《【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】》右の五指
「一等級冒険者……失禮ながら、ギルドカードを確認してもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
僕が渡したギルドカードは、七にっている。
これは一等級冒険者しか使えないオリハルコンのギルドカード。
――そう、僕はエンドルド辺境伯とアンドレさんの結託の下、一等級に格上げされてしまった。
一等級冒険者であるシャノンさんをパーティーにれた狀態でリーダーの僕が四等級では格好がつかないだろうという理由からだ。
ちなみにギルドカードには所有者の魔力とが登録されているため、偽造することはほぼ不可能である。
そこに記されたブルーノの文字を見た騎士の男が、こっくりと頷いてこちらにカードを差し出してくる。
「確認致しました、疑ってしまい大変申し訳ございません。私はこの外壁の防衛を預かるレンスターと申します」
「レンスター卿、殘敵の掃討に移っても構いませんか?」
「え、ええ、お願いできるなら、非常に助かりますが……」
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騎士であるレンスター卿は貴族。
だというのに僕らに対してはなぜか敬語だ。
一等級の冒険者は騎士爵くらいの世間的な地位は持っていると聞いたことはあるけれど、大任を任されるレンスター卿は恐らくは世襲貴族のはず。
そんな人がこちらに気を遣っている……多分僕らを、どう扱えばいいのか図りかねてるんだと思う。下手に機嫌を損ねられたら困ると思ってるのが丸わかりだ。
とりあえずこれ以上レンスターさんの心労を溜めてしまわないよう、あまり深く突っ込まずに粛々と魔の討伐に勤しむことにしよう。
こういう時に距離をどんな風に摑めばいいかとかも、よくわからないしね。
「すげぇ……本の、グリフォンライダー……俺、初めて見たぜ」
「俺もだ。なんつぅ強さだよ……」
「いや、たしかにグリフォンライダーもすごいけどよ。明らかに一番すげぇのはあの亀だろ! 見たかよ、さっきのあの馬鹿でかい巨! どんな魔でも、あの足で踏めばイチコロに決まってる!」
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魔の討伐を更に進めていくうちに、外壁にいる人達から時折人の聲が聞こえるようになってくる。
今までは防衛に徹して隠れながら戦っていた人達が、危険が去ったことで外壁に集まり始めているんだろう。
見れば魔の素材を回収するためか、ぼちぼち冒険者の人達が外に出てき始めていた。
外に來た人達は僕達が戦うのを観戦しながら、好き放題にんでいる。
「みぃ……」
どうやらアイビーは巨と言われたのを気にしているみたいで、目を細めていた。
の子の重を聞いてはいけないというあの法則は、アイビーにも當てはまるのだ。
ちなみに今は、僕が背中に乗せるくらいのサイズになってもらっている。
細かく移して魔を掃討するなら、小回りが利くサイズの方がやりやすいからね。
そんな風に魔を倒しては歓聲を上げられ、空を駆けては騒がれることが続くことしばし。
魔の討伐が完全に終了した。
見れば冒険者の人達が素材の切り分けをしてくれている。
皆こっちに向けてサムズアップをしてくれているから、魔の素材をどさくさ紛れに盜もうなんて輩もいないようだ。
まあお金と素材を溜め込んでも大した使い道なんかないから、前と同じく適當に貸し付けたりあげたりして復興に充ててもらうつもりだけどね。
僕らも解に加わろうとしたその時だった。
「ふむ、どうやら今回は我が當たりを引いたようだな」
「――えっ!?」
空に突如として、人影が現れる。
そこにいたのは……全を青紫の鱗に包んだ人型の魔だった。
背中には羽が生えており、その額には第三の目がついていた。
明らかに只者ではない雰囲気を漂わせている。
恐らくは――魔王十指。
ごくりと唾を飲む。
そんな僕を見た魔は、ふふっと不敵に笑ってみせた。
「魔達を単騎にて、これほど一瞬で殺戮してみせるその手際……見事ッ!貴様が勇者だな! 我は魔王十指、左第一指のガヴァリウス。貴様を殺し――魔王様の憂いをここで絶つッ!」
「ええっ、ちょっと待っ――」
「問答無用ッ!」
本當に問答無用だった。
それ以上のおしゃべりは不要とばかりに、サンシタに乗ってくる僕へと襲いかかってくる。
ガヴァリウスがグッと右手に力をれると、右手の爪がジャキンッと一気にびる。
あれを食らったらヤバいッ!
「障壁ッ!」
即座に全力で障壁を張る。念には念をれて、三枚張りだ。
結界と爪撃の衝突、響いた音はパリンという甲高い音。
ガヴァリウスの爪は障壁の一枚を破ってみせた。
力をれたんだけど破られちゃうとは……かなりの難敵だ。
【ブルーノの兄貴に、手出しはさせないでやんす】
すれ違い様、サンシタが己の前足でガヴァリウスへと攻撃を加える。
ガヴァリウスはそれを空いている左手でけ止めてみせた。
隙アリッ!
「――すうっ」
今や僕の得意魔法となっているライトアローを同時に、一直線に展開。
そして後ろのライトアローを加速させ、次のライトアローにぶつけ、そのライトアローを加速させ、最終的にとんでもない速度になったライトアロー。
レイさんが名前をつけてくれた、僕の必殺技だ。
「――パイルライトアロー!」
高速化したの矢が次なるの矢を加速させることで、新たな魔法へと昇華させた一撃。
音を置き去りにした回避不能の一撃が、ガヴァリウスの脳天に直撃した。
「な……」
まずガヴァリウスのが衝撃で吹っ飛び、そのを貫通したの矢が、後頭部を抜けて後方の陸地へと飛んでいく。そしてそのまま、轟音を立てて発。
著弾時のが収まった時には、そこには瀕死のガヴァリウスの姿があった。
「がふっ、ば、馬鹿な……この『翼撃』のガヴァリウスが、たったの一撃で……? ふっ、流石は勇者と言うべきか……」
「……」
「……みいっ?」
僕とアイビーは顔を見合わせて、首を傾げる。
果たしてこの人の誤解を解いておくべきだろうか。
でも、真実を知らないまま終わってしまうのはかわいそうだということで、本當のことを教えておこうという結論を出した時のことだった。
パキンッと、乾いた何かが割れるような音がした。
枯れ枝を踏んだときのような小気味のいい音が、樹木一本ないこの場所で鳴ること自がおかしい。
割れていたのは枝ではなく……空間だった。
先ほどまで何もなかったはずの場所に、亀裂がっていく。
空間が割れ、後ろ側が見えなくなっていき、そして……開いた。
そこに広がっているのは、真っ黒な空間。
一寸先も見えないような漆黒を攜えてやってきたのは、一人の年だった。
黒い眼帯をした、僕よりもそうな年は、こちらに人差し指を向ける。
「慟哭閃(ラメント)」
「みいっ!」
年の指先から黒いが迸るのと、アイビーがんだのはほとんど同じタイミングだった。
バリバリバリバリッ!
アイビーが展開していく障壁が、凄まじい勢いで破られていく。そして破られた次の瞬間には同量の障壁が再生産されていき、またしても破られていく。
百枚以上の障壁が割られたところで、ようやくの勢いが止まり、霧散した。
な、なんていう一撃だ……無防備な狀態で食らったら、とんでもないことになっていたに違いない。
「……なるほど、資格はあるというわけか。亀とそれを使役する年――雑魚の報告にあった通りだな」
年はそのまま、人差し指をかす。
そして再度、慟哭閃と呼ばれていた技を発させた。その先にいるのは、瀕死狀態のガヴァリウス。
気付けば、飛び出していた。
僕の障壁の展開速度では、慟哭閃をけきることはできない。
なので障壁に角度をつけて攻撃をずらしていき、外側に飛ばすことでなんとか弾くことができた。
右手がピリリと痺れる。
攻撃の威力が高すぎるせいで、障壁を張っている僕の方にまでダメージが帰ってきたのだ。
僕は既に事切れているガヴァリウスを見下ろしてから、年の方を向く。
「どうして、死に攻撃を? 彼は、あなたの仲間じゃないんですか?」
「仲間? それは違う。左手の魔人共など、僕達から見れば有象無象に過ぎない。なるほど、今回の勇者は博主義者か……趣味が悪いな、相変わらず」
年がパチリと指を鳴らす。
すると黒の空間が、年ごと周囲に溶け込んで消えていく。
「待って、君は……君は一……」
「僕は――魔王十指、右第四指のクワトロ。勇者よ、々気を付けるんだね。魔王様に殺される前に、死んでしまわぬように……」
クワトロと名乗った年は、そのまま消えてしまった。
まるで、全てが夢みたいだった。
障壁でけ流した攻撃でめくれ上がった大地がなければ、僕が寢ぼけていたんじゃないかと思うほどに。
「だから僕は、勇者じゃ……」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉおっっっ!!!」」」
力無く呟く僕の聲を掻き消したのは、割れんばかりの歓聲だった。
後ろを見れば、こちらにやってきた皆が僕達の方を見て聲を張りあげている。
クワトロのことは……今は考えなくていいか。
なんにせよ、脅威は取り除けたんだ。
僕が手を掲げると、冒険者の同業達がこちらに駆け寄ってくる。
そして僕は彼らにされるがままに、全をもみくちゃにされるのだった。
こうして、魔王十指のはありながらも、ガラリアの防衛は無事功した。
そして僕らはそのまま南へ向かい、無事全ての港町の防衛に功する。
僕が臨時で組んだ救世者のパーティーの名は、良くも悪くも王國全土に轟くことになる。
そのせいで々と、また面倒なことが起こることになってしまうのだった……。
ああもうっ、なんでこう思い通りにいかないのさっ!
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