《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》『第五十四章 最後の取材』 461 それでも、ノンケだと言い張る男
「俺はノンケだ……間違いなくノーマルで、天才な男」
ひとり、天井を見上げながら、呟く。
もう病院の個室ではない。
我が家に無事、帰宅できたのだ。
その証拠に自室の天井は、院前と変わらず、ミハイルの寫真で覆われていた。
どこに目をやっても、必ず男のミハイルがいる。
しかし、敢えて言おう。
「ノンケだ!」
と天井に向かってぶ。
宗像先生から教わった……。
俺が誰を一番好きかということ。至ってシンプルな話だ。
一方で先生は、俺がゲイを否定している事も考慮した上で。
世間など気にするな、と言いたかったのだと思う。
それからだ。
肩の荷が下りた気がして、何もかもが前向きに進み始めたのは。
病院食も毎食、全て完食できるようになったし。
ついでに宗像先生が持ってくるアンナの手料理も、半分以上貰って食べていた。
俺が元気になってきたところを見て。宗像先生からリハビリと稱して、激しい筋トレを強いられた。
腕立て伏せ、腹筋。背筋にスクワットを各30回、一日3セット。
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片腳が折れた狀態でも、やらされた。
「相手に想いを伝えられるぐらい、強靭なを手にれるのだ!」
と昭和的な考えで、スパルタ教育されてしまった……。
俺はようやく回復した……いや、強い男に生まれ変わったのだ。
を鍛えたことにより、考え方も変化する。
自分はあくまでもノンケだが、好きになった人間がたまたま男だった。
という考えをけれることにより、前へ進める。
ならば、あとは簡単だ。
ジーパンのポケットからスマホを取り出し、相手に電話をかける。
『……もしもし?』
弱々しい聲だ。心配させてしまったからな。
「久しぶりだな、アンナ」
『タッくん!? げ、元気にしていたの? 宗像先生が全然、會わせてくれなかったから……』
俺が退院したことは、家族と先生以外知らない。
敢えて、報を制限したのだ。
しっかりとお互いの間で、ケリをつけるまで、接することは止する。
そう宗像先生に厳しく注意された。
でも、今は違う。ちゃんと準備が整ったから。
「悪かったな、アンナ。々とあったが、ちゃんと無事に退院できたんだ。弁當も毎日ありがとう」
『良かった……本當に……』
話の向こう側から、すすり泣く聲が聞こえてくる。
「その禮も兼ねて……いや、やはり正直に言うよ。明日、久しぶりに取材しないか?」
『え? 取材……』
「ダメか?」
『ううん、ダメじゃないよ。でも、退院したばかりなのに、大丈夫なの?』
「心配するな。むしろ元気が有り余っているぐらいだからな、ハハハっ!」
『そう、なんだ……わかった。じゃあ、明日博多で會おうね』
「ああ」
電話を切ったあと、俺はなんとなく手ごたえをじ、拳を作っていた。
ここまでは、計畫通りだ。
あとは、本番次第。もうあんな不幸が続くことのないように……。
※
デート當日、博多駅の中央広場へ向かった。
春の間はほとんど、病院で過ごしていたので。久々に人ごみを見て、懐かしさをじていた。
1年前のデートを。
いつも通り、黒田節の像で彼を待つ。
俺のファッションは相変わらず、タケノブルーのTシャツに、ジーパン。
院をきっかけに筋トレを続けているから、ちょっとサイズが小さくじる。
「タッくん~!」
「ん?」
甲高い聲が聞こえてきたので、そちらに視線を向けると。
そこには、ツインテールの金髪が立っていた。
肩あきの白いブラウスで、元にはいつもより大きなリボンがデザインされている。
ボトムスは珍しく、ブルーのミニスカート。
こちらもウエストにリボンが二つ並んでいる。
初夏にピッタリの合いだ。
可い……。
久しぶりに見た彼を見て、言葉を失う。
「……」
「タッくん? どうしたの? まだ腳が痛むの?」
緑の瞳を潤わせて、俺の顔を覗き込む。
「あ、悪い……久しぶりに會えて嬉しくてな。やっぱりアンナは、いつ見ても可いなと思って」
つい本音がポロリと口からすべってしまう。
「そんな、タッくんたら……」
案の定アンナは顔を真っ赤にして、視線を地面に落としてしまう。
「はははっ! 今日はアンナに日頃の謝を込めて、デートしたくてな。いっぱい博多で楽しもう! とりあえず、カナルシティに行かないか? イチ押しの映畫があって……」
と言いかけた瞬間、彼が俺のに飛び込んできた。
「うう……本當に心配したんだから。タッくんが死んだんじゃないかって、すごく怖かった! 毎日、毎日神様にお祈りしていたんだよ!」
顔は見えないが、どうやら泣いているようだ。
「すまん、アンナ。なかなか連絡も取れず……」
「もう絶対に、遠くへ行かないで。タッくんのいない世界なんて、いらない!」
「ああ、そうだな」
※
しばらくアンナをめること20分。
彼も落ち著いてきたので、再度今日の目的地であるカナルシティへ向かうことに。
はかた駅前通りを二人で歩きながら、俺は今日のデートプランを説明する。
「今日はな。とある有名な映畫を観ようと思うんだ。アンナも聞いたことないか? 映畫の名作『大パニック』を」
「アンナ、知らない……」
どうもテンションが低いな。
「俺も昔、DVDで観たけどすごい映畫なんだ! 上映時間が3時間を越える超大作なんだが、そんな時間も忘れてしまうぐらい楽しめる作品でな。今回、リマスター版を劇場で観られるんだ」
「そうなの。でもタッくんにしては、珍しいね」
「へ?」
「だって、いつもは映畫とか観ないんでしょ? タケちゃんの映畫ばかり、観ている気がするよ?」
「それは……」
痛いところを突かれてしまった。
彼の言う通りだ。
俺は普段から、映畫なぞ好んで観ることはない。
今回のデートだから、敢えて選んだ作品だ。
「タッくん。何か隠してない?」
「か、隠してないぞ! 心配するな、俺は院してしまったが、この通り。見事強くなって帰ってきたのだ!」
とTシャツの袖をまくり、し膨らんだ上腕二頭筋を見せつける。
だが、彼の反応はいまいちだ。
「なんか、タッくんらしくない……前のタッくんの方が良かった」
えぇ……強い男の方が良くね?
「そうか? 宗像先生に鍛えられて、今度こそアンナを守れる男に……」
言いかけたところで、彼に遮られる。
「んでない! アンナはそんなこと、んでないもん! ただタッくんと一緒にいたいだけ」
「アンナ……」
う~む、どうも今日のデートは、空回りしているような。
「それから、タッくん。忘れてない?」
「え?」
「今日ってタケちゃんの新作映畫『作家レイジ 最終章』の公開日だよ。そっちを観なくてもいいの?」
うわっ、マジで知らなかった。
この數日間、今日のことで頭がいっぱいだったからな。
「ああ……今日は観なくていいよ。アンナと一緒に楽しめる作品を観たいからな」
「やっぱり変だよ。あのタッくんが、タケちゃんを選ばないなんて……」
「はははっ、そうかな……」
ヤバい。計畫通りに事が進められるかな?
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