《モフモフの魔導師》492 快気
ある日の正午前。
「ウォルト兄ちゃん!遊びに來たよ!」
「いらっしゃい」
駆け込んできたセナを優しくけ止める。
「ウォルトさん、お久しぶりっす。おかげさまで、冒険者に戻れたっす」
「お久しぶりです。お世話になりました。私達のパーティーも元通りです」
「良かったよ。メリッサさんも気にしないで下さい」
マルコとメリッサさんも來てくれた。久しぶりに會うけど、元気そうだ。
「よくわからないけど、ウォルト兄ちゃんのおかげなんだってさ!ありがとう!」
「そんなことないと思うよ。味しいジュースがあるから、家に行こうか。二人もって」
「やったぁ!」
「お邪魔するっす」
「お邪魔します」
三人を招いてカフィと紅茶、ジュースを淹れる。
「甘くておいしい~!」
「ものすごく味しいです」
「よく、そんな苦いもの飲めるな」
「マルコは舌がお子様だから、甘い紅茶がお似合いよ」
「カフィなんて、人の飲むものじゃない。焦げの味しかしないだろ」
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「兄ちゃんも姉ちゃんも、ケンカはだめだよ!」
「わかってるよ」
「そうね」
セナは大人だな。
「ねぇ、ウォルト兄ちゃん」
「ん?」
「マルコ兄ちゃんとメリッサ姉ちゃん、こう見えてつきあってないんだよ」
「バッ…!いきなり何言ってんだ、セナ!」
「そ、そうよ!びっくりするじゃない!」
突然の暴に焦ってる。
「ウォルト兄ちゃんはどう思う?」
「二人は人同士だと思ってたよ」
なんの脈絡もないところから湧いた話だけど、二人はてっきり仲だとばかり。鈍いボクでも、結構自信があった。
「ほらぁ!ウォルト兄ちゃんからも言ってよ!早くくっつけって!」
「セナ!いい加減にしろ!」
「大人には々あるの!」
「そんなのしらないよ!好きなら好きっていえばいいじゃん!それとも、きらいなの?!」
「ぐっ…!?…嫌いなわけないだろ」
「そうね…。嫌いじゃない…」
よくわからないけど、ちょっと口出しさせてもらおうかな。
「セナ。マルコもメリッサさんも、言わなくてもわかるんじゃないかな」
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「大人は、言わなくても好きってわかるの?かんぺき?」
「う~ん…。完璧には無理かなぁ」
「ダメじゃん!」
ボクの場合、親しい人なら集中して匂いを嗅げば判別できる。それでも、ただの好意なのか、熱烈ななのか區別は付かない。
「でも、相手が自分を好きかどうかはなんとなくわかるよ」
「なんとなくじゃだめ!ぼくは…メリッサ姉ちゃんに、かぞくになってほしい!」
「セナ…。お前…」
「兄ちゃんがいやなら、ぼくがおよめさんにもらう!とっちゃうぞ!」
「ふふっ。その時は、セナにもらってもらおうかな♪」
「まいったな…」
セナなりにハッパをかけてるんだろう。仲の良い兄弟だからこそ言えること。でも、マルコの様子から察するに、し話を逸らした方がよさそうな気がする。
「セナ。そろそろ晝ご飯食べる?」
「たべたいっ!」
「直ぐに準備するよ。マルコとメリッサさんもいいかな?」
「いつもすみません。頂くっす」
「私も頂きます」
「ぼくもてつだうよ!マルコ兄ちゃん……びしっときめてよ!」
「うるさいぞ!…ったく」
マルコに重圧かけるなぁ。
さすがに料理中に進展することはないと思ったけど、出來上がった料理を差し出すと同時に、「メリッサと付き合うことになったっす!」と笑顔で言われたのには驚いた。
好き合ってたんだろうけど、ほんの一押しが重要なことってあるんだな。「うんうん!」と笑うセナは満足そうで、それがなにより。
★
「うまかったぁ~!ごちそうさま!ウォルト兄ちゃんは、店をやったほうがいい!」
「ありがとう。直ぐに潰れそうだけど」
「多分儲かるっす。俺は、毎日のように食いに行って、他の奴にも宣伝します」
「私も友達をって行きます。凄く味しいので」
嬉しいことを言ってくれるなぁ。
「そういえば、ウォルト兄ちゃんって、しごとはなにしてるの?」
「ん?仕事は何もしてな……」
ふと思い留まる。
無職だと正直に伝えて良いものか…。セナは將來に希を膨らませる子ども。自給自足と言って、わかってくれるかな…。
……そうだ。
「最近、冒険者になったよ」
「へぇ~!!マルコ兄ちゃんといっしょだ!」
「ウォルトさん…。マジっすか…?」
「マジっす」
Fランクの冒険者証を見せる。
「マジっすね…」
「噓は吐かないよ」
「じゃあさ、マルコ兄ちゃんとたたかってみてよ!」
「なんで?」
「たたかってるの見たい!だって、ぼうけんしゃはつよいんでしょ?」
兄の格好いいところを見たい気持ちはわかる。
「マルコがいいならいいよ」
「俺は……いいっすよ。やりましょう」
「手合わせだけど、いい?」
「もちろんっす」
「やったね!」
手合わせだし、武闘家の技能も間近で見れる。今後の修練に生かせるかもしれない。あとは、いつものように負けないよう一杯やるだけ。
更地でマルコと対峙する。
「二人とも~!がんばれぇ~!」
離れた場所で応援してくれるセナの聲援に、思わず笑みがこぼれる。
対するマルコは、真剣な表を崩さない。ボクが気を抜きすぎた。この辺りが、冒険者として甘すぎる。気を引き締めよう。
「マルコ。お手らかにね」
「必要ないっすよ。…いきます!」
マルコは一気に間合いを詰めてきた。接近して連打を繰り出してくる。
「おらぁぁああ!!」
手數は多いけど、見切って全ての打撃を躱した。キレのある打撃に脅威をじる。怪我は完全に治っていると見ていい。
「いいぞ、兄ちゃん!ウォルト兄ちゃんも、すごい!」
し距離をとってマルコを観察すると、に不思議な力を纏っている。闘気や魔力とは明らかに異なり、暗部の『気』に近い。能力を強化しているわけではなさそう。
「さすがっす…!」
一段とスピードを上げたマルコの打撃が迫る。
まだ『強化』せずに捌けているのは、シノさんやサスケさん、ネネさんのおかげ。
暗部の打撃は、獨特の軌道でとにかく激しい。重圧に殺気がり混じる。それに比べて、マルコの拳は真っ直ぐで幾分か予測しやすい。
掌でけ止めたり、を躱しながらきを分析していると、一瞬大きな隙が生まれた。
以前、マルコに見せてもらった技能で反撃してみよう。魔力は目立つので、拳に『気』を集める。
「フゥゥ…」
「やべっ…!!」
踏み込んで脇腹に『崩拳』を打ち込む。
「ぐうっ…!!」
上手く腕を折りたたんでガードされた。捉えたと思ったけど、さすがの反応。吹き飛んだのは、わざと跳んで衝撃を逃がしているだけで、殆ど手応えはない。
「やっぱり強いっすね…」
「防に徹すれば、この位はできるさ」
「おもいきり反撃されたっすけど」
「隙があったからね」
「だったら…これでどうっすか!ハァァ!!」
マルコは、うって変わってダイナミックな連撃を仕掛けてくる。
「くっ…」
「オラオラ!オラオラァ!!」
激しく踴るようなきで、上下左右から打撃を繰り出す。逆立ちしたり跳び蹴りしたりと、不規則で多彩な攻撃は予測しづらい。技能なのか、さっきより威力も上がってる。
変則的な攻撃でもなんとか捌ききれるのは、サマラのおかげかもしれない。何をしてくるからわからないという點で、サマラの上を行く者をボクは知らない。
この攻防も一段落。
「はぁ… はぁ…」
「マルコ兄ちゃん、頑張れぇ~!!ウォルト兄ちゃんに負けるな~!!」
「マルコ!負けたら晩飯抜きだからね!」
肩で息をするマルコは苦笑い。
「…ったく。言うのは簡単なんすよ」
「そうだね。もう手合わせは充分じゃないか?」
「……いや!まだ行くっす!」
構えたマルコは、再び間合いに飛び込んでくる。これも速い。
「オラァァァ!」
大振りで振り下ろされたマルコの右拳を躱した瞬間、マルコの纏う力が増幅する。背を向けたまま更に踏み込んで、肩から背中全を使った當たりを仕掛けてきた。
「…っしゃあ!『山靠』!」
予想外の攻撃。これは躱せない。
マルコの技能をまともにけた、次の瞬間…。
「うわぁぁ~!!すっげぇ~~!!」
「…すご」
ボクのは宙を舞った。
さっきのマルコと同じく、衝撃を逃がすためだ。ただし、潛り込むような態勢から良い角度で打ち上げられたから、マルコの數倍飛距離が出てる。
綺麗に著地すると、マルコが笑う。
「これを躱されたら終わりっす。ありがとうございました」
「こちらこそ勉強させてもらったよ」
「跳ぶのがちょっと派手すぎて、笑えたっす」
「派手じゃないさ。凄い威力だった。予想以上に吹っ飛んだだけで」
「マジっすか」
『強化盾』でけ止めるのは容易いけど、あえて生でけた。かなり衝撃を殺したのに、まだ腕が痺れてる。
「でも、セナが楽しんでくれたみたいで良かったよ」
セナを見ると大興。共に歩み寄る。
「兄ちゃん!かっこよかった!」
「そうだろ」
「ウォルト兄ちゃんもすごい!めっちゃすばやいし、つよい!」
「ありがとう。応援してもらったから頑張ったよ」
「メリッサ。負けなかったから、晩飯食わせてもらえるんだよな?」
「ん~………微妙?」
「微妙ってなんだよ」
「兄ちゃんは…たべてよし!」
提案してみようかな。
「まだセナとも遊んでないし、良かったら晩飯も食べて帰らないか?ボクが作るよ」
「いいんすか?俺達は助かるっすけど」
「兄ちゃんはばかだなぁ!ウォルト兄ちゃんは、めしを食べてもらうのがうれしいんだよ!」
「さすがセナ。わかってるね」
その後はセナと遊んだり、疲れて眠っている間にマルコから武闘家の修練について教えてもらったりして、約束通り夕食を囲んだあと皆は帰路についた。
忘れないに、マルコから教わったことを試してみよう。
更地で獨り佇み、神を集中する。
マルコが纏っていた力を武闘家は『気功』と呼ぶらしい。気功は獣人が備える力に似てる。今日の手合わせで全容は解明できなかったけど、使い方に関してヒントになった。
『強化』のようにるのではなく、技能に活かす方法を模索してみよう。
『山靠』をけたとき、まるで巖がぶつかってきたようだった。は『化』したようにく、発的な一瞬のスピードでの衝突。
おそらく、力の作によるさと速さが融合して、あの威力を生んでいる。『強化盾』でけ止めずに、このでけたから気付けたこと。
獣人の力で魔法をろうとすれば、複雑に作する必要があるけど、一瞬の作ならもっと単純に考えて良い。武闘家の技能習得法で覚えられるかもしれない。
ずっと効果を持続させるのではなく、一撃だけでも威力を高められるのなら、それだけで獣人は強くなる。
「こうかな?いや、違う…」
ブツブツ獨り言を呟きながら、修練を続ける。
「武闘家は、何より基本を大切にするっす」とマルコが言っていた。何十萬、何千萬と突いたり蹴ったりの基本を繰り返して、しずつ技を磨き上げてこそ、技能を習得できるのだと。
だったら、ボクもやってみよう。習うより慣れろだ。コツコツ歩みを進めることが最善なのは、魔法も同じ。
積み重ねることは苦にならない。マルコは親切に基本を教えてくれた。暇を見つけて修練するぞ。
「フッ…!ハッ…!」
これで技能がに付くのなら、獣人にはもってこい。思考を鍛えるより、を鍛える方が得意な獣人は、一時間の座學より百時間の鍛錬を選ぶ。ただし、単調なことをやり続ける気があるか。そこは、本人のやる気次第。
ひたすらマルコから教わった呼吸法と基本を繰り返し、ちょっと一息つく。
「ふぅ…。基本って、難しいな」
突きにしても蹴りにしても、自分が狙ったところを寸分違わず打つのは難しいことに気付いた。急所を狙うときは、一點に正確に打ち込まないと効果は薄れる。
普段、いかに大雑把な打撃を繰り出しているか理解できたのは大きい。やっぱり、これからも続ける価値あり。
打ち込み用の木人がしいから、枯れ木を集めて魔法で作ってみよう。耐久力も上げて、人に近いに仕上げたり…。
考えるだけで楽しくなってきた。
やることがありすぎて、毎日時間が足りないけど、が元気なら何でもできる。死ぬまでに習得したいけど上手くいくかな?
「めちゃくちゃ小っさくて、痩せてる老人なのに、俺を吹き飛ばすような凄い武闘家もいるっす」とマルコは言ってた。
ボクはそうなりたい。非力でも、マードックのような大男を吹き飛ばせるような獣人になれるなら、何千萬回でも基本を繰り返す。
目標は、それでいこう。
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