《モフモフの魔導師》479 ちょっとお出かけ

「うぅ~!!」

凄く嬉しそうな聲に、こっちまで嬉しくなる。

今日は、久しぶりにキャミィが住み家を訪ねてきてくれた。顔を見るなり駆けてきたので、しゃがんでハグしながら顔をモフらせている。

「……最っ高…!!」

「それは良かった」

他の獣人に比べて、モフモフしてる自信は無いけれど、キャミィは満足してくれる。それが嬉しい。

ちなみに、知ってる獣人の中で最高のモフモフ獣人は父さん。その次がラット。

キャミィとの抱擁はしばらく続いた。

「久しぶりね」

「そうだね」

冷靜になったときのギャップが凄い。ちょっとニヤけてて、上手く隠せてないところが可かったりする。

「ウォルトのおかげで、バラモと仲良くさせてもらってるわ」

「それは良かった。ボクも、もらったパナケアのおかげで助かったんだ。ありがとう」

リタさんの治療に使わせてもらった。

「今日はお願いがあってきたのだけど」

「なんだい?」

「実は、街に行ってみたいの」

「何か用があるの?」

「無い。ただ、行ったことがないから、一度経験しておきたくて」

里長になるかもしれないキャミィが、々な経験を積みたいことは知ってる。行ってみたいのなら、止める理由もない。

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「ボクは構わないよ。行くなら大きな街がいい?」

「初めてだから、何処でもいい。貴方に任せるわ」

「そうだね…」

フクーベやトゥミエでもいいけど、どうせなら共に新鮮な気持ちを味わえる方がいいような気がする。ボクも行ったことがない街に行ってみようか。

そうだ。

「フォルランさんに會いに行ってみるとか」

「卻下よ」

真顔で即答…。

「何が楽しくて、兄さんに會いに行かなくちゃいけないの?」

「お互い初めての街に行ったら、新鮮に楽しめると思って。フォルランさんの現狀も知れたら」

「その意見には賛だけど、フォルラン兄さんには會わなくていい」

「じゃあ、フレイさんは?」

「フレイ兄さんならいいけれど、相當遠い街に住んでると言ってたわ。馬車で何日もかかるみたい」

「そっか」

馬車で數日となると、北部に住んでいるんだろう。それは、流石に遠すぎる。

う~ん…。日帰りができる距離がいいだろうし、やっぱりフクーベがいいかな。

「無理しなくていいのよ。今日でなくても構わないし」

「無理はしてないよ。せっかく連れて行くのなら、行き當たりばったりじゃなくて、考えた場所を選びたいんだ」

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「そう…。ありがとう」

どうしようかな…。

ここは、やっぱり彼処にしよう。

「著いたよ」

「もう著いたの?モフり足りないのだけど」

「そんなこと言われても」

背負われながら、まぁまぁ長い間モフってたはずだけど、まだ足りないのか。

「此処が…カネルラの王都なのね」

「そうだよ」

此処なら、キャミィの他にもエルフがいる。過去に訪れたとき、何人か見掛けた。気にしないかもしれないけど、違和なく歩けるんじゃないかと思った。

王都ならボクが知らない場所も多いから、新鮮さも味わえる。いつもとは違う場所に行ってみよう。

東門を潛り、キャミィと並び歩く。

「人の多さが尋常じゃないわ」

「カネルラの中樞だからね。一番人が集まる場所だと思うよ」

々な種族が、互いを気にすることもなく生活している。とても興味深い」

基本的にキャミィは無表だけど、控え目に周囲を見渡す姿はなんとなく楽しそうに映ってる。

「やっぱりエルフはいないわね」

ないと思う。ボクも數人しか見たことはない」

先ずは、何処に連れて行こうかな。

そうだ。

「キャミィ。まずは異種戦を見に行かないか?」

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「異種戦って?」

「騎士や冒険者や魔導師が、腕を競い合うんだ。ボクも一度しか観覧したことがないけど」

「凄く気になるわ」

「闘技場に行ってみよう」

闘技場に著くと、今日も開催されているらしい。キャミィの分の場料も支払って、のんびり闘技場にる。

來るのは武闘會のとき以來だ。すでに懐かしいなぁ。

「さっき渡したのが、カネルラの通貨ね?」

「そうだよ。トーブっていうんだ」

「ごめんなさい。私は持ってないから…」

「気にしなくていいよ。ボクも普段はまったくお金を使わない。友人のためなら、有効な使い道だ」

今でもナバロさんから報酬に渡される。たまに使ってるけど、それでも無くならない。

お金は、使ってこそ世界が回るのは理解してるから、積極的に使いたいけれど、街には行きたいと思わない。

最近では、ある程度貯まったら、最低限殘してオーレン達経由で孤児院に寄付することにしてる。悪いことはしてないけど、直接渡すのは気恥ずかしくて。

「ありがとう。好意に甘えさせてもらう」

「そうしてしい。なんでも遠慮無く言ってくれないか」

空いてる席なら何処でも良いらしいので、壇上がよく見える場所に並んで座る。満席じゃなくて良かった。

直ぐに異種戦は始まった。

今日は魔導師と冒険者の異種戦。騎士は參加してないみたいだ。見事な魔法と技能の応酬から目を離せない。

「とても面白い。初めて見る魔法や…技?ね」

「技能っていうらしいよ。魔法とは違う良さがあるよね」

「人間の魔法は、エルフ魔法と違って面白いわ。ためになる」

「それは良かった」

ボクの中で、キャミィは既に大魔導師だ。それでも、魔法は奧が深い。

「彼らは、皆、魔導師なの?」

「そうだね」

「ウォルトは魔導師じゃないのよね?」

「そうだよ。何でそんなこと訊くの?」

「気にしないで」

何が言いたいのか理解できないけれど、満足してくれたようなので、闘技場をあとにする。

「キャミィ、お腹すいてない?」

「適度に空いてるわ」

「じゃあ、晝ご飯にしよう」

…と、たまたまエルフの男が通りがかったので、聲をかける。

「すみません」

「なんだ?」

「王都で、エルフが味しいと思う料理を出す店を知りませんか?」

「あるぞ。この通りを右に行って、突き當たりを左に…」

親切に教えてくれる。エルフは苦手だけど、予想通り王都のエルフは親切だ。訊いてみてよかった。

「ありがとうございます。よくわかりました」

「そっちの娘は、初めての王都か?」

「そうよ。街自が初めてなのだけど」

「ほう。何処から來た?」

「ウークの里から」

「ルイスの納める里だな」

「そうよ。知っているのね」

「まぁな。王都は良いところだ。ゆっくりしていくといい」

「ありがとう」

爽やかなエルフは去っていった。でも、おそらく四百歳は超えていそう。ただの経験則と勘だけど。

去りゆくエルフの背中を見つめながら、キャミィが呟く。

「やっぱり違うのね」

「なにが?」

「エルフ同士でも、他人への興味は薄い。同じ里の者以外は特に。通りすがりなのに、何処から來たのか訊く必要がない。私の常識では、あんなエルフはいないの」

「王都で多種族とわることで、必要にじてるのかもしれないね。人間にとっては挨拶代わりだから」

「私には、世間知らずだと蔑んでるように見えたけれど」

エルフ同士でしか察することができない心中もあるのかな。悪気はないんだろうけど、基本的に無想に見える。

ボクの知るエルフでは、フォルランさんだけが表かだ。

教えられた店に到著して、中にると意外な景が広がっていた。

「いるものね」

「そうだね」

小さな店だけど、お晝時というのもあってか繁盛している。そして、客の半數はエルフだ。あとは人間ばかりで、獣人はゼロ。

席に通されて、二人で品書きに目を通すと、通常のメニューの下に、見慣れない文字が書かれている。

「エルフ文字も使われているのね。とても親切で、わかりやすいわ」

「なるほど。これはエルフ文字なのか」

魔導書で見たことがある。読みたくても読めなかった文字。エルフが書いた魔導書だったのか。

「教えてもらえば、ボクも読めるようになるかな?」

「なるわ」

「よければ、基礎だけで良いから今度教えてしい。ならいいよ」

「構わないわ。ならこんな堂々と書いてない」

それもそうだ。

「キャミィはボクの先生だね」

「それは栄」

珍しく微笑んでくれた。

「ご注文はお決まり?」

「シエロ豆のスープと、フリアンを」

「私は、旬の野菜炒めを」

「わかったわ」

給仕もエルフ。…ということは、料理人もかな?エルフの料理人は聞いたことがないけれど、いてもおかしくない。

料理を待つ間に、キャミィがエルフ文字について教えてくれる。只の図形に見えるけど、意味がわかると法則があって面白い。

「なるほど。この二つの文字は、こういう意味?」

「そうよ。飲み込みが早いわ」

品書きに書かれているカネルラの標準文字と照らし合わせて考えると、なんとなく読める気がしてきた。それでも難しい。

そのに料理が運ばれてきて、共に頂く。

味しいわ。ウォルトは足りないんじゃない?」

「そんなことないけど、なんで?」

的に薄味だと思うけど、しっかり出が効いて味しい。

「貴方の料理の方が味しい」

「ありがとう」

甘味のフリアンも食べ終えて、支払いをして店を出ると、キャミィが口を開いた

「ふぅ…。街にいようと、やっぱりエルフはエルフなのね」

「どういう意味?」

「何故、獣人とエルフが一緒にいるんだ?…と言いたそうな視線を、ひしひしとじた。客も、店のエルフからも」

「ボクはじなかったなぁ」

「口にしてないだけよ」

「そっか」

獣人とエルフが友人でも、何も問題ないはず。そもそも、犬猿の仲ではないと思う。ドワーフとエルフの仲が悪いのは有名だけど。

じなければ、どう思われようと別に構わない。悪いことはしてないし、人の心のはボクには読めないから。

さて…。お腹も満たされたところで…。

「キャミィを連れていきたいところがあるんだ。行ってみないか?」

「どんなところ?」

「ボクも行ったことはないんだけど、話に聞いた通りなら、きっとキャミィは好きかな」

「?」

以前、テラさんが言っていたのを覚えている。どうやら、「癒やされる」とに人気らしい。

場所については、親切な王都民に聞き込みして…と。

「ふわぁぁ~!!も、もう、死んでもいい!」

「長壽なのに大袈裟だよ」

とんでもなくだらしない笑顔のキャミィ。間違いなく過去一で、実に楽しそう。予想通りだったな。

「お連れ様は、楽しそうですね」

施設の男に話しかけられる。

「モフモフ好きなんです」

「なるほど。道理で」

何がなるほどなんだ?

……はっ!

エルフなのに、獣人(ボク)と一緒にいるからか。きっと『モフモフ好きならあり得る』って意味だな。

珍しく言いたいことがわかったぞ。

「ふふっ!くすぐったい!」

もはや、ただの可憐なと化しているキャミィ。獣たちをモフり続けている。

連れてきたのは、調教師(テイマー)の訓練場。

ドッグレースに出場するハウンドドッグや狩猟のパートナー、馬車を曳く馬など、人の生活に関わる獣や、一部の魔の訓練施設だ。

特に赤ちゃんの頃から育てられた獣やは、人に慣れ易いと云われている。そんな理由から、まだ生後間もない獣も多い。繁も行っているみたいだ。

怪我をして弱った獣や、稀に傷ついたを保護して、自然に帰すための施設でもあるらしい。獣やは、狩りの対象でもあるけど、生態系を保つために重要な存在でもある。

この施設は々経営難であるらしく、資金繰りに苦慮していたところ、試しに一般の人に開放してみると、これが意外にウケたとのこと。

施設側が準備した餌を買って手ずから與えたり、見學料を支払うことで、獣やの飼育費用に充てていると聞いた。

通常なら人を襲うような危険な獣も、テイマーに育てられるとれ合うことが可能となる。

けれど、人慣れし過ぎると自然での生存競爭に戻れなくなるはずなので、此処で一生を過ごすことになる…のかな?野生に目覚めたら、自然に帰すのだろうか?

とにかく、モフモフ好きのキャミィは、顔を舐められたり、膝に載られたりと最大限れ合っていて、幸せそうな笑顔。

連れて來た甲斐があった。

「くんくん…。………」

ボクはキャミィと違って獣に好かれないみたいだ。匂いを嗅いで、ふいっといなくなってしまう。

同族みたいなものだから気にならないけれど、変な匂いがしてたりして…。

「ウォルト!見て!膝で寢てくれたの!」

「気持ちよさそうだね」

本當に嬉しそうな顔をするなぁ。誰だって好きなことをしているときが一番楽しい。滅多に來れないのだから、心ゆくまで楽しんでもらえたら。

結局、キャミィは夕方近くまでれ合いを楽しんでいた。

「こほん…。今日はありがとう」

「どういたしまして」

「人生で最良の日だったわ」

「そんなに?」

そう言ってくれるのは有り難い。言い過ぎな気もするけれど。

「あとは…何処に行ってみようか」

ウークまで魔法を駆使して駆ければ、二時間かからない。暗くなるまで、もうし余裕がある。

「今日は帰りましょう」

「もういいの?」

「充分過ぎるわ。それに、やりたいことがもう一つだけあるのだけど、王都ではできない」

「やりたいことって?」

「夕食に、ウォルトの料理を食べたい」

それは、嬉しいの一言。

「そっか。だったら、住み家に帰ろう」

往路と同じくウォルトに背負われ、の森を駆けながら會話する。

今のにお願いしておきたい。

「また、二人で出かけたいのだけど」

「いいよ。やりたいことや、行きたい場所があれば教えてくれないか」

即答ね。

「貴方は優しい」

「優しくはないけど、なんで?」

「ウォルトにとっては、面白くないでしょう?」

「そんなことないよ。テイマーと話せてためになったし、エルフ料理も知れた。どっちもキャミィのおかげだ」

何故、私のおかげなのか理解できない。

おそらく、私がいたからあの料理店に行って、獣をモフりに行ったから…だと思うけれど。

そう言える時點で優しいと思う。ただ、ウォルトは『自分は優しくない』という部分に拘りがあるようね。

「お金も使わせてしまった」

「ボクは自分がやりたいようにやる。行きたいから行って、払いたいから払う。嫌なら斷ってるよ。気にしなくていいんだ」

「せめてものお禮に、今日もパナケアを持ってきているから、後で渡すわね」

「凄く助かるよ。希な素材だから、もらいすぎだけど」

逆なのだけど、言っても無駄ね。

首にしがみついて後ろから頬ずりすると、ウォルトが微笑んだが頬に伝わる。

「まだモフり足りない?」

「落ち著くのよ。嫌?」

「嫌じゃないよ。いくらでもどうぞ」

「友人として、お言葉に甘えるわ」

獣たちの可さとモフモフは素晴らしかった。この世に生をけてから、最高の興験したと言っても過言じゃない。是非、また行きたい。

けれど、ウォルトのモフモフは別。並みは普通でも、気持ちが落ち著いて癒やされる。まったく違う素晴らしさ。

「住み家に著くまで、エルフ文字について解説するわ」

「それは嬉しいな」

「だから、あまり飛ばさなくていいわよ」

「そうだね。ゆっくり駆けようか」

きっと、こういうことを幸せと呼ぶのね。

その後、文字について教えていると、駆けながら手を翳すこともなく、眼前に魔法で文字を描いたのには驚いた。

、どういう理屈なのか見當もつかない。空中にどうやって魔力を紡いだのか。里に帰ってから、ゆっくり考えてみよう。

私の友人は、本當に退屈させない。

私のを躍らせる唯一無二の魔法使いであり、超えるべき高い壁。

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