した。
リディが生気のない目で真人を睨む。そして、金の『章紋』を展開した。円形の紋様が広がり、人ひとりるのにちょうど良いだけのが現れる。真人はリディに飛びかかろうとして、目を瞠(みは)った。だが、回避するだけの時間は與えられず、真人はに飛びる。式が消え、真人は完全に姿を消した。そのがどこへ通じているのか、誰にも分からない。
「島谷さん!?」
ティムが額に冷や汗を流す。そして、の特徴を分析した。
「空間系のトラップも使えますか……厄介ですねぇ」
ラーマが慎重に言った。
「魔導士の弱點は、事前に仕掛けたが消耗すると、次の新たなを綴るための呪文を唱える時間が必要になることです。つまり、その瞬間が私たちのチャンスです」
「……ただ、あの二人の源気は上級生のエリートレベルの強さがあります。式も、30……いや、50は仕掛けているかもしれません」
話す時間も十分には與えられず、リディが直徑80ミルの『章紋』を展開した。
「『レーンニングサンシャイン』」
円形紋様から無數の線がされた。の針が、雨のように広範囲に打ち出される。
ティムたちは散開し、それぞれ回避行を取る。
逃げながら、ルルがぶ。
「こんなのメチャクチャじゃん」
心苗(コディセミット)のなかには、回避せず、源気を纏ってに耐える者もいた。
のぞみは式の放領域から離れる。のぞみには、目の前で起こる悪夢が信じられなかった。あのようなメッセージを殘していたリディがなぜ……と違和を覚える。
(どうしてこんなことを?何か変……)
リディのを避けると、今度はのように赤い源気を手に集めたハワードが飛び出した。ラーマ、楓、ティム、ルル、蛍(ほたる)、エクティットと、順に攻撃をけていく。
蛍とエクティットは、加速度攻撃と『ミラージュターン』で奇襲を回避した。ティムたちも各々の武で防の構えを取り、ハワードの攻撃を跳ね返していく。
「くそったれぇ!!」
クラークも反撃したが、二度目の衝撃には対応が間に合わず、壁に衝突し、大怪我を負った。クラークはすぐに立ち上がったが、その場にを吐いた。長時間にわたる激戦で、はすでに限界を超えている。
ハワードは速度を落とさないまま攻撃を続ける。だが、回避した心苗たちを追うのではなく、本命であるのぞみを一直線に攻めてきた。
のぞみは『ルビススフェーアゾーン』を展開し、二本の刀でバツ印を作るように防の構えを取る。
のぞみがハワードの攻撃をける寸前、目の前に修二が割り込んだ。
「『ドライブスラッシュ』!!」
修二は強い攻撃技でハワードと打ち合う。コマとコマが打ち合うようにしのぎを削り、とうとうハワードが弾かれる。だが、弾かれたのは修二も同じだった。修二はそのまま藍の作りだした巖を貫き、その後ろの巖壁に衝突した。
「不破さん!!」
「『ブレーズサンシャイン』……」
無なリディはさらに章紋を展開し、攻撃を続ける。
その時、糸玉が撃ち込まれ、リディとカロラは攻撃を邪魔された。章紋が消え、ハワードのきも停止する。
そこに現れたのはハネクモだ。
アタッカーと同じ數のハネクモが出現し、ジェニファーがぶ。
「このクモ、ダンジョン課題の時にも見たな」
次々と現れる刺客に、藍は倒れそうな顔で、涙聲になった。
「もう、おしまいでしょうか……」
しかし、蜘蛛は心苗たちに背を向け、リディとカロラを包囲するようにいた。そして、二人の攻撃を糸玉で牽制している。
「変ですね、このクモたち、まるで私たちを護っているようです」
まるで味方の邪魔をするような、ちんぷんかんぷんなクモのきを見て、ラーマが疑問を呈する。
「どういうことなんでしょう?このクモ……以前セントフェラストを襲撃したものと同じもののはずですよね?」
エクティットがそう言った時、
「やはり、僕が手を出すしかないようだね」
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