《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月20日:全てを一つに、一つを全てに

やっぱ自宅から出たほうが筆が捗る

壁がデカくなった。

まず思考に浮かんだのはそれだった。そしてそれが間違いなのだと認識するよりも先に、反的に構えた腕に───

「ぐおっ!?」

壁……否、構えられたタワーシールドが凄まじい速度と「面」の制圧力で俺に激突した。

シールドバッシュ……! いや、盾突撃(シールドチャージ)! ああくそ、あるよなそりゃあ! 完全に俺の油斷だった!!

ダメージは……三割、ただ腕に痺れ! まずいぜこりゃあ、完全にターンを取られた。怯みモーションを免れたのは不幸中の幸いだが……!

一歩分の空白を一気に詰めるシールドチャージによるカウンターは、當然ながら攻勢に繋げるための起點。距離を取ろうとする俺にガル之瀬が一気に踏み込んでくる。

腕はまだ痺れている、両手を使うスキルは使えない。

「ならそれ以外、だァァァァァァァァァァ!!」

晴天流「蒼然(そうぜん)」。だがぶ吐息は牙にれ、夕焼けの如く赤く!!

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至近距離からの火炎放、タワーシールドで防いだとて───

「ワンテンポ遅い!」

「何ぃ!?」

これが有効打になるとは最初から思っていない。だが、炎を正面からではなく橫から、それもに覚えがありすぎる円周軌道(・・・・)のステップで突破してきたガル之瀬の姿に俺は思わず悲鳴に近いびを上げる。

円周軌道によってガル之瀬のにかかる遠心力を乗せたハンドアックスの橫薙ぎをお辭儀をするかのように頭を下げて回避。だが振り抜いたそこは好機、今度はこちらから一歩踏み込む!

「仕切り…直しィ!」

戦勝神の業《ヴルスラグナ・アヴァタール》・角牛の威(オックス)起! ちと距離は足りないが斧を振り抜いた瞬間の隙にラリアットを叩き込む!!

「くっ」

當たりが淺い、肩でけ止められた。だがそれでも発生したノックバックがガル之瀬を後退させる……まだ距離が近い、踏ん張られた? これだから防タイプはァ!!

不意打ちのシールドチャージに加えて勝ちパターンの一つであったマクセル(・・・・)・ドッジアーツ(・・・・・・)「相対的立《ソリッド・マニューバー》」からの奇襲。それを容易く回避された挙句、逆に(・・)カウンターをけたガル之瀬は冷靜に踏ん張りスキル「徹蹄抗戦(フロントポジション)」でノックバックを相殺したものの、驚愕とある種の歓喜を覚えていた。

(完全に"詰めた"と思ったが……あれが例の「思考加速」か?)

プレイヤーサンラク。ユニークモンスターを次々と撃破し、流出した畫や例の配信から相當なプレイヤースキルを持った人であることは間違いない。

故に、このシャンフロで対人戦を好むプレイヤー達によって「対サンラク」あるいは「サンラク自の解析」は盛んに行われている。

そもそもガル之瀬がこの場にいるのはアーフィリア暗殺の道中でたまたま遭遇したからであり、最初から打倒サンラクを目論んでいたわけではない。だがある程度「サンラク」への対策を構築できるのは、単(ひとえ)に「対人勢」としてサンラク研究を覗いていたからだ。

その中でも最も盛んに議論されていたものこそが、「あれだけの速さを自前の反神経だけで制できるのか?」というものであった。

シルヴィア・ゴールドバーグという人がいる。恐らくは世界で五本の指にる対人プレイヤーであり、彼るミーティアスは「跳弾する流星」と稱されることもある。

人のでスーパーボールの如ききをすることは理論上可能ではあるが、それにも限度というものはある。それ故に超高速機でありながらある程度繊細な(・・・)きをするサンラクのきには何かタネがある……そんな議論の中で出た一つの回答が「思考加速」であった。

ガル之瀬の目から見てもあまり配信慣れしていないのが見てとれた「冥響のオルケストラ」攻略戦の様子だが、下手なりに言葉で解説していた中で無言になる時間が度々存在していた。

そして、その無言時間中は大抵目にスキルエフェクトが燈っている───

パリィスキルの中には、判定強化ではなくプレイヤー自の思考を加速……即ち相手のきをスローモーションで認識させることでパリィをしやすくする、というものがある。

例えばそんな思考加速スキルを極限まで鍛え上げたとしたなら。無盡蔵のスキルがあるシャンフロならば、それはパリィ限定という枷を外して汎用を獲得するのではないか。

(……凄まじいな)

フルダイブVRにコントローラーは存在しない。故に攻撃も回避も個々人の脳……否、(アバター)で対処しなければならない。

それは即ち、「さえあればそれができる」という事だ。だからこそガル之瀬は自分よりも他人のスーパープレイにこそ喜びをじる。たとえもそれを取り巻く世界も全てがフィクションであったとしても、行(アクション)だけは純然たる事実に他ならないが故に。

サンラクのきは、良くも悪くも統一が無い。百面サイコロのようなプレイヤーだとガル之瀬はじている。転がす度に違う「目」を見せる、面の數だけ戦法があり、そしてそれらを十分に習させている。

付け焼き刃であったとしても付け焼き刃なりの使い方を心得ている……それは時に達した必殺技よりも恐ろしい。

だが、勝ち目がないとは思わない。

ガル之瀬の中に蓄積されたローンウルフの記憶は降り注ぐ雨粒の群たる豪雨のような手數にも対応できる。

炎を吐くドラゴンと戦った、虛空を踏んで加速する暗殺者も倒した、剣と魔法の世界で一つで近接戦を挑む格闘家にも苦戦した。

ただのいち作品、されど続編が出る程には人気作の狹いようで広いバリエーションがガル之瀬という一個人の幹を支えている。

故にそう、不意の回し蹴りにも容易く対処して───

(……尾?)

認識に思考が追いつくのと同時に、サンラクの背後にあった背骨の延長の如きしなる(・・・)骨………骨の尾がガル之瀬の橫っ面を打ち據えた。

いと慈悲深き象の牙。その叡智の書庫はおしき次の人類のため、常に開かれている。

・徹蹄抗戦《フロントポジション》

ノックバックを大きく軽減し、その場で踏ん張る……言ってしまえばそれだけのスキルだがその有用は言わずもがな。

五人でダメージを分散する戦上、「あまり一人で踏ん張りすぎない」事が重要なSF-Zooのタンク衆は意外と使わないタンク必須スキルの一つ。

けてからく。その場で踏ん張ってかない。しかしく時は俊敏に。

ガル之瀬の目指す「攻めるカウンター」を実現するための手段の一つとしてマクセル・ドッジアーツは非常に相が良い。

まるでローンウルフ3のバトルアーツ「舞う守護神」のようだ……「舞う守護神」というのは3のボスエネミー「廃都の守護神ロゼリッテ」の撃破報酬「舞う姫の記憶」を心象にセットすることで使用可能な(以下略)

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