《モフモフの魔導師》484 シオーネの願い
「く、苦しいです…」
「テラは食べ過ぎだよ」
「事には限度というものがあるわ」
「おっしゃる通りです…。苦しい…」
食事を終えて、お茶を飲みながらゆっくり話そうと思ったけれど、三回もお代わりしてくれたテラさんはぐったりしてる。
「アイリスさん。作ってほしい剣について話を聞いていいですか?」
「はい。こちらなんですが…」
小さな腰袋から一枚の紙を取り出して広げる。形から流さ、重さ、太さ、重心などについて、びっしり細かく書き込まれている。
「すみません…。つい、あれもこれもと要が膨らんでしまって…」
「いえ。わかりやすくて助かります」
ボクが思うに、ものづくりでは「こんなじで!」とか、「任せる!」と言われるのが一番困る。硝子の水槽を作ったときがそうだった。
ボクの場合、職人じゃないからセンスを求められると厳しい。注文が細かい方が助かる。
ざっと見たところ、アイリスさんの設計図は詰め込み過ぎに見えて、さほど無理がないように思える。さすがは騎士。武にも通しているんだろう。
「作れそうでしょうか?かなり我が儘を詰め込んでいるので、無理であれば斷って下さい。駄目元で來たのです」
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「し時間はかかりますが、可能だと思います。希に添えるかはわかりませんが、作ってみたいので」
「ウォルトさんは、どちらでテラの槍を作ったんですか?流石に此処じゃないですよね?」
「師匠達の工房で、助言をもらって作りました」
「師匠とは?」
「えっと…」
コンゴウさん達から、「他人に工房の場所は教えるな」と言われてる。けれど、人については止められてないから、言ってもいいかな。
「ドワーフの職人集団です。一応にお願いします」
念のため軽く口止めしておこう。実は教えちゃダメで、斧を振り回されたら怖い。
「そうでしたか。鍛冶といえばドワーフです。腕の良い職人ばかりだと聞きます」
「はい。今回もお世話になるつもりです。ジニアス王子の剣を打った方々で」
「えっ!?もしや、カネルラで初めてオリハルコンを採掘したドワーフでは…?」
「はい。あの…これはに…」
余計な一言で、かなり限定されてしまった。…というより、がっつりバレた。
「わかりました。々と納得ですね」
「々と?」
「王城界隈では、有名なドワーフ集団なんです!表には出てこないけれど、花火の製作やオリハルコンの採掘、製なんかの難しい依頼を難なくこなす凄い集団だって!」
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テラさんも知ってるのか。でも、コンゴウさん達なら納得だ。
「その通りで、凄い師匠達です」
「凄いのは、おそらく師匠だけじゃないですが」
「ですね!」
何が「ですね」なのか。
「話を戻しますが、アイリスさんの作りたい剣をイメージすると、完形がこんなじなんですがどうでしょう?」
闘気造形でテーブルの上に剣を創り出す。
「ウォルトさんは簡単にこなしてますが…」
「これって結構凄いことですよね♪」
「本當に凄いと想います」
「「ヒヒン!」」
「凄くはないですが、便利だと思ってます」
「この剣は…かなり想像に近い形です」
「細かいところを教えて下さい」
可能な限り理想に近い剣を作りたいので、アイリスさんの要をしっかり書き留めておく。
「これで全てお伝えできたと思います」
「ありがとうございます」
話が終わると、造形した剣と自分の剣を見比べながらシオーネさんがもじもじしてる。
もしかしてだけど…。
「よければ、シオーネさんの剣も作りましょうか?」
「えっ!?いいんですか?!」
「素人の作った剣で良ければ。アイリスさんも予備用だと思いますし」
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「手間がかかるのに…本當にいいんですか?」
「はい。モノづくりはボクの趣味なので。ただ、職人ではないので品質は保証できません。それでも良ければ」
「よろしくお願いします!」
「では、要を聞かせてください。できる限り細かく教えてもらえると助かります」
「二人の話は長くなると思うから、テラは私と訓練する?」
「やります!斷る理由がありません!」
「じゃあ、表に出ましょう」
「ウォルトさ…」
「覗きませんし、著替えは洗濯して魔法で乾かしておきますので、所の籠にれておいて下さい。お風呂は戻ってから沸かし直すので、行く前に下著だけ隠しておくようお願いします」
「むぅ…」
「ふふ。テラ、いってらっしゃい」
「よっし!やるぞぉ!」
アイリスさんとテラさんを見送って、シオーネさんの要を聞くと、アイリスさんと対照的に簡素だった。
「本當にそれだけですか?」
「それで充分です。私には覚が無いので、細かい要はありません」
「わかりました。微調整はあとでも可能なので」
「…いい機會なので、ウォルトさんとしお話がしたいのですが、よろしいですか?」
「もちろんです」
「貴方のおかげで、この世に舞い戻ってから毎日が充実しています。ありがとうございます」
「ボクは正気に戻しただけで、誰でもできます。気にしないで下さい」
「ふふっ。謙虛ですね」
「本當なんです」
シオーネさんは近況や、王都での生活について教えてくれる。ボクも近況について話す。
「えぇ~!ウォルトさんは、冒険者になったんですか?!」
「恥ずかしながら」
「恥ずかしくないです。力を存分に発揮して下さい!」
「ありがとうございます。まだ薬草採取しか達してないんですが」
「生前、友人が冒険者になったんですが、まずは薬草採取からと言ってました。今も変わらないのですね」
「そうなんですね」
いつの時代も同じなんだな。
「Sランクを目指していたりするんですか?」
「いえ。たまに薬草採取や、鉱石収集をしたいと思ってます」
「はっ……?それだけ…ですか…?」
「はい」
「もったいない気がしますが…」
「の丈に合った冒険をしてみようと思ってます」
「実は…私もウォルトさんのように用なら、冒険者になってみたかったのです」
「そうでしたか。ボクは、広く淺く手を出してるだけなんですが」
節のない獣人だという自覚あり。
「私は田舎の出ですが、子供の頃、突然大勢の魔に襲われて、被害を被った経験があるんです」
「それは…災難でしたね」
「直ぐに冒険者が駆けつけてくれて、最小限の被害で済んだんです。その時、冒険者の優しさと強さに憧れました」
「それで冒険者を目指したんですか?」
「はい。でも、何をやっても不用で…それでも強くなって人の役に立ちたくて。先輩に習い、腕を磨く騎士だったらなれるかも、と思ったんです。結果、は私だけでしたが」
「最初から憧れていたわけじゃなかったんですね」
「今では騎士になって良かったと思います。一度は命を落としていても、後悔はありません」
「凄いことだと思います」
「向いてる向いてないで言えば、間違いなく向いてないのですが、個人的に天職だったのかもしれませんね。ふふっ」
ボクには高い志はない。魔導師への足掛かりとしてという理由もあるけど、単純にやってみたくて、なってみたかったから冒険者になった。
「ボクに冒険者は勤まらないかもしれませんね…」
「深く考えなくていいと思います。村を助けてくれた冒険者には、「にモテたいから!」という理由でなったお兄さんもいました」
「モテるんですかね?」
「殘念ながら、村のお姉さん達にはモテてなかったです」
「悲しかったでしょうね」
「ふふっ。とはいえ、私にとっては村を救ってくれた格好いい冒険者でした。だからこそ思うのですが、『機』ではなく『何をすか』が重要で、理想で人は救えない。志があって冒険者になっても、よからぬことを企む者もいるでしょうし」
「そうですね」
「薬草採取や鉱石収集で救われる人も沢山いると思います。ちなみに、ウォルトさんは何という肩書きで登録したんですか?」
「肩書きとは?」
「剣士とか魔導師とか鍛冶とか、特技や職業的な」
言われてみれば、申告書にそんな欄があった。
「『獣人』です」
「ふふ。間違いない答えですね」
「虛勢を張っても仕方ないので」
ボクは何者でもない。ただ、獣人であることだけは確か。
「ウォルトさんとゆっくり話してみたかったので、今とても楽しいのです」
「ボクもです」
「一つだけ、お願いしておきたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」
「もし、カネルラが四百年前のような未曾有の危機に見舞われたなら…その時は、力を貸してしいのです」
「例えば戦爭…ということですか?」
「はい」
「その時は、否応なしにくと思います。仮に戦爭が起これば、何もできないとしても後悔しない道を選びたいので」
ダナンさんやシオーネさんのように。
家族や友人を失うかもしれないのに、自分は知らぬ存ぜぬ、逃げて生き延びるという選択肢はない。それに、今のボクはカネルラが好きだ。
當時のカネルラ國民が、必死に闘い守ってくれたからこそこの世に生をけた。微力でも、次の世代に繋がる一助になりたい。
「ありがとうございます。心強いです」
「その上で何かできることがあれば、しでも力になりたいと思います」
カネルラを憂い続けるシオーネさんは、知っているだろうか。
「シオーネさんは、戦爭中に誰かを助けた記憶がありますか?」
「必死に戦った記憶しかないのです。その他も印象的だったことは覚えていますが、あとは朧気で」
「ちょっと待っていてください」
寢室から、一冊の本を持ってくる。
「この本は、知り合いの著書です。綿な取材を元に、様々な角度から戦爭時のカネルラを考察した一冊ですが……え~っと……あった。ここです。読んでみてください」
頁を開いて手渡す。
「………これは」
「王都への敵襲の際に、避難が遅れて騎士に助けられた男の子がいました。無事に戦を乗り越え、彼の子孫は今でも謝を語り継いでいます。この本を書いた人は、誇張や偽りを書く方ではありません」
この時代に、騎士はシオーネさんだけ。彼にとって當然の行為で、覚えてないのかもしれない。
「そうですか…。そんな子供が…」
「この子の子孫には、騎士になった者もいたと書かれています」
「知らなかったです。けれど…嬉しいですね」
甲冑だから表はわからないけれど、ボクには笑ったように見えた。
「話は変わりますが、テラの服を洗濯するのでは?私も手伝います」
「いいんですか?」
「はい。必要だと思うのです」
なぜだろう?
洗濯を取りに、二人で所へと向かう。
「私が先にります…。……やっぱり」
「どうしました?」
「テラは…これ見よがしに、下著を洗濯の一番上に置いているのです。隠しておけと言われたのに…。ウォルトさんを揶揄いたいのでしょうが、はしたない娘ですみません」
「…いえ」
シオーネさんは、行を読み切っていたんだな。完全に油斷してた。
サマラといい、チャチャといい…。そして、テラさんもか…。
男としての自信がなくなる。友人だから別にいいけれど。
「…下著は私が洗いますので、魔法で乾燥だけお願いできますか?ウォルトさんなら、見なくても可能ですよね?」
「それだけで助かります」
「どっしり構えていいのですよ。こんなは、ぽいっと捨てるくらいの気持ちでいいのです…。いくらなんでも、おふざけが過ぎますから…」
シオーネさんは常識人だ。やっぱり、ボクの覚が普通なんだ。
會話しながら、さっと二人で洗濯して『速乾』させる。シオーネさんがで見えないようにしている下著は、覚だけで乾かした。
「大丈夫です。綺麗に乾いています」
「良かったです」
丁度、修練を終えたテラさんとアイリスさんが戻ってきた。
「疲れたぁ!…って、ウォルトさん!洗濯してくれたんですかぁ?」
ふふふっ…と言わんばかりにニヤけてる。
…ということは、やはり確信犯。
「テラ」
「シオーネ、どうしたの?」
「下著は私が洗った。恩人に変なことをさせられないからね。一、どういうつもり?隠しておいてって言われたよね…?」
甲冑から闘気が揺う。
これは…怒ってる。
「わ、忘れてただけだって!わざとするわけないよ!」
「へぇ~。下著の下に、こんなものが置いてあったけど?」
シオーネさんは一枚の紙を広げた。
そこには「やっぱり見ちゃいましたか!しょうがないですね♪」と書かれていた。
ボクに向けた言葉か…。いつの間に…。
「言い逃れはできないよ。常日頃、『騎士は淑たれ』って口酸っぱく言われてるよね?」
「それはそうだけど…」
「言 わ れ て る よ ね?」
「はい…」
「大、いつもいつもウォルトさんを困らせて………云々」
テラさんは、がっつり叱られている…。
これで懲りてくれたらいいけど、きっと反省しないだろう。話は聞くけど、同じことを繰り返すボクと同じタイプだと思う。
「テラがふざけてすみません」
アイリスさんが謝ってくる。
「揶揄われてるだけで、悪気がないのはわかってます。どう反応を返せばいいのか困るだけで」
「無視して下さい。過剰に反応するからつけ上がるんです。テラは子供ですから」
でも、お世話になっている人は無視できないなぁ。そんな人だから、揶揄われても嫌じゃないわけで。
「もう二度とやっちゃダメだからね」
「わかったってば。反省してる」
そろそろ説教は終わりかな。
「じゃあ、今後は覗く覗かないの件も止ね。あと、魔法騎士云々の約束も反故にしてもらうから」
「そ、それは話が違うよ!」
「テラ…。まだ迷をかける気なの?それとも反省したっていうのは噓?」
「うう……反省…して…」
なんだか、可哀想になってきた。
「シオーネさん。迷ではありませんし、その二つは大丈夫です。特に、魔法騎士の約束はボクが言い出したことなので」
「そうだよ!ウォルトさんが覗きたいって言ったんだから!」
「覗きたいとは言ってません」
満面の笑みで噓はよくない。
「そうでしたっけ?」
「私は別に構いませんが、今辭めさせないと、死ぬまで忘れませんよ?テラはしつこいので」
「人を不治の病みたいに言うなぁ!」
すったもんだの末、シオーネさんも引いてくれた。とても優しい先人だ。
★
晩ご飯も一緒に食べて、完全に暗くなる前に王都へと戻る三人を外で見送る。
「剣は、出來次第お屆けします」
「連絡して頂ければ、け取りに來ます。無理をしないで下さいね。いつでも構いませんので」
「また手合わせお願いします!」
「今日はありがとうございました。私の剣も急ぎません。何年でも待ちます」
「わかりました。ルビーもまたね」
「ヒヒン!」
あっ!そうだ!
「ちょっとだけ待って下さい」
住み家から取ってきた硝子瓶を、テラさんとアイリスさんに一本ずつ手渡す。
「闘気回復薬です。訓練に使ってください」
「助かります」
「ありがとうございます!そうだ!ウォルトさんなら、私が一日中訓練できるようにできますか?」
「力的な意味なら可能です。常に魔法を巡らせて、回復し続けるだけなので。ただし、反が大きいので、おすすめはできません」
「わかりました!」
昔、試したことがある。魔法の効果が切れてから、丸一日以上泥のように眠った。數日何もする気が起きなくて、もうやらないと決めてる。
皆としだけ言葉をわして、最後にカリーをでながら『念話』を送る。
『今日はあまり話せなくてごめん』
『気にしてないわよ。私はいつでも來れるし、たまには皆に譲るわ』
『待ってるよ。こっちから行くかもしれないけど』
『どっちでも構わないわ』
軽くモフり合ったあと、アイリスさんとテラさんはカリーに、シオーネさんはルビーに騎乗する。
「それでは」
「ヒヒン!」
「はい。また」
皆を見送って、剣について相談するためにコンゴウさん達の元へ向かう。
しばらくは、モノづくりで暇しなくてすみそうかな。
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