今日はドワーフの工房を訪ねている。

コツコツと作っていたモノが完する日。

「遂にできました…」

「おう。やっとか。今回は時間がかかったな」

「皆さんにも手伝ってもらって、謝してます」

「手伝っとらんわ。技法を教えただけで、禮なんぞいらん。その代わり、味い飯を頼むぞ」

「任せて下さい」

出來上がった二振の剣。アイリスさんとシオーネさんに頼まれていた。明日、屆けにいこう。

忙しい仕事の合間をって助言してくれた師匠達のために、謝を込めて腕を振るおう。今回もかなり助けてもらった。

「今日の肴も味い！ガハハハ！」

「ホント、アンタには専屬の料理人になってもらいたいよ」

「大袈裟ですよ」

味しいと言ってもらえるだけで大満足。沢山食べてもらえるのが嬉しい。

「お前が打った剣、特に小さい方を扱うには相當な技量がいるな」

「大丈夫です。相當な剣士なので」

「剣のことは知らんが、寶の持ち腐れが一番良くない。モノは扱いきってナンボだ。気合いれろと言っとけ」

「必要ないと思いますが」

「あと、お前は仕事をけすぎだ。事には丁度良いってのがあるぞ」

「仕事じゃなくて趣味なので」

「ったく。困った奴っちゃ」

仕事人のコンゴウさん達には悪いけど、ボクは楽しんで作ってる。

「ところで、コンゴウさん達はカネルラでも有名なんですね」

「そうらしいな。どうでもいいが」

「俺らは、良いモン作れりゃそれでいいんだよ。ドワーフっつうのは、そういう種族だ」

「悪いモノを作れば、直ぐに掌を返す。世の中ってのはそんなもんだ。名聲のために仕事するのは疲れるわい。何も考えずに良いモン作れりゃ、それでいい」

素晴らしい技を持っているのにがない。己が満足できるモノを作ろうとする姿勢を見習おう。その結果、依頼者にも満足してもらえるモノができる。まず納得するのは自分から。

「依頼の容を無視しちゃいけんが、へーこらする必要もない。だが、これは俺らの理屈だ。お前は、お前の思うようにやれ」

「はい。ありがとうございます」

「おい、ファム！アレを持ってきてくれ！」

「はいよ」

アレって何だろう？

ファムさんが持ってきたのは、一振りの剣。「はい」と手渡される。

「あの～…これは？」

「お前の剣だ」

「えっ！？」

「俺らが打った。ちっとは扱えるんだろ？人のばかり作っとらんで、自分でも一振くらい持っておけ」

「ボ、ボクにですか？」

「そうだと言っとるだろ。いらんのか？だったら返せ。鋼に戻す」

「いえ！有り難く頂きます！」

立派な鞘に収まった剣。一目で業だとわかる。

…もの凄く嬉しい。ボクの為に剣を打つ暇なんかないだろうに…。

「抜いて見て良いですか？」

「おうよ」

ゆっくり引き抜くと、銀に輝く刀に顔が映る。

「こんな素晴らしい剣を…ボクのために…」

鍛冶を手伝うようになって、職人の苦労や技をでじてきた。この剣は…丹込めて打たれたモノ。丁寧で、魂の込もった仕事。

まずい…。泣いてしまいそうだ…。

「神妙な顔するな。お前は仲間だから特別だ。日頃の禮に、何か作ってやりたいとずっと思っとった」

「鞘はアタシらが作ったんだ。良い柄だろう？アンタの長を願ってね」

鞘にはドワーフの紋様が刻まれている。『雲外蒼天』の紋様が…。

「本當に…ありがとうございます…。これから、魔法だけじゃなく、剣も磨いて進します。この剣に恥じないように」

「おう！さっきも言ったが、良いは扱いきってこそだぞ！ガッハッハ！」

「アンタならやれるよ」

「大切に扱わせてもらいます」

思いがけず寶が増えた。

「無用だと思うが、一応説明しとくぞ。魔力の伝達が速くて、軽くしなやかな剣だ。ウルフバートとミスリルを使っている。切れ味は鋭く、耐久もある」

「確かに軽いです」

「魔裝備ではないから、魔力増幅はできん。その代わり、魔力のロスはほぼ無い。お前なら々な使い方ができる」

「試して模索してみます」

「あと、これだけは言っとく。お前が使ってくれたら、それで充分。禮はいらんからな」

「わかりました。勝手にお禮します」

「何にもわかっとらんな…。まぁ、いつものことか。味い飯で手を打つわい！」

「任せて下さい」

決めた…。

今日は……やってみよう。

コンゴウさん達に食べてもらう料理は、質よりも速さと量を優先する必要がある。せっかちで待つのが嫌いだから、時間と手間を天秤にかけて、細かい手間を省いてる。

どうしても時間がかかるから封印していたけど、師匠達の舌を満足させて、唸らせる為に全力を出そう。全員の細かい好みも既に摑んでいる。

さて……やるか。

全全霊の…限界に挑む調理で、師匠達の胃袋を鷲摑みにするんだ。

數時間後。

「う、味い～～！！なんちゅう味い飯だっ！！信じられん！」

「な、なんじゃこりゃぁ～！う、味すぎるぞぉ！」

「食ったこともねぇ！！匙が止まらん！！」

「アンタはドワーフの嫁をもらいな！味を伝授するんだよ！」

「皆さん、大袈裟ですよ」

既にかなりの量を平らげているのに、料理を貪り食う師匠達は幸せそうな表。

先にあえて多めに食べさせ、ペースを落ち著かせたところで、それぞれ味付けを変えた本気の料理を並行して作り、最後に揃えて各々に出した。

ちょっと大袈裟だけど、皆の食べっぷりに満足。しでもお禮になったかなぁ。

ただし、全然気が済んでない。

★

次の日、久しぶりに王都へやってきた。

リスティアに連絡して、今日手渡しに向かうことをアイリスさんとシオーネさんに伝えてもらった。

リスティアとは、定期的に會話を楽しんでいる。魔伝送に加護の力を補充することで、使用できる量が自然に増えているみたいで、本人曰く「最高！」らしい。

時間は、もう宵の口。

騎士の皆が訓練を終えて、帰宅する時間に合わせてテラさんの家に集まってもらうようお願いしたので、寄り道せずに目指す。

家が見えてくると、外で待っていてくれたのは…。

「ヒヒーン！」

「久しぶりだね。カリー」

「ヒン！」

この間はかまってあげられなかった。久しぶりのモフりモフられ。落ち著いたところで訊いてみる。

『テラさん達はまだ？』

『もうそろそろね。いつも遅いわ』

カリーの聲に反応したのか、家の中からダナンさんが顔を出す。

「ウォルト殿。無沙汰しております」

「お久しぶりです」

「もう直ぐ帰ると思います。中でお待ちくだされ」

「お邪魔します」

やることをやってからお茶を淹れて、ダナンさんと會話していると、玄関が勢いよく開いて聲が響き渡る。

「ただいま～！ウォルトさん！お久しぶりで～す！」

顔も見えてないのに元気だなぁ。出迎えよう。

「皆さん、お久しぶりです」

「「お久しぶりです」」

アイリスさんとシオーネさんにも挨拶する。

「テラさん。食事にしますか？お風呂にしますか？」

「先にお風呂にりたいです！城で水を浴びたんですけど、外は暑くて！」

「準備は済ませてます。その間に食事を準備しますね」

ダナンさんから食材を好きに使っていいと聞いてる。テラさんが準備してくれたらしい。

「やった！お腹ペコペコです！」

「ウォルトさん…。普通、逆ですよ？此処はテラの家です」

「甘やかし過ぎじゃないかと」

「ヒヒン！」

「アイリスさんもシオーネもルビーも固い！ウォルトさんは、これが普通なんです！」

「お二人も中へどうぞ。お茶を淹れるのでゆっくりして下さい」

「家主より家主っぽい…」

「まるで家政婦みたいです」

挨拶を終えて臺所に移する。訓練で疲れたであろうに、疲労回復効果が見込める料理を作ろう。

空腹だろうし、待たせないようさっと料理を作り終えて居間に運ぶと、テラさんは湯浴みを終えていた。

「居間が涼しくて最高です！ありがとうございます！」

「ボクでも今日は暑いと思います。なので、軽く部屋を冷やしてみました。料理ができましたよ」

食事をすごい勢いで食べるテラさんとは対照的に、アイリスさんはゆっくり味わうように食べる。そして、ダナンさんとシオーネさんは、酒とお茶を飲んでる…んだけど。

「まさか、再び酒の味をじることができようとは！最高ですな！」

シオーネさんから聞いたらしく、頼まれて魔法で覚を繋げた。ダナンさんは、かなりご機嫌な様子。あくまで味をじるだけで、酔う覚はないと思うけど、とても嬉しそう。

食後には、冷たい甘味を。

「冷たくて味しい！」

「本當ね。とても味しいわ」

魔法で大きな氷を作り、ドワーフの『研磨』でふわふわになるよう細かく削る。その上に甘く煮詰めて濃した果実水をかけ完。

後片付けまで終えると、いよいよ作った剣を手渡す。目立つので『圧』して背負ってきた。布袋に『堅牢』を付與すれば、破れることもないので便利。重さは鍛錬のために軽くせずにきた。

居間で出すには狹いので、裏庭に移する。

「先ずは、シオーネさんの剣です」

元の大きさに戻して手渡す。

「凄い…。想像通りです。カネルラ騎士団の紋章まで刻印されて…」

「良かったです」

シオーネさんには、丈夫な大剣を作ってしいと言われた。本人の軀とさほど変わらないほどの大剣を。

「切れ味も鋭く仕上げましたが、要の通り耐久に重きを置いています。そう簡単には折れたり欠けたりしません。斬るというより、叩き潰すような振り方が有効かと」

「はい。私は不用なので、闘うとなれば華麗な剣技ではなく、泥臭く闘います。攻防に使える大剣がしかったのです」

軽々と片手で剣を振るうシオーネさん。英霊になって、生前より力が増したのも大剣を選んだ理由だと言った。

「剣を変えるとなると、稽古にも変化が必要になるな。ボバン殿は長剣使い。似て非なるモノだが、詳しいだろうか」

「ダナンさんの言う通りだと思って……こちらも作ってみました」

木剣でも同様の大剣を作ってみた。これも手渡す。

「何から何まで…ありがとうございます。修練に勵みます」

「いえ。是非、使って下さい。次に、こちらがアイリスさんの剣です」

元の大きさに戻して手渡すと、両手でけ取ったまま剣を見つめてかない。

「アイリスさん…？」

「ありがとうございます…。こんな素晴らしい剣を打って頂いて……謝に絶えません…」

「納得いかない出來かもしれません」

「ただの自惚れかもしれませんが……數多くの剣を目にしてきたので、見るだけでわかるのです…。丹込めて打たれた剣か、そうでないか…。この剣には…魂をじます」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ボクなりに丁寧に打ちました」

褒めてもらえるのは素直に嬉しい。

鞘から引き抜いた剣を、角度を変えて眺めたり、軽く素振りしてを確かめている。

アイリスさんが要したのは、闘気の伝達に適した素材で作られ、鋭さと軽さを併せ持つ剣。

可能な限り耐久も上げて、長さや幅、重心やバランスにも拘り、理想の剣を求めた。

ただし、全ての要に応えると、どうしても歪みが出る。弱くなる部分が生まれることはアイリスさんも理解していて、「私の技量を上げることで対応します」と語った。それでもお願いしたいと。

二人の剣は、作っていて楽しかった。要に違いはあれど、剣に対する本気合が伝わってきたから。作る側も、納得させるモノを作らなくちゃいけない。

「寸分の狂いなく要通りです。大切に扱わせて頂きます」

「それは良かったです。修正があれば、いつでも遠慮なく言って下さい」

アイリスさんは、困ったように笑う。

「今から、しだけ我が儘を言ってもいいでしょうか？」

「はい」

「貴方は、何でもできます。魔法使いであり、薬も作るし、鍛冶も料理もできる」

「誰でもできます。全て半端者ですし」

「それは違います。…私は……貴方に、の目を浴びてしいのです」

「の目を？どういう意味ですか？」

「もっと、多くの人に評価してもらいたいのです。それだけの価値があるモノを、貴方は作り出す力があります」

最高の評価だ。率直に嬉しい。

「ありがとうございます。評価してもらえるのは嬉しいです。でも、多くの人に賞賛されたいとは思いません。それがの目を浴びるということなら、ボクは日を歩き続けたい。褒めて頂いたのにすみません」

「先に言いましたが、私の我が儘なのです。答えはわかっていました。困った人ですね」

ふふっと笑ってくれる。

「ただし、今回は報酬をけ取って頂きます」

「えっ？作るのが楽しかったので、いりませんが…」

「ダメです！いいですね…？」

「……はい」

貫くような眼力が凄い…。とても斷れる雰囲気じゃない…。軽いお禮だといいけど。

「私とシオーネ、そしてテラからのお禮です」

「テラさんもですか？」

「相棒(やり)を頂いたお禮ですよ♪遅くなりました！」

「それぞれから渡すと、斷られる可能が大なのでこうなりました。皆で一つなら、まだいいでしょう？」

「ソウデスネ…」

格を読まれている。

「では、シオーネ。お願い」

「はい」

シオーネさんは兜をし持ち上げて、首の辺りから何かを取り出そうとしてる。

どうやっての中に…？

…まぁ、いいか。英霊は普通にできるんだろうな。

「どうぞ」

「ありがとうございます。これは…？」

何やら古いノートのようだけど…。かなりの年代で、見た目にもボロボロ。『保存』と『堅牢』が付與されているのがわかる。

「フィガロが書いた日記だと云われています」

「えっ…？……えぇ～～～っ！！？ホントですかぁ～～っ！！？」

フィ、フィガロの日記だって…？！そんなモノが存在するなんて、初めて聞いた。

「し前に、王都で競売にかけられていたのです。フィガロ研究家の品で、信憑は高いらしいのですが、誰にも解読ができな…」

「ほ、本當にもらっていいんですか！？す、凄いモノですよ、これはっ！！相當希なモノですっ！？」

「は、はい。私達からのお禮なので…是非…」

食い気味に話を遮ってしまった。若干……いや、かなり引かれてしまったけど、このノートの価値を伝えたい！

なんてことだ…。から手が出るほどしい…。けれど…。

「気持ちはもの凄く嬉しいのですが…ボクの剣では釣り合いません…。これを頂くには、もっと良い剣を打たないと…。百歩譲って、見せてもらう程度が妥當で…」

「言い辛いのですが、「読めない日記など要らない」と不人気で、申し訳ないほど安価で競り落としたのです。気にせずけ取って下さい」

「そうは言っても…」

「シオーネとテラと共に、頭を捻って考えたお禮です。正直、私達三人が持っていても意味が無いのです。フィガロに興味がないので、寶の持ち腐れになります」

「それは…そうですね。……本當にいいんですか？」

「「「いいんです」」」

「……本當に頂きますよ？」

「「「はい」」」

「…ありがとうございます。ボクでよければ、何振でも剣を打ちますので」

「もう充分です」

有り難くけ取る。

住み家に帰って、楽しみに見ることにしよう。

「私もし中を見たのですが、何が書かれているのか理解できませんでした。ウォルトさんなら解読できるかもしれませんが、最悪偽の可能もあります」

「これは浪漫です。たとえ偽だったとしても、アイリスさん達の気持ちには噓偽りない。それで充分です」

また、寶が増えた。嬉しいなぁ。

皆に謝を告げ、またの再會を約束して住み家に帰る。フィガロの日記には、何が書かれているのかさっばり理解できなかったけれど、それでも心踴った。

明くる日。

訪ねてきたキャロル姉さんから、「旦那さんから、浄化裝置修理のお禮だとさ」と魔導書を渡された。東洋の魔導書らしく、読んだことがない。

とんでもなく嬉しい。でも、高価であることを知っているので、「とてももらえない」と斷ったけれど、「いい加減にしな！アタイらが持ってても、腐らせるだけだ！たまには黙ってもらえ！」とがっつり叱られた。

皆はわかってるんだろうか？

ボクに渡しても、寶の持ち腐れになる可能があることを。

勿論みすみす腐らせるつもりはない。剣も磨くし、魔導書も読む。もちろん日記の解読にも挑戦する。

皆の気持ちが嬉しかったから。