《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》150話 2032年8月31日 あとさんかい

2032年8月31日を始めます

『封印保護の解除コードを確認しました』

ごおおん。

がら、がら、がら。

「……んお、あれ……俺、寢てたのか? 悪い、貴崎……」

味山只人が、目を覚ます。

イズ王國の夜明け、貴崎の背後で見たあの景と風の涼しさが心地よくて。

つい、眠気に負けてしまった。

何時間ほど眠ってしまったのだろう。

やけに頭が重たい。

味山は背中にじる固いに顔をしかめて。

「あ……?」

異変、そのいち。

目を開けたのに、暗い。

真っ暗だ。

「……」

寢起きの頭がゆっくり稼働し始める。

妙にい地面、仰向けに寢転んでいる所まではわかる。

だが、それ以外何もわからない。

「あれ?」

何かがおかしい。味山がもやのかかった思考をまとめようとして。

『封印権限所持者2名による承認が降りました。特級指定封印対象參號”味山只人”の封印を解除します』

「……うん?」

電子音聲が闇の中に響く。

がこん。

目の前で何か、錠前が外れたような音がした。

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ず、ずず、ずずず。

目の前の闇が、開く。

あとから知った事だが、それは蓋だった。

「……え?」

まず、。視界に注ぐのは

それが味山の闇に慣れすぎた瞳孔を焼く。

「うお」

眩しすぎて、目を瞑る。

チカチカしたの悪さに、目を顰めてーー。

「……は?」

赤い。

赤しかない。

「あれ……雲か?」

赤い空。

5秒ほど経ってようやく味山は今、自分が見上げているものが空、なのだと理解した。

真っ赤に染まった空。

左右に圧迫

箱のようなものの中で仰向けに転がっているのも、今、ようやく。

「……なんだ、これ」

立ち上がる。が異様に重たい。

だが、そんな覚も置いてけぼりにするほどの、視界の報。

瓦礫。炎。悪臭。熱。破壊。

燃えている、瓦礫の山。崩れた人工、辺り一面に広がる破壊の景。

戦爭映畫のワンシーンのようだ。

圧倒的な暴力によってすべてが壊されたような土地。

赤い空、廃墟。

「……なに、これ」

味山は1人、立ち盡くす。

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棺桶、自分が寢ていたらしい棺桶をまたぎ、一歩、前へ。

「……待て、待て待て。なんだ、これ」

あの朝はどこに行った?

さわやかな風は?

涼しくも溫かい朝の空気は?

焦り始める脳みそとは裏腹、味山のは準備を始める。

こわばっていたは熱を。固まっていた腱はほぐれ。

繰り返してきた現代ダンジョンライフ。

その中で遭遇してきた數々の厄介ごと。

が覚えている。

この空気はあの日と同じ――。

2028年、11月26日。バベル島防衛戦。

全てが踏みにじられて、もう何も間に合わなかったあの時と同じ。

「……あ?」

がれきの山を歩く。

そして、それに出會ってしまった。

「……」

がべたつく。

脂がまとわりつくように。

がれき、破壊。とくれば。

TIPS€ 焼死

「……マジかよ」

死骸。

人間の形をかろうじて保っている焼け焦げた塊が、山のように積まれている。

よく見ると、その死骸は折り重なるように。

小さな死骸をかばうように。

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TIPS€ 避難民のこどもをかばう自衛軍の人員

「……クソ」

理解できない狀況だとしても、糞は悪い。

だが、これでもう決定だ。

「トラブルだな、これ」

ここは、あのイズの地ではない。

あそこで眠った後、なにかが起きたのだ。

「……待てよ、封印とか言ってたな……」

さっきの棺桶を思い出す。

今はとにかく狀況を理解する必要がある。

「……教えろ、クソ耳」

何が、あった?

味山が己の持つ探索者道、ヒントを聞く耳を起させようと。

「あれ? なんでまだ生きてる人間がいんの? あの赤髪ちゃんが最後じゃなかったっけ?」

「あ?」

ぐちゅ、ぐちゅ。

水音、嫌な音。

それは崩れかけの建、その屋の上に座っている。

何か、を食べながら。

「ん、おいしい、やっぱり未年のはみずみずしいね。あなたは……あまりおいしくなさそう、どこから來たの?」

「……お前、それ何喰ってんだ?」

「お団子だよ。未年の雌が一番おいしいねえ。もちもちしてる食とみずみずしい甘さがたまんない。私、夢があるんだー。牧場を作るの。そこで味しい人間をたくさん作って、ブランドを」

「敵だな、お前」

「え?」

寢ぼけていようとなんだろうと、味山の行原理は変わらない。

、行。その全てから判斷。

TIPS€ 耳の大力、発

足元に転がっている拳大のがれき。それを思いきり投げつける。

「うわ! 危なっ!」

砲弾のごとき速度のがれき、それをが避ける。

しかし、あまりにも速いその速度にバランスを崩し、手に持っていた赤い何かに染まったソレを落として。

ころん、ころん。ころ。

味山の足もとまで、ソレが転がる。

赤い空、がれき、燃え盛る炎。

ああ、死臭。

赤いソレ、クッキーにじってる大粒のチョコチップのようにはみ出ている何か。

目玉。

人間の。

――パチン。

スイッチがる音がした。

味山が耳の大力を発したまま、がれきを駆けのぼる。

「お前、ナニモンだ」

「うわあ!! 殺そうとしながら話しかけてくんの!? こっわ!!」

TIPS€ 現在裝備 上:なし 下:パンツ 武:なし

ボクサーパンツ一丁の味山、即座にがれきを握り、それを振りかぶりへ振り下ろす。

ばさっ。

「もーなんなのさ! ヒトの食事を邪魔しちゃってさー!」

「……てめえ」

味山の攻撃は空振る。

が空を飛んで逃げたから。

さきほどまで両手だった部位が、鳥類の翼のように変化して。

「お兄さん、そのじ、探索者ー? しぶといなー、神様たちの取りこぼしかなー、まあいいや。探索者なら、雄でも、味しいもんねえええええええええええええええええええ!!」

ぐわり。

の顔が醜く変形。

耳まで裂けんばかりに開いた大口を向けて、味山めがけて急降下。

「いただきま――え」

そのは間違えた。

の見ていた探索者と目の前の男の違いに最期まで気づけなかった。

がし。

無造作に、突撃したは顔面をそのまま鷲摑みされ、きを止める。

「え、え、え?」

ばたばた、ばたばた、ばたばた、ばたばたばた!!

翼を暴れさせる、をねじる。

だが、目の前の男はピクリともかない。

「なんで、なんっ、あはは、なんでなんで!? やめ、離しっ、離して!」

の知る人間とは、餌であり、おもちゃ。

探索者と呼ばれる者もまた同じ、強い者はほとんど神様たちが狩りつくした。

「人間、こら、痛い! 顔、痛い! 摑まないでっ! ほんと、怒るよ!」

故にが行っていたのは殘りの者の間引き。

そのはずだったのに。

「……お前、人間食うのか」

「は、はあ!? 食べるにきまってるじゃん! 私、クリュメノス様の眷屬だもん!! たくさんたくさん食べて、それで」

喚く、翼のきがさらに大きくなって――。

「いや、もういい、狀況がなんとなくわかった、もう、お前はいらねえ」

「え」

「害獣駆除だ」

「ヴ!?」

みし。

耳の大力。の頭蓋は味山の握撃により嫌な音が響いて。

「や、だ、やだ、やだやだやだ!!? な、にこの力、え、やだ!! 死んじゃう! 私。せっかく眷屬になったのに! たくさんたくさん殺して食べたのに! やだ、まだまだたくさん殺したい! 空から落としたり、臓であやとりしたり!!」

「命乞い下手すぎてワロタ」

「あ」

ぱちゅ、短い音ともにの顔が潰れた。

腐った果実のようにどろどろのソレを味山が心底うざそうな顔をしてて放り捨てる。

その手は、青く染まっていた。

「……しゃべる怪種?」

死骸を一瞥し、味山が首を傾げる。

明らかに、よくない。

人の死骸、しゃべる怪種。がれきの山、赤い空。

棺桶の元まで戻った味山がその場に座り込む。

「……トンチキホラー王國の次はなんだ? がれきの災害エリアの冒険か? ふざけんなよ」

ぼやく味山、しかし、あるものが目に映ってしまった。

「あ。國會議事堂じゃね?」

し遠くにその建が見えた。

がれきの廃墟だらけの景の中、それはやけにきれいな姿を殘して。

「おい、ってことは……ここ、噓だろ……」

味山が立ち上がる。

その時だった。

『周囲のサキモリへ、また生き殘った自衛軍、もしくは民間生存者へ。國會議事堂地下避難所に向かってください、繰り返します、國會議事堂地下避難所へ向かってください』

電子音聲が鳴り響く。

「……」

味山は歩く。

がれき――廃墟となった街を。

ニホンの中心地、首都トーキョーを。

自分が先ほどいた場所から國會議事堂が見えたのは、ほかの建が軒並み崩れているから。

赤い空、壊滅した街、死骸がそこらに転がる街を味山が進む。

そして。

國會議事堂、敷地前にたどり著いた瞬間、味山は足を止めた。

「……マジかよ」

串刺し。

ヒトの死骸が、ずらり。

串刺しの死骸ががれきだらけの敷地に並べられている。

TIPS€ ニホン指定探索者・通稱サキモリの死骸

「……サキモリ」

苦悶の表でずらりと並べられた死骸、味山はただ見上げる事しかできない。

そして、ああ、それを見つけてしまった。

黒い大翼、雄々しいはもはや見る影もない。

羽はむしられ、の3分の2はなくなって。

「……お前、八咫烏か?」

敷地の中に転がっている死骸、いや殘骸と呼ぶべきか。

イズ王國でともに神に挑んだ大の、見る影もない姿が。

「……喰われてる?」

探索者の習慣。

死骸への慣れ。

味山がヤタガラスの殘骸を観察する。

傷口はぐちゃぐちゃに噛み潰されている。

骨や翼、固くてのない部分だけが、食い殘されているようだ。

「……熊野は?」

八咫烏を駆っていた者、短い付き合いだが、探索を共にした探索者の事を味山が思い出す。

だが、彼の姿はどこにもない。

「あ」

はっとして、すぐにさっきの並べられた串刺し死骸の元へ戻って。

「……いない」

わずかな、安堵。

知らない人間のなら割と大丈夫な味山も、知り合いのそれを見るのはきつい。

ほっと、ほんの一瞬、気を抜いて……。

「うん?」

何か、妙なものを見つけた。

串刺しの死骸の中に時折、妙なものが混じっている。

「……服?」

服だけ、串刺しになっているものがいくつか。

その中には、スーツや、どこかで見た事のあるダメージタイプの探索服、どこかで見た事のある革の軽裝型の探索服、巫(・)(・)服(・)のような、探索服。村山とネームのついた探索服。

探索服だけが、くし刺しになっているものがいくつか。

「……なんだ、これ」

その問いは、すぐに最悪の形でわかる事になる。

TIPS€ 神種に摂食されたものは――

ヒントが鳴り響くのと。

がちゃん。

空に、扉が現れて。

「あ?」

ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

ゆっくり、ゆっくり、その扉が開いた。

味山只人は、寢坊しすぎた。

味山只人は、主人公じゃない。

だから、この結末は決まっていたのかもしれない。

ひらり。

ひらり。

ひらり。

空中に浮いた扉から何かが落ちる。

ど(・)こ(・)か(・)で(・)見(・)た(・)事(・)の(・)あ(・)る(・)赤(・)い(・)セ(・)ー(・)ラ(・)ー(・)服(・)型(・)の(・)探(・)索(・)服(・)。

貴崎凜の探索服だけが、扉から。

「……あ?」

からん、からんからん。

探索服が、地面に落ちた瞬間、扉からまた別のものが吐き出される。

刀。

見覚えのあるニホン刀、本からへし折れたそれが、地面にごみのように転がって。

「……貴崎?」

ただ、ぽっかりと、その扉の奧にはれてしまえそうな濃い黒だけが殘っていて。

がちゃん。

がちゃん。

がちゃん。

がちゃん。

扉、扉、扉、扉。

ああ、赤い空にいくつもの扉が現れて――。

ヒントが、囁いた。

TIPS€ 神種に完全に捕食された人間は消失する

寢ていたら、知らないうちに全部が終わっていた。

扉が、――開く。

読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!

凡人探索者2巻発売日まであと2週間!

書籍もWEBも楽しんで貰えるようにしますので是非読んでみてください!

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