《モフモフの魔導師》483 騎士、三人娘
『では、明日の晝頃に伺います』
「はい。お待ちしてます」
魔伝送の通話を切る。
通話していた相手は、カネルラ騎士のアイリスさん。リスティアから借りた魔伝送で、わざわざ連絡してきてくれた。
「剣を作ってしい」と頼まれているので、わざわざ要を伝えるために足を運んでくれる。
素人が作った剣でもいいと言ってくれたので、喜んで作らせてもらうつもりだけど、本當に良いんだろうか?
いくら予備用だとしても、カネルラを守る騎士が扱う剣。明日、再確認してみようかな。
「兄ちゃん。今の…誰?」
遊びに來てくれているチャチャが訊いてくる。
「カネルラ騎士のアイリスさんだよ。友人で、剣の製作を頼まれてるんだ」
「ふ~ん…」
「チャチャも會ってみる?」
「會わなくてもいいかな」
「そっか」
後で、コンゴウさんにも連絡しておこう。ちなみに、コンゴウさんから呼び出されたことは一度も無い。
★
「お久しぶりです」
「無沙汰しております」
「休みをとって、三人で一緒に來ました!」
「ヒヒーン!」
「ヒッヒーン!」
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「みんな元気そうで良かったです」
次の日の正午前、約束通りアイリスさんは來てくれた。テラさんとシオーネさんも一緒に。
「ヒッヒーン!ヒヒーン!」
「久しぶりだね、ルビー」
「ヒン♪」
シオーネさんの馬、ルビーが頬りしてくれる。可いなぁ。
顔をでると、以前より皮がフワフワしてる。カリーの表がちょっと怖いのは、気のせいかな…?いつもなら、カリーも頬りしてくれるのに、今日はすまし顔。
「ウォルトさんは、カリーにもルビーにも懐かれてますね!もしかして、前世は馬なんじゃ?」
「ヒヒン♪」
「ヒヒ~ン?」
本當に前世が存在するのなら、獣か獣人だったら嬉しい。
「遠いところまでお疲れさまでした。先ずは食事でもどうですか?」
「お言葉は嬉しいのですが、テラがどうしても先に手合わせをしたいと言ってきかなくて」
「お腹を減らしてから食べたいです!」
「わかりました」
テラさんは既に裝備をに著けている。果を見たい気持ちもあるので、先に手合わせをしよう。
「今日はお待たせしていませんが、お願いします!」
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「こちらこそお願いします」
テラさんはビシッと槍を構える。
「槍を使って頂いてるんですね」
「もちろんです!私の相棒です!では、いきます!はあぁぁぁっ!」
見事な槍捌き。また、一段ときが洗練されていて、素手では大きく躱すのが一杯。
「はぁっ!!せぃ!」
手數も多く、懐にれない。
『空破』
「甘いっ!」
遠距離からの闘気も、見事に防がれてしまう。今や足止めにもならない。攻防一で、スムーズに闘気をる姿に長をじる。
負けていられないので、闘気造形で槍を創り出して対抗することに。
「そうこなくっちゃ!」
「こちらからもいきます」
「負けませんよ!」
しばらく穂先を打ち合っていたけれど、テラさんは急に距離をとる。
『炎槍』
遠距離からの刺突と同時に、穂先から炎が発現した。見事な魔法の発。いや、技能か。
迫る炎を魔法闘気で掻き消す。
「さすがです…!まだまだぁ!!」
またしばらく刃をえる。短期間でこんなに槍を扱えるなんて凄い。テラさんの努力の賜。
「はぁ…はぁ…」
きがし鈍ったところに、以前ダナンさんに見せた槍の技能を繰り出してみる。
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「なっ!?」
刺突して、七つの槍がテラさんを狙う。実際は六つだけど。
「あぶなっ!!」
を躱した後の追撃で、闘気の槍を変化させた斬撃を飛ばす。それをテラさんは闘気でけ止めた。
「ぎぎぎっ…!これは予想外っ!くぉぉっ…!……だあぁっ!!」
け止めきれず、もちをついて後ろに倒れる。けれど、反応して防ぎきったことが凄い。以前のテラさんでは無理だったと思う。
間合いを詰め、穂先を突きつけたところで勝負あり。
「くぅぅ~!悔し~い!…けど、參りました!」
「素晴らしい闘気と魔法でした。上達ぶりに驚きました」
「またまた!大袈裟な!」
「本當です。それより大丈夫ですか?」
そっと手を差し出すと、しっかり摑んで笑顔で立ち上る。
「最後の技能は、格好良かったです!見たことないんですけど、ダナンさんの技能ですか?」
「いえ。ボクが勝手に考案しました」
「そうなんですか?!良ければ、私に教えて下さい!」
「構いませんが、素人の槍ですよ?」
「何の問題もないです!」
変な技能をると、騎士団で怒られるんじゃないだろうか?
「ウォルトさん」
シオーネさんとルビーが歩み寄る。
「何でしょう?」
「私とも手合わせ願えませんか?」
「ボクは構いませんが」
「ありがとうございます」
「ヒッヒン!」
シオーネさんがどんな剣をるのか知らないから、興味はある。見たこともない剣なら、オーレンとの修練に生かせるかもしれない。
「連戦はキツいのではないですか?し休憩されますか?」
「いえ。直ぐでも大丈夫です」
「ふふっ。さすがです。力自慢のテラが疲れているのに」
「日頃、森を駆けてるからですかね」
筋力と違って、持久力には自信がある。あと、今の手合わせも基本的にけの姿勢だったから。
「早速、よろしいですか?」
「はい。いつでも」
今度は闘気造形で剣を創り出す。
「シオーネ~!頑張れ~!」
「ヒヒン!」
「ふふっ。応援ありがとう………いきます」
靜かに闘気を纏うシオーネさん。
「ハァッ!」
ぐっと膝を曲げ、一息で間合いに飛び込んでくる。迷いないき。
「ぐっ…!」
剣をけ止めると、かなり重い。纏う闘気量はかなりのもの。『強化』で対抗する。
け止めた剣を、するりとらせるようにを薙ぐと、シオーネさんはけも避けもせず甲冑でけ止めた。
「せぇい!はぁっ!」
続く攻撃を跳んで躱し、間合いを切ったところで一旦思案する。
シオーネさんは英霊。更に全が甲冑で覆われている。痛みという概念があるのかも不明。ボク程度の剣技では、闘気を纏えば脅威にならないのかもしれない。
テラさんにはない力強さをじる。
「ハァッ!フゥッ!!」
再び間合いを詰めて、攻撃を仕掛けてくるシオーネさん。あえて反撃せず、観察しながら捌くことに専念する。
しばらくけたり躱しながら、あることに気付いた。
もしかして…。
「ハァァッ!!」
袈裟斬りを大きく躱して、遠距離からオーレンが見せてくれた魔力弾を飛ばす剣技を放つ。
「ウラァ!」
「まずいっ…!うぅぅ…」
魔力弾が直撃したシオーネさんは、しばらく耐えていたけど、弾けるように甲冑がバラバラになってしまった。
「シオーネさん!」
「シオーネ?!」
「ヒヒン!!」
慌てて皆で拾い集める。カリーとルビーも手伝ってくれた。
「ふぅぅ…。ありがとうございます」
甲冑を組んでしばらく待っていると、シオーネさんはガバッと起き上がってお禮を述べた。
「いえ。すみませんでした」
「久しぶりに意識が無くなりました。砕けたんですね?」
「はい。失禮ですが…シオーネさんは闘気での防が苦手ですか?」
「失禮でもなんでもなく、その通りです。ダナンさんに習っているのですが、どうにも上手く切り替えができなくて…。だから、攻撃重視になるのです」
「なるほど」
同じく英霊であるダナンさんの教えは有効だろう。ボクにできることは…。
「もしよければ、一度闘気の流れを確認してもいいでしょうか?もしじることがあれば、今後に役立つことが伝えられるかもしれません」
「シオーネ!やってもらった方がいいよ!私はそれで上達したからね!」
「私は構いませんが、どうやるのです?」
「実際に闘気を流したいのですが、背中にれてもいいでしょうか?」
如何に英霊であっても、シオーネさんはだ。斷りなくれるのはよくない。
「ふふっ。お気になさらず。どうぞ」
「では」
シオーネさんの背中にれて、甲冑に闘気を流してみる。
「何かじますか?」
「いえ。まったく」
甲冑に流してもじないようだ。まだ探ってみよう。
「今から魔法を使います。異常をじたら、直ぐに教えて下さい」
「はい」
『浸解析』をって、意外なことに気付く。
甲冑の中には何もない空間が広がっていると思っていたけど、魔法では闇のように何も見えない。けれど、ゴーレムでいう『核』のような丸いが見える。
溫かさをじるような不思議な。魔力に似ているような。
とても気になる…。
「シオーネさん。今からボクの魔力をに流してみたいのですが…」
「いいですよ」
「初めてのことなので、何かあれば直ぐに」
「わかっています。構いません」
しずつ魔力をにばしてみる。到達して、と微かに接した。
「うっ…」
「すみません!何かじましたか?」
「いえ。なんというか…このになって、初めて覚を取り戻したような…妙な覚です」
「これ以上はやめておきましょう」
「いえ。気になるので、続けて構いません。嫌な覚ではないのです」
「わかりました。おかしなときは、本當に遠慮せず教えて下さい」
「はい」
再びそっと魔力を接させる。
「ふふっ…。ふふふっ…」
「どうしました?」
「いえ。くすぐったい気がするのです。実際はそんなはずないのに」
もしや、魔力がにれているからか…?このにれると、覚を呼び覚ますとか?
「これはどうでしょう?」
微量の炎の魔力でを包み込んでみる。魔力だけなら、魔法ではないので安全なはず。
「凄く溫かくなった気がします。不思議ですね」
「では、これでは?」
氷の魔力をれさせてみる。
「冷たくなった気がします」
やはり覚と連してる。これは、新しい発見だ。…ということは、こうしてみたらどうだろう?
を中心にして、蜘蛛の巣を張り巡らせるように、甲冑のあらゆる箇所とボクの魔力で連結させてみる。
「これは…」
「どうでしょう?」
「背中にられているがあります…」
手を握ったり、肩にれてもがあるみたいだ。
「一、何をしたんですか?」
「シオーネさんのには『核』のようなものがあって、魔力でと核を繋ぎました。この狀態で闘気を流せば、じてもらえるかもと思って」
「是非、お願いします」
「はい。ゆっくりいきます」
魔法闘気を流してみる。
「流れをじます…。凄く溫かい…」
「良かったです。これで説明してみますね」
闘気作について実踐しながら説明すると、靜かに耳を傾けてくれた。
「なるほど。わかりやすいです。こうですね?」
「はい。流石です」
直ぐに使いこなしてる。凄いなぁ。
「ヒヒン!」
「ルビーの皮の覚が…。嬉しくて…懐かしいですね…」
寄ってきたルビーをでるシオーネさんに伝えておこう。
「この狀態を保持することも可能ですが、どうしますか?」
「元に戻してほしいです」
「わかりました」
「シオーネ!ホントにいいの?」
「うん。私は、生前も痛がりだったの。だから、いざというとき覚がない方が闘える。もうこの姿での生活に慣れてるから、さほど気にならないし」
シオーネさんは、有事のことを想定しているんだ。いつ何時でも、騎士として最高の力を発揮できるように。
戦爭を知る騎士の気概をじる。
「そっか!シオーネがいいならいい!」
「またお願いすることがあるかもしれません。その時は、お願いしてもいいでしょうか?」
「もちろんです。いつでも」
さて、そろそろ食事にしようかな。
「ウォルトさん。私も手合わせお願いします」
アイリスさんが歩み寄ってきた。
「はい。わかりました」
「私の手合わせは、直ぐに終わりますので」
どういう意味だろう?
とりあえず遠い間合いで対峙すると、アイリスさんは抜刀の構えをとり、闘気が急激に高まっていく。
『騎神舞』
目にも止まらぬ速度の抜刀に合わせ、無數の闘気の刃が放たれた。
『闘気障壁』
洗練された闘気で形した障壁で防ぐ。刃の雨が止むまで、かなりの時間を要した。
「ふぅ…。さすがですね」
アイリスさんはフワリと微笑んで剣を納める。
「素晴らしい技能でした。以前のボクなら、防げなかったと思います」
アイリスさんが放った闘気の刃は、全てが洗練された闘気だった。通常の『魔法障壁』は切り裂かれていたはず。
に纏った時點で気付けたからこそ、洗練された闘気で障壁を展開できた。最大まで魔力を圧した『魔法障壁』なら防げたかもしれないけど、確信はない。今の防が最善だと思える。
「私なりに研鑽を積んでいますが、まだまだですね」
「刺激をけました。負けないよう頑張ります」
きっと、この技能はほんの一部。
アイリスさんは、他にも技能を磨いているに違いない。
★
食事のために皆を住み家に招くと、テラさんがチラチラ見てくる。
「汗を流したいです!」と言っていたので、何が言いたいのかピンときた。
「ウォル…」
「覗きませんから、ゆっくりお風呂にって著替えて下さい。沸かしておきますね」
「ですよねぇ~!」
ご機嫌な様子で、來客部屋に向かった。
いつもの件に、ホッとしてをなで下ろす。
とりあえず、『魔法騎士になったら著替えを覗く』という約束は、まだ保留でいいみたいだ。凄く助かる。
このまま有耶無耶になるかも…
「…忘れてませんからね」
ギクッ!!
テラさんはドアから顔を半分だけ出し、ニヤッと笑って引っ込んだ…。
はぁ…。
完全に自業自得だし、正直ボクは構わないんだけど、テラさんは嫌じゃないのかな?
なんにせよ気にしても仕方ない。とりあえず、食事の準備を始めることにした。今日は暑いから、冷たい料理と旬の果実にしよう。
「さっぱりして味しいです!」
「味しいです。やっぱり料理人になった方がいいと思います」
エルフ料理をアレンジして、豆の冷製スープとパッタにしてみた。アイリスさんとテラさんの口に合ってよかったな。
カリーとルビーにも水を準備すると、しっかり飲んでくれる。けれど、シオーネさんはアプリコットのお茶を手に、きが止まっていた。
「あの…ウォルトさん」
「何でしょう?」
「さっきのように覚を繋げてもらうと、味覚も復活するのか試してみたいのですが」
「わかりました」
再び魔力で甲冑と核を繋げてみる。今度はさっき以上に細かく魔力の糸を張り巡らせた。
「終わりました」
「では、いただきます………」
「如何ですか?」
「味しいです…。溫度はじないですが、微かに味覚があります…。貴方は…凄い魔法使いですね」
「たまたま上手くいっただけです。食事もされますか?」
「いえ。これだけで充分です」
なんとなく気分が良さそうなシオーネさん。そして、ボクは自分でも何をしているのか理解できない不思議。
ただ、悪影響はなさそうかな。
さて、食事を終えたらアイリスさんの要を聞いてみよう。
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