《ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~》第三百四十八話 イザークの苦悩⑤

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第三百四十八話

イザークはサーゴに呆れながら天幕の中にると、中ではゴノーが休んでいた。しかしその口は尖り眉間の鱗には皺が寄っている。

「どうした、ゴノー」

「どうしたも、こうしたもない。なんだ、あのミモザというは!」

イザークが聲をかけるなり、ゴノーはがなり立てた。

「やれゴノーちゃん鍋を運んでとか、ゴノーちゃん水を汲んできてだの、ゴノーちゃん次は野菜の皮を剝いて。ゴノーちゃんゴノーちゃんゴノーちゃん! 俺はお前の召使じゃないんだぞ!」

顔を顰め、ゴノーは怒りをあらわにする。

天幕の中を見れば持ってきた荷は全て紐解かれ、布が敷かれた機の上には皿が綺麗に並べられていた。荷解きに加え夕食の用意と、ゴノーは隨分とこき使われたらしい。

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「落ち著け、ミモザ殿はが小さいんだ。力仕事は手伝ってあげろ」

「ああ、分かっているよ。それは別に構わねぇ、雑用なんて新兵の仕事だからな。だがあいつが俺を顎で使うのが気にらねぇんだよ」

「ミモザ殿は俺達の食事を作ってくれているんだろう? 謝しよう」

「俺は食わねぇよ、あんなの料理なんて。不味いに決まっている」

ゴノーが減らず口を叩く。しかしその時、外から香ばしい匂いが漂ってくる。

小麥の焼ける香ばしい匂いに加え、香辛料が効いたの匂いが鼻腔を刺激する。匂いを嗅いでいるだけで、唾腺から唾が滲み出てくるほどだ。

イザークの耳に、大きな腹の音が聞こえた。しかしイザークのものではない。目の前ではゴノーが気まずげに視線を逸らした。

「いい匂いじゃないか、ゴノー。味そうだぞ」

「へっ、いい匂いだからって、料理が味いとは限らねぇよ。俺は食いもんにはうるさいんだ」

ゴノーはまだ減らず口を叩くが、しかしその言葉には前ほどの勢いはない。

「そう言うなよ。味いか不味いかは、食ってみればわかることだ。不味ければその時は席を立てばいい」

「まぁ、イザークがそう言うのなら……」

折れるゴノーに対し、イザークは心で笑った。匂いからして料理が味いことが予想できたからだ。

ちょうどその時、料理用の前掛けをつけたミモザとユカリが、天幕のり口をくぐってってくる。

「夕食の用意ができましたよ〜」

ミモザはパンが詰め込まれたバスケットを、ユカリはスープがった大きな鍋を持っている。

の魔族は食卓にバスケットと鍋を置くと、皿に料理を盛り付けていく。

夕食のメニューは、塩漬けと野菜が煮込まれたスープだった。戦場ではよく見る料理だ。

戦地ではまともな食材など手にらず、古くなった塩漬けに萎びた野菜ぐらいしか手にらない。ライオネル王國から提供されたも似たり寄ったりだった。

見た目は食い飽きた料理である。しかし深皿に盛られた料理から立ち上る香りは、これまで食べたとはまるで違う匂いを放っていた。

「うむ、いい匂いだな」

天幕の奧で仕事をしていたギャミが、アザレアと共にやって來て席に著く。サーゴには後で代するとして、先にいただこうとイザークも席に著いた。ゴノーは料理に戸いながらも、食を刺激する匂いには逆らえず椅子に座った。

「ではいただこう」

ギャミが料理に手をつける。イザークもならって匙でスープを掬って口に運ぶ。

スープを口に含んだ瞬間、旨味が口の中で弾けた。萎びた野菜からは甘みが溶け出し、塩辛いだけの塩漬けからは、と旨味がとめどなく溢れ出てくる。使われている香草は決して主張しすぎず、しかし野菜との味を存分に引き立てていた。

味い。使われている食材はいつもとそう変わらないはずだが、まるで別だった。

あまりの味しさに、イザークは言葉も出なかった。その様子を見ていたゴノーが唾を呑み込んで匙を握った。そして恐る恐るスープを口に運ぶ。

スープを口にした瞬間、ゴノーの顔が一変した。目は大きく見開かれ、瞳は艶々と輝きに溢れていた。手は止まらずスープをかきこみ、口はこの旨味をもっと味わいたいと高速で咀嚼する。

「おい、落ち著いて食えよ」

イザークは嗜めたが、ゴノーの手はまるで止まらなかった。しかし気持ちはわかる。イザークは魔王の実弟ガリオスの息子であり、王の一族としてその名を連ねている。當然食べに困ったことはない。宴などでさまざまな食にれる機會もあった。だがミモザの作った料理は、宮廷で召し抱えている料理番の料理にも引けを取らない。

「しかし味しいですね」

「ありがとうございます。イザーク様。コツは塩漬けでスープの出をとることです」

ミモザは笑顔で語ったあと、視線をイザークの隣にいるゴノーに向けた。イザークも、目を向けると、ゴノーが頭を下に落とし俯いている。その瞳は恨めしそうに空となった深皿に注がれていた。

「お前、もう食ったのか」

イザークは呆れた。味わって食えばいいのにとため息をつく。あんまりにも哀れだったので、しぐらい分けてやるかと思ったそのとき、ミモザが鍋からゴノーの皿にスープを盛り直す。

「え? いいのか?」

ゴノーは山盛りに盛られたスープとミモザを互に見る。

軍隊でお代わりはない。食事の量は決まっており、多くを食べることは許されない。

「いいわよ、私達の分は取ってあるし。その代わり、後片付けよろしくね」

「はい!」

仕事を押し付けるミモザに、ゴノーは犬の様に返事をした。

胃袋をつかまれた瞬間であった。

イザークはゴノーの単純さに呆れながら、歩哨に立っているサーゴと代すべく手早く食事を済ませた。

こっちでもアラアラウフフ

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