銃弾が撃ち込まれると、ハガネが発生させていた磁界によってコロナ放電にも似たが放狀に広がるのが見えた。空気を震わせる鈍い音が聞こえたのは、そのすぐあとだった。敵の攻撃に反応したショルダーキャノンから、ほぼ無意識に〈貫通弾〉が発されたのだ。

攻撃をけた兵士の(からだ)は衝撃でズタズタに破壊され、赤い煙を殘してグチャグチャに吹き飛ぶ。

と、森の上空を旋回していた徘徊型兵が急降下し、凄まじい勢いで地面に衝突し散する。衝撃波が広がり砂煙が立ち込める。すると周辺一帯に潛んでいた兵士たちの學迷彩裝置が一時的に作不良を起こして、眩(まばゆ)い電のあと、兵士たちの姿が(あら)わになる。

すばやく視線をかして兵士たちに標的用のタグをり付けると、ショルダーキャノンからフルオートで〈自追尾弾〉を発する。乾いた破裂音のあと、頭部を失くした兵士たちがバタバタと倒れていくのが見えた。

敵の掃討を確認すると、ハガネの検知機能を使って接近してくるものがいないか調べる。昆蟲の群れだと思われる反応を多數検知したが、兵士たちの反応は確認できなかった。けれど、もっと厄介なモノが接近してきていることが分かった。

『戦闘車両の接近を確認』

カグヤの言葉のあと、接近する多腳車両(ヴィードル)の報が拡張現実で表示される。

「戦闘用に改造された車両か……」

『未知の兵を搭載しているみたいだから気をつけて』

「接近されるまえに破壊する」

よじれた枝を持つ黒い木によじ登ると、太い枝の間から車両の姿を確認する。軍用規格の複合裝甲を裝備した本格的な戦闘車両のようだ。〈収納空間〉から狙撃用に調整された高出力のレーザーレイフルを取り出す。

細長い銃を持つライフルは、藍白(あいじろ)に塗裝された角筒狀の外裝で覆われていて、銃の上部に〈超小型核融合電池〉を挿するための開閉機構が取り付けられているのが確認できた。ライフルの電源をれようとすると、電池の裝填方法が視線の先に表示される。

モールベルトに吊るしていたユーティリティポーチから四角い電池を取り出すと、簡単な図で表示されていた説明に従って電池を裝填する。カチッと小気味いい金屬音が聞こえると、銃が飛び出すようにびて、複雑な機構によって外裝が裝著されていくのが見えた。

すると電池の挿口の近くからフラットケーブルがびるのが見えた。そのケーブルを長くなった銃下部に接続すると、わずかな振とともに低くて鈍い電子音が聞こえて、撃準備完了の表示が視線の先に浮かび上がる。

火というよりは、どこか舊文明の先進的な工にも見えるライフルを構えると、外裝に組み込まれていた照準があらわれる。その照準を使って接近してくる車両の姿を捉(とら)える。間を置かずに引き金を引くと、車両に向かって赤い閃が放たれて、空気を震わせる鈍い撃音が聞こえた。

直後、接近する戦闘車両の縦席付近の裝甲が熔解(ようかい)して、制を失った車両が樹木(じゅもく)に衝突するのが見えた。それと同時に視線の先に無數の警告が表示されて、白い煙を吐き出しながら電池が強制排出される。

電力不足による撃不可、それに電池の再裝填を要求する警告表示を消すと、熱で真っ赤になっていた電池とレーザーライフルを〈収納空間〉に放り込む。多腳車両の裝甲を熔解させ、その搭乗者を跡形もなく消滅させた閃は地面にも傷跡を殘していて、穿(うが)たれた地面に底のないができているのが見えた。

「さてと……」

そう言って枝から飛び降りようとした瞬間、小さな黒い影がハガネの磁界を突き破るのが見えた。それは一瞬の出來事だったが、まるでスローモーション映像を見ているかのようにじられた。

凄まじい衝撃をけて後方に吹き飛び、泥道を抉(えぐ)り、木々を破壊しながら地面を転がる。途中、ハガネのスーツが金屬のように化して手足が固定されたので、腕や足を欠損するような重傷を負わずに済んだが、それでもひどいダメージをけることになった。

衝撃を吸収してくれたハガネの裝甲に謝しながら立ち上がろうとすると、騒がしい警告音が聞こえる。反的にをかすと、接近する飛翔を間一髪のところで避けることができた。が、それはいくつもの偶然が重なったおかげなのだろう。目にも留まらない速度で接近する飛翔を避けることはほぼ不可能だった。

『レールガンだ！』

カグヤの言葉に反応してスーツを化させると、磁界を突き破るようにして接近してきた別の飛翔の直撃をける。

衝撃で吹き飛び、もんどり打つように森のなかを転がる。眩暈(めまい)がする痛みに吐き気が込み上げる。が、痛みに我慢しながら地面にできた窪みに飛び込む。

「カグヤ、敵の位置報を教えてくれ！」

咳込んだあと、破壊されたフェイスマスクの隙間からの混じった唾を吐き出す。

『見つけた』

視線の先に偵察ドローンから信する映像が表示される。そこに映っていたのは、十五メートルほどの長い砲を備えた巨大な電磁砲の姿だった。

木の枝や草で擬裝された電磁砲には無數のケーブルがつながれていて、それらの太いケーブルの周囲にはアンテナ回転式の三次元レーダーを備えた大型裝置が設置され、兵士たちが忙しなくき回る様子が確認できた。

「あれも教団が発掘した兵か……」

『おそらく』

「自ドローンで破壊できないか？」

『基地の周囲に対空迎撃用の兵を多數確認したから、無駄にドローンを消費するだけだと思う』

「ならレーザーライフルで攻撃してみるか……。ダメなら強引に接近して破壊する。ドローンを使って掩護してくれ、隙を見つけて狙撃する」

『待って、私に考えがある』

立的に再現された簡易地図(ミニマップ)が浮かび上がると、兵隊たちの基地近くにある昆蟲の巣らしきものが拡大表示される。そこには死骸を使って団子を作っていたあの奇妙な昆蟲の姿が確認できた。どうやら蜂や蟻のように群れで生活する社會昆蟲だったようだ。

「なにをするつもりなのか教えてくれるか」

『説明するほどのことでもないよ。ドローンを使って巣を攻撃して、混した昆蟲の群れに敵の基地を襲わせる。ドローンで敵基地を直接攻撃するよりも、ずっとない機で効果が期待できる』

「昆蟲を嗾(けしか)けるのか……その作戦は上手(うま)くいくと思うか？」

『難しいのは狙った場所に昆蟲を導することだけだから……なんとかやってみるよ』

「了解。敵基地の攻撃はカグヤに任せる」

『レイはどうするの？』

「レールガンを破壊する」

敵の攻撃で損傷していたハガネの裝甲が完全に修復されると、再びフェイスマスクを裝著し、電磁砲が確認できた敵基地に向かって駆け出す。ほぼ同じタイミングで徘徊型兵が食昆蟲の群れに向かって急降下し、枯れ木が広がる奇妙な地形で蠢(うごめ)く昆蟲の近くで散する。

と、地面につくられた無數の巣からブヨブヨした表を持つ昆蟲があらわれ、半明の翅を広げて飛び立つのが見えた。カグヤは徘徊型兵の発を利用して昆蟲の移経路を制限することで、目的の場所に悍(おぞ)ましい生を導していく。その間も敵基地では電磁砲の長い砲がいていて、こちらを攻撃しようとしていた。

巨大な砲から蒸気が噴き出し、青白い電を放つのが見えた。金屬弾が発されたら防ぐ手立てはないだろう。敵からの攻撃を覚悟しながら、それでも基地に向かって駆ける。

砲から空気を震わせる鈍い振音が聞こえてきたときだった。敵基地に昆蟲の群れが侵する。教団の兵士たちは混し、土嚢を乗り越えて基地に侵してくる悍ましい昆蟲に攻撃を集中させる。その隙を突いて敵拠點に飛び込むと、電磁砲に向かって〈反重力弾〉を撃ち込む。

甲高い金屬音のあと、兵士たちが巨大な砲と共に重力に圧し潰されていくのが見えた。

「離する！」

こちらに向かってくる昆蟲の群れに〈貫通弾〉を撃ち込みながら敵基地から出する。すでに教団の砲撃基地は驚異ではなくなっていた。そこは無數の死が転がり、気悪い昆蟲が徘徊する場所に変わり果てていた。