《見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~》三十四話
マリーが拓斗の攻撃をわずかに逸らしてくれたおかげで、俺は辛うじて回し蹴りによる一撃も躱す事が出來た。
俺が躱した事により、拓斗の回し蹴りは本來當てる相手を見失い、そのまま勢いに任せて武舞臺の石畳を軽々と叩き割る。
あっぶな。
「マリー! 助かった!」
あの一撃をまともにけていたら、流石に不味かった。
確かに俺も冒険者になってから多は打たれ強くなったが、それでも限度というがある。
石畳を軽々と叩き割る程の威力の一撃を、何の防もせずにけて無傷で済むとは思えない。
「ちっ、邪魔がったか」
マリーに邪魔されて回し蹴りを外した事により、不快をわにする拓斗。
だが、そんな拓斗の背後から、一つの影が現れる。
「邪魔は一人じゃないぞ」
フーリだ。フーリは今の攻防の隙を突き、拓斗の背後へと回り込んでいたらしい。
「っ!? てめぇ!」
背後から突然現れたフーリを相手に、拓斗の顔にも焦りのが浮かぶ。
俺とマリーに意識を向けていた拓斗の隙を突いた攻撃。しかも死角からの一撃だ。普通ならこれは強烈な一撃となって拓斗を襲う事だろう。
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そう、普通なら。
「――っ!?」
だが、フーリの渾の一撃は拓斗のをすり抜け、そのまま空を切る事となる。
「……やはり効かない、か」
最初こそ驚いていたものの、すぐに狀況を理解したフーリがそう呟く。
「分かってんじゃねえか。そう、お前らの攻撃なんざこの俺、夜刀神拓斗様には全く効かねえんだよ!」
不敵な笑みを浮かべ、愉悅に満ちた笑みを浮かべる拓斗は、自信に満ち溢れた表をしており、自のスキルに絶対の自信を持っているのだろう事が分かる。
この目で実際に見て分かったが、拓斗のスキルは確かに一見無敵のスキルの様に見える。
なんせこっちの攻撃は一切當たらず、全てすり抜ける。
しかもそれらには予備作が一切ない。コレを初見で見破れと言う方が無理な話だ。
だが、俺は事前に聞いていた報。そして、フーリが言っていた「影の揺らぎ」を見逃さなかった。
「さあ、それはどうかな?」
「何?」
俺が挑発する様な聲音を選びながらそう言うと。
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「何だ? 海斗は俺のスキルを破れるってのか?」
俺の言葉に、意外そうな表をする拓斗。
そこには不快や苛立ちと言った負のは一切じられず、純粋な好奇心のみがじられる。
だが、それで油斷してはいけない。
相手はあの夜刀神拓斗だ。
「おもしれぇ! 是非見せて貰おうじゃねえか、海斗!」
拓斗は心底嬉しそうに笑うと、さっきと同じ様に、俺目掛けて一直線に突っ込んできた。
そこに試しとばかりに串マシンガンを放ってみるが、やはりそれは拓斗のをすり抜けるのみで、一発たりとも拓斗にはダメージを通せはしない。
「効かねぇなぁ、そんな!」
「ちっ!」
當たらないまでも、多怯むぐらいはするかと思ったのだが、そんな様子は一切ない。
やむを得ず両手に持った魔鉄バットを上段に構えて迎え撃つが、もちろんそれらは拓斗のに當たる事は無い。
「どうしたどうした? そんな攻撃じゃあ俺に傷一つつけられねえぜ!」
「ああ、分かってるさ」
「あん?」
昨夜ナナシさんと話した事で、拓斗にただの攻撃が當たらない事など百も承知している。
俺の本當の目的は、拓斗本に攻撃する事じゃない。
本當の目的は……。
「っ!?」
俺の攻撃がすり抜け、まさに絶好の機會というタイミングの筈なのに、拓斗は突然目を見開くと、慌てて俺から距離を取った。
あの反応、やっぱり拓斗のスキルは……。
「拓斗が距離を取った?」
「攻撃を全て無効化する筈なのに?」
拓斗が距離を取るという行にフーリとマリーが訝し気な表になる。
それもその筈。本來拓斗のスキルなら、俺から距離を取る必要はないのだ。
そう、拓斗のスキルが本當に「攻撃の無効化」なら。
「おい海斗。お前今の攻撃、本當に俺を狙ったか?」
「當たり前だろう?」
ちっ、勘のいい奴だな。一応とぼけてみたのだが、それで納得する拓斗ではない。
「……いつから気付いてた?」
気付いてた、とは、恐らく「拓斗のスキルについて」だよな?
「予想がついたのは昨夜だが、きっかけをくれたのはフーリだ」
「フーリ? 誰だそりゃ?」
「はあ? それ本気で言ってるのか?」
もし本當に分からないって言うなら、拓斗は自分の対戦相手にすら微塵も興味を持っていなかったって事になる。
「私がそのフーリだが?」
「あ? お前が?」
拓斗が自分の名前すら知らなかったという事実に流石に腹が立ったのか、フーリが苛立ちを隠そうともせずに名乗りを上げる。
拓斗はそんなフーリを一瞥して尋ねた。
「私はマリー。あなたがいま戦っている相手の名前です」
フーリの隣からマリーも姿を現し、拓斗に名乗る。
フーリの名前すら知らなかった拓斗だ、もちろんマリーの名前も覚えている筈がない。
その証拠に、二人が名乗りを上げた今でも、拓斗は首を捻っているぐらいなのだから。
「ええっと、フーリとマリー……だったか? つまり何か? お前らが俺の力の正を見破ったって事か?」
怪訝な表で二人をジロジロ見る拓斗。
「ていうかお前ら、まだ武舞臺の上にいたのか?」
「「なっ!?」」
「噓だろ……?」
まさかこいつ、二人は既に武舞臺から下りてるとでも思ってたのか? 目の前にいたのに?
フーリに至っては拓斗の隙を突いた、良い一撃を喰らわせた筈なのに?
どれだけ周りに興味が無いんだこいつは。
「まあそんな事どうでもいいか。お前らが武舞臺の上に殘ってた所で些細な問題だ」
俺達の驚きをよそに、勝手に話を進める拓斗。
「今大事なのは……」
そう言うと「ニヤリ」と、まるで新しい玩でも見つけた子供みたいな笑みを浮かべる拓斗。その笑みを見た瞬間、俺の背筋にとんでもない悪寒が走り抜けた。
慌てて周りを見回すと、二人の足元に出來た影が、僅かながらゆらゆらと揺れているではないか。
あれは、まさか!?
「お前らが俺の敵だって事だ」
「二人共危ない!」
拓斗がそう言うのと、俺が咄嗟に走り出し、二人を突き飛ばすのはほぼ同時だった。
「「――っ!?」」
二人の短い悲鳴の様な聲が聞こえてくるが、仕方がない。
二人がたった今まで立っていた場所。その床から突如として突き出て來たのは、真っ黒な棘の様な。
それが何本もびてきて、二人がいた場所はあっという間にハチの巣になっていた。
危なかった。もし僅かでも反応が遅れていたらと思うと、背筋に言い様の無い嫌な汗が流れる。
二人も同じ事を想像をしたのか、僅かに表を青褪めさせている。
「ちっ、外したか」
そんな中、一人面白くなさそうにぼやいているのは、この攻撃を仕掛けてきた拓斗本人だけだ。
面倒くさそうに呟く拓斗だが、今の攻撃は間違いなく危険だ。
恐らくだが、今のは二人の影から攻撃を繰り出したのだろう。
タイミング的にも、あの棘の様なの的にも、そう考えればすんなりと説明がつく。
つまり、とうとう拓斗が影魔法のスキルを防だけでなく攻撃にも使い始めたという事になる。
いつの間にか攻撃を喰らうというスキル。その正がこれだ。
「二人共、大丈夫か?」
「あ、ああ。すまない」
「ありがとうございます、カイトさん」
俺はまだ一人ボヤいている拓斗の事を警戒しながら、たった今俺が突き飛ばしたフーリとマリーの下へと駆け寄り、二人に手を差しべる。
二人は俺が差しべた手を握り、二人一緒にそのまま立ち上がった。
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