《モフモフの魔導師》480 新たな一歩を踏み出す時

今日は、【森の白貓】の三人でウォルトさんの住み家を訪ねている。

オーレンにとっては、三週間ぶりの訪問。

最近、ミーリャとロックのクエストを手伝ったり、『カボチャの馬車』や他のパーティーと冒険していた。

ウイカとアニカも手伝ってるはずなのに、隙を見てウォルトさんの所へ向かうから、しょっちゅう來ているはず。

疲れ知らずの凄い姉妹。

「みんな、いらっしゃい」

到著するなり、修練をお願いする。

先陣は俺から。

「はぁぁっ!!」

磨いた剣で打ち合うも、上手く捌かれる。それでも踏み込んで、息の続く限り攻撃していると、ウォルトさんの態勢が微かに崩れた。

ここだっ!

遠い間合いから突きを繰り出し、剣先から魔力弾を飛ばす。ずっと磨いている俺なりの魔法剣。

ウォルトさんは、軽々と『魔法障壁』で防ぐ。結構スムーズに放てるようになったけど、余裕で防がれた。

「參りました。力と魔力切れです」

「充分威力もある攻撃だね。驚いたよ」

「まだまだです」

ウォルトさんはお世辭を言わない。だから、純粋に嬉しい。もっともっと師匠を驚かせて、いずれ剣を屆かせたい。

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手合わせについて幾つか意見をわした後、一休みしながら姉妹とウォルトさんの修練を見學する。

「てぇい!」

「うりゃぁっ!」

魔法と弾戦を駆使して二人がかりで攻め込むも、やっぱり捉えられない。コイツらのきも、決して悪くないと思う。俺なら押されっ放しだ。

強化』と遠距離魔法を組み合わせて、効果的に攻撃を繰り出してる。それでも、ウォルトさんは歯牙にもかけない。

きを見切る目と、回避能力が半端じゃない。魔法を使った防も鉄壁で、微塵も隙が無い。

「はぁ~!」

「參りましたぁ!」

「ふたりともお疲れ様」

姉妹と意見をわしてる。

師匠の指摘はいつも的確で、良かった點、悪かった點をわかりやすく説明してくれる。個人的には、ギルドの試験になってほしいくらいだ。

「ご飯にしようか」

修練が終わろうと、師匠の忙しさは終わらない。本當に、忙しさを苦にしない人だ。

いつもと変わらない景。

味な料理を頂きながら、ウォルトさんに質問してみる。

「ウォルトさん。魔法が通じない魔って、存在するんですか?」

「それは、威力的な意味?」

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「いえ。かき消されるとか、無効化されるとかそっちの意味で」

ウォルトさんの魔法の威力で倒せない魔は、相當ヤバい奴だけど。

「魔法が通用しない魔はいるよ」

「「へぇ~!」」

「そんな魔を相手にしたら、どう闘えばいいんでしょうか?」

「魔法耐を持つ大抵の魔は、理攻撃に弱いから剣での攻撃が有効だね。ただし、理耐も兼ね備える魔もいる。そうなると、かなり強敵だよ」

「言い方は悪いんですが、ウォルトさんは弱いですよね?遭遇したら、どうやって倒すんですか?」

キッ!と姉妹から睨まれる…。

でも、本人がそう主張してるから、ここは押し通す。ウォルトさんは気にしてる風もない。

「かなり苦労するけど、ボクの場合、結局魔法で倒してる。修練を兼ねてね」

「無効化されるんですよね?」

「そうなんだけど、魔法の奧深さというのか、ダメージを與えることはできるんだ」

「言われてもピンとこないです」

「魔法を無効化できたり、掻き消せると言っても、萬能じゃないことが多い。試してみると、何かしらの屬が通用することが殆どだ。針のを通すような魔法であってもね」

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「なるほど。炎も水も雷も通用しないのに、闇魔法の一部だけ通用する…みたいな」

「そう。過去に、一種だけ倒せない魔がいたけど、まず遭遇することはない。そんなじだから、皆は心配いらないよ」

自分が倒せるのだから、俺達も當然できるようになる…という意味だろうな…。おそらく無理だけど。

目の前でのんびりお茶をすするウォルトさんは、冒険者である俺達より冒険に近いことを數多くこなしているはずだ。経験値も段違い。

俺は…ずっとウォルトさんに言いたかったことがある。多分、ウイカとアニカも思っていること。反対はしないはず。

今日は、おもいきって伝えてみよう。

「ウォルトさんに、お願いというか提案があるんですけど」

「なんだい?」

「俺達と同じ……冒険者になりませんか?」

「えっ?」

アニカとウイカも驚いてるな。相談もしてないから當たり前か。

「どういうこと?」

「いつか、冒険者になってみたいって言ってましたよね?」

「言ったね」

「その気持ちに変わりがないなら、冒険者になりませんか?」

「変わりないし、気持ちは嬉しいけど今は無理かな」

「なんでですか?」

「ボクは、冒険に命を懸けられない。覚悟が足りない」

ウォルトさんらしい答えだと思うけど。でも、それは冒険者のほんの一面なんだ。

「考えすぎです。冒険者全員が命懸けじゃないですよ。それに、冒険するためだけになるわけじゃありません」

「そうなの?」

「誰もがダンジョン攻略だったり、ランクを上げることを目指してるわけじゃないです。流や易のために、冒険者としてギルドに所屬してる人もいます」

商業ギルドを通さず、冒険者ギルド同士でのみ取り扱う商品も存在する。ただし、売買にはギルド所屬である証明が必要になる。

「そうなんだね。知らなかったよ」

「言い方を変えると、ギルドを利用してるんですけど、當然ギルド側にも利があるから問題ないんです」

「なるほど」

「俺がウォルトさんに提案した一番の理由は、魔法の修練に役立つかもしれないからです」

「魔法の修練に?」

「冒険者になれば、稀にですけどギルドでしか手にらない魔導書や、魔道の類も手できたりします。希な魔導書も書庫に保管されているので、許可をもらえば閲覧も可能です。特典といえます」

「それは…魅力的だね…」

「俺達のパーティーメンバーとして登録すれば、アニカやウイカが読むというで、怪しまれず一緒に閲覧できます」

ウォルトさんにとってはそれで充分だろうし、他人とも深く関わらなくて済む。

「う~ん…」

ウォルトさんは頭を回し始めた。

「いつも冒険に付き合う必要もないです。メンバー全員でないと冒険しちゃいけない規則は無いので」

「冒険は自由です!ずっと薬草を摘んだり、スライム退治してもいいんです!そこも冒険者の良いところですね!」

アニカとウイカも援護してくれる。

「今すぐじゃなくていいと思います。でも、できるなら早い方がいいと思いました」

「なんで?」

「ウォルトさんには、いつかは魔導師になりたい、っていう目標がありますよね?」

「うん」

「冒険者も「なれるならなってみたい」って言ってましたけど、研鑽が必要な魔導師と違って、今すぐにでもなれるんです。そして…」

「そして?」

「冒険者になることは、魔導師への道を進む足掛かりになると、俺は信じます」

烏滸がましいけど、きっといい経験になる。

ウォルトさんは、黙っていても現時點で大魔導師だ。誰にも否定させないし、できっこない。でも、本人が納得するためには、いろんな経験を積んでもらう必要がある。

俺は…いや、俺達はウォルトさんにの目を浴びてしいわけじゃない。そんなこと、本人もんでない。

ただの我が儘だけど、魔導師への道を迷い無く突き進んでしくて、その一助になりたい。冒険者になってもらえたら、同じ立場として俺達にもできることが増える。

それでも、決めるのはウォルトさん。

本人の意志次第。

「オーレン…。ありがとう…」

ウォルトさんはつぶらな碧い瞳を潤ませてる。

もしかすると、冒険者になってくれるかも……なんて思っていたら…。

「ウォルトさん…。騙されちゃだめです…」

「え…?」

この妹分は、急に何を言い出すんだ?

「オーレンは…ウォルトさんに冒険者になってもらって…自分のギャンブル代を楽して稼ごうとしてます!」

「えぇぇっ!?そうなのか?!」

『信じられニャい!』って顔してる。

それはさておき、このバカ妹分は、毎度毎度ワケのわからないこと言って邪魔してくる…!

「何でそうなるんだよ!最近は行ってねぇし!人の話を聞いてたのか!?お前も賛だろ!」

「當たり前だ!ウォルトさんと一緒に、正式なパーティーメンバーとして…堂々と冒険したい!けど…」

「けど、なんだよ」

「…オーレンに騙されて加してしくない!」

コイツは、何ふざけたことを言ってんだ。

まさか……俺の言葉でウォルトさんが決斷したとして、事実を認めたくないのか…?

自分でありたかったと…。

仮にそうだとしたら…なんて我が儘な奴だ。許されないレベルの我が儘。

「俺がウォルトさんを騙すわけないだろ。噓だと思うなら、匂いを嗅いで下さい。逃げも隠れもしません」

「そ、そうだね」

「やめておきましょう!オーレンは、めちゃくちゃ足臭いですから!鼻が曲がります!」

「ふざけんな!誰も足を嗅いでくれなんて言ってないし、そんなに臭いわけないだろ!ですよね!ウォルトさん!」

見ると、ウォルトさんは顔を背けている…。

無言は肯定とみなしますよ…?

「と、とにかく、俺には騙す理由がない!いい加減にしろ!」

「それはどうかな…?」

「どういう意味だよ?」

「アンタは、ウォルトさんが優しくてモフモフしてるのをいいことに、ダシにして他の冒険者をナンパするつもりでしょうが!」

「師匠にそんなことするか!俺は、ミーリャ一筋だ!」

ギャーギャー言い爭っていると、黙っていたウイカが口を開いた。

「二人とも落ち著いて。勝手な想像で興して、ウォルトさんに失禮だよ。ちゃんと話をしようよ」

「うっ…」

「それはそうだね…」

「ウォルトさんは、どう思いますか?私も二人に賛ではあるんですけど、決めるのはウォルトさんなので」

「う~ん…。そうだね…」

しばらく頭を回していたウォルトさんは、やがてピタリと止まってニャッ!と笑った。

「冒険者に…なってみたいな」

「「「ホントですか!?」」」

耳がパタンと閉じる。いつも思うけど、用だ。

「ボクは、幾つか掲げてる目標を「いつかは」って言い続けてきた。できるかわからないし、納得いく形で達したくて」

「はい」

とてもウォルトさんらしいと思う。

「でも、口ばかりで良く先送りにしてるだけ。そう思ったことは、確かにあったんだ。目標に向かってるつもりだけど、夢のままで終わっても構わない…みたいに消極的な考えじゃなかったとはいえない」

「なるほど」

「登録するだけで冒険者になれることも知ってたのに、ずっと立ち止まってる。いつになったらくのか自分でもわからない。だったら、歩き出す切っ掛けをもらった今が好機かもしれない。皆の話を聞いて、やってみたいと思えたんだ」

「ということは…」

「ボクを…【森の白貓】に加させてもらっても…いいかな?」

「「「もちろんです!」」」

嬉しすぎる!おもいきって言ってみて良かった。

「でも、手伝う専門になるかもしれないけど…それでもいいかい?」

「今までと変わりない生活でいいです。ただ、正式に冒険者になることで、できることの選択肢が増えると思ってもらえたら」

「ありがとう。三人には迷かけるかもしれないけど、よろしくね…って、まだ気が早いね」

「こちらこそですよ」

「あと、パーティーのリーダーは、オーレンでいいんだよね?」

「それは……」

前にアニカが「リーダーはウォルトさんに決まってる!」と言っていたし、メンバーになるなら俺もそう思う。第一、尊敬するウォルトさんからもらった名前だ。

気になって姉妹に目をやると、何故か『今は肯定しろ!』と顔に書いてある。『いいのか?』と目で訴えると、『いいから言え!』と返ってきた。

そこまで言うなら…。

「リーダーは俺がやります」

「良かった…。ボクにはとても無理だから、やってほしいと言われたら、パーティーにるのは遠慮しようと思ってたんだ」

「そ、そうだったんですね」

あっぶねぇ~!!

コイツらは読み切ってたのか。自慢気な顔してやがる…。

「よぉし!!早速、ギルドに登録しに行きましょう!」

「急がなくていいよ。せっかく來てくれたのに。ボクだけで行ってくるから」

「いえ!善は急げといいますから!」

「私達は、ウォルトさんが冒険者になる瞬間を見屆けたいです」

「俺もです」

「じゃあ、一緒に行こうか」

食事の後片付けと支度を終えて、四人でフクーベへ向かった。

ゆっくり移して、ギルドに到著した。

ウォルトさんは、若干張気味。

張してきたよ…。門前払いされるかもしれないね…」

「それはないですよ」

「大犯罪者とかはダメらしいですけど」

「その時は、私がギルドを燃やすのでご心配なく♪」

「ダメだよ」

イカれた弟子ですみません…と心の中で謝る。

「今日の付は、エミリーさんか?」

「多分ね。そうなら話が早い!」

「ウォルトさんも會ったことあるはずですね」

「もしかして、一度だけ來たときに付にいた人かな?」

「そうです!行きましょ~!」

中にると、付は予想通りエミリーさんだった。

「こんにちわ。今日もクエスト?」

「いえ。今日は、新しいパーティーメンバーの登録に來ました」

ウォルトさんが前に出る。

「貴方は…ウォルトさんですね?」

「はい。冒険者登録に來ました。よろしくお願いします」

「かしこまりました。冒険者登録に関して、々と説明をさせて頂きますので、お時間頂きますがよろしいですか?」

「構いません」

待合所でゆっくり待つつもりだった…けど、ウイカとアニカは落ち著かない様子。

「大人しくしとけよ」

「わかってる」

「子供じゃないっつうの!」

ウォルトさんは、至って冷靜にエミリーさんと話してる。多分だけど、エミリーさんは心驚いてるだろうな。

俺が見たことある獣人は、「意味わかんねぇ!適當にやっとけ!」とか「話がなげぇ!簡単に言え!」と、いつも付に絡んで困らせてる。

普通に會話してる獣人を初めて見た。

二十分ほど待っていると、ウォルトさんが紙にサインしたあと、エミリーさんと互いに微笑んで頭を下げた。

こっちに歩いてくる。

「登録が終わったよ。待たせてごめんね」

「おめでとうございます」

「めっちゃ嬉しいです!」

「お疲れ様でした」

「ありがとう。あまり実はないけど……新しいことに挑戦する気になったのは、皆のおかげだ」

ウォルトさんは、貰ったばかりの冒険者証を見つめてる。

新品のFランクカードが懐かしくじる。

俺とアニカも、そしてウイカも、しばらく眺めていたことを思い出す。貰ったときは嬉しかったなぁ。

「今日は、俺達の家でお祝いしませんか?」

「私も言おうと思ってた」

「泊まっていって下さい!そして、料理もお願いします!」

「いいの?」

「「もちろんです♪」」

ギルドを出ようとして、丁度ってきたパーティーと鉢合わせる。

「…珍しいじゃねぇか」

「久しぶりだな」

ってきたのは、マードックさんが所屬するホライズンの四人。ウォルトさんの前にマードックさんが立って話しかけた。

ギルドが微妙にザワつく。

近くで見ると、凄いと威圧。それでもウォルトさんは平然としてる。友人とはいえ、コレに慣れるものなのか…?

「こんなとこで、何してんだ?」

「冒険者登録しにきた」

「誰が?」

「ボクだ」

「…マジで言ってんのか?」

「あぁ」

眉間に皺を寄せたマードックさんに、ウォルトさんは出來たばかりの冒険者証を見せた。

「面白ぇ…。お前が冒険者か…」

「不相応だけど、やってみたくなった」

「ククッ!今度…家に行くわ」

「酒と料理を準備しとく」

「またな」

「あぁ」

クエスト帰りなのか、四人は付に向かう。マードックさんがすれ違いざまに俺達に呟いた。

「お前ら…いい仕事するじゃねぇか。大したもんだぜ…」

それだけ告げると、ドスドスと付に向かう。

ウイカとアニカは笑い合う。ちびりそうなくらい怖かったのは、俺だけなのか…?サマラさんと似てなさすぎるぞ。

とにかく、ウォルトさんの冒険者登録を祝うために街に繰り出す。

今日は…今日だけは、誰が何と言おうとウォルトさんが主役だ。

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