《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫336.後悔なき罪

怪しい人も、危険なも消えた。だが、藍(ラン)には気になることがあった。

「でも、柱の間の扉の結界が解けていません。私たち、いつまでここに閉じ込められるんでしょう?」

近くにいたラーマにそう聞くと、彼はまだ真剣な表を緩めないままで応えた。

「……重要な施設の結界や扉の鍵は學校の房部が、セキュリティーの実行はダイラウヌス機関が務めています。向こう側から開くのを待つしかないでしょうね」

戦いが終わったとは思えないのある聲を聞き、藍は不安になった。

「えっ?私たち、助けてもらえますよね?」

「……もしかすると、我々は捕まるかもしれません」

「どうしてですか?」

すでに覚悟ができているというような、淡々としたティムの言葉に、のぞみが訊ねた。

「セントフェラストの結界を支える柱の間に侵するというのは、それだけでもとんでもない大罪です。ましてや守護聖霊を倒すなんて……。學では済まないでしょう」

全力で生きようとして夢中で戦ったことが、罪になる。藍は現実を目の當たりにして目を大きく見開き、自分の犯した罪の重さにが震えだした。

「……で、でも、それは、ラメルス先生の罠に嵌められてしまったからで……私たちはただ、生き殘るために……」

「私が言ったのは、あくまで故意に悪事を働いた場合です。ですが……いくら私たちが罠に嵌められて行ったことだとはいえ、守護聖霊を倒したこともまた事実です。學校の管理層や機関がそう簡単に見逃すとは思えません」

殘酷な現実に、のぞみは眉をひそめた。

「そんな……私を守るために、皆が罪に問われるなんて……」

自分だけでなく、巻き込まれるはずだった四人の命を救えたこと、會いたいと願い続けてきた彼に奇跡的に出會えたこと。のぞみを満たしていた嬉しい気持ちが、一気に吹き飛んだ。

靜まりかえった柱の間に、明るい聲が響いた。

「ま、罪に問われたとしても、俺様は後悔しないぜ」

「不破(ふは)さん」

修二の宣言を皮切りに、溫かい気配が漂い始める。

「んだんだ。姫巫ちゃん、自分を責めることはないんだべ。私らは皆、覚悟を決めてこの作戦に參加したんだもの」

「楓姉さん」

「ノゾミはちょっと考えすぎだよ。ボクたち、良くやったじゃん?」

「そうよ、私たち、皆の命も守ったし、柱の倒壊の危機も救ったんだから」

「ラトゥーニさん、ドイルさん……」

二人は全員でした功績の、その大きさを皆にじさせた。

のぞみが柱の間を見回す。ここに來たことを後悔している者は一人もいなかった。全員が、自分たちのし遂げたことに対し、充足した気持ちでいて、笑顔が広がっていく。

「私も信じています。ここに皆が集まったのは、柱を壊すためではありません。ですからカンザキさん、どうか心配しないでください。私たちは噓をつかず、誠実な態度で取り調べをけましょう。そうすればきっと、機関や學校は理解してくれるでしょう」

藍はまだ救いの手があることに気付いた。祈るように手を元に添え、不安を抑える。

「そうですよね……臣先生も、私たちの味方ですよね」

どれほどの覚悟を持って作戦に參加してくれたのか。のぞみは皆の決意の重さにようやく気付くと、幸せそうに笑った。だが次の瞬間には、切なげに目に涙を溜め、

「皆さん、ありがとうございます」と謝を口にした。

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