《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫340.ジェニファー・ツィキー

「たしかに組織はお前を手放さなかっただろうがな。俺が『レッドドラゴン』を潰してきたぜ。勿論、お前に任務を命じていたローウェス・ウッドも、他の幹部連中も、ほとんどが捕まった」

「噓だ!ネズミボウズの話など信じるものか!」

日常の義毅が見せている言から、ジェニファーは彼の言葉を簡単には信用できなかった。しかし義毅は普段は見せない真剣な顔を見せていた。

「ツィキー、お前だって気付いてんだろ?二日前からローウェスと連絡が取れていないはずだ。俺が奴を制圧したからな」

「……私の、家族はどうなっている?」

「安心しろ。家族はもう『レッドドラゴン』の支配下から解放されている。ネオヨークの家に帰ったが、しばらくはローデントロプス機関から派遣された『源將尖兵(マージスター)』の保護下にある」

義毅は揺するジェニファーにさらに決定的な証拠を見せるため、マスタープロテタスを取り出した。テーラキントを繋げると、通信先では一組の夫婦らしき男年がリビングで座っている立映像が宙に映し出された。

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「ジェニファー!久しぶりだね、もう8年か。まさか私たちがこんな形で再會するとは思わなかった」

「お父さん?!」

ジェニファーの表に初めて揺のが現れ、口が半開きになり、目が丸くなっている。

「ああ、私の最の娘、寶のジェニファー。ずっと會いたかったわ。あなたの顔を見て、あなたを抱きしめたい」

「お母さん……」

「ジェニファー、ずっと君には謝りたかった。君を傭兵団の訓練施設に送ったのは私だ。失業し、莫大な借金を抱え、學費を払えなくなったのも、その代わりに君が組織に売られてしまったのも、全て私のせいだ。長い間、嫌な思いばかりさせた。私は父親失格だ。君に殺しの仕事までさせて……、こんなことなら最初から、君を傭兵団の施設に送り出すべきではなかった……」

父親の告白を聞きながら、ジェニファーの頬には涙が伝った。のぞみに向けていた険しい殺し屋の顔ではなく、彼は父と母の娘の顔になった。

「わ、私は……お父さんが悪いなんて、一度も思わなかった。源(グラム)使いの學校に進學したくて、でも何度も落第していた私の將來を考えて、學費の高い傭兵団にれるために、多額のローンを組んでくれた。お父さん、あなたのせいじゃない。これは私が償うべき、なまぐさい罪です。巻き込み、苦しませてしまって……」

「ジェニファー?」と、父は優しい聲で言った。

「これからはもう、家族のために暗殺の仕事をける必要はない、ジェニファー。君を苦しめた組織はもうないんだ。君の擔任の先生のおかげで、私たちは解放された」

「先生が……」

家族が安全でいることを実し、父の言葉から改めて義毅の話の裏付けを取ると、ジェニファーは義毅に向き合った。

「ジェニファー、私たちはもう大丈夫よ。だから心配しないで。あなたは自由のよ。これからは、誰かの言いなりになるんじゃなく、自分がどうしたいのか良く考えて、やりたいことを、しっかりやりなさい」

「……はい、お母さん」

「それにしてもさ、お姉ちゃんの先生、たった一人であの組織を潰したって聞いたんだけど。そんな格好良い先生に教われるなんて、お姉ちゃん羨ましいな」

ジェニファーの弟は、彼の持っていた寫真よりも8年長していた。16歳になった年の、場違いで素直な言葉に、ジェニファーは顔を赤く染める。

「ビリーのバカ……」

「ジェニファー、きっとこれから、々と大変だと思うわ。でも、罪を償って、また顔を見せに帰ってきてちょうだいね」

「はい……いつか、きっと……」

ジェニファーの瞳から、はらはらと涙が落ちた。

テーラキントの映像が宙に散らばるように消えると、ジェニファーは膝から崩れ落ちた。

戦意を失ったことを察し、コミルはジェニファーから離れる。それでもまだ、冷たい視線を向けていた。

れ替わるようにジェニファーの前に立ったリュウが、ミョルニル隊副長として告げる。

「ジェニファー・ツィキー。君を、メビウス隊の権限を悪用し、殺人及び殺人未遂を行った疑いにより、拘束する。私たちと共にイールトノンまで來なさい」

「はい」

「悪いが、連行させてもらうよ」

エルヴィが源を吸い取る手枷をジェニファーの左手に付ける間、彼は全く反抗しなかった。

『尖兵』たちがジェニファーを連れていこうとする。立ち上がった彼は大人しく歩き出したが、途中で足を止め、義毅を振り返った。

「Mr.トヨトミ。あんた、何故わざわざ手を出した?」

ジェニファーは、義毅が『レッドドラゴン』を壊滅させたことがどうしても引っかかっていた。アトランス界では個人意志が尊重される。教え子も人として扱われ、教諭であっても個人的な事に関與することはできないはずだ。

「お前が暗殺の依頼をけているのは、もっと前から知ってたぜ。組織に脅かされていることも、勿論だ。本來ならお前が相談してこない限り、手を出すつもりはなかったんだが、神崎がな。お前のために相談に來た。それで考え直した」

ジェニファーはのぞみを振り返る。

「Ms.カンザキ、いつから気付いていた?」

「今でも確信はないままですが、ルビス先生のダンジョン課題の時は、まだ本気で殺そうとはしていなかったでしょう?恐らく、本格的に暗殺に乗り出したのはその後……?」

「テスト初日に君は、願いがどうのとふざけたことを抜かしていたが、あれは私を試していたのか?」

「あのお話しを聞いて、私はツィキーさんを見捨ててはいけないと思いました。……もしもツィキーさんが組織の支配から抜け出せないまま捕まったなら、ご家族はさらに危険に曬されてしまうでしょう?」

「何故?どうして君はそこまで……。私は君を一度も友人とは思っていなかったのに……」

ジェニファーはいつからか心に壁を築いてきた。冷たい壁だ。誰も乗り越えることはできないだろうと築いたはずのその壁を、のぞみは溫め、壁ごと溶かそうとしている。

「友だちと思っていただけなくても、未な私に々なことを教えてくださいました。そのご恩を忘れられるはずがありません」

のぞみの溫をじさせる言葉に、ジェニファーは激しく問いかけた。

「君は、例え自分の命を狙っていると知っていても、それでも私を助けたいと?!」

「母の教えです。人はその時々の事によって、心が変わってしまうんです。でも、何か悪事を働いたとしても、その人がいつも、全て悪いわけではない。だから私は、初めてお話しした頃のツィキーさんの気持ちが本心だと信じます」

「まったく、君は本當に……」

「さて、続きはイールトノンで聞こう」

蘇が會話を打ち切らせると、ジェニファーは目を伏せ、口をつぐんだ。ジェニファーが空間のっていき、その姿が見えなくなるまで、誰も聲を出せなかった。

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