《【書籍化・コミカライズ】竜神様に見初められまして~げられ令嬢は霊王國にて三食もふもふ溺付きの生活を送り幸せになる~》第67話 異変

「なんだか、一雨來そうね」

エルメルの居住地區の大通り。

付き人を數人連れて歩くシエルが、灰の面積を増やしつつある空を見上げてぽつりと呟く。

「そろそろ戻られますか?」

「んー、そうね……」

付き人の質問に、シエルは顎に人差し指を添えるも。

「まだ大丈夫そうだし、もうし歩きたいわ」

「かしこまりました」

深々と、付き人は頭を下げた。

國の長という立場であるため日々様々な報告や連絡が上がってくるシエル。

しかし、自分の目で見て気づくこともたくさんあるという意図の下、業務の合間をって街を歩き、國民の生活の様子を見て回る。

それが、シエルの日課だった。

今日も今日とて王城を出て歩くこと、まだ三十分足らず。

何やら空が不穏な気配を醸し出しているとはいえ、もうし外を歩きたい気分であった。

エルメルの人口度は低く、一つ一つの通りを広くとっているため人通りはまばらだ。

そんな中ですれ違う者たちは皆、シエルを見るなり頭を下げたり気さくに話しかけてきたりと、好意的な対応をしてくれる。

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「あ、シエル様だ!」

「ほんとだ! おーい!」

ゆったりとした心持ちで歩くシエルの元に、子供たちがたたたっと駆けてきた。

子供たちを見るなり、シエルは目を細めて穏やかな笑みを浮かべる。

「ふふっ、こんにちは。學校はもう終わったの?」

「うん! さっき終わった!」

「ちょうど今帰りなの!」

口々に言う子供たちの瞳には、シエルに対する憧れと尊敬が浮かんでいる。

彼、彼らは獣人族だったりエルフ族だったりと、種族はさまざまであった。

シエルがこの國の住民たちにどれだけ慕われているのかは一目瞭然である。子供たちと別れてから再び歩みを再開すると、橋の手すりから川を見下ろすドワーフ族の青年が目にった。

青年の橫顔から不穏な気配をじ取って、シエルは聲を掛ける。

「どうかしたの?」

「シエル様」

青年はシエルを見るなり目を見開く。

「何か、思い詰めたような顔をしてたから、聲をかけたわ。何か、お困りごとでも?」

「困っている、といえばそうですが……」

青年が頭を振る。

「気にしないでください。シエル様のお手を煩わせるわけにもいけませんし……」

「手を煩わすなんて、とんでもないわ」

今度はシエルが頭を振る。

「國民の聲に耳を傾けるのは、エルメルの長として當然のこと。遠慮なく、話してみて」

「シエル様……」

青年が激したように息をつく。

それからしばし躊躇う素振りを見せたが、やがて観念したように口を開いた。

「自分、この川を拠點として水運業を営んでいるのですが……実はここ數日、川の水位がみるみる減っていまして……」

「川の水位が?」

「ええ。半分、とまでは行きませんが、かなり減っています。の満ち引きを抜きにしても、異常なペースで……」

深刻そうなトーンで青年は続ける。

「このままだと、船が出せなくなって、商売が立ち行かなくなります。なんとかならないものかと、考えていたところです」

「なるほど……そうだったのね」

シエルは深く頷き、し考えてから言葉を口にする。

「わかったわ。この件は持ち帰って、議題に上げておきます」

「そ、そんな……ありがとうございます! 本當に、助かります……」

勢い良く青年は頭を下げた。

「こちらこそ、話してくれてありがとう」

らかく微笑んで、シエルは謝の言葉を口にした。

「水運を営みにしているのに、川の水がなくなったら大変だものね。必ず、対策を講じるわ」

力強いシエルの言葉に、青年の顔にようやく明るさが戻った。

このところ雨が降らず作に影響が出ている、という報告はけ取っていた。

しかしそこから派生して川の水位が下がり、水運業に弊害が起こっているという報告はまだ上がって來ていなかった。

富な水資源でり立っているエルメルにとっては、由々しき事態である。

(やっぱり、実際に足を運ぶのも大切ね……)

そんなことを考えていたその時。

ぽつ、ぽつと……空から冷たい水滴が落ちてきた。

「雨……」

青年が呟く。

暗雲から溢れ出した空の涙は勢いを増していく。

この分だと、じきに本降りへと変わるだろう。

「この雨で、しは解消されそうね」

「だと、いいんですけど……」

期待半分、不安も半分といった聲で青年は呟いた。

「水の霊よ」

青年と別れてから、シエルは呟く。

「レイン・リフレクト」

唱えると、付き人を含めたシエルの周りを薄いシールドが覆った。

レイン・リフレクト──降りかかる水分を反させる霊魔法である。

これで雨に濡れる事はない。

「ありがとうございます、シエル様」

「どういたしまして」

お禮を言う付き人が、続けてシエルに尋ねる。

「王城へ戻られますか?」

「そうね……」

──実はここ數日、川の水位がみるみる減っていまして……。

青年の言葉から嫌な予を抱いたシエルは、付き人に言う。

「一度、『ユグドラ』へ行こうと思うの」

「……世界樹に、ですか?」

目を瞬かせる付き人に、シエルは「ええ」と返す。

「しかし、この後は務大臣との定例會議の予定がっていますが……」

「調整をお願い。優先順位が変わったの。嫌な予がするわ」

樹齢一億年の世界樹『ユグドラ』。

エルメルの象徴にして心臓といっても過言ではない大樹の異変が加速している。

そんな直が、シエルにはあった。

「……かしこまりました」

シエルからただならぬ気配をじ取った付き人は、を纏った表で頭を下げる。

「ごめんね、お願い」

言ってから、シエルは空を見上げる。

「ソフィアちゃんには、し頑張って貰わないといけないかもね」

どこか申し訳なさそうに、シエルは呟いた。

霊王國が抱える、世界樹に関する問題。

その問題の解決に打って出る日は近いと、シエルは予していた。

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