《【書籍化決定】公衆の面前で婚約破棄された、無想な行き遅れお局令嬢は、実務能力を買われて冷徹宰相様のお飾り妻になります。~契約結婚に不満はございません。~》朱夏の季節に。

「冷えないか?」

その後、アレリラが割り當てられた寢室のバルコニーで外を眺めていると。

イースティリア様が、夜著と薄いショールの上から、ふわりとりの良い白の皮の部屋著を掛けて下さった。

「ありがとうございます」

飽きることなくアレリラが眺めていたのは、屋敷の庭を彩る燈りである。

お祖父様からいただいた設計図を元に作られているのだろうそれは、実用だけでなくデザインも凝ったものだ。

「何か、考え事をしているようだが」

「大したことでは。この旅行でわたくしは自分の見聞がまだまだ狹いのだと改めて考える良い機會を得られましたので、噛み締めていたのです」

きっとアレリラは、知識そのものは多く記憶している方だろう。

どんなが何の役に立つのか、どういう場面で使えるものなのか。

そうした、既存のものに対する回答を出すのは、得意とするところだけれど。

「新たなものを生み出すこと、今あるものを変えること。そうした力というものをお持ちの皆様は、改めて尊敬に値する方々なのだと」

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より良い未來を作る。

その為に必要なことを実行する。

口にするのは容易いけれど、それを実行し、実現するには果てしない困難があることを、アレリラは知っている。

どれほど考えても自分には見えない、そんな未來の景の片鱗を、タイア領は見せてくれているのだ。

「祖父とイースティリア様の見ているものの片鱗を共有出來ることは、わたくしにとって得難い幸せです」

アレリラは、自然に笑みが溢れるのを抑えきれない。

するとイースティリア様は、どこか切なそうな顔で、アレリラの頬に手を添えた。

「……どうなさいましたか?」

湯上がりの、ほのかにった溫かいに戸いを覚えていると、イースティリア様は小さく息を吐いた。

「ここに來なければ、君のそんな表を見ることがなかったのかと考えていた。それが嬉しくもあり、々悔しくもある」

「……お祖父様と、何か?」

「いいや。これは彼の口にした『ままならぬ自分の気持ち』の問題だろう」

イースティリア様も橫に並んで、庭に目を向ける。

「知っているか。人の人生を四つの季節になぞらえる風習が、南のライオネル王國にはあるらしい」

「季節、ですか」

「君も一つは耳にしたことがあると思う。青春、という言葉だ」

「存じ上げています」

「人生における長の時期、最も多な時期を指すそれを、皆は最も尊ぶ。若く、可能に溢れている10代の時期だからだ」

「なるほど」

「だが、それには続きがある。最も栄える朱夏(しゅか)、晩年に差し掛かる白秋(はくしゅう)、老年の域である玄冬(げんとう)だ」

「勉強になります」

「我々は、朱夏の季節に在る。それまでに得たものが花開き、それを活かすことが出來る時期に。私は、青春よりも価値のある時期だと思っている」

した自分が、何かをす時期。

「確かに、それはわたくしたちの季節ですね」

まさに、これから。

今でも陛下に頼られているイースティリア様が、レイダック殿下が王位を継いだ後に、その辣腕をさらに振るい共に帝國を変えていく時期が訪れるのだ。

「その朱夏の季節に。もし改革を進める私が道を間違えそうになった時に、止めてくれるのは君だろうと思っている」

「イース、が、間違う……?」

アレリラが戸うと、イースティリア様は微かに苦笑する気配を見せた。

「君は、私が間違わないと思っている節があるが、そんなことはない。思い違いや覚え違いをすることもある」

「……それを言うのなら、わたくしにも、思い違いや覚え違いはあります。例えばかつて、ペフェルティ伯爵に婚約破棄を告げられた時、頭の中で直接的な言葉に置き換えた理由は、別の方がそう口にしたのを聞いていたからです」

かつて気臭い大とアレリラを評したのは、ボンボリーノではなく學友の一人だったのだ。

な青春の時期。

その時期を、アレリラはおそらく、人から見れば灰に見える過ごし方をしていた筈だ。

けれど、それでも。

「気にしていなかった筈の事柄を、言葉を、否定的に捉えるようになるような影響を、けていたのでしょう。多というのは、そういうことだと思います」

そしてイースティリア様と出會い、ボンボリーノと和解した後、幾度も視界が広がるような経験を出來ているのは。

「わたくしは知識を蓄えるばかりで、その知識が何を意味するのかを実することなく、狹い殻の中に閉じこもっていたのでしょう。だから今、こんなにも學ぶことが多いのだと思います」

「そうではない。知識がなければ、好奇心がなければ、君のような學び方を出來はしない」

イースティリア様は、アレリラの瞳を覗き込み、ハッキリと否定した。

「無駄な過ごし方をしたのではない。確かに、青春の季節に経験したことは、人に焼き付くのだろう。今思えば大したことではなくとも、重大なことにじる。そして未なその當時であれば分かり合えなかった相手とも、今なら分かり合えることもある」

「はい」

「関係も考え方も、変化するものだ。陛下は白秋に至り、今なおだ。サガルドゥ殿下は玄冬の域にあり、『幸せだ』と口に出來る先へ君の母堂を送り出し、なお先を見據えている」

今だから、ボンボリーノ達とも良い関係を構築出來ている。

「仰る通りだと思います」

「人の生は、青春のその後の方が長くしえることも多い。アレリラ」

「はい」

「私は、君と青春を共にすることが出來なかったのを殘念に思うが、今を、そしてこれから先のより長い生を、君と共に在れることを嬉しく思う」

そう告げられて。

アレリラは目を細めて微笑み、元に手を當てた。

「わたくしも、同じ気持ちです」

している、アル」

「……イース。わたくしも、心からお慕い申し上げております」

そっと肩にイースティリア様の手が添えられ、顔がしずつ近づいてくる。

アレリラは、微笑んだままそっと目を閉じて。

らかく溫かいれ合うことに、確かな幸せをじていた。

ご無沙汰しております。

本日9/1、お局令嬢の二巻が発売されました!

またコミカライズが8/17よりコミック・アーススターで配信開始されており、現在二話まで更新されておりますー♪

こちらもどうぞよろしくお願い致します。

いつもお読みいただきありがとうございますー♪

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