《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》第149話『事端』

──────────思い出してしまう…………あの日のことを。

マリンスノーが降り頻る海底に、一筋のが差し込むような…。

いや、こんな表現は化しすぎている。

例えるなら、皮下で蠢く蛆蟲が、傷口を食い破ってを浴びるような、醜く、悍ましく、汚らしい。嗚咽をうような、下劣な話。

それでも銀蠅にとって、いや、私にとっては、泣けるほど嬉しくて、狂おしいほどおしい。

それが私、萩澤キョウカの、唯一の生きる糧。

2002年、4月13日。萩澤キョウカは、ごく一般的な家庭に生をけた。

容姿端麗、文武両道、質実剛健。完璧と呼ぶに相応しい、優秀な子供だった。

そんな彼に大きな転機が訪れたのは、中學校2年生の時だった。

績優秀な彼はクラス委員長を務め、教師からの信頼も厚かった。

決してクラスでの地位が高い訳ではなかったが、談話する友人がおり、ありきたりでありがたい學校生活を送っていた。

「ねえ、俺たち付き合っちゃおうよ?」

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ある日の放課後。

二人きりの教室で、キョウカは告白をけた。

3年生の男子生徒、名前は椎名一磨。

バスケ部でキャプテンを務める、目鼻立ちの整った年だ。

彼の告白を斷る理由はない。

だが同時に、彼の告白を承諾する理由もなかった。

もとよりに興味がなかったわけではない。

しかし仲になれれば誰でも良いという訳でもない。

「…嬉しいんですけど……ごめんなさい………」

心苦しくも、その彼の提案を斷った。

男子生徒からの人気が高いキョウカは度々告白されることがあったが、その何いずれも斷り続けてきた。

だが、悲慘は、この時に産聲を上げていた。

「……チッ……あっそ…………」

眼前の年は苛立たし気に舌打ちを一つ殘して、教室を後にして行った。

前言を撤回しよう。

たった今、彼の告白を斷って良かったと安堵した。

「…………………はぁ…………」

ため息を一つ、虛空に吐き出して、キョウカは帰り支度を始めた。

すると。

「あ。」

小さくも確かな聲が聞こえた。

振り返ると、そこにあったのは先刻とは別の年の姿。

に染められた頭髪、著崩された制服、ピアスだらけの耳と

釣り目なエメラルドグリーンの瞳、キョウカより頭一つ分高い背丈。

「……………桐咲君……?」

「…ああ……。」

そう。彼こそが3年前の桐咲ソウタである。

「…見てた…?」

「…は?」

「……あっ。ううん…何でもない……」

「……そ。」

絶妙な気まずさが立ち込める。

「じゃ。」

そう言うと、ソウタは機の中のタバコを1箱取り出し、教室を後にした。

またも、キョウカは一人、教室に取り殘される。

ソウタは校でも不実として名高く、學校に來ることはほとんどなかった。

噂では、警察沙汰の騒ぎをいつも起こしていたり、喧嘩やカツアゲなどは日常茶飯事だったり、とにかく良い噂を耳にすることなどはなかった。

今度こそ一人きりになった教室で、キョウカは西日を眺めた。

澱んだ不快だけが蟠った中とは裏腹に、吹き込む風は微かな涼しさをもって、爽やかに逃げていく。

春以上、夏未満の季節のこと。

翌日の事だった。

キョウカが教室の扉を開けたとき、仁王立ちしたが立っていた。

の名前は椿薫。教室のヒエラルキーの最上位に位置する、所謂一軍子である。

その背後には二、三人の子生徒が立っている。

「萩澤さん、ちょっといい……?」

「……え、ええ…………」

とは決して仲がいい訳ではない。彼に呼び出される理由がわからないが、斷る理由もまたないため、彼の提案に首肯しながら答えた。

椿の後を歩くこと數分。

たどり著いたのは、誰もいない空き教室である。

「ねえ、アンタ。一磨先輩からの告白斷ったんでしょ?」

教室の扉を閉め、開口一番。苛立ちに表を染めた椿がそう尋ねた。

「そう……だけど………?」

はあ、と。椿がため息を一つ。

そして。

「アンタさ、アタシが一磨先輩の事好きなの知ってたでしょ?」

「……え?」

「え、じゃねえんだよ。アンタみたいなブスが一磨先輩に告られたってだけでもムカつくのに、その上フってるとか意味わかんないんだけど」

「ち、ちが……」

「どうせ目でも使ったんでしょ?ホントムカつく」

の都合と勝手な妄想をえ、謂れのない罵倒を積み重ねていく。

「前々から思ってたんだよね。アンタがアタシのことバカにしてるなって。どうせアタシのこと嫌いだから腹いせにこんなことしたんでしょ?」

「だから、そういう訳じゃ……」

反駁しようとするも、全くもって聞く耳を持たない。

反駁とは、自の論理的な発言に対して、等しく論理的に理解が出來る人間に対して行うことで、初めて価値ある行となる。

どちらかが破綻してしまえば、それ反駁ではなく単なるモノローグと化す。

「まあいいや。今日から、覚悟しておいてね。」

椿は笑った。その笑みの裏側に、隠しきれぬほどの憎悪を抱えながら。

眩い朝日の溫もりが、ねっとりと左頬に張り付く。

嗚咽と共に迎えた、午前8時20分。

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