《現実でレベル上げてどうすんだremix》W-011_狼子供と約束の地へ

八月になってしまった……

~~~

うなりごえ。

さけびごえ。

らんぼうなもの音。

ふれているが、すこしずつつめたくなっていく。

「――! ~~~ッ?!」

「ッ!! ――!?!」

おもたいクサリにつながれて、かたいオリにれられて。

ゴトゴトゆられて、はこばれていくとちゅうだったのだと思う。

「?!!」

「ッ~~、~~!??」

なにか黒くておおきなモノが、すごいいきおいでオリへとぶつかって、

上も下もわからないくらいあちこちぶつけて、それから止まって、今こうなっている。

「…………」

背中からつつみこんでくれているのは、おじいのおおきな

おおきなモノがぶつかると、すぐにかばうように、だきしめてくれたおじいだけど、

今はもううごかなくて、どんどんつめたくなっている。

いつのまにか、さけびごえともの音がやんでいる。

けれどもうなりごえは、まだつづいていて、

だんだんおおきくなって――ちかづいてきている。

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「…………ッ」

そうして黒くておおきなモノは、目のまえに。

もうオリにはかこまれていない。ぶつかったときにそとに出たのだろう。

つまり、さえぎるものは、なにもない。

「――ッ!!」

ふり上げられる、黒くておおきな腕。

やがてその腕は、こちらにいきおいよく、ふり下ろされる――

「ああ」

そのまえに、

ふと、おだやかなこえ。

「一人だけか、生き殘ったの」

そのひとはなんでもないように、すこし先の木のそばに立っていて。

それに気づいた黒いモノも、腕をもどしてそちらへ向きなおってしまって。

おきていられたのは、そこまでで、

彼が來たのがきっかけのように、目のまえはまっくらになっていった……

いつものように【境界廊】を抜けた俺、久坂(くさか)厳児(がんじ)。

出た先は夜の森で、ひとまず子機と【マッパー】を確認したところで、気づく。

知範囲の端のあたりに、表示あり。

しかしいくつかはすでに死んでいることを示す灰になっていて、

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それがさらに、ひとつずつ増えている。

おそらくは急場に違いない。善意を押し売る機會と走り出す。

そうして出來る限りは急いだつもりだったが、

「ああ、一人だけか、生き殘ったの」

辿り著いて、思わず呟く。

まず見えたのは黒い、ゴリラと蝙蝠を足したようなでかい生きもの。

すこし遠くに荷車と檻を合わせたようなものがひしゃげ、橫転していて、

その手前に、この場でまだ生きている最後の人間。

暗くてよく見えないが、どうも子供を抱えてうずくまっているらしい。さて生きているのはどっちやら……

「ぐごりるるるるるる……っ!」

確認しようにも、黒くてでかいゴリラ蝙蝠が俺の前に立ち塞がっている。

気づかれたその時から【警戒】は働いている。つまり害意は満々の相手だが、

「どっか行け。怪我したくなかったら」

「――!!」

【威圧】しながら言えば、「どっか行」のあたりでもう逃げ出していた。

うん。野生への対処はこれに限る。獲って食べるならその限りではないが、手持ちの食糧にはまだ余裕があるし……なによりまずそうだなあれは。変な病気持ってそうだし。

「さて」

ひとつ息吐き、生存者の元へ向かう。

「…………」

どうやら生きているのは子供のほうで、それを抱えている老人はすでに事切れていた。

しかし生きているほうもあまりいい狀態とはいえない。まるで長いことまともに食べていなかったかのように痩せていて、寢ているのではなく気を失っているのだと、condからもわかった。

「ん?」

ひとつ、俺は思い違いに気づく。

人間、かと思っていたが、

よく見れば犬のような耳と尾が、老人にも子供にもついているではないか。

~~~

いつもさむくて、ひもじかった。

寢るのはかたい板かつめたい石の床の上で、かぶれるのもうすいぼろ布だけ。

たべものはさめたスープとかたいパンがもらえるくらい。もらえない日もあった。

オリにれられてすごし、そとへ出られるのは仕事のときだけ。

おもたい荷運びや、おわらないほり。

見はりの人間にはどなられ、ぶたれることもしょっちゅう。

そうしてずっと、すごしていた。

いつもさむくて、ひもじかった。

そうでないときなど、なかった。

そのはずなのに、

今はなんだか、あたたかい。

やわらかくて、ふわふわしている。

それになんだかいいにおいまでしてきて……

「――……」

目がさめる。

寢ていたみたいだった。

まず見えたのは、ぱちぱちという火の明るさ。

そしてそのまえにすわる、だれかの背中。

……おじい?

「あ、起きたか」

そう思ったけれど、

ふりかえって見えたのは、しらない人間のかおで――

「ッ!?」

「ああ、そんなびびんな。なんもしやしねえよ」

後ろで音がしたので振り返ってみれば、犬的な子供が目を覚ましていた。

俺の顔を見るなり、酷く怯えた様子でを強張らせるそいつ。

ひとまず落ち著かせようと聲をかけつつ、ついでに無害を示すために両手も上げてみる。

「……っ」

その作にさえ怯えを滲ませていた子供だが、

ぐぅ、と。

結構な響きの腹の蟲。

「――ッ」

「腹減ったか。ちょっと待ってな」

それをけ、俺はそう言ってから焚き火のほうへと向きなおる。

火には鍋がかけられていて、その中は……豚、的なものだ。たぶん。

【境界廊】の起後、最初に移した世界でしこたま拾った即席食品だった。俺からすると遠未來な雰囲気の代で、個包裝で一食分の栄養が摂れる優れもの、と聞いた。包みを解き、一化している固形を沸かした湯の中に放ってすこし混ぜるだけと、作りかたも手軽すぎるほど手軽。

そして味のほうは、完全に豚。全として味噌風味ので、豚やら人參やら大っぽいもの、あと豆腐っぽい半固形などがとしてっている。……なんでそんな曖昧な表現かというと、すべて合品という話なので。

そんなじで原料も製法も不明だが、食べるぶんには問題ないどころか味いと言っていい代

「あいよ」

「…………」

それを椀に盛って差し出してみるが、犬的な子供はこまらせたまま。

すっげえ涎出てるけど。布がべちゃべちゃになる勢いで。

しばしの間は困、逡巡が見られたが、

「……――」

やはり空腹が勝ったのか、やがてやおら起き上がり、そろそろと近づいてくる。

おずおずとばされた手に、椀と一緒にスプーンも渡してやれば、

「――、!」

恐る恐る、一口。

それからは一心にむさぼりはじめる。

てか熱くねえのかな。わりと煮立っていたけど。

「!? ~~~ッ」

「ああ、落ち著いて食え。誰も盜りゃしねえから」

思った端から、案の定。口開けてはひはひしている子供。

聲をかければこっちを窺い、椀に視線を戻しまたこっちを見る。困り顔。

まるでどうしたらいいかわからないような……もしや羹(あつもの)を食ったことないのか? こいつ。

「冷まして食え冷まして。ふうふう、だ」

「ふぅ、ふぅ?」

「掬って、息吹きかけて、そんで食う。な?」

振りもえて伝えれば通じたようで、今度は冷まし冷まし、先程より落ち著いて食べ始める。

こういう面倒を見なきゃならん歳には見えねえが……詳しく【見る】とやはり、歳は六つ。でもって、この名前……

訳ありそうなのは會ったときに窺えたが。

まあ諸々はあとで考えよう。今日はどのみち、このまま野宿だろうし。

そう思い、俺もまた自分の分の椀を用意し始める。

ぱちぱち、と焚き木がぜる音。

「……寢てんな」

振り返れば、布に包まって眠る犬的な子供。

食事が済んだあと、すぐにまた倒れるように寢ってしまったのだった。“cond:睡眠”とあるので一応は心配もないだろうと布だけかけてやって、今はこの狀態。

しかし、どうしたもんか。

とりあえず當てが外れたのは確かと言える。恩を売って食い寢床をそれとなく用意してもらうつもりが、逆にこちらがそれを用意する側になるとは。

まあ、べつに切羽詰まってるわけじゃないから出來たこととも言える。大量に拾った保存食等は割かし底をつき始めているが、それでも明日明後日でなくなるほどではない。貸してる布も念のため取っておいた予備のもの。テントなどは元々持ってないが、それは〔結界〕があるから持たなかったものでもある。

〔結界〕――、事象の出りが任意になる領域。これで屋がなかろうと雨風は凌げるし、気溫度を一定に保つのも難しくない。今いる場所は春か秋くらいの気候のようだが、おかげでとくに寒いといったこともない。

〔収納〕での荷の持ち運びもそうだが、旅も野宿も、元々俺は普通の人よりかなり手軽な分だ。けど選べるなら屋で寢たいし、それにどうせ旅しているのなら現地のものを食ってもみたい。

だから“とりあえず人助け”の行方針をとっているが……まあ今回のように當てが外れることはままある。

それでも孤児(みなしご)を拾うことになるとは思ってなかったが。

「孤児、っつうか、」

奴隷。

……とかだよな、たぶん。

じつは子供が寢ったあと、最初に出會った場所へと俺は一度戻っている。

などをそのままにしておくのもどうかと思ったからだ。またさっきのような謎獣などが集まってくるとも限らないしと、ひとまず散していたそれらをいくつかにまとめて埋葬した。

無論、一人でではない。大部分は土の霊であるグラ爺に手伝ってもらった。【巌窟】という力でを掘り、埋めたら今度は適當な巖を見つけて【巖塑】で墓石っぽく加工して置き、墓らしくしておいた。

埋めたは、六と一頭。

うち三は子供を見つけた檻つき荷車の周囲にあり、あの老人含め皆みすぼらしい格好。そして耳や尾など、獣の特徴を持っていた。

そこから斜面を登った先には損壊した馬車と比較的しっかりした道があり、荷車はここから転げ落ちたものと思われた。

他のを見つけたのもここ。者だろう一人となりのいい二人、そして一口齧られたような馬の死。馬車は二頭立てっぽいから一頭は逃げたんだろうが……問題はそこでなく。

狀況から、檻のまわりの獣的な人らは奴隷で、馬車のほうはその雇い主、いや所有者か。

そしてこの子供またも奴隷に含まれるのだろう。ステータスに見える“name:47番”という表記もそれらしいし。

こうなるとまずやるべきは、子供をしかるべき場所に屆け出ることか。

馬車はもう走れそうにないし通行の邪魔だから道の脇にどけといたが、中に積んであった荷や書類、そして金品等は一応拾って〔収納〕してある。

これら含め子供もまた馬車に乗ってた人らの持ちもの(・・・・)、つまりなら、やはりまず憲などに屆けるべきだろう。なくとも、現代的な道義に則れば。

もっとも、この世界での道義はわからないが。あるいはねこばばしても問題ないかもしれないが、事は穏便に済ませたほうが、波風も立つまい。

まあどれだけ気をつけようと立つときは立つのが波風だし、

またたとえどうなろうと、たぶんどうとでもなる。

そんな気もするが。

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