《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》
「タッくん、久しぶりだね☆」
「……アンナ。どうして?」
俺の隣りに立つ金髪のハーフは、間違いなく本だ。
幻影などではない。
その証拠に、2つのエメラルドグリーンを輝かせている。
しかし、なぜ?
「あのね、ミーシャちゃんが教えてくれたの☆」
「ミハイルが?」
目の前に本人がいると言うのに、驚いてみせる。
だって俺は、アイツに絶されたから……。
もう二度と會ってくれない。そう思っていた。
「うん☆ なんかSNSを見ていて、タッくんがどんどん痩せているから。心配なんだって」
「そ、そうか……ミハイルが、俺を心配してくれたのか……」
安心したところで、どっと気が抜ける。
その場で、地面に倒れ込んでしまった。
するとアンナが慌てて、俺のそばに駆け寄る。
「タッくん!? 大丈夫? やっぱり食べてないから、元気がないんだよ……アンナが作ってきたから、あそこで食べよ」
「え?」
アンナに手を引かれて向かった先は、一ツ橋高校の校舎。
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玄関の近くに、ベンチが1つだけある。
ベンチの下には、錆びたペンキ缶が置いてあった。
ここは、宗像先生がスクリーングの時だけに、設ける喫煙所だ。
ヤンキーだけが、利用する場所なのだが……。
今朝は誰も使っていない。
きっと、朝が弱い……というか、やる気がないからだろう。
「さ、タッくん。ここに座って。また倒れちゃうよ?」
「ああ……でも、俺は學校へ來たんだ」
そう斷ろうとしたが、アンナの馬鹿力で強制的に座らせられる。
「ダメだよっ! 今のタッくんは、栄養不足で危ないんだから!」
「わ、悪い」
とりあえず、ベンチの隣りにリュックサックを置いて。
彼に言われるがまま、黙ってベンチで休憩することに。
アンナは持參してきた、かごバッグの中をごそごそと探している。
そこで、俺はようやく気がついた。
髪が長いことに。
この前ミハイルに會った時は、ショートカットへばっさりと短くしていたのに。
彼の橫顔をまじまじと眺めていると、アンナが視線に気がつく。
「どうしたの? 何かアンナの顔についている?」
「いや……髪型が変わってないなって」
「なに言っているの? アンナは最近、容室とか行ってないよ?」
「そ、そうか……じゃあ、気のせいだな」
ひょっとして、ヅラか?
※
「さ、タッくん。朝ごはんを作ってきたからねぇ☆」
そう言って、弁當箱の蓋を開けるアンナ。
中には、とりどりの材が挾まれたサンドイッチが、ギッシリと詰まっていた。
おしゃれなワックスペーパーで、1つずつ包まれている。
最初に渡されたのは、卵サンド。
手に持つと、まだ冷たい。
彼が持ってきた弁當箱をよく見ると、保冷剤が目にった。
傷まないように……アンナの優しさをじる。
「いただきます……」
恐る恐る、ひと口かじってみる。
正直、怖かった。
なにもけつけない毎日だったから、アンナの食事でも吐き出してしまうのでは?
という恐れがあった。
「……っくん。うまい」
それを隣りで聞いたアンナは、パーッと顔を明るくさせる。
「良かったぁ~! まだまだおかわりがあるから、食べてね!」
「ああ、ありがとう。アンナ、これなら食べられそうだ……」
「うん☆ 魔法瓶に溫かいトマトスープをれているから、それも出すね☆ がぽかぽかするよ☆」
そう言って、コップにスープを注ぐアンナ。
彼が言う通り、まだ溫かいようだ。湯気が立っている。
ふと、アンナの橫顔を見つめると、緑の瞳に涙を浮かべていた。
サンドイッチを頬張りながら、呟く。
「アンナ……」
「タッくん。もっともっといっぱい食べてね☆ これからちゃんと食べられるまで、アンナが作ってあげるから!」
「すまん」
ん? 食べられるまで?
どういうことだ?
※
まだ弁當を食べている際中だが、そろそろ生徒たちが校舎に集まってきた。
普段はヤンキーが、タバコを吸っている喫煙所なので。
悪目立ちしていた。
すれ違う生徒たちの視線が、気になったのか。
アンナは慌てて、ベンチから立ち上がる。
「ご、ごめん。タッくん! アンナ、やることがあったの! ちょっと2階の事務所に行かなきゃ……」
「へ?」
「タッくんはまだ食べていてね☆ 食べられるなら全部食べるんだよ!」
「お、おう……」
卵サンドを食べ終え、今度はレタスサンドを味わっている。
非常に味い。
レストランに出していいレベルだ。
「じゃあ、またあとでね☆」
そう言うとアンナは、一ツ橋高校の玄関へと走り去る。
「……」
一人取り殘された俺は、溫かいトマトスープをすする。
「っはぁ~」
青空の下で妻弁當を、食べられるとか。
幸せだなぁ……って、何を気取っているんだ俺。
部外者であるアンナが、なぜこの一ツ橋高校に來たんだ?
しかも、2階の事務所へ向かった。
わ、分からん……。
彼に言われたからではないが、とりあえずアンナの作った弁當は殘さず、キレイに全部食べた。
空になった弁當箱を持って、俺も校舎の中にり、2階へと上がる。
今日から俺は、2年生になったので。
教室も隣りのクラスへと移することになった。
ちなみに教室棟の2階は、3クラスしかない。
だから、真ん中のクラスへ移ったってことだ。
教室のドアを開くと、既にホームルームが始まっていた。
遅れてってきた俺を見て、宗像先生がギロっと睨む。
「新宮! 進級したばかりなのに、遅刻か!? たるんでいるぞ!」
えらく機嫌が悪そうだ。
「す、すみません……食事を取っていたので」
「な~にが食事だっ! 終業式をサボりやがって! 去年の単位を全部はく奪しちまうぞっ! 早く席に著け!」
「はい……」
ていうか、俺。
本當は今日、退學屆を出しに來たんだけどな。
いつもの癖で、教室にってしまった。
前のクラスと同じ位置にある、席へ著くと。
後ろから、肩を突かれる。
「ねぇねぇ……」
振り返ると、赤髪のギャル。花鶴 ここあが座っていた。
専屬絵師のトマトさんは、なぜか床で正座している。
ここあに怒られているのかと思ったが、「ブヒブヒ」言いながら、彼の太ももを拝んでいるので。仲は良いのだろう……。
「どうした? ここあ」
「オタッキーさ。その後どう? ミーシャは戻ってきそう?」
「それなんだが……」
言いかけた瞬間、宗像先生が怒鳴り聲を上げる。
「こらぁっ! 新宮と花鶴、私語は慎め! 額にナイフを投げちまうぞ、バカ野郎!」
「す、すみません……」
だから、いつまでそのネタを引きずっているんだよ……。
「ええ……話が逸れた。ごほんっ! 古賀 ミハイルについてだが、事があって遠くへ引っ越すことになった」
宗像先生の話を聞いた俺は、驚きのあまり席を立つ。
「そ、そんな……ウソでしょ? 先生っ!?」
立ち上がった俺を注意せず、宗像先生は黙って首を橫に振る。
ただ、人差し指をに當てていた。
黙って見ていろってことか。
「古賀は休學となるが、いとこの子が編してくることになった。お前たちと同じ2年生だ。仲良くしてやれ」
「まさか……」
「おいっ! そろそろ良いぞ。教室にって來い!」
先生が手招きすると、教室の扉がガラっと音を立てる。
現れたのは、先ほど俺に妻弁當を作ってきてくれただ。
「初めまして。古賀 アンナです☆ 皆さん、今日からよろしくお願いします☆」
禮儀良く、おじぎをする金髪のハーフ。
「な、なんで……?」
ミハイルじゃなくて、アンナが戻ってきたのかよ。
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