《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》454話「ネゴシエーション」
とある荘厳な部屋の一室に二人の男がいる。一人はバルバトス帝國の皇帝であり、もう一人はそれを補佐する立場にある宰相である。
バルバトス帝國との戦爭を回避するべく、兵士たちを運搬したのち、俺はその足でバルバトス帝國の帝都にある城へと赴いた。一國のトップの皇帝がいる城ということもあって、警備が厳重ではないかと危懼したが、どうやら他國に攻めることは慣れていても攻められることに関しては想定していないようで、面白いくらい簡単に侵できた。
そして、城の構造上玉座の間に當たる場所へと赴いてみると、目的の人を見つけたというわけである。
「狀況はどうなっておる」
「先刻書狀を出したばかりです。結果が出るのは、今しばらくかかるかと」
「これでセイバーダレスを手中に収めたのち、そのままシェルズに侵攻する。いよいよ、我が帝國の大陸統一も現実を帯びてきたというわけだ」
捕らぬ貍の皮算用とはまさにこのことで、すでに戦爭に勝った気でいる皇帝の言に俺は心で呆れる。一方で、現実を見據えているのか、宰相は皇帝の言葉を窘めつつも今後の戦況を見極めようという冷靜さが窺える。
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殘念ながら帝國が派兵した兵士たちはすでに帝都近郊まで移させたため、再び國境まで派遣するにはさらに半月以上の時が掛かってしまうだろう。だが、それすらもさせないつもりだ。
「それはどうだろうか」
「っ!? だ、誰だ?」
「どこにいるのです。姿を見せなさい」
「ここだ」
気配を消して大層な造りの柱の裏に隠れていたが、あまりの計畫のなさに呆れて、思わず口に出してしまった。迂闊な行だが、ここまで何の問題もなく玉座の間に侵できた相手が俺の脅威とはなり得ないため、俺は相手の言葉に甘えて姿を見せた。
「むっ、お主は、確か史上最年でSSランクになった」
「【依頼屋】ローランドですね」
「ほう、知っていたか。まあ、俺のことはこの際どうでもいいことだ。今日俺がここに來た用件を伝える。これ以上他國にちょっかいを出して、和をすような余計なことはしてくれるな。これからも、國としてあり続けたいのなら」
「……良い」
「……ゴホン」
「んっ、んん。それはどういった意味かしら?」
俺が忠告染みた言葉を口にすると、何やら惚けた表をする宰相。そして、何故かそれを宥めるような形で皇帝が咳ばらいをすると、それで我に返ったのか、宰相が俺から報を引き出すために問い掛けてくる。
「お前らも、セコンド王國とセラフ聖國の顛末を知っているだろう。他者を思いやることなく、自國の利益ばかり追い求め、傲り高ぶった連中の末路があれだ」
「まさか、あれは貴様の仕業とでも言うのか?」
「お前らには二つの選択肢をくれてやる。一つ、このまま他國に攻める意思を覆さず先の二國のように國を斷絶される。もう一つは、己が行を反省しこれからは他國の脅威ではなく良き隣人として付き合っていくかのどちらかだ」
「そ、そのような要求を呑む必要はない! 誰か。誰かある」
俺が帝國に提示する條件は単純で、これ以上他國に迷を掛けるなという一點のみだ。もし、それすらも守れないのであれば、結界で國ごと閉じ込めるだけではなく、最終的にじわじわと時間を掛けて帝國を滅亡させるという方法も選択肢として考える必要がある。
そもそも、こういったファンタジーな小説において【帝國】と呼ばれている國の八割以上がこういった好戦的な思想を持っており、世界征服や他國を支配するなどという下らない野を持っていたりする。
重ねて言うが、それがいかに下らないことであり、その先に待っている結末が悲慘なものであるかを理解していない愚者の思考であると言わざるを得ない。
「警備の人間を呼んでも無駄だ。この城にいる人間は、お前たちを除いて全員眠ってもらった」
「ば、馬鹿な」
「そ、そんなことができるわけが……」
「では聞くが、何故そこの爺さんが呼んでも誰も來ないんだ?」
「「……」」
俺の言葉に驚愕をわにする二人だったが、反論しようにも実際に起きていることが俺の言葉が真実であるということを自覚させられる。皇帝たちに話し掛ける前に兵士たちに使った眠りの魔法を城全に掛けておいた。範囲が狹い分、兵士の時よりも簡単だったことは言うまでもない。
言葉を失う二人に鞭を打つように俺は、伝えたいことだけを伝える。別に彼らと友達になるために來ているのではないのだから……。
「今ここで判斷するには事が大きいだろう。だから、三日くれてやる。その間にちゃんと話し合って今後の結論を出すことだな。三日後、また同じ時間にここに來る。その時までにちゃんと他の連中を説得しておけ」
「ま、待てっ!」
「……ツンツン年。尊み分が半端ないわっ!!」
「サラダバー」
「くっ……それを言うなら“さらばだ”だろう……」
皇帝の冷靜な突っ込みと、何故か恍惚な顔を張り付けた宰相のコントラストが印象的だったが、用は済んだのでそのまま瞬間移でその場からいなくなる俺であった。
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