《骸骨魔師のプレイ日記》深淵大決戦 その七

常に力が減しているのに、回復すれば狂する。エリステルの不思議な狀態が何を原因としているのか、正確なことはわからない。そして原因が気にならないと言えば噓になる。

だが、今重要なのはエリステルに付ける隙を見付けたという事実だ。そして卑怯だと言われようとも、私は勝つために手段を選ぶつもりはない。そしてそれはママも同じようだった。

「ウウゥゥゥワアァァァ…あぁっ!やってくれたな!」

おっと、エリステルはもう正気に戻ったらしい。効果時間は非常に短いらしい。ならば再び回復させてやるだけだ。ママは即座に回復矢を放つように指示していた。

することを嫌がったエリステルは大剣を振るって矢を斬り捨てる。だが矢を防ぐために剣を使えば前衛達を抑えられない。その好きに盾隊が前進して押し込み、その好きに遊撃隊が攻撃を仕掛けていた。

「斉三連よ!」

「この……!鬱陶しい!」

この矢による牽制をより効果的なものとするべく、ママは一斉撃から三回に分けて放つようにしている。最低限の威力を確保した上に、三回の撃全てに回復矢を紛れこんでいるのだ。

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それがわかっているが故にエリステルは無視出來ない。三回の撃、その全ての矢を防がねばならないのだ。二本の大剣を持っているとしても、三回も矢のために剣を振っていては遊撃隊などへの対処が不十分になってしまう。両足や殘った翼だけではどうしようもなく、彼らの接近を許していた。

「オオオッラァ!」

「シィィッ!」

ほぼ同時にエリステルの懐に踏み込んだジゴロウと源十郎がそれぞれ蹴りと槍を叩き込み、続く者たちもそれぞれの獲でエリステルを傷付けて行く。回復矢によってエリステルはしだけ力を回復させたものの、その回復量を上回るダメージを既に與えていた。

ことここに至ってエリステルの秀麗な上半分の顔に浮かぶ表に変化が生まれている。最初は侮蔑、先程までは嫌悪と苛立ち。そして今は焦燥だ。私達は確実に追い詰めている。その手応えをじつつあった。

「このぉ…魔の分際でぇぇっ!ハアァァァッ!」

だが、追い詰められたエリステルは切り札を切ることにしたらしい。頭上の歪な天使のが大きく広がると、奴の全が黒いに包まれる。そのが収まった時、エリステルの全が黒一に染まっていた。

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と黒が綯いぜになっていたエリステルが全を黒く染め上げた。その瞬間にこれまでで何度目かになる衝撃波が放たれる。ダメージはなかったようだが、それ以上に私達を驚かせたのは正気に戻ってからずっと減し続けていた奴の力ゲージがピタリと止まったことだった。

「もう、良い。このが完全なる魔に墮そうとも、もう構わぬ。元より我が敬すべき神に見捨てられしなれば、我がに価値はなし。そして我を見捨てた神にも価値はなし。こうなれば魔に墮すことで得られし悍ましい力をもってして、この世の全て滅ぼしてくれよう…神々に呪いあれ!」

エリステルが神への呪詛を吐くと、ただでさえ巨大であったそのが…正確にはがボコボコと音を立ててさらに巨大化していく。瞬く間に基地そのものよりも巨大になってしまった。

のみが巨大化したこともあり、エリステルの頭部はブヨブヨのの中に埋もれてしまう。しかしその後、頭部以外の部分も巨大化していく上に數も増えて行く。そしてその形狀はより歪に変化していた。

七枚あった翼は枚數に変化はないし、鳥類のような翼は巨大化こそすれ形狀に変化はない。だが七枚目のの翼だけは違う。まるで何本もの枝を持つ大樹のような形狀に変わっているのだ。しかもその表面にあった大小様々な眼球の數はさらに増えている。ウスバの剣を思い出す造形であった。

腕と足は逆に大きさは変わっていないのに數がやたらと増えていた。妙に長い獣のような腕も、手の束である右腳も、そして猛禽類のような左腳も増えているのだ。そして人類と同じ形狀の腕にはそれぞれに羽で作り出された大剣が握られていて、もう何刀流なのかわからなかった。

「アウアアァァ…」

「オォオオォォ…」

「イィギギギィ…」

そして大化したにある顔は數が増え、また一つ一つが非常に大きくなっている。それらが獨立してうめき聲を出していた。

正気を取り戻したエリステルが再び狂した。これは強化と言えるのだろうか?狂していた時の方が弱かったし、ひょっとして弱化したのではないか?そんなことを考えていた私の眼下で弓隊と魔隊の者達が騒がしくなり始めていた。

「ちょっ!?イザームちゃん!【鑑定】しなさい!」

「【鑑定】…なっ!?」

相を変えたママに気圧されるままに私は【鑑定】を行った。すると彼がうろたえるのもわかる結果が示されていたのである。

ーーーーーーーーーー

名前(ネーム):エリステル

種族(レイス):神敵(ジ・エネミー) Lv-

職業(ジョブ):神敵 Lv-

能力(スキル):【神討翼撃】

【神敵剣

【神敵鎧

力超強化】

【筋力超強化】

【防力強化】

【敏捷超強化】

用超強化】

【知力超強化】

神超強化】

【神敵魔

【回復魔

【呪神

【討神】

ノ神敵】

【秩序ニ逆ラウ者】

【加護喰ライ】

【自在翼】

【濁リノ源】

【穢レ広メル翼】

【異形ノ神敵】

【神ヲ憎ム者】

【超速飛行】

【神特攻】

【神脆弱】

無効】

【闇屬無効】

ーーーーーーーーーー

種族(レイス)も職業(ジョブ)も、能力(スキル)までもが変化しているではないか。変化していないのは名前(ネーム)だけであり、仮に名前(ネーム)がなければ同じ個だとは信じられなかっただろう。

そしてこれらの変化と同じくらい衝撃的だったのはレベルという概念の消失だろう。エリステルは様々な意味でこれまで相対して來た敵の中でも規格外過ぎる存在になっていた。

「ニクイイイィィィ!」

「呪ッテヤルゥゥゥ!」

「滅ンデシマエェェ!」

「グオオォ!?」

「クルルッ!?」

「うぐっ!?これは、ステータス低下の呪い?私が!?」

そのエリステルだったが、にある顔が呪詛を吐き始める。すると私の視界に呪いのアイコンが現れた。これは私が…【狀態異常無効】を持つはずのこの私が呪われ、弱化させられているということを意味していた。

を無視しての呪い。プレイヤーが同じことをやろうとすれば『』レベルの大技を使う必要があるというのに、それをいとも容易くやっている。改めて化けだと思い知らされた。

「解呪(ディスペル)…よし、ちゃんと解けるな。だが、解呪(ディスペル)を使っても次の瞬間に呪われる。解呪(ディスペル)は無意味か」

エリステルのの顔はずっと呪詛を吐いており、そのせいで解呪(ディスペル)したとしてもどうせすぐに呪われてしまう。幸いにも広範囲に呪詛を撒き散らしているからか、ステータス低下の呪いは強力とは言えない。もっとステータスを低下させた狀態で訓練した私達にとっては誤差の範囲であった。

このまま戦うしかない。私がそう思ったのとエリステルがき始めたのはほぼ同時である。奴は翼を羽ばたかせて浮かび上がると、ゆっくりとこちらに迫りながら無數にある手足を振り回す。ただ、そのきは正気の時と遜ないほどに洗練されていた。

「ぐああっ!?」

「ちょっ!?強っ!?」

まさかあの見た目でこれほどのきをしてくるとは誰も思っていなかったらしい。盾隊の一部は油斷していたようで吹き飛ばされたり大ダメージを負ったりしていた。

盾隊を庇うためにも弓隊と魔隊、それに防衛兵が一斉攻撃をして釘付けにしようとする。だがエリステルの技量を保ったまま腕が増えるということの意味を思い知ることになるだけだった。大剣を的確に振るい、我々の一斉攻撃は斬り落とされてしまった。

問題はそれだけではない。エリステルは狂している狀態に戻ったことで【回復魔】を自分に使い始めたのだ。ゆっくりと、しかし確実にここまで減らしたエリステルの膨大な力が増えていく。

「くっ!このままでは…!」

「イザーム、戻ったよ!」

呪いをけてステータスが低下し、武の腕前は超一流。恐らくは魔の腕前も同じく超一流で、遠距離からの攻撃は叩き落とす。私の頭の中に絶と敗北の二つが濃く浮かび上がった時、下から私を呼ぶ者がいた。

リンの背中の上からを乗り出した私が下を見ると、そこにはボロボロの姿になったルビー達が戻って來ていた。彼らは何かを包んだ布を持っている。その姿を見て私はほんのしだけ明が見えてきた気がするのだった。

次回は8月18日に投稿予定です。

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