ウォルトさんが冒険者になり、俺達の家でささやかなお祝いを終えた次の日。

新生【森の白貓】は、朝食を終えると時間調整してギルドに向かった。

今日は、姉妹が「ウォルトさんに冒険について教える！」と意気込んでる。

その言葉に、俺は嫌な予がしていた…。

どうしても『反』の修練を思い出してしまうからだ。あの…牛歩戦を…。

「まず、ギルドの扉は元気よく開けましょう！こうです！」

「元気良すぎると、蝶番を壊しちゃいます」

「なるほど」

なるほど…じゃないです。実際、アニカは何度か壊してますからね。

まだ冒険者がいない時間帯だからいいけど、とんだ茶番を見せられながら、とりあえずギルドにる。

「こっちです！」

「Ｆランクが注できるクエストは、この辺りです」

「いろんなクエストがあるね」

「ビビッ！ときたクエストを選ぶのが重要です！」

「第一印象は大事ですね」

「なるほど」

人探しじゃあるまいし、クエストに第一印象もクソもあるかぁ！…と言いたいけれど、迷になるのでやめておく。

「薬草採取…っと……ありますね！」

「本當だ。これをやってみようかな」

「ビビッ！と來てますか？！」

「…きてないかもしれない」

「じゃあ、もっと味しましょう！」

そんなこと言ってたら、いつまでたっても決まらないぞ…。

そんな心配は杞憂に終わり、「このクエストをけてみたいな」とウォルトさんは直ぐに選んだ。

容はほぼ一緒だったけど。

「では、クエスト票を持って付に行きましょ～！あちらです！」

四人で付に向かう。

また姉妹揃ってウォルトさんに何か教えてる。子供じゃないんだから、言わなくてもわかるぞ。むしろ、恥ずかしい。

今日の付は、エミリーさんじゃない。晝番か夕番か？

「おはようございます」

「おはようございます。クエストをけたいんですが」

爽やかに挨拶をわして、手続きを終えるとウォルトさんが戻ってくる。

「なんとかボクでも注できたよ。みんなのおかげだ」

「どういたしまして！」

「早速行きましょう」

誰でもけられるんです…。

Ｆランクのクエストは、冒険者なら誰でもできます。謝はいらないんですよ。

ギルドを出るなり、アニカが俺を見た。

「ちょっと、オーレン！」

「なんだよ」

「やる気が無いなら、ミーリャのところに行け！止めないから！」

はぁ…。疲れる。

「なんでそうなるんだよ」

「さっきから黙っちゃって…。ウォルトさんの初陣なんだぞ！」

「わかってるけど、ウォルトさんは至れり盡くせりよりも、自分で考えてきたい人だ。俺は、訊かれたら答える」

「なにを～！不親切男め！」

「まぁまぁ。三人それぞれってことで」

「みんなの気持ちが嬉しいよ。オーレンもありがとう」

「いえ」

ウォルトさんは微笑んでくれる。

本當は、俺だって一から教えてお世話したい。山ほどお世話になってるんだ。

でも、ウイカとアニカの喜んでる気持ちもわかる。だから、必要なときに力を貸せたらそれでいい。

あと、いちいちツッコんでたら、が持たない。

★

やってきたのは、ギルドでも推奨される薬草の分布區域。

比較的安全な場所だけど、俺達は初クエストで死にかけた。教訓としてに刻まれている思い出。

「それでは、私達がウォルトさんに薬草採取のイロハを説明します！」

「張せずに聞いてください。質問もけ付けます」

「ありがとう。凄く助かるよ」

「まずは…クエストの対象になる薬草を探します！」

凄く當たり前のことを、聲高らかに言う。

「これだよね」

ウォルトさんは簡単に探し出して指差した。

「正解です！さすがウォルトさん♪できると思ってました！」

「見つける早さが、Ｆランクじゃないです」

「大袈裟だよ」

右も左もわからなかった俺達に、薬草の知識を授けてくれたのはウォルトさんだ。

師匠に対して、よく堂々と上から言えるな…。

「薬草を抜くとき、効用がある部分を傷つけたり、千切れてると鑑定評価が下がります！そっと、優しくです！」

「なるほど」

「あと、短時間で多く集めて持ち込んだ方が喜ばれます」

「鮮度を保つ意味かな？」

「その通りです！さすがです！」

「ということは、『保存』を付與すると、より良いのかな？」

「ダメです！」

「劣化を防げると思うけど、ダメなんだね」

「ウォルトさんが魔法使いだとバレます。ギルドの鑑定人はプロですから」

「そうか…。そこまで気が回らなかった」

…意外にちゃんと教えだしたな。

今のは良いアドバイスだと思う。ウォルトさんは、よかれと思ってできることを々やってしまうに違いない。

目立ちたくないと言いながら、普通のＦランクにはできないことをやってしまう可能大。

その後は、順調に薬草を摘んでいく。もちろん俺も手伝う。

「ウォルトさん！摘むのが早すぎます！」

「そうかな？早い方がいいんだよね？」

「怪しまれます！Ｆランクは、まだ薬草を見分けるのにも慣れてない冒険者ですから！目立っちゃいます！」

「新人らしい振る舞いを心掛けるといいです」

「そうかぁ。奧が深いなぁ」

話が違う方向へ進んでる気がするけど、姉妹が言ってることは間違ってない。あまり早いと、絶対に目立つもんな。

ウォルトさんは、サバト騒のとき目立ってしまったことを、猛烈に反省してた。細心の注意を払うように心掛けないと、あの時の二の舞になる。

あと、一つ訊いてみよう。

「ウォルトさんは、薬草をどうやって見分けてるんですか？」

「皆と同じだよ。ざっと見渡して、一つ見つけたら他も自然に判別できる」

「視界の中を一気に…ってことですか？」

「そうだね。生えてるところが、ほんのし浮き上がるように見える。花が付く薬草なら、匂いでもわかるよ」

…よし。知ってたけど、參考にならない。

その後も、のんぴり採取を続ける。

「もう量は充分ですね！」

「良いじだよね」

「一つ訊いてもいいかな？」

「どうぞ！」

「もし、採れるだけ採って持っていったらどうなるの？」

「クエスト達に必要な量以上採取しても、基本的に買い取りの報酬は変わりません！薬草に限らず、絶対數を減らして繁を妨げる行為はやっちゃダメです！魔なら別ですけど」

「ギルドは、長い間この區域を新人冒険者の経験を積む場所として守っているらしいです。荒らすような行為は、慎むように言われます。だから、報酬も増えないんです」

「よく考えられてるね。教えてくれてありがとう」

ウォルトさんはそんなことしないだろうけど、これはフクーベ冒険者のルール。

カネルラでも、ギルドが違えば多ルールに違いはあるらしい。フクーベのギルドは、自然を保つことに力をれている方かもしれない。

「お腹空いたね！」

「そうだね」

「ご飯にしようか」

ウォルトさんは、朝から張り切って弁當を準備してくれてたけど…。

「ちょっといいですか？このまま、ギルドに報告に行きませんか？」

「ボクは構わないけど」

「えぇ～！お腹空いたよ！」

「ちょっとくらい我慢しろよ。今日はウォルトさんの初陣だ、って言ったのはお前だぞ？素材は新鮮な方が良い、って言ったのもウイカだ」

「それはそうだけど…」

「やるべきことを、きちんとやってからゆっくりする。それが冒険者らしさじゃないのか？長い移とかなら別だけどな」

「むぅ…。その通り…」

「ウォルトさんの初冒険は、良い評価をけてもらいたい」

仲良くやるのは、もちろん賛。でも、俺達は冒険者としてウォルトさんの先輩だ。いい加減は良くない。

薬草採取であっても、最高の果を殘したい。

「…よし！オーレンの言う通りだ！ギルドに行こう！」

「うん。それがいいね」

普段はきかん坊でも、ちゃんと話せばわかってくれる。だから、二人とパーティーを組んでいられるんだ。

「オーレン。気遣ってくれてありがとう」

「気にしないで下さい。俺は、今日だけは冒険者の先輩だと思ってます」

「今日だけじゃなくて、ずっと先輩だよ」

「いえ。明日からは、同じパーティーの仲間です」

「住み家では弟子ですからね♪」

「混同しちゃだめですよ」

ウォルトさんは、ニャッ！と笑う。

「今日だけ、花を持たせてもらうよ」

「そうしてもらえると嬉しいです」

薬草を紐で綺麗に括り、丁寧に袋に詰めてフクーベに向かう。

「みんなに言いたいことがあるんだ」

歩きながらウォルトさんが口を開いた。

「なんですか？」

「まだクエストは終わってないけど、皆のおかげで無事に達できそうだよ。ありがとう」

「大袈裟ですよ」

「そうですよ！」

「アニカとウイカは懇切丁寧に教えてくれて、オーレンは心のを汲んでくれた。皆で何かを達するのは、楽しいことだね」

そう思ってもらえたなら、とても嬉しいことだ。

ちょっと確認してみよう。

「煩わしさもじたんじゃないですか？」

「それはある。でも、守るべきルールをきちんと守って冒険することは大事なんだね。制約の中で、どれだけ楽しめるか。薬草採取しかしてないのに、そんな気がしたなぁ。ボクは、君達を尊敬するよ」

「尊敬しなくていいです！ウォルトさんも冒険者になりましたから！たまにしか冒険しなくても、一緒に楽しみましょう！」

「アニカも、たまにはいいこと言うな」

「たまには余計だ！」

「そうなれるといいけどね」

「なるんです！」

「私達も手伝います」

もう一丁、訊いてみるか。

「ちなみに、俺達と組んで面倒くさくなかったですか？」

「なんてこと言うんだ！この愚弟！」

「そうだよ！」

「面倒くさくなんてない。ボクは、君達としか組める気がしない。一時的ならマードックや知り合いとも組めるだろうけど」

有り難い言葉。

「もし、俺達が他の冒険者を増員したらどう思いますか？」

「とても良いことだと思う。ボクはパーティーを抜けるけど」

「えぇ～！なんでですか！？」

「そんな寂しいこと言わないで下さい」

「昨日も言ったけど、君達の邪魔をしたくないからね」

「邪魔じゃないです。ウイカもアニカも同じ気持ちだと思います」

二人とも激しく同意してる。

「ボク自の格の問題なんだ。よく知らない人と、長く話したり一緒にいたりすると、獨りになって現実逃避する時間が必要になる。そうしないと、心が休まらないんだ」

「そうなんですか？！」

「うん。今はかなり改善されたんだけど、頻繁には無理だと思う。そんな奴がパーティーにいたら、誰だって嫌だと思うから」

「知らなかったです…」

「初めて言ったからね。だからといって、ボクに気を使って、メンバーを迎えれないのは絶対ダメだよ。そんなことをされたら、申し訳なくて皆に會えなくなる」

「わかりました。その時は、ちゃんと言います」

「ありがとう。君達とは冒険者だとか関係なく、ずっと友達だと思ってる。だから、遠慮しないで言ってしい。ボクは、皆のことが好きなんだ」

はっきり教えてくれるのも俺達だからだろうし、気遣いをじる。

無下にしちゃいけない。

…ん？

「ウォルトさん…」

「もう一度いいですか…？」

「もう一度って、なにが？」

ウイカとアニカは何が言いたいんだ？俺もわからない。

「さっきの言葉…もう一回言ってもらっていいですか？」

「さっきの？よく知らない人と話したり…」

「もっと後です！」

「それだと…気を使っちゃだめ…」

「もうちょっと後です！」

コイツら…。まさか…。

「君達とは冒険者だとか…」

「もう一聲！最後の部分です！」

「ということは……皆のことが好きだよ？」

「「はうっ！！」」

マジでアホだ…。アホ姉妹がいる…。

「『みんな』のところを…名前に変えてもらっていいですか…？」

「アニカのことが好きだよ」

「はぅぅ！！」

「ウォルトさん…。私もお願いします」

「ウイカのことが好きだよ」

「はぁぅっ…！！」

至福の表を浮かべるアホ姉妹…。

そして、『ニャんなんだ？』と首を傾げるウォルトさん。

知ってたけど、この人の鈍さは尋常じゃない。もはや異常の域。欠片も気付かないのは大したもの。わざとやってると思われても仕方ないレベル。

姉妹の好意に気付いていたら、恥ずかしくて口に出せないはず。それくらい俺でもわかる。普段から思っていて、深い意味もなく口にしてるから、二人の行は意味不明だろうな。

「はっきり好意を示してもらって、喜んでるだけですよ。気にしなくていいです」

「そっか。わかってると思ってた。オーレンのことも好きだよ」

「ありがとうございます」

面と向かってはっきり言われると、もの凄く照れ臭いな…。なんとなくコイツらが有頂天になる気持ちが理解できた。

でも、嬉しく思うし、俺もミーリャにちゃんと気持ちを伝えるようにしなきゃな。

ふやけた姉妹の回復を待って、再びギルドへ向かった。

★

「素材の確認が終わりました。綺麗な狀態での採取、ありがとうございます。こちらが報酬です。初クエスト、達おめでとうございます」

「ありがとうございます」

四人での初クエストを終えたウォルトさんと俺達は、ギルドの付で報酬をけ取って笑い合う。

「報酬を四等分しよう！」

「そうだな」

「初のクエストを終えて、どうですか？」

「凄く慨深いよ。一生忘れないと思う」

け取ったお金を、ウォルトさんは大事そうにしまった。

「家に帰って、お弁當を食べましょう！」

「待ちに待ったご褒です」

「確かにな」

「食材も買って行きたいけど、いいかな？追加で料理を作りたくて」

「お願いします！」

食材を買って、住み慣れた我が家に帰宅する。

ウォルトさんの溫かい手料理と、弁當も並べて四人でテーブルを囲む。

「ん～！♪」

「味しいです！♪」

「ありがとう。もし、一緒に遠出の冒険をすることがあれば、野外料理を作ってみたいなぁ」

「ふっふっふ！もう、クエストをけてます！」

「うそつけ。けてないだろ」

「やかましい！」

また一緒に行こうと思ってくれてることが嬉しい。俺達も、先輩としてウォルトさんに負けないよう進しよう。

あと、大事なことを言っておきたい。

「今日はウォルトさんに々と偉そうに言いましたけど、これだけは絶対覚えておいてほしいです」

「なんだい？」

「信じられないかもしれないですけど、森に住んでるウォルトさんは、薬草の採取や鉱石の採掘に関して、既にＦランクの初心者より上です。普通にこなしてしまうと、間違いなく目立ちます。決して大袈裟じゃなくて」

「そうなのか…。目立つのは嫌だな」

「手を抜く必要は無いんですが、かなりゆっくりこなすくらいでいいと思います」

「なるほど。今日くらいの早さなら？」

「俺は丁度いいと思いました。四人ならあの位です」

「オーレンの言う通りで、時間はかかっても確実な達を心掛けるといいかもです！そうすれば、目立ちません！」

「丁寧な仕事は、ちゃんと評価してくれますし」

「ありがとう。評価は気にせず、行を気にしてみるよ。でも、不用なんだけどうまく出來るかなぁ？」

それが一番の問題。ウォルトさんは、他人を過大評価する癖がある。

…そうだ。

これならイケるんじゃないか。

「ウォルトさんは、俺達がＦランクの新人だった頃から、ずっと長を見てくれてますよね」

「うん」

「だから、出會ったばかりの俺達を基準にすると上手くいくと思います。薬草すら知らなかった頃の」

「普通の新人は、あの位の知識しかないんです！他の新人も何人か知ってますけど、私達と大差なかったです！」

「私も二人と同じでした」

「皆のＦランク時代を思い出しながら、同じように…。それなら出來る気がしてきたよ」

ウォルトさんは記憶力が良いし、これで一安心だな。

「ボクは、冒険できたことも嬉しかったけど、皆が上手くいくように考えてくれたことが何より嬉しい。本當にありがとう」

「どういたしまして！」

「冒険には、いつでもってくださいね」

「俺達は、いつでも付き合います」

「本當にたまにかもしれないけど」

「オーレンがいらないときは、事前に遠慮なく言って下さい♪その時は、両手に花です♪」

「私達だけで手伝いますね」

いい話をしてたのに…ぶっ込んできやがって…。

毎度毎度……もう許さん！

「ふざけんな！逆に俺だけ行ってやる！」

「なんだとぉ～！そんなことしたら解散だ！そして、サマラさんとチャチャをう！ウォルトさんも、足劇臭よりそっちの方がいいですよね？！二人は良い匂いがしますから！」

「い、いや。そんなことは…」

「誰が足劇臭だ！？あったまきた！！俺が頭數を揃えるんで、コイツらをクビにして、男だけの無骨な冒険をしましょう！アテはあります！きっと面白いですよ！」

「お、面白そうだね…」

「ウォルトさんは、知らない人と長くいれないって言ってるだろ！脳みそ無いのか？！知能低すぎか！」

「嫌がることをしようなんて、どういう了見なの！？」

「惚けのお前らよりマシだ！役立つ報の一つも師匠に教えられない…不肖のバカ弟子共が！」

言い爭いはしばらく続き、止めようとしてくれたウォルトさんは、疲れた表で家を後にした。

いつも最後に気を使わせて、三人で反省して終わる。けれど、繰り返すということは結局反省してない。

今後、俺達の喧嘩が原因で「一緒に冒険するのはちょっと…」と思われたくない。

今回こそ反省しよう。

そして、気持ちよくまた冒険に行くんだ！